「どういうつもりだ!」
「ぎゃーっ!? どういうつもりか聞きたいのはこっちですけどーっ!?」
「質問してるのはこっち!」
「ほんぎゃーっ! 相変わらず絶妙な痛さーっ!」
「うるさい!」
「んぎょーっ! わかった、答えるから、どういうつもりってどういうことか教えて!」
説明する必要もないが、俺は今、ムチで網走沙織ちゃんに叩かれている。
もはや日常の出来事のため、訪問してきた沙織ちゃんがムチを持っていることも、無言で俺の部屋のベッドまで来ることも、当たり前のように四つん這いにして俺の上にまたがることも、当然のこととして受け入れた。
しかしながら「どういうつもりか」と言われても。
普通に考えて、突然ひとの家にやってきてムチを振るう方がどういうつもりか聞きたいですよ。
「真奈子を愛人にしたとか」
「ああ。うん。そうなんだよ」
祝福してくれるのかしら。
ひょっとしたら愛人祝いとかくれるんですかね。愛人ができるなんて、結婚や出産くらいめでたいことですからね。
「死ね」
「ぎゃあああ!? どうして!?」
飴かと思ったらムチ!
どういうつもりか聞きたいのはこっちなんですよ!
「うるさい」
「んぎゃああ!」
相変わらず質問に答えてくれない。
どうやら自分で考えて答えないと許されないらしい。
前回のカラオケのときもそうだったが、あのときは怒っていたんだよな。
沙織ちゃんは別に怒ってなくてもムチを振るうので忘れがちだが、普通は怒ってるかー。
沙織ちゃんの場合、表情もよくわからないし。いつもクールすぎて冷たすぎる視線しかくれないですからね。
さて、なんで怒っているのか。前回は……ももきゅーちゃんを彼女にしたからだったね。
実はももきゅーちゃんが好きだったんだよね、沙織ちゃん。
ん?
ということは?
「ま、まさか、沙織ちゃん……真奈子ちゃんを愛人にしたことをお怒りに?」
「それもある!」
「いてえーッ! ヤッターッ!」
一応正解だったっぽいぞ!
しかしそれもあるとは。真奈子ちゃんを愛人にしたことは怒りポイントそのイチということですか。
他に何があるんだ。
「ひょっとして、編集の富美ケ丘さんの弟になったこともお怒りに?」
「なんだそれ!」
「ギャアーッ! やぶ蛇だったーっ!」
もはやムチは気持ちよくなってきているから、叩かれることは問題ないが……正解しないと終わらないのは困ります。
俺は別にいいが、沙織ちゃんの家は門限も厳しいから早く帰らせないと怒られちゃうんだよね。
ムチで叩きに来るなら休日に時間をたっぷりとってした方がいいのに、こんな夕方に来るから……。もう日が暮れるのも早いし、寒くなっちゃうじゃん……。
「ヒントちょーだい、ヒント」
難問すぎるって。
ここはプライドを捨てて、教えを乞うぜ。まぁ、沙織ちゃんの前でプライドを守れたことなど一度もないけどね! えっへん。
「だから、弟子だの、彼女だの、愛人だの、姉だの作って、ぼくのことはどうするつもりかって、聞いてるんだーっ!」
「痛い、痛い、気持ちいい、気持ちいいーッ!」
もはや気持ちいいが強いが、なんか重要なことを言っている気もします。
なに?
沙織ちゃんをどうするつもりか?
んー?
そもそもみんなもどうにかしようとしてそうなったんじゃないんですよ。彼女も愛人も姉もなんか勝手にできちゃったんですよ。
しかしながら、ここで「どうするつもりもない」と答えたらどうなるかは火を見るよりも明らか。
どうせプライドなどないので、ここは素直に聞いちゃおう。
「ちなみにご希望はなんでしょうかー」
「希望?」
意外だったのか、ムチが止まりました。なぜか寂しいですね。物足りないというか。これが調教か……いい経験だ。体験は作品にリアリティを生む。
「うーん」
悩んでおられる様子。
ムチが弱いですね……。
「な、なんでもいいの?」
「そりゃ、沙織ちゃんの希望だったら何でも叶えますよ」
これは本心ですよ!
ペットになれと言われればなりますし、奴隷になれと言われればなります。
最悪、処刑と言われても甘んじて死ぬまである。
「せ、
「えっ!?」
……
すでにされてるんですけど!?
「そのつもりだったんですが……?」
「えっ!?」
ムチが止まった。またしても。寂しい……。
「いや、ずっとそうだと思ってたけど……違うの?」
「え!? ええ!?」
なぜか混乱しているようだ。
確かに、沙織ちゃんからしたらムチを振るうことなど日常なのだろう。階段を登ったり、点滅した信号を見て小走りになる程度の認識かもしれない。
しかし俺は一般人なので、ムチでしばかれるというのは制裁の意味合いだと感じていますよ。ええ。
もっと強力なものを要求しているのかとも思ったが、どうもそうではないことが背中のお尻から伝わってくる。完全にそんなつもりではなかったって感じ。
「そ、そんな。いつから」
「いつからって……最初にスタンガンを使われたときからだけど」
「そこで!?」
いやそりゃ、そこでしょ。
初めて会ったときから通報されそうにはなってたが、それは制裁というほどじゃないし。
「で、でもぼくは渋谷のことを好きだと思ってるんじゃ」
「うん。それが? なんか関係あるの?」
「……!」
俺に馬乗りになっているため、表情はわからない。しかし、お尻から息を呑んで驚いていることはわかった。
どう考えても、沙織ちゃんがももきゅーちゃんを好きなことと、俺がムチで叩かれることは何一つ関係ない。
「ま、まさか最初からそのつもりで……だからわざわざ真奈子を愛人に」
なんかブツブツ言ってるが、せっかく一緒にいるのだからムチを使って欲しい。もうすぐ帰らないといけない時刻だし。尻が寂しがっています。
「んー……スタンガンがそんなに……」
「あ、いや、あれだよ? ムチのほうが好きだよ?」
「えー……」
なぜか引いている気がするが……普通じゃね? スタンガンの方が好きな人いる?
はっきりいってスタンガンはキツすぎる。ムチはほら、なんか愛も感じるから。勘違いだと思うけど。
「時間もあまりないから、叩いて」
「え、え~」
「はやくはやく」
「えー」
「よわいよわい」
「ええー」
「いつもみたいにやってよ。結構気に入ってるんだ」
「変態」
「なに?」
「呼んだんじゃないから」
「なーんだ」
「ばか」
「なに?」
「呼んだんじゃないって」
「そっか。もうちょっと強めに叩いて」
「……今度からあなたって呼ぶ」
「あなた?」
変な呼び方だが、変態って呼ばれるよりはだいぶまともだな。
沙織ちゃんは駅まで送っていく際、いつもよりなんか嬉しそうに見えた。なんでだろう……。