マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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「どうしてそんなことになったんだ……」

 

「「「パーキンソンが悪い」」」

 

 

 無垢で幼い声が三つ揃って返ってくる。寮の談話室でお約束とばかりにコソコソしていたハリーとロンとハーマイオニーだ。すっかり見慣れてしまった幼げな膨れっ面に、さてどうしたものかとこめかみを押さえる。

 まさかハーマイオニー、君までだなんて……前回では止める側じゃなかったっけ? 君。鬱陶しい、て思っちゃった記憶あるもの。

 

 

「だって、だって、あの女! マリアをバカにしたのよ!?」

 

「そうなんだ! 僕らのマリアをハリーの腰巾着とか言って! ハリーのついでだとか、双子のダメな方とか。ハリーがドジするのをフォローしてるのはマリアなのに。アイツ、君が美人だから目の敵にしてるんだよ!」

 

「そうよ! 自分がブスだからってひがんでるんだわ、パグ女! マリアくらい綺麗になってから大口叩きなさいよ! その下品な口でね!」

 

「お、おお……」

 

 

 やはり女の敵は女なのか。ハーマイオニーのほうがロンよりも段違いで悪口が苛烈なことに素直に身を引いてしまった。幼くても女は女、ということだろうか……。

 いやはやそれにしても。母さんってほんとうに美少女だったんだなぁ……。ちょっぴり現実逃避してみる。瞳は父似とはいえ、女性の目から見てもこれ程にマリアの顔面造形の評価が高いとは。リリーの血さまさまだ。

 それから、ロンが意外に(マリア)のことも見てくれていた事実が嬉しくて、子供たちに対して呆れなくちゃいけない場面なのにうっかり笑い出したくなってしまった。

 

 

「ハリー」

 

「僕も怒ってるよ。止めたって無駄だから」

 

「うん、ありがとう。僕もハリーがバカにされたら怒るから、それは止めないけど……流れは教えてくれる?」

 

 

 ハリーの話はこうだった。

 まず、パンジー・パーキンソンが「あら、ヒーローのポッター? いつものでき損ないの腰巾着はどうしたのかしら?」と絡む。「あなたも大変ねえ。出来の悪い妹を持って。知ってる? スリザリンでは彼女のことを双子のダメな方って呼ぶの」煽る。「そのくせ目立ちたがりだけは一丁前なのよね。どうせあなたのついでなのに」煽る。「女のくせにズボンなんてはいて。そのうちあなたはスカートになるのかしら?」イキイキと煽る。ここで何故かハーマイオニーがぶちギレる。(ほんとうに何故!?)

「マリアの事情も知らないのに、好き勝手言ってんじゃないわよ、ブス!」

 そして勃発する女の闘いと聞くに耐えない罵詈雑言の嵐。なまじハーマイオニーが語彙に溢れる才女だったばかりに、周囲もドン引きするレベルの応酬が繰り広げられたそうだ。これはロン情報。

 そして怒り心頭のパーキンソンがハーマイオニーへと決闘を突き付ける。それを受け取ったのがハリー。(再び何故!?)

「それ、僕が受けてもいい? ──この世の誰であろうと、マリアを侮辱するものは許さない」

 なんだかんだ一番キレていたのはハリーというオチだ。「なら、介添人は僕がしよう」とロンが乗って、今に至る。

 

 

「…………」

 

 

 まさか、かつてのマルフォイの役割がパーキンソンに回っていようとは。これが、歴史の修正力だ。

 

 

「あの、うん……気持ちはすごく嬉しいよ、ありがとう。でも……………………気をつけて、行ってらっしゃい」

 

「「「うん!」」」

 

 

 三人の目が、絶対に止めてくれるな、止めたって行くからな。と爛々と語っていたので、僕は早々に諦めた。説得とか、説教とか、そういう諸々の全てを。

 許してよ……体はいたいけな十一歳の少女なんだもの、元気盛り三人を相手になんかしてらんないよ……。

 

 

 時は過ぎ、夜の十一時を回った頃。大変複雑な心境のままやんちゃ三人組を寮から送り出した僕は、次に通信紙を取り出すとドラコへとそれ等を書き出した。

 

『こっちは出たよ。そっちは?』

『フィルチに告げ口してご満悦で部屋へと戻ったところだ』

『やっぱり……。なにか思うことはありませんかね、マルフォイ君?』

『贖罪に三人を止めに行きますよ、ご主人さま(マイレディ)

『僕も行こうか?』

『人数が増えたって邪魔なだけだ』

 

 それもそうか、と書き込んだところで、机に伸びた人影にハッと顔を上げた。

 

 

「マリア、まだ起きてたの?」

 

「──ネビル」

 

 

 とっくに消灯時間を過ぎ暖炉にくすぶる残り火だけが唯一の光源となった談話室にポツンと浮かぶ丸い男の子のシルエットは、どことなく輪郭がふんわりしていて現実味がなかった。まぁ彼からすればソファと一体化している僕こそ、ゴーストみたいなものだったろうけど。

 ともかく、彼のことをこのまま放置できるわけもない。眠たげに目を擦りながらも不思議そうに周囲を見回すネビルに隠れて、『ネビル』『きた』『あとで』と単語だけつらねてそっと通信紙をパジャマのポケットへとしまう。

 

 

「ネビルこそ。どうしたの? こんな時間に」

 

「なんだか、眠れなくて」

 

「……僕には眠そうに見えるけど」

 

「うん。でも、眠れないんだ」

 

 

 それはでまかせだとかではないようで、所在なさげなネビルは心底困ったとばかりに眉を下げて目をしょげさせていた。

 この間から立て続けにおそろしい思いをしたものね。本人も無意識のうちにいまだ緊張状態が続いているのかもしれない。

 

 

「それじゃあ、僕と話でもしていようか。ネビル、隣へおいでよ」

 

「いいの?」

 

「いいよ。ココアでもいかが? 僕の飲みかけになっちゃうんだけど」

 

 

 子供たちが眠れない時、基本は母親のジニーが相手をしたけど、時たま僕の仕事部屋へと逃げ込んでくることがあった。そんな時にもこうして、かわいい子たちに飲み物を持たせて宥めてやっていたのだけれど──彼にも効果があればいいけど。

 

 

「えっ、だ、だめだよ! そんな!」

 

 

 素直に僕の隣に座ったネビルは、しかしふわふわと怒った。

 

 

「え? どうして? ココア、苦手じゃなかったよね?」

 

「う、うん、好きだよ。よく知ってるね……じゃないよ。そうじゃないんだよ。僕、女の子の食べ物とか飲み物とかを男が軽々しくもらっちゃいけないって、ちゃんと知ってるんだから」

 

 

 そう言って、ネビルがバカにするな、という目をしたので慌てて首を振る。

 

 

「ああ、ごめん、そういうつもりじゃなくて! ……そっか、そうなるのか。ほんとうにごめん、僕、あの、わかってるとは思うけど、自分が女性だっていう意識が薄くて」

 

 

 今だって、同室の女の子たちの着替えはなるべく見ないよう心がけているし、彼女たちのどの男性が素敵だとかいう話には滅法ついていけそうにない。そんな彼女らはどうしてか、特に僕から聞き出そうとしてくるのだけど。女の子ってほんと、いつの時代もマセてる。

 ……そうだ、そもそも僕の恋愛観は今どうなっているのだろう。元々そういうの、あまり気になる人間じゃなかったから。

 身近な女性といえばジニーとハーマイオニーくらいなもので、ジニーは勿論愛していたけど、ハーマイオニーとのスキンシップだって当たり前すぎてなんとも思っていなかった。ハーマイオニーとなら飲みかけ食べかけのやり取りくらい、(ハリー)は平然としてしまえるだろう。ロンもなにも言わなかった。それが僕らの中で当たり前になっていた。

 ──でも、ちがうんだ。女の子ってむずかしい。

 

 

「──マリアはかわいいよ」

 

「え?」

 

 

 ふと、夜の空気に落とすようにぽつんと告げたネビルの目は、僕に向かってひたむきで真っ直ぐだった。

 

 

「マリアは、かわいくて、美人で、でもそれを鼻にかけないで、優しくて──僕なんかにも、こうして良くしてくれる。いつも助けてくれる。とても、人として魅力的だよ」

 

「ネビル……」

 

「だから、あの、自信を持って、て、僕が言うのも変だけど……」

 

「……ううん。ありがとう、ネビル。励ますつもりだったのに、むしろ励まされちゃったな」

 

「え?」

 

 

 きっと背を丸めるのがくせなのだろう。そうして、小さくなろうとする。なるべく人の目の中に入ってしまわないように。僕に気付かないでと背中で語っている──それがネビルだった。

 それでも、今のように違うと思ったなら声に出して言える。怯えながらでも、震えていても、彼はやり遂げる勇気を持っている。

 ──彼こそが、真のグリフィンドール生なのだ。

 

 

「ネビル、君はすごい人だよ。君こそ、自信を持っていいんだ。僕は君を、心の底から尊敬してる」

 

「マリアが……僕を?」

 

「ああ。今は不器用でも、君は間違いなく偉大になる。僕が保証する」

 

「でも、だって──僕、スクイブかもしれなくて……」

 

「まさか。だとしても、こんなに勇気のあるスクイブを誇れない人はいないよ。君はスクイブじゃないけど」

 

「そう、かな……」

 

「そうだよ。ずっとハリーを見てきた僕が言うんだ。信じていいよ」

 

 

 そう冗談めかしてみれば、ネビルはやっと憂いなく笑ってくれた。

 

 

「マリアが言うと、ほんとにそんな気がしちゃうね。マリアってすごいよ」

 

 

 続けて、ネビルがあふ、と大きくあくびをした。ようやく彼の元に本物の眠気がやってきたようだ。

 

 

「ありがとう、マリア。ハリーやロンや、みんながマリアに相談する気持ちがわかったよ。君って、同じ歳と思えないくらい落ち着いてるんだ。……また、話を聞いてくれる?」

 

「もちろん。いつでも、よろこんで」

 

「おやすみ、マリア」

 

「おやすみ、ネビル」

 

 

 シンと優しい夜に心優しい男の子との密やかなおやすみが溶け合う。静寂が彼の手を取って睡魔の元へといざなう。

 ああ──心ばかりに安堵の息をついて。すっかり寝ぼけまなこのネビルが寝室へと戻るのを見届けてから、実に有意義な時間だったと満足感と共に再び通信紙を開いたところで──

 

 

「「「──いっ、犬!!」」」

 

「ッシィー!」

 

 

 命からがらとばかりに談話室に飛び込んできたお騒がせ三人組に、咄嗟に口元へと指を立てた。

 

 

「マ、マ、マリア、たいへん、ハァ、ゼェ、」

 

「よしよし、まずは息を整えようか、ハリー」

 

「マ、マリア、犬が、わなで、ゲホッ」

 

「ハーマイオニーも。ずいぶんな格好だよ? いつもはしたないって僕を叱るのはだれ?」

 

「ゼェ、ゼェ、ハァ、」

 

「……ロンは話すのもむずかしそうだね」

 

 

 服から髪から全身ボロボロの三人をどうにか暖炉前のソファへと座らせてから、僕が飲んでいたココアを一口ずつ回す。

 ……ウーン、やっぱりこの面々だと『そういう』意識はなくなっちゃうんだよな。

 

 

「それで? 犬って?」

 

 

 僕の問いに、真っ先に回復したハリーが小さく叫んだ。

 

 

「僕たち、行っちゃダメだって言われてた四階に、行っちゃったんだ! そうしたら、大きな犬が!」

 

「頭は三つ! すごい牙してた! あんなのに噛まれちまったらひとたまりもないよ、この学校は化け物を飼ってるんだ!」

 

 

 興奮のままにロンが付け加える。

 

 

「あなたたち、どこに目をつけてるのよ。あの犬の足元を見なかったの?」

 

「三つの頭でせいいっぱいだったよ!」

 

「扉よ! 足元に扉があったの。きっとなにかを守ってるんだわ……」

 

「そんなの知るもんか! 大体、君があそこで悲鳴なんて上げたりするから、フィルチに見付かったんだ。あのままフィルチから逃げおおせたなら、こんな目には遭わなかったのに」

 

「ぜんぶわたしのせいだって言いたいの!? 呆れた! 甲冑を倒したのはどこのどなたかしら!?」

 

「あれはっ──」

 

「ハイハイ、ストップ。二人とも落ち着いて。もうひとくちココアを飲もう。いいね?」

 

 

 興奮したヒッポグリフを宥めるみたいに、ロンとハーマイオニーの前に手の平を掲げてゆっくり振る。どうどう。

 元ハリーのマリアとしては親友たちの感情に任せた口喧嘩なんてのはとうに慣れたものだが、こちらのハリーはまだ二人の間でオロオロするしかないのだから。かわいそうに。

 弟の真っ蒼の顔を胸に抱き込んで、ぶすくれた親友二人の内のまだ会話になりそうな少女へと問う。

 

 

「結局、パーキンソンは来なかったんだね?」

 

「あっ──そう、そうなの! あのパグ女、わたしたちをハメたのよ! 決闘場所に来たのはフィルチだったわ。でも、ヤツと鉢合わせる前にそれをマルフォイが教えてくれたの」

 

「そのドラコはどうしたの?」

 

「あ、えっと……グリフィンドール寮の前までは一緒だったんだけど、そこからは……」

 

「そう」

 

 

 ということは、なんだかんだ寮の前まで問題児たちを送ってくれたわけだ、ドラコは。パニックになる三人のおもりは大変だったろうな……後でちゃんと労おう。

 

 いやはやしかし。それにしても。

 ────三頭犬、かあ……。

 

 

「マリア?」

 

 

 自身の頭を抱えるかわりにハリーの頭を抱える。

 

 ──────すっかり、忘れてた。

 

 四階の謎を解く日が今日だったなんて。ドラコは賢者の石のことは知っていても、仕掛けの内容までは知らなかったはずだ。……いや、話したかな? まぁいいや。どっちにしろ、まさか今日、三頭犬にでくわすとは思わなかったはず。

 ああ、明日ドラコに会うのがこわいなあ……聞いてない、割りに合わないってガミガミ言われるんだ。僕だって、ハロウィンの日にクィレルがホグワーツにトロールを入れることくらいしか覚えてないよ。はっきりした日付は。

 

 

「とにかく、疲れたでしょう。もう寝なさい。寝たら頭がすっきりするから。話したいことがあれば明日に聞く。まずは落ち着くことが大事だ。もうこんな時間なんだから。特にハーマイオニーは、一旦自分の中で整理がしたいんじゃないかい?」

 

「……ええ、そうね。そのとおりよ。考えたいことがあるの。ココア、ありがとう。マリア、ハリー、おやすみなさい」

 

「……おやすみ」

 

「おやすみ、ロン、ハーマイオニー。今日は僕のために怒ってくれてありがとう。嬉しかったよ」

 

 

 心ここに在らずなおやすみを交わして、ハーマイオニーは深刻そうに、ロンは依然釈然としない様子で自室へと戻っていく。それを目の動きだけで見送り終えると、なにも言わない腕の中のハリーの背を静かに撫でた。

 

 

「ハリー」

 

「……ドラコが、助けてくれたんだ」

 

「うん」

 

「ドラコは……悪いやつなんかじゃ、ないよね?」

 

「ハリーがそう思うなら、きっと」

 

「……うん」

 

 

 ようやく彼の中でなにかがほどけたのか、強張っていた小さな体はゆるやかに弛緩した。

 

 

「……ね、ハリー。今日は一緒に寝ようか。前みたいに。このソファの狭さ、プリベット通りのベッドを思い出さない?」

 

「ギシギシ文句は言ってこないけどね」

 

「ソファの方が寛大だ」

 

「「ふふふっ」」

 

 

 置きっぱなしになっている誰かの毛布を手繰り寄せて、ハリー共々身体に巻き付ける。

 

 

「おやすみ、ハリー」

 

「おやすみ、マリア」

 

 

 ハリーの眼鏡を取って、額に口づけて。眼鏡をソファ前のローテーブルへ置いたところで、開いたままの通信紙に彼の文字が浮かび上がっていることに気付いた。

 

『四階』『ケルベルス』『説明』

 

 

 ──『おやすみ、マリア』

 

 

「……ははっ」

 

 

 君は、今も、昔も──真からの悪人なんかじゃなかったんだ。……性悪ではあったけど。

 

 

 

 ──おやすみ、ドラコ・マルフォイ。

 

 

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