マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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3ー2

 

 それは風の強い日だった。ホッグズヘッドに集まったメンバーを見回して、そこにある二つの顔にドキリとした。──アンソニー・ゴールドスタインとチョウ・チャンだ。僕を、違うようで同じ意味を持つ混乱に陥れる人たちだ。……最近は、ここに相棒のドラコも含まれるようになってしまった。

 カウンターの向こうからアバーフォース爺さんが顔を出す。壁側に座る魔女は変装したマンダンガスだろう。その他、うさんくさくて怪しい覆面ばかりが店内にいた。つまりは──こたびの集会は良くも悪くも各所に筒抜けなのだ。それが後の大失敗へと繋がる。なにがトリガーとなったかを僕は知っている。

 だけれど、ダンブルドアには僕らが組織するこの計画を知っていてもらわなくてはならない。……手痛い授業料だったと、ハーマイオニーたちには諦めてもらうしかない。

 

 

「ええと──コホン。それでは──こんにちは」

 

 

 ハーマイオニーが慣れてないふうに上擦った声を出した。どうにか会の説明を務めていく。アンブリッジの授業ではなにも得られない。わたしたちはわたしたちで身を守るすべを持たなくてはならない──なぜなら、ヴォルデモート卿が戻ってきたから。そう締めくくれば、数人の好奇心に満ちた生徒の目が光った。

 

 

「それじゃあ、改めてあの日、何が起こったか話してくれるわけだ?」

 

 

 ハリーが顔をしかめた。ロンが生徒──ザカリアス・スミスをにらんだ。ハーマイオニーがまずいと蒼い顔をした。わかってはいたことだけど──やっぱり良い気持ちはしない。

 

 

「それを知りたいだけなら帰ってくれ。今日集まった理由なら今、ハーマイオニーが説明した」

 

 

 ハリーのぴしゃりとした言葉にザカリアスは不満たっぷりにだまった。誰もがハラハラと二人を見比べていた。

 

 

「じゃ──そう。とにかく、そういう計画です」

 

 

 つたないながらもどうにかこうにか署名にまでたどり着けば、やはりザカリアスやアーニー・マクミランなんかは記入にしぶった。僕ははじめて口を開いた。

 

 

「私たちがこれから行うのは試験勉強なんかじゃない。──これから先も生きる方法を学ぶんだ。……まあ、死んでしまえば試験なんて関係ないものね?」

 

 

 アーニーはおそるおそると名を羊皮紙の下の方に連ねた。ザカリアスはハリーよりもはっきりと僕をにらんでから(そしてそのザカリアスをハリーがにらんでいた。)小さく署名した。ここで名前を書いてもらえねば進むものも進まないのだから。

 

 

「では、えー……解散」

 

 

 ハーマイオニーの最後まで締まらない挨拶で生徒の群れはぞろぞろとホッグズヘッドから消えていった。数名を残して。残ったのはジニーやネビル、そしてチョウにアンソニーだった。

 

 

「マリア、あなたは──」

 

 

 チョウが僕へと話しかけた途端、ネビルをのぞいてその場に緊張が走った。僕とチョウの事情を知る者ばかりだ。アンソニーなんかは情報通ゆえ、今さらおかしいとは感じなかった。チョウは気まずそうに言いよどんだ。

 

 

「……場所を変えようか?」

 

「いいえ、いいの。わたし、聞きたいだけなの。──あなたも、教えてくれるの?」

 

「え?」

 

 

 聞き間違いだと思った。だって──僕は『マリア』だ。ハリー・ポッターではないのに。

 

 

「生き残ったのはハリーだけじゃないわ。あなただって、あの夜から生きて戻ってきた。わたし──わたし、教わるなら──あなたがいいわ」

 

 

 それは衝撃的な言葉だった。彼女からすれば僕は、愛する人のカタキだろうに。

 

 

「……どうして?」

 

 

 もはやこの場で言葉を交わしているのは僕とチョウだけだった。

 

 

「──自分を納得させるためよ」

 

 

 今日は風が強い。申し訳程度の扉から入り込んだひと風がチョウの黒髪を絵画のように巻き上げた。──決意を瞳に宿した彼女は美しかった。

 

 

「わかった」

 

 

 僕は答えていた。不思議な感覚だった。ぼんやりしながらも、はっきりと心がうなずいていた。

 

 

「よろしくね、マリア」

 

「よろしく、チョウ」

 

 

 チョウはハリーや全員に微笑んでから店を出た。数秒ほど、彼女に呑まれていた僕たちは会話も忘れて惚けた。

 

 

「わたし、誤解してたわ。あの人、案外──」

 

「……うん。つよいね」

 

 

 ハリーであった頃の淡い恋心を思い出させる少女だ。

 

 

「それじゃあ、次は僕がマリアを借りてもいいかな?」

 

 

 待ってましたとばかりにアンソニーが立ち上がる。どうしてかハリーも立ち上がろうとしたので、それをハーマイオニーが呆れ顔で止めていた。

 

 

「今のうちにどうぞ」

 

「ハーマイオニー! あいつ、マリアに気があるんだ! 二人っきりにしちゃダメだ!」

 

「大抵の男の子はマリアに一度くらい恋してるわよ。見た目でね。そしてもれなく玉砕よ。あなた、マリアに近づく男みんなに威嚇して回るつもりなの?」

 

「それは──でも──僕、僕──」

 

 

 ハリーの声を背に、アンソニーをつれて足早にホッグズヘッドから離れる。後ろでアンソニーは愉快そうに笑いをこらえていた。

 

 

「愛されてるね、マリア。マルフォイはいいのに僕はダメなのか」

 

「僕もハリーにジニー以外の子が近付いてきたら気になるから、これって兄弟のさがなのかも」

 

 

 隣に並んだアンソニーへとカラカラと笑う。ロンだって兄たちや、特に妹のジニーのこととなると恋人問題をかなり気にしていた。兄弟ってきっとそういうものなんだ。

 

 

「そうか。僕は一人っ子だから知らなかったよ」

 

「僕も」

 

「うん?」

 

「ううん。こっちの話」

 

 

 村から離れた場所の柵に手をついて、足を止めて振り返る。ここは、かつて『僕』のシリウスと落ち合った場所だ。──僕だけが知っている思い出の場所。

 

 

「デートにしては雰囲気がありすぎるな」

 

「プランニングは慣れてなくて」

 

「いいんじゃないか。そういう君が好きだから」

 

「…………」

 

 

 ストレートに表現されて思わず面食らってしまった。じわりと頬が熱くなる。まだ肌寒い程度の季節では、頬の赤さはしもやけだとごまかせそうにはなかった。アンソニーは柵に背を預けながら指先を遊ばせていた。

 

 

「……ブローチ、使ってくれてる?」

 

「あ──うん──時々──髪留めになるから」

 

 

 アンソニーからもらった琥珀色が美しいブローチは、裏に衣服留め用のピンとクリップと両方がついていて、ドラコからもらった髪留めよりも普段使いしやすいデザインなために重宝していた。ハリーやハーマイオニーがマリアの瞳の色だと褒めてくれたことも大きい。

 アンソニーはニッコリとした。

 

 

「よかった。またつけてるところを見せてよ」

 

「うん。そのうち」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 会話がなくなる。けれども、気まずいのとはまた違った沈黙だった。笑いたいのを我慢するときみたいな──

 アンソニーはいいやつだ。彼は──僕と友だちであろうとしてくれる。

 

 

「……マルフォイなんだけど」

 

「うん」

 

 

 ──だから、きっとアンソニーならば『彼』について聞いてくるだろうと予想していた。

 

 

「今日、来なかったのは──君を避けているから?」

 

「そうかもしれない」

 

「でも、喧嘩ってわけじゃないんだろう?」

 

「そう思う?」

 

 

 アンソニーは迷いなくうなずいた。

 

 

「もしも君たちが喧嘩してるなら──もっと僕につけ入れる隙があるだろうからね」

 

「…………」

 

 

 案外、道理かもしれない。アンソニーの神妙な顔にうっかり納得させられかけて、あわてて首を振った。アンソニーはそんな僕にニヤリとしていた。

 

 

「でも、彼、ちょっと不思議だ。元々一匹狼っぽいやつだったけど、ここ最近は特に……」

 

「……そうだね」

 

 

 心のどこかが罪悪感でしくりと傷んだ。ドラコは一匹狼なんかじゃない。クラッブとゴイルをつれていた頃の小さなマルフォイが容易に浮かぶ。ほんとうは群れたがりだ。臆病者の小心者で、そして見栄っ張りだから子分がいてはじめて胸を張れるのだ。お山の大将気取りだ。だからこそそんな彼が独りを選ぶときは──大きな目的があることを意味するのだ。

 

 

「ともかく、気をつけるべきだね」

 

「うん?」

 

「油断してると横から鷲にかっさらわれるからさ」

 

「…………」

 

 

 悪戯っぽい顔でからかうアンソニーに、行き場のなかった手で背中を強めに叩いておいた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「──マリアは今回のこと、どう思う?」

 

 

 ふくろう小屋の前で手紙を持たないヘドウィグを撫でながら、ハリーはポツリと呟いた。

 

 

「だって────危険だ」

 

 

 その通りだ。こちらのハリーは知らないが、(ハリー)は魔法省によって濡れ衣を着せられかけた経験を持つ。視野のせばまった奴らがどれほどなりふりかまわず攻撃してくるかを知っている。見つかれば注意や退学では済まない。──それでも。

 

 

「僕は──このまま計画を進めるべきだと思う」

 

 

 マリアの声はずいぶんと通って聞こえた。

 神秘部に侵入した時、『彼』の手引きによってホグワーツが死喰い人の襲撃を受けた時、そして最終決戦の時──たかだか学生の僕たちの生存率を上げたのは、ダンブルドア 軍団(アーミー)──通称DAとしての訓練があったからだと自負している。これは生きるための綱渡りなのだ。

 

 

「これから酷い戦いになる。たくさんの人が死ぬ」

 

 

 クリービー兄弟に同級生たち。果てには名前も顔も知らない下級生たち。決して死ぬべきではなかった人たち。──ひとりでも多く、生き残るすべとなれるなら。

 

 

「それを少しでも防げるのなら──危険を犯す見返りはあると、僕は思う」

 

 

 ハリーはヘドウィグの嘴をくすぐりながら微笑んでいた。

「知ってたよ」──そう、穏やかに答えた。

 

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