マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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5ー1

 

 クリスマス休暇明けの今日、ホグワーツ特急を前に親子たちは別れを惜しんでいた。恥ずかしそうに母親に抱きしめられるウィーズリー家の息子たちに、トンクスとクスクス笑い合うジニー。マッドアイは周囲への警戒に魔法の目を光らせ、ハーマイオニーはルーピン先生と堅く握手を交わしていた。

 

 

「ハリー、しっかりな。妹を守ってやるんだぞ」

 

「はい。シリウスおじさん」

 

 

 くしゃくしゃ頭を撫でられ親愛の抱擁を受けたハリーは、ロンの呼び声に従って汽車へと乗り込んだ。シリウスのやわらかな目が僕へと移る。

 

 

「マリア」

 

「シリウス……」

 

「そんな顔をするな。学校を楽しんでおいで。友達と、勉強と……それから、そうだな。イタズラなんかもして」

 

「それはアンブリッジババアが黙ってないよ」

 

「シリウス・ブラックが黙ってないぞと返してやれ」

 

 

 マクゴナガル先生が頭を抱えそうな悪戯っ子の笑みで返したシリウスは、ハリーに与えたのと同じように僕のことも抱きしめてくれた。

 

 

「愛してる。君はジェームズとリリーの子だ。そして、私の娘だ」

 

 

 手を彼の背へと回し返す。

 

 

「僕も愛してる。……ありがとう、シリウスおじさん」

 

 

 うしないたくない。この腕の中はこんなにも心地よいと知ってしまったから。だから──この先もあなたを家族と呼べるように、僕は戦うよ。

 

 汽笛に急かされるままに汽車へと乗って、席を取ってくれていたハリーとジニーと共に窓から騎士団のメンバーたちへと手を振る。監督生のコンパートメントがある窓からはロンとハーマイオニーの頭が見えた。──ブロンドは無い。窓から身を乗り出してまで別れを惜しむ相手がホームにいないのだ。

 

 ……ドラコ。

 

 ポケットの中の羊皮紙を握りしめる。僕は諦めない。だから君も──どうかやり遂げて。

 

 

 

 ***

 

 

 

 保護魔法をかけているとはいえ、五年も使用すればさすがにくたびれる──そんな気のする通信紙を片手にとあるコンパートメントを覗く。

 

 

「やあ、孤高の王子さま」

 

「ご機嫌うるわしいようで。勇敢なる姫君」

 

 

 中の少年は監督生としての仕事を終えてすっかりくつろいでいた。見ないあいだにまた背が伸びたように見える。……ずるいや。

 

 

「ハリーはなにも?」

 

「まぁね。ジニーのほうが気にしてた。ハリーと個室で二人きりはまだ緊張するみたいだ」

 

「ダンスもした仲なのにか?」

 

「人数の問題なんじゃない? 普段は僕が一緒だし。ルーナでもいれば気も楽だろうに」

 

「ああ…… 変人(ルーニー)か」

 

「その呼び方はやめて。娘の名前にまでもらった僕らの友人だ」

 

「それは失礼」

 

 

 皮肉屋は相変わらずなドラコの向かいへと座る。ホグワーツへ着けばまた僕たちは距離を取らなくてはならない。通信紙は便利だけれど文字だけでは限界がある。互いの情報を今のうちに擦り合わせておかなければ。……いっそ、僕も両面鏡を買ってみようか。

 

 

「調子はどうだい? アー……色々と?」

 

「それなりだな」

 

「計画は順調に進んでるってわけだ?」

 

 

 探るように返せば、ドラコはどことなくためらいがちに答えた。

 

 

「……マルフォイ家の別荘を使おうかと考えている」

 

「別荘か。いいね、お貴族さまはこんなときに困らない」

 

「君だって似たようなものだろう。いずれはブラックの跡取りだ」

 

「ハリーがね」

 

 

 クスクス笑えば、ふと目が合って言葉もなく見つめてしまった。──やっぱり、いくら中性的だってドラコもどんどんと男に近づいていく。ハリーがいずれ『僕』になるように。それなのに──僕はどこもかしこも『少女』のままだ。

 

 

「マリア?」

 

「っ、ああ、うん。問題は誰を守人にするか、だね」

 

 

 目をそらした。あの目がいけない。あの、溶ける間際の氷のような目が。どうにもあの日から──彼がハリー・ポッターを好きだなんてトチ狂ったことを言い出した日から、彼のグレーアイに見つめられると落ち着かない気分になるのだ。……時々、だ。

 

 

「秘密の守人か……この事を知るのは、僕と──そして君だけだ」

 

「……僕に頼みたい、て口だね」

 

 

 ドラコは観念するように軽くうなずいた。

 

 

「君は死なないだろう?」

 

「それはわからないよ。──でも、死ねない理由にはなるかもね」

 

 

 僕の言葉をどう受け取ったのか。ドラコは満足そうに笑った。

 きっと僕はハリーのためならば死ねる。けれど──君のためになんかでは死んでやらない。だって、君だって僕のために死んだりなんてしないだろう。

 

 

「そちらの件は了承した。それで──僕の『お願い』はどう進んでる?」

 

 

 ドラコは再び顎へと手をやってしばし黙考した。

 

 

「買い取りは終わった。こちらはアンドロメダ伯母様を頼ることにした。あとは、タイミングを見て使える段階まで修理だ」

 

「アンドロメダさんか……考えたね。灯台もと暗しってやつだ」

 

 

 トンクスの母でありナルシッサの姉、そしてマグル出身の魔法使いと結婚したことで血を裏切るものとなったアンドロメダ・ブラック。テディを育てるにあたって手を取り合ってきた『僕』は彼女の人となりをよく知っている。……彼女になら、みんなを任せられる。

 

 

「それなら、そちらも僕が『守人』であるほうが都合がいいか」

 

「……任せられるか」

 

「もちろん。そもそも僕が君に依頼したんだ。当然の落としどころだよ。あとは──結び手を誰にするかだ」

 

 

 そこでドラコは待ってましたとばかりに含み笑った。

 

 

「……もしかして、もう決めてる?」

 

「ああ。──ダンブルドアだ」

 

「────」

 

 

 思わず目を見張った。……ドラコ・マルフォイが、ダンブルドアを頼るだなんて。

 

 

「……代償を払わなくちゃいけないよ。あの人は善良だけど、無償で救う人ではない」

 

「知ってるさ。僕は──僕と僕の愛する者のためなら何を犠牲にしたってかまわない」

 

 

 強い眼差しだった。自身と、自身の内に含めた者だけは何があっても手放さないと言い切るあたり、彼らしくて安心してしまう。

 

 

「スリザリンめ」

 

 

 お約束を口にすれば、ドラコは自信たっぷりにお約束のニヒルな笑みを返した。

 

 

「ところでマリア。手を出せ」

 

「うん?」

 

 

 突然の話題転換に警戒もなく従う。手のひらにラッピングされた小箱を落とされた。

 

 

「ブラック邸は隠されているからな。直接渡すしか手がなかった」

 

「…………」

 

 

 もしかして。もしかしなくとも──これって、クリスマスプレゼント?

 思わず胡乱な目でドラコを見上げてしまった。

 

 

「……また、なにか企んでるのかい?」

 

「さあ」

 

「さあ──じゃないよ! ダンスパーティーの一件で僕は学んだんだ。君ってほんとう、油断ならない!」

 

「なんたってスリザリンだからな?」

 

 

 クツクツ笑うドラコの前でラッピングをほどく。現れたのは金色のオルゴールだった。

 

 

「君の好きな人間の声で歌う。ぜひ回してみたまえ」

 

「いやだよ。どうせハリーかロンかシリウスか──誰の声で歌い出したっておかしくないんだから」

 

 

 慎重に小箱へ繊細そうなオルゴールを戻してそっぽを向いた。ドラコはまだ発作でも起こしたみたいに笑っていた。ムカつく顔だ。

 

 

「……ありがとう。でも、ごめん。君に返せるものがないんだ。僕、思ってもみなくて」

 

「はじめから期待なんてしていないさ。君だからな」

 

「どういう意味だい」

 

 

 にらめば、ようやくドラコはクツクツ笑いを止めた。やわらかに目を細めて、リラックスした体勢でクリスマスはどうだった? と続ける。

 

 

「僕はごらんの通り、両親に隠れてあっちこっちと奮闘するすばらしい休暇を過ごしたわけだが──シリウスと気兼ねなく過ごせるはじめてのクリスマスだったんだろう?」

 

「洞窟で亡者と刺激的なパーティーをしたよ。うっかり溺れちゃいそうなくらい夢中でね」

 

 

 ポカンと。ドラコから余裕たっぷりの面が剥がれ落ちた。そうすれば途端に幼くなる。いい気味だ。

 

 

「君ってやつは──クリスマスくらいおとなしくできないのか」

 

「チャンスだったんだよ。おかげで分霊箱だって手に入れた。スリザリンのロケットだ」

 

「今、持ってるのか?」

 

「ハリーに預けてるトランクの中にね。……人の手に触れさせたくない。あれは心を狂わせる」

 

 

 衣服で何重にも巻いて奥へ押し込んだ。ハリーはもちろん、ロンやハーマイオニーにだって渡したくはない。アレを持っていて無事な人間なんて、アンブリッジのような性根から腐った人間くらいだ。

 

 

「……必要の部屋へしまう時には僕も呼べよ」

 

「DAがない日を狙うよ。僕には君渾身の封印は解けないもの。──頼りにしてるよ。相棒」

 

「調子のいい」

 

 

 鼻で笑いながらも、やっぱりドラコは得意気だった。見慣れたその姿がうっかりかわいく見えて──ウウン、僕、疲れてるな。

 

 

「すべて、上手くいけばいいね」

 

「シビアな作戦だがな」

 

 

 自然と会話はなくなる。けれど、不思議と心地はよいのだ。気まずさがまるで無い。彼がそこにいることが当然のような────やっぱり、変な気分。僕と君は──ハリー・ポッターとドラコ・マルフォイなのにね。

 

 

「マリア」

 

 

 ドラコの腕が伸びて、僕の頬と目元を撫でた。続く言葉はなかった。タタン、タタン、と進む車輪の音だけがあいだにあった。

 彼の手を払う気は────到底起きなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 どうして。

 

 開いたトランクを前に心身から凍りつく。どうして。どうして────ロケットが消えている。確かに、ここに、入れておいたはずなのに──!

 

 

「ハリー!」

 

 

 男子寮へと駆け込む。ひゃあ! パンツをしまっていたネビルが女の子みたいな声をあげた。

 

 

「マ、マリア、せめてノックを」

 

「ハリー。列車の中で、誰か僕たちのトランクに触った?」

 

 

 あんぐりと口を開いていたハリーは、そのままゆっくりと首を左右に振った。

 

 

「いや……どうしたの?」

 

「……知らないなら、いいんだ」

 

 

 どうにか心を落ち着けて声をしぼり出す。ブラック邸を出た頃は確かに有った。再三確認した。仮に思い違いをしてブラック邸へ忘れてきてしまったのだとしても、現物はシリウスからダンブルドアへと渡るはずだ。(ダンブルドアに渡すためと説得して持ち出しを可能にしたのだ。)

 ……いいや、最悪を想定しろ。希望的観測は結果的に最悪を生みかねない。もしもロケットをトランクから盗めるタイミングがあったとすれば、それは僕がドラコの元へ行っていたあいだだ。そしてハリーとジニーの目がそれた時──

 ジニーは僕が戻った頃にはコンパートメントを移っていた。そしてハリーはトランクに近づく不審者は見なかったと言う。ならば、一体どこに空白の時間が──?

 

 

「……マリア?」

 

「……なんでもない。おやすみ、ハリー」

 

 

 不安そうに眉をしょげさせるハリーの額へとキスを送って立ち上がる。もう一度トランクを調べよう。焦ってはいけない。『僕』が焦るとろくなことにならないのは長い人生で知ったことだろう。

 

 

「ああ、そうだ。ハリー」

 

 

 振り返れば、ハリーは依然と呆け顔で僕を見上げていた。

 

 

「シリウスからなにか預かってない?」

 

「あ──うん。ホグワーツに着いてから開くようにって」

 

「それ、早く開けなよ。……おやすみを言うのが楽しくなるから」

 

 

 ロンやネビル、ついでにシェーマスやディーンにもおやすみの挨拶をして男子寮を出る。談話室はすっかり無人になっていた。春学期早々からくたくただ。

 

 ……さっそく、ドラコにやっかいな報告をしなくてはいけないようだ。

 

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