マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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 顔面蒼白で失敗作の鍋を落としてしまったハリーに、ああ、と天をあおぐ。前方には血色の悪いコウモリのような黒男がそれは意地悪な顔をして立っていた。ハリーの怯えるさまを心底楽しんでいた。

 そうだった──クリスマス終わりから始まったんだ。スネイプ先生との地獄の閉心術レッスンは。

 

 

「ほ、補習? 僕が? 今日から?」

 

「さよう。ご自身の成績について、天才のポッター殿はご自覚がないのかね? いい加減、貴殿のその 芸術(・・)に我輩の時間を無為に割かさせられるのは我慢ならなくてね」

 

 

 クスクスと嫌な笑いがスリザリン席から挙がる。ドラコは微妙な顔をしながらもどうにか無関心をつらぬいていた。

 

 

「僕、でも──」

 

「これは決定事項だ」

 

 

 ハリーの反論をはねつけ黒衣がひるがえる。そして壇上へと戻る途中に、スネイプ先生は一瞬の視線を僕へと投げた。そうだ、ドラコとちがってバレているのだ。──マリア・ポッターは閉心術を使えると。

 彼としてははなはだ納得いかないところだろう。身内に使い手がいるのに、なんだってお鉢が自分に回ってくるのかと。つまりは──まだまだ僕はダンブルドアに警戒されているということだ。

 

 

「さいあくだ……」

 

 

 廊下を歩きながら、すっかり意気消沈するハリーを肩を叩いてなぐさめる。

 

 

「ぜったいにいやがらせだ。だって、僕より成績が悪い人間なんてもっとあふれてるはずなんだ。つまりは──ネビルだとか。(ハーマイオニーが「そんなふうに言うもんじゃないわ」と非難した。)君にはわからないよ! 想像してもごらんよ。あいつとあの地下牢で二人っきり──二人っきりだって? ゾッとするよ……」

 

 

 あんまりにも不憫な姿に、ロンまでもが終わったら僕の蛙チョコレートを分けてやるよ、なんて不器用に気遣っていた。今ばかりはハーマイオニーよりもロンの味方をしようと思った。ハリーがどれほどスネイプを苦手としているかは、それこそ我が身のように知っているのだから。

 だがしかし、その真実は魔法薬学の補習などではない。もっと過酷な試練だ。はてさてこちらのハリーは堪えられるのか…………荒れて帰ってくる予感しかしないや。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ──的中である。閉心術の個人授業初日を終えたハリーは大荒れだった。嵐だ。額の稲妻が目の中にまでとどろいているようだった。

 

 

「あいつ──あいつ! 僕は──努力──してるのに!」

 

 

 眼鏡がずれる勢いで枕をベッドへと叩き付けている。ロンは手に負えないとばかりに両手をあげて部屋の隅っこへと避難していた。ここにロン以外の同室者がいなくてよかった。

 

 

「ハリー、ハーリィ、落ち着いて。ちゃんと話を聞くから」

 

 

 体を張って、腕を閉じ込めるようにして抱きしめれば、ハリーの癇癪はようやく沈静した。目はギラギラと不穏に光ったままだが。視界の端にほっと胸を撫で下ろすロンとハーマイオニーの姿が見えた。猛獣の無力化に成功した、といった様子だ。

 ハリーを抱いたままベッドへと落ち着かせて、二人に目配せを送る。うなずいたのはやはりハーマイオニーだった。

 

 

「ねえ、ハリー。落ち着いて聞いてね。あなたが『閉心術』を学ぶべきだというダンブルドアの判断は──はっきり言って道理だわ」

 

「君もスネイプの味方をするっていうのか?」

 

「敵だとか味方だとか、そんな話じゃないのよ。スネイプ先生がおっしゃったように、ヴォル──ヴォルデモートのほうが、ずっとずっとあなたより強力に記憶を覗けるに決まってるの。これはすべて、自分を守るための手段なのよ」

 

「だからって──あんなやつを頼らなくても」

 

 

 ふてくされるハリーに苦笑する。ハリーだって頭ではわかっているのだ。……ほんとうは、ちゃんとわかっていたんだ。

 

 

「別の点に注目しましょう。あなた──いいえ、ヴォルデモートが化けた蛇はとある扉を執拗に狙っていた。それを、ウィーズリーさんが結果的に防いだ──ええ、ええ、そうだわ。それで繋がる。やっぱりこの仮説は正しいんだわ」

 

「ハーイ、僕らの頭脳。一人で解決しないで僕らにもその頭の中身を分けちゃくれないかい?」

 

「今言おうとしたのよ」

 

 

 ロンの茶化しにハーマイオニーはムッとしながらも応えた。

 

 

「ロン、あなたのお父さまはお役所勤めでしょう? そして蛇は建物の中をさ迷っていた……必然的にそこが何処かわかりそうなものじゃない」

「次に蛇の目的よ。蛇はヴォルデモートだった。そしてヴォルデモートの行く先を不死鳥の騎士団の人間が防いだ。つまりは、その先に彼に進ませてはならない何かがあった──これではっきりしたわ。ヴォルデモートが求める武器は『魔法省』にあるんだわ」

 

 

 男子寮の寝室を、ほう、と感嘆の息が包んだ。さすがハーマイオニーだ。きっと彼女ならばたどり着くと思っていた。……もう少し、先延ばしできたならよかったのに。

 

 

「どうかしら、マリア」

 

「え?」

 

 

 ハーマイオニーの茶色い瞳が理知的な輝きをもって僕を見ていた。

 

 

「わたし、正しいかしら。──マリアは 知ってる(・・・・)?」

 

 

 ハーマイオニーだけじゃない。ロンも、ハリーも──見ていた。

 

 

「……さあ。わからないよ。知らないもの」

 

 

 嘘をついた。空っぽの笑みで。嘘をついた。君たちを神秘部にいざなってはいけない。──シリウスを、あのヴェールに近づけてはならない。

 

 今度こそ、僕は間違えない。

 

 翌日の日刊予言者新聞によって事態は急速に動いた。アズカバンから死喰い人たちが脱獄したのだ。それを夢で見ていたハリーは何度目かの情緒不安定に陥っていた。さらに──ああ、ブロデリック・ボード! 悪魔の罠によって口封じに殺されてしまった哀れな『無言者』──彼の死があることを完璧に忘れていた。クリスマスの日、ハリーたちと一緒に聖マンゴへ向かっていれば少しは手を尽くせたかもしれないのに。

 

 

「僕たち、この人を見たよ。ネビルとネビルのママに会ってから。どうして気付けなかったんだろう。これって──殺人だ」

 

 

 唇を震わせるロンにハーマイオニーは新聞をたたんで立ち上がった。「やることがあるわ」

 チラリと強い意志に開いた目で僕を見てから大広間を出ていく。置いていかれたハリーとロンは顔を見合わせて大げさに肩をすくめた。

 

 

「そーれ、いつものやつだ」「事後報告ってね」

 

 

 彼女がなにをしようとしているのか。懸命に古びた記憶を引き出しながら僕も笑った。

 

 不運は続く。手始めにハグリッドの停職だ。アンブリッジの姿を見かけるたびにハグリッドは元気をなくして縮こまっていた。ロケットはいまだに見付からないし、ハリーの閉心術訓練はまるで上達しない。延いては、ハリーの体調と精神状態も最悪だった。

 学業だって追い討ちをかけてくる。ハリーが荒れれば荒れるだけ、四人の仲はギスギスした。当時の『僕』は自分を世界一不幸だと哀れんでいたけれど、いざロンとハーマイオニーの立場になってみれば扱いづらいことこの上ない。なんて面倒なんだ、ハリー・ポッター! 自分自身の欠点を見せつけられるようでいたたまれない。もしも今ここで『僕』のロンとハーマイオニーに会えたなら、心底から謝りたい気分だ。

 そして、最悪の調子でホグワーツは二月を迎えた。世間はバレンタイン一色に染まっていたが、こたびのハリーとチョウの間に特別な関係はない。つまりは──

 

 

「返事が来たわ。ハリー、マリア──とある人に会ってほしいの」

 

 

 心置きなく反撃の手が打てるのだ。

 

 

「それで、あたくしを呼んでミス優等生はどんな記事を書かせたいのかしら」

 

 

 ハーマイオニーと、僕と、ハリーと、ルーナと、そしてリータ・スキーター。異色の面々が三本の箒にて神妙に顔を合わせていた。

 

 

「今、ここで、世間が知りたがっているあの夜の真実を明かすわ。──ハリーと、マリアがね」

 

 

 僕もハリーもそっくり同じ顔でハーマイオニーへと振り返っていた。ハーマイオニーはすまし顔でバタービールをあおっていた。

 ハリーはともかく──僕もだって?

 

 

「ハリーだけではダンブルドアの洗脳がどうのこうのと逃げられるでしょ。今まで通り。でも、マリア、あなたの証言もあれば少しくらいは信憑性も増すと思うの。そのために、取材は時間をずらして順におこなっていただきます。ごらんの通り二人はこのときまで取材をされるなんて知らなかったし、口裏を合わせる暇はなかった。別々の視点から例の事件を見つめられるわ。あなたにとっても悪い条件ではないと思うけど?」

 

 

 スキーターは、ふぅん? といやらしく目を細めると宝石の取れかけたペンをなめた。

 

 

「で、どこがそんな記事を取ってくれるって? 魔法省が黙っちゃいないよ」

 

「うちで取るよ。パパが『ザ・クィブラー』の編集長なの」

 

 

 ふわふわ浮くようなルーナの声に、スキーターはプーッとバタービールを吹き出した。ゲラゲラ笑ってザ・クィブラーのクズっぷりをこき下ろしている。ルーナの飛び出た目が冷たくなるのに見かねて、机の下で思いっきりスキーターの足を踏んづけておいた。

 

 

「静粛に。各々、言いたいことがあるのはわかります。わたしだってこれは賭けよ。けれど──試す価値は大いにある」

 

 

 ハーマイオニーの有無を言わせぬ迫力に、四人の目が少女の決意を確かめる。いつのまにか、本来ならば縁もゆかりもない面々に奇妙な連帯感が生まれていた。(スキーターはハーマイオニーに脅されたからだが。)

 

 数日後、無事に発行されたポッター兄弟による告発記事は飛ぶように売れた。元々、ハリーに対して同情的だったのだ。その同情はダンブルドアへも簡単に移行した。そもそもが、ダンブルドアの人望は求められる校長の席がはっきりさせているのだから。

 表向きの事態は好転したが、しかしハリーの心を閉じる訓練は悪化の一方をたどっていた。眠るのをおそれて、不眠症に片足を入れかけていた。顔色は悪く、常に頭痛を訴えていた。そして──疑り深くなった。夢による情報を僕には話してくれないのだ。四年前、賢者の石を三人だけで追っていた頃のように。それもこれも──

 

 

「マリア、ほんとうによかったの? 確かに、わたしは真実を話すように言ったわ。けれど」

 

「友人だからとかばえば、それは真実じゃなくなるだろう。そして君の重視した『信憑性』は完全に潰える」

 

 

 ポッター兄弟の実体験による告発記事には、その夜ヴォルデモートの元へ馳せ参じた死喰い人の名も載せられていた。エイブリー、クラッブ、ゴイル、ノット、そして──マルフォイ。ドラコ・マルフォイの父、ルシウス・マルフォイの名が、息子が懇意にするポッター兄弟から挙げられたのだ。否、驚くことにハリーはルシウスの存在を秘した。ルシウスを告発したのは──僕だ。マリア・ポッターがルシウス・マルフォイを敵であるとはっきり認めたのだ。

 効果は絶大であった。ドラコはどっちつかず者としてますますスリザリン生から遠巻きに見られていた。親に死喰い人を持ちながら、因縁のポッター家の少女に告白した少年。沈黙を続ける渦中の人。ドラコはいまやホグワーツいち掴めない人間となっていた。──ゆえに。

 ハリーは僕へと情報を共有してくれないのだ。僕には、ドラコ・マルフォイとの繋がりがあるから。

 

 

「たとえば父親が罪人だとしても、子まで罪を犯すとはかぎらない。わたしたち、マルフォイが──つまりはドラコのことだけど──彼が闇の陣営側だなんて思ってはいないの。ハリーもそうだったはずなのよ。でも、最近のハリーは……」

 

「……うん」

 

 

 はっきりとドラコに対して敵対心を見せたわけじゃない。けれど、よそよそしくなった。彼の話題を口にしなくなった。そして、僕のことは家族としてならば今まで通りの愛情を返してくれるが、夢の件には関わらせなくなった。──まさかここまでこじれてしまうだなんて。

 

 ハリーはどこかがおかしかった。

 

 誤算だ。ドラコの件は互いに了承している。いわゆる作戦のひとつである。だがしかし、ハリーとすれ違うことは計算になかった。三人がどこまで真相へたどりついているか──確認することができないのだ。ハーマイオニーがリークしてくれないかと期待したこともあったが、彼女はハリーが黙れといえば黙る人だ。(その上でハリーに苦言するだろう。)だからこそ『僕』だって信用してきたわけで──頭のいたい事態だった。

『僕』は、ここまで攻撃的だっただろうか──?

 

 整理する間もなく次々と問題はなだれ込む。ひとつにアンブリッジの解雇辞令権限だ。『前回』同様にトレローニーが被害を受けた。占い学の教師はインチキのトレローニーからアンブリッジが嫌悪する半人──ケンタウロスのフィレンツェへと替わった。これにアンブリッジは我慢ならないようだった。

 

 フィレンツェの授業は実に開放的で、そして独特だ。教室を森のようにしてしまうのだから。星を眺め、セージを焼き、未来を示唆する(しるし)を探すのだ。

 初授業の終わり、ハリーとロンを残したフィレンツェは、僕にも観察するような目を向けてほう……とうなった。そういえば四年前のあの日、彼は僕を『呪われている』と(ひょう)した。そして、今。再び。

 

 

「星と星は近くあればあるほど互いの熱によって身を滅ぼす。溶け合うことはありません。あなたのそれは──手遅れでしょう。どちらがより相手を焼くか──あなたが見るべき未来は滅びかもしれません」

 

「…………」

 

 

 ケンタウロスの警告はいかにも不吉で、不親切だった。手遅れだとか──今、一番聞きたくない言葉なのに。

 

 四月に入れば、とうとうDAの存在がアンブリッジへと密告された。つまり、ダンブルドアがホグワーツから逃亡する日がやって来たのだ。ホグワーツにとっても、そして魔法省の善良なる人々にとっても悪夢の始まりだった。

 僕としても再びこの日を迎えてひどく憂鬱な気分だ。唯一救いを挙げるとすれば、この事態の前にドラコ希望の忠誠の術の『術者』の件を済ませられたことくらいだろう。──それは先月のことだった。

 

 ニワトコの杖を振ってダンブルドアがほがらかに笑う。

 

 

「これで、マルフォイ氏の秘された別荘はそれを知る者にしか明かされん。公にできるのはミスポッターのみじゃ」

 

 

 ハリーへは決して合わせない目が僕を見てキラキラと輝く。

 

 

「ありがとうございます、ダンブルドア先生」

 

「ありがとうございます」

 

 

 ドラコと声を揃えれば、よい、よい、と好々爺の顔でダンブルドアはうなずいた。

 

 

「君たちはずいぶん大きな敵と戦っているようじゃのう。──孤独でないことこそが、君たちの力となるじゃろう」

 

「先生……」

 

 

 優しい目だ。そして──探る目だ。

 

 

「ダンブルドア先生。私は、どのように お礼(・・)をすればよいのでしょう」

 

 

 踏み込んだのはドラコだった。ダンブルドアはおや、と眉を跳ね上げると、なんだか悪戯っぽい様子で続けた。夕食に好物が出てきた時の顔だ。と、いっても、ダンブルドアは百味ビーンズ以外は大抵が好物らしいが。

 

 

「君の勇気に見合う対価ならすでにもらっておる」

 

 

 思わぬ言葉だった。きょとりとドラコと顔を見合わせる。明らかに理解していない僕たちに、ダンブルドアは満足げに髭を撫でていた。

 ──それが、先月だ。たった一ヶ月前のことなのに。急速に変わっていく現状にクラクラする。追い付かない。振り回される。僕だけはそうあってはならないのに。視界ごと暗くなりそうな目を閉じて──目の前のガマガエルのニッタリ笑いを振り払うように唇を噛んだ。

 

 

「さあ、ミスポッター。どうぞお飲みになって。お砂糖は必要かしら?」

 

「……いいえ」

 

 

 嗜虐の色に瞳をギラつかせたアンブリッジの後ろには、大袈裟な額縁と金文字で『校長』と飾られていた。

 ここは闇の魔術に対する防衛術教室の準備室だ。案の定、本来の校長室からは締め出されたようだ。いい気味だ──と、思う余裕もなく、ティーカップの中の紅茶を見つめた。水面のマリアは緊張におそろしく無表情だった。

 アンブリッジはここに真実薬を入れている──本人はそのつもりのはずだ。けれども、実際はスネイプ先生がただの無害な薬液へとすり替えて──その、はずだ。

 ……ほんとうだろうか。ほんとうに────

 緊張に唾を飲んだ。──僕はあまりに情報を抱えすぎている。

 

 

「さあ──どうぞ?」

 

 

 意を決して飲む──フリをした。心臓の音がうるさすぎて自分の声すら聞こえない気がした。

 

 

「さきほどね、あなたの弟ともお話をしたの。彼は知らないと突っぱねたけど──さあ、マリア。教えてちょうだい? ダンブルドアはどこ?」

 

「知りません」

 

 

 落ち着いて答えた。真実だ。僕は、今、あの人がどこにいるのかなんて知らない。

 

 

「そう……いいわ。さぁもっと飲んで。──あら! 減ってないじゃないの! ちゃんと飲むのよ。……ええ、そうよ、いいこね。それじゃあ、次の質問に入りましょう。ダンブルドア軍団はほんとうに、これまでにも反抗的な集会をおこなったことはないの? あるわよね? そうでしょう?」

 

「──いいえ」

 

 

 嘘をついた。──嘘を、ついた。やむなく口にした紅茶なんて一瞬で胃の中へと消えて、喉はカラカラだった。それでも──嘘がつけた。ああ、感謝します、スネイプ先生……!

 

 

「……いいわ。そちらは本題ではなかったの。わたくしはね、マリア──あなたを救いたくてここへ呼んだのよ」

 

「は、」

 

 

 思わず無防備に呆けてしまった。アンブリッジはカエルそっくりの口をニィーッと横に広げて笑んだ。寒気のするような笑顔だった。

 

 

「あなたが──つらい思いをしているんじゃないかって」

 

「──ハァ?」

 

 

 ますます意図が読めなくて、まぬけにアンブリッジをにらみ返していた。つらいかだって? ああ、もちろん。お前の前に座るこの時間がなにより苦痛だ!

 

 

「以前に話したでしょう? わたくしにも不出来な弟がいたと──ハリーと一緒にいて、つらくはないかしら」

 

「────」

 

 

 ゾクリと。

 

 

「兄弟のせいであなたはとばっちりばかり。それなのに、当の本人は目立ちたがりやで自己満足的な大嘘つきときた! あなたのことなんてちっともかえりみてないじゃないの? あなたのことをほんとうに愛しているなら、もっとあなたに不利益がいかないよう動くものだわ。だというのに、現状はどうかしら。あなた、今までに何度、彼の身代わりになってきたの?」

 

「…………」

 

「かわいそうだわ。ハリーと兄弟だったばかりに。なんてかわいそうなマリア。──憎くはないかしら? あなたの、弟が?」

 

 

 グラグラと頭が揺れた。心がざわついた。僕は──ぼくは────

 

 

「──憎くなんてない」

 

 

 答えはとっくにこぼれ落ちていた。

 

 

「ハリーが憎いわけない。ずっとほしかった兄弟なんだ。誰よりも愛してる。僕はハリーを愛している」

 

 

 だって僕はマリアだから。マリアはぜったいにハリーの味方なんだ。──そう、あるべきなんだ。マリアである限り。

 

 

「その手には乗らないぞ。僕はハリーを裏切らない。──ぜったいに」

 

 

 先ほどよりもはっきりと嫌な目付きの女をにらみ上げた。お前なんかに、僕たちの絆を壊させるもんか──!

 

 

「……マリア、あなたはもっとかしこいと思ったのに」

 

 

 冷たい声で吐き捨てたアンブリッジは、杖を持って立ち上がり────バァン!

 信じられない爆音が外で響いた。僕もアンブリッジも咄嗟に窓を見た。

 

 

「何事なの!? あれは──なに──?」

 

 

 窓の向こうを色とりどりの火花が踊っていた。──花火だ。ウィーズリーたちの自慢の花火だ!

 

 

「なに──なにが──あ、あなたは昼食へ行きなさい! ああ、なんてこと!」

 

 

 ドテドテと丸っこい体を揺らして、アンブリッジが駆けていく。僕は笑った。大声で笑った。窓の向こうでは花火が空を明かしていた。曇天を照らしていた。

 

 僕は────まだ、大丈夫なんだ。

 

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