偽親子のちょっと困った日常の話
話し声だ。風呂上がりに自室へと戻る途中の廊下で家族二人の声を拾ったマリアは扉を見た。自室の隣の部屋だ。つまりはハリーの部屋だ。中にいるのがハリーとシリウスならば、マリアに遠慮なんてものは存在しない。
ガチャ。
「ハハーン、やっぱりロニー坊やは綺麗どころがお好みか。そんな気はしてたんだ。俺としてはこっちがイイな。女は出るとこ出てねーと」
「僕はマリアを見慣れてるから体型はそんなに気にしないけど」
「わかってないな、ハリーは。もちろんマリアくらいのサイズを揉んで育ててやるってのも男のロマンだが、乳はでかければでかいほどいい。顔を埋めてみろ。天国だ」
「それ、シリウスだから言えるんだよ。僕はそれよりスラッとした脚……が…………」
緑の目が片割れをとらえる。異性の兄弟は何喰わぬ顔で男たちの側へとしゃがみ込むと、小首をかしげてニッコリ笑った。
「続けていいよ。ちなみに僕は一番左の娘が好みかな。ロングの赤毛って最高だよね」
「「マリア!」」
いわゆるセクシャルな雑誌を抱えてハリーは飛び上がった。シリウスは冷や汗を流していた。
「ち、ち、ちがうんだ! あの、これは、ロンが、むりやり!」
「ああ、やっぱり? ロンの好きそうな表紙だと思った」
「なんで知ってるんだ!?」
今度は別の意味でシリウスが飛び上がった。やっぱりあの赤毛のノッポ、マリアを狙っていやがったのか!
「うん? まぁそれはおいておいて」
「「おいておくな!」」
最愛の少女に情けないところを見られてしまった男二人は心底慌てた。こんなもので軽蔑されてはたまらない。いたたまれないにも程がある。マリアが入浴中だからと油断していた。マリアの目に触れさせる気なんてこれっぽっちもなかったのに!
──だがしかし、男二人の心配をよそに、マリアは聖母のような顔で微笑んでいた。マリアはそもそもが普通の『少女』ではないのだ。
「隠さなくてもいいさ。父さんはちゃんとわかってるから」
「へ?」
「いや、こっちの話」
マリアの頭の中にはかつての我が子たちが浮かんでいた。ジェームズが兄貴ぶってはアルバスを猥談に付き合わせて、フレッドがそれに悪ノリしてたまにスコーピウスを巻き込んだりもして──そして女の子のリリーが近付けば、普段の仲の悪さが嘘のように団結して『ソレ』を隠すのだ。
まさしく現在のシリウスはジェームズ・シリウスに、ハリーはアルバス・セブルスにそっくりだった。ついつい、自分を父さんなんて呼んでしまう始末だ。仮にマリアが女性でなかったとすれば、まるきり父親のような顔をしていたことだろう。
「そうかそうか、ハリーもそんな歳なんだな」
「君と同い年だよ」
「僕がいると気まずいかい? 姉さんは弟の思春期くらいお見通しだからね」
「僕が兄だ。そしてもう黙ってて」
ハリーは真っ赤になってシリウスの元へと逃げ込んだ。シリウスとしても、ふわふわの黒髪を撫でながらなんとも複雑な気分だった。まさかこの豪快な少女が女の子らしく悲鳴を上げるだとかを期待していたわけではないが……男の猥談を優しい目で女兄弟に見守られてしまったハリーの気持ちを思うと、自分まで死にたくなる。
「シリウスはでかければでかいほど良しか……ルーピン先生はお尻とか好きそうだよね。ちなみにドラコは面食いだよ。本人は気にしない風にしてるけど、あれは間違いなくおっぱいが好きだね」
「マリア、マリア、そこまでにしてやりなさい。ハリーが泣いてる。あとおっぱいとか言うのはやめなさい」
シリウスはうなだれていた。一体どうすればこの子に女の子としての慎ましさが生まれるのか。…………もう手遅れか。
「なぁんだ。僕はのけ者なの? さびしいなあ」
「マリアは女の子としてよ!」
「女性にこんな話できるわけないだろ。セクハラじゃないか」
「マリアの基準がわからないよ!」
「まあ……まあ……君たち、落ち着きなさい……」
キャンキャンわめく年頃の男女二人に囲まれたシリウスは、遠い目でいつかの親友へと思いを馳せた。
ジェームズ、お前の娘はほんとうにお前そっくりだぞ。……どうしてくれるんだ。