黒犬が狼に相談する話
うなされるんだ。
シリウスは二階に続く階段を横目で見て神妙に息を吐いた。正面に座るリーマス・ルーピンもまた、深刻そうに思い耽ていた。
「はっきり言って、あの子たちを同じベッドで寝かせるというのは、倫理的な面を除いても私は良しとしたくない。いい加減、兄弟離れを覚えさせるべきだ。だが──」
「離せば、うなされる」
「そうだ」
悪夢に喘ぐ少年少女たち。──そう、少年少女たちだ。
どちらとも自覚はないようだが、どちらもが悪夢に侵されていた。そして相手のためにと体温を分け合って眠るのだ。──なんて、歪な支え合いだろうか。
「どうすれば正しいのかわからない。今は離すべきでないのはわかる。だが──このままでいいはずがない」
「二人ともひどい経験をしてしまったからね。あの子たちはしっかりしているから忘れがちだが──まだたったの十四歳なんだ。殺人なんて見ていい歳じゃない」
「ああ……せめて、あのとき間に合ったなら」
シリウスの脳裏に浮かぶのは、ポートキーによって移動する瞬間のマリアの唖然とした顔だ。
子供の顔だった。試合のさなかから、あの子は怯えていたのに。せめて指先だけでも届いていたならば──共にヴォルデモートと対峙してやれたのに。
「どうすれば、解放してやれるんだろうか。もっと普通に──あの子たちをただの子供に────なんだ」
目の前で頬杖をつく親友の目が笑っていて、シリウスは眉をひそめた。この深刻な現状にリーマスの表情はいっそ場違いだ。
「いや──まるで親のようだと思ってね」
「親なんだ」
シリウスは迷いなく言い切る。そして再びため息をついた。親であることを知らない男が親の真似事をする。その苦悩が若々しいかんばせにありありと表れていた。
「私はよい親というものを知らない。ジェームズやお前と違ってな。だから──きっと私自身があの子たちにとって完璧な親になれるとは思わない」
たとえば子供たちが求めるものが兄であったなら、少なくともシリウスはその感覚を知っていただろう。良好な関係でなかったとしても──シリウス・ブラックはレギュラス・ブラックの兄だった。
「いい加減、互い以外にも頼る先があることを知るべきなんだ。もっと周囲へ目を向けることを教えなければ」
「ハリーはともかく、マリアはずいぶんと君を信頼してるようだけど?」
「それだって、妙といえば妙だろう。あの子はなぜ私を──いや、あの子に関しては『何故』を言い出せばキリはないが」
「……ほんとうに、不思議だね。マリアは」
得たいの知れない子供、マリア・ポッター。闇の帝王を退けたその日から注目され続けてきたハリー・ポッターの影にある子。語られぬ生き残った女の子。表舞台から消えた少女。
ひとたびその存在を知ってしまえば──ハリー・ポッターよりもよほど奇妙で興味深い子供だ。
「マリアも、ハリーも、大切だ」
「もちろんだ」
シリウスの言葉に間、髪入れずとリーマスもうなずく。
「どちらも等しく愛される子供なんだ。そうでなければならない」
「ジェームズもリリーも、もういないからね」
「俺たちだけでも、あの子たちを子供として愛したい。生き残った男の子じゃない。ハリー・ポッターの……オマケじゃない。ただのハリーとマリアとして。真似事だとしてもいいんだ。あの子たちがここを家と思えたなら」
「シリウス」
シリウス・ブラックは知っている。アズカバンを脱獄しホグワーツへと駆けた夜。ホグワーツにて愛しい少年少女を見守った日々。周囲が二人に向ける──英雄としての残酷な期待と押し付け。
あの二人を孤独へ追いやったのは────大人だ。
「そうでなければ──」
シリウスはきつく双眸を閉じた。かつて家族のため命をかけたハシバミと緑が脳裏で強烈に輝いた。それは──シリウスにとってもリーマスにとっても、恐怖を呼び起こすうつくしさだった。
「双子の依存はいずれ互いか──互いに近い誰かを殺すぞ」