九月一日。監督生のロンとハーマイオニーと分かれた僕たちはルーナとネビルのコンパートメントへとお邪魔していた。ルーナは付録のメラメラメガネをかけて夢見心地に雑誌ザ・クィブラーを開いていた。相づち役はもっぱら僕だ。初対面時にザ・クィブラーを褒めたことが功を成したのか、ルーナは実に僕に好意的だった。僕としても、妻の親友であった印象が強いので苦なく会話を交わせた。
そこに────乱入者だ。
「ハロー、ハリー。わたし、ロミルダよ。ロミルダ・ベイン」
気の強そうな黒髪の女の子だ。クスクス笑いの仲間を引き連れて、たっぷりの自信と共にコンパートメントの扉を開いていた。
…………ああ……アー……。戸惑うハリーの隣でそっと目をそらす。
…………いたね、君。
そうだ。この年って、急に周囲が色めき立つというか……『僕』もそれなりにモテたりしたというか。彼女もそのうちの一人だった。
「コンパートメント、空きがなかったんでしょう? わたしたちのコンパートメントに来ない? こんな人たちと一緒にいる必要はないわ」
どうやらロミルダは空きがないためにしぶしぶハリーがこのコンパートメントを選んだと思っているようで、横目で
不憫な二人(おもにネビル)のため、あいだに入ろうと口を開く。──前に、地に足のついていないただようような声がふわふわとロミルダに応戦した。
「あんたじゃハリーの気を引くのはむりだと思うよ。ハリー、面食いだもン」
「は?」
ロミルダは硬直した。視線の先は
「マリアが側にいるんだからしかたないよね。目が肥えちゃうんだよ」
「…………」
「あんたがマリアと並べるっていうなら話は別だけど。あたし、ジニーくらい美人じゃないとむりだと思う」
衝撃に固まっていたロミルダはやがてルーナの言葉を理解して赤面した。怒りの赤だ。ギッとルーナと僕を睨んでから地団駄を踏み鳴らすようにして通路を去る。子分たちがちょろちょろと後を追う。場には何とも言えない沈黙が残った。ルーナは自分のなにが彼女を怒らせたのかわからないとばかりに小首をかしげていた。……おそるべし、ルーナ・ラブグッド。ある意味でこの人こそが敵なしの最強だ。
「……ハリー、あとでいいものをあげるね」
どっと襲い来る疲労感に任せてハリーへともたれかかる。ハリーは手慰みに僕の赤毛を撫でていた。
君たちのご厚意は無駄にはならなさそうだよ。フレッド、ジョージ。
***
スラグホーン主催の昼食会から戻ってきたハリーとジニーとネビルを迎えて、場はホグワーツの大広間へと移る。ふと、違和感を覚えた。なにかが足りないような──
夕食の宴が始まる。がっつくロンにハーマイオニーが顔をしかめている。遠くのラベンダーがロンを見てパーバティと笑っている。コリンが弟にカメラを見せては得意気に話している。シェーマスがゴブレットを爆発させている。ジニーが男の子に囲まれる。(ちょっとソレにはもの申したい。)
グリフィンドール席はいつもと変わらぬ様子だ。いったい、なにが足りないんだ──?
突如、大広間の扉が開いた。視線がいっせいに『彼』へと泳いだ。シックな黒リボンで肩を超すほどのブロンドを結った少年は、ローブをなびかせながらスリザリン席へと着席した。──ドラコだ。ドラコ・マルフォイが遅れて到着したのだ。
かつて奴にしてやられたハリー・ポッターとドラコ・マルフォイの立場が逆転していた。
「見たかよ、アレ。遅刻したってお坊ちゃんは優雅なもんだ」
「なにかあったのかしら?」
「マリア?」
ハリー含む三人が僕を見る。僕だって知らないと首を振る。──列車の中で、なにかあったのだろうか。
チキンをつついていたフォークを置いて、僕はポケットの中の通信紙を握りしめた。
「────ドラコ!」
九月初めの夜は比較的空が明るい。お決まりの湖の側で難しい顔をしている相棒を捕まえる。
「わかってると思うけど──」
「ああ。ちょっと……いや、僕も整理がついてないんだ」
芝生へ座り込んで、眉間にシワを寄せるドラコを覗き込む。ドラコは夏を経ていっそう大人っぽくなっていたが、そんな顔をすれば『僕』のよく知るマルフォイに見えた。
「その────寝過ごしたんだ」
「ハァ?」
すっとんきょうに声を上げた。ドラコは宿敵に失態を知られたとばかりに苦々しそうにしていた。
「列車で? 誰も起こしてくれなかったのかい? そこまで嫌われちゃった?」
「嫌われてなんかない。遠巻きに見られてるだけだ」
「それ、腫れ物扱いって言うんだぜ」
「うるさい、減らず口。……そうじゃなくて」
出会い頭の言葉の通り、ドラコは困惑の表情のまま告げた。アイスグレーの瞳は揺れていた。
「アステリアだったんだ」
「えっ──?」
「僕を眠らせ汽車に放置したのは────アステリアだ」