マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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2ー1

 

 ハリーが個人授業と称してダンブルドアと記憶の旅に出ているあいだ、僕はお決まりの湖にてドラコと落ち合っていた。最近は人目を避けずとも周囲が自ら目をそらしてくれるので楽なものだ。ハーマイオニーいわく暗黙の了解なのだそうだ。この湖畔を五年かけて僕たちは占領してしまったらしい。

 その事実に笑ってから、本題へと入る。

 

 

「──アステリアだけど」

 

 

 ドラコは落ち込んでいた。なんとアステリアに避けられているというのだ! 良くも悪くもドラコ第一主義であったあのアステリアにだ。その穴埋めとばかりにパンジー・パーキンソンが今ではドラコの側にべったりだった。

 

 

「アステリアはダフネと行動を共にしているらしい」

 

「アステリアは──その、それほど家族仲が良好なわけでは……?」

 

「ああ。だが姉妹仲はそれなりだ。少なくともアステリアが体調をくずした際、面倒を見るように言い付けられてはいるようだ」

 

「じゃあ……やっぱり、家でなにかあったのかな」

 

 

 ドラコの側で僕は頭をひねらせた。以前であればこの手の──いわゆる純血のコミュニティ事情にくわしいのは当然ドラコであった。だがしかし、当主の父を手にかけたと噂のドラコに貴族社会の人間が親切に情報を分けてくれるはずもない。ドラコ自身が当主となるには若く、代理の母ナルシッサも表舞台からはしりぞいている。生存だけを示してルシウスと共に隠れているはずだ。そうでもしなければ、ヴォルデモートの報復がいつ彼女へ向くやらわかったものでないのだから。

 

 

「それも含めて話を聞きたいところなんだが……」

 

「ドラコ相手だと話しづらいのかもしれない。僕が聞くよ」

 

 

 ドラコは不満げながらも小さくうなずいた。最愛のアステリアが関わるとこんなにもわかりやすい彼が面白くてならない。かわいいじゃないか。

 

 

「そちらは──ハリーは今、ダンブルドアと一緒なんだな?」

 

「そう。トム・リドルに関する記憶の旅をしてるところだと思うよ」

 

「君は関係ないのか?」

 

「どうして関係があるんだ? 僕はたまたまハリーの双子として生まれただけの子供だよ。ダンブルドアが求めているのは、ヴォルデモートを打ち破る力を持った『選ばれしもの』だ」

 

 

 そして僕は──『マリア』だ。ただの凡人で『生き残った男の子』のオマケのマリア・ポッター。優先されるべきはハリーで──『僕』はずっとそう守られてきた。

 

 

「……まあ、君があのご老人に拘束されないというのなら──」

 

 

 認識するよりも早くドラコを地面へ押し付けていた。

 

 

「プロテゴ!」

 

 

 目の前で爆発が起きる。誰かが僕らに向かって攻撃魔法を唱えたのだ。咄嗟に盾を張ったとはいえビリビリと振動が伝う。この威力──悪戯ではすまされないぞ!

 

 

「誰だッ!!」

 

 

 僕の斬るような誰何の声は水面をすべって消えた。当然、答えるものはなかった。気配も消え失せ、下品に飾りばかりの杖を振りながら身体を起こした。

 

 

「……チッ。ドラコ、怪我は?」

 

 

 すっかり押し倒される形になっていた人形じみた少年は、アイスグレーを数回またたかせると顔を手でおおった。状況もあいまって、狼藉者に襲われた生娘のようだった。指でリボンのほどけた金髪をすくう。

 

 

「……ドラコ? 乱暴にしたのは悪かったよ。でも、いくら君だって受け身くらいは取れただろう? ……次は優しくするから」

 

「……お前、わざとだろう」

 

 

 暗闇だって赤さがわかるくらい羞恥に染まった耳に、クックと笑う。腕を掴んで引き起こす。不機嫌なドラコは、僕と目を合わさないためにおそらく犯人がいただろう森の方向をきつくにらんだ。八つ当たりも込みだ。アイスグレーがぐんっと氷の冷たさを帯びる。

 

 

「──さんざん命を狙われてきた元英雄どのの見解としては、『どちら』だ?」

 

「君も僕もかなり モテる(・・・)からね。なんたって初恋泥棒だ。そろそろお釣りで喧嘩が買えそうだ」

 

「言ってろ」

 

 

 二人で立ち上がり再び森を見つめる。禁じられた森の方向だ。生徒か、教師か、はたまた──いや、それはあり得ないはずだ。必要の部屋のキャビネットはボージン・アンド・バークスへは繋がっていないのだから。

 

 

「……油断するなよ」

 

 

 ドラコの囁きに、ローブの土くれを払いながら固くうなずいた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 アステリアとの対談は思いの外はやく叶った。──否、それは対談なんて易しいものではなかった。

 

 

「アステリア!」

 

 

 道すがら、珍しく緑ローブの同年代ほどの少女に囲まれているアステリアを発見した。本日はクィディッチ・グリフィンドールチームキャプテン──つまりはハリーだ──による選手選抜試験日だ。あのハリー・ポッターがキャプテンとして新チームを引くとのことで、どこから漏れ出したのか選抜試験の様子は他寮にまで伝わっていた。圧倒的に赤ローブが多い中、観客には黄色や青色のローブも混ざっていた。遠くからでもハリーのうんざりした顔が見えた。

 

 

「よかったらアステリアも見に行かない? たぶんドラコがいると思うんだ。あ、もし彼に会いたくないなら──」

 

 

「──まあ、お聞きになりました? みなさん」

 

 

 アステリアはうつくしく微笑んだ。──人形の笑みだ。

 

 

「……アステリア?」

 

「こちらの方がわたくしをあの獣臭い群れへと招待してくださるのですって。おやさしいこと」

 

「いやだわ、なにさまなのかしら」

 

「ミスグリーングラスのお名前をそのように……なんてずうずうしいの」

 

 

 側に控える少女二人が示し合わせたように冷笑する。その光景はクラッブとゴイルを背に幾度と『僕』の前へ立ちふさがったマルフォイを思い出させた。

 

 

「……あまり、品のいい冗談とはいえないね。アステリア」

 

 

 自然と僕の声も低く落ちていた。窓から差す朝日がアステリアの柔らかな黒っぽい茶髪を浮かび上がらせて、場違いにも天使の輪のようだった。

 

 

「野蛮人のグリフィンドールが品を語るなんて! 口の利き方がなってらっしゃらないわね」

 

「ミスグリーングラスはもうあなたなんて相手にしないのよ」

 

 

 ふんぞり返る左右の二人を無視してアステリアひとりを見つめる。アステリアはひるまなかった。──きれいな顔だ。アステリアという少女を殺しきった顔だ。

 

 

「わたくしと── ミスポッター(・・・・・・)、あなたの生きる世界はとっくに分かたれました」

 

 

 アステリアはためらいなく切って捨てた。

 

 

「これまでのことはお貴族さまの悪趣味なたわむれだったとでも?」

 

「いいえ、交遊関係にあれたならば光栄だと心から思っていましたわ。──ミスブラックとなら」

 

「──!」

 

 

 ──『ブラック』

 

 ここで、その名が出るのか。

 

 

「ですが、シリウス・ブラックは死んだ。実質、ブラック本家は完膚なきまでに没しました。そしてあなたは ポッター(・・・・)。いちから説明しなければご理解いただけませんか? わたくしがあなたと交遊を持ち続けてきたのは、あなたが『ブラック』となりうる可能性があったから。……もう、あなた単体に価値なんてこれっぽっちもないの」

 

 

 アステリアは笑う。いやな笑い方だ。人の傷つけ方をよく知る笑い方だ。彼女は────こうして嗤われてきたのだ。

 

 

「……ずいぶんえらくなったものだね。 ミスグリーングラス(・・・・・・・・・)。それで、代わりの腰巾着を二つももらえたってわけだ。──なにが君をそこまで えらく(・・・)したんだい?」

 

 

 交わる視線に摩擦が起きる。無論、そんなものは幻覚だ。だがしかし互いに譲れぬ熱がそこにあった。

 

 

「……お話になりませんわ。行きましょう、みなさん。獣の臭いが移ってしまいますもの」

 

 

 アステリアが側を通る。通りすぎる。うそみたいに──嘘で固めたみたいに、きれいだ。

 

 

「──ドラコのことは、どうする気」

 

 

 足音が消えた。

 

 

 

 

「────ミスターマルフォイと、よく、お似合いでしてよ。ミスポッター」

 

 

 

 

 それが人形の答えだった。

 

 

「そうかい。それじゃあ、君の大嫌いなグリフィンドールらしくぶざまに噛みつこうじゃないか」

 

 

 振り返る。そこにはアステリアの背がある。凛と立っている。

 

 

「僕とドラコは最高に諦めが悪いぞ。────覚悟してろよ、アステリア」

 

 

 アステリアは振り返らなかった。アステリアの背は誇り高く伸びたままだった。彼女は微塵も心を見せず立ち去った。

 ひとり残された廊下にたっぷり時間をかけて息を吐き出す。しゃがみこむ。頭を抱える。

 

 

 アステリア・グリーングラス────君の悲鳴は、静かすぎる。

 

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