マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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3ー1

 

 それからドラコは三日ほどで目覚めた。後遺症などもなく、周囲の心配をよそにけろりとしたものだった。

 

 

「とりあえず一発殴っていいかい」

 

「まったくよくないが!?」

 

 

 冷や汗をかくドラコを壁へと追い詰める。姑息にも逃げようとするので逃走進路を足でふさいだ。なんだっけ……娘のリリーが足ドンとか言ってたやつだ。

 

 

「…………マリア?」

 

「君さあ」

 

 

 次は腕である。身長差なんてものともせずドラコを閉じ込める。片手でネクタイを引っ掴めば簡易首輪の完成だ。

 

 

「なんで──大事なこと──黙ってるわけ?」

 

「待て、落ち着け」

 

「なんで──殺されかけといて──話さないわけ?」

 

「おい、マリア」

 

「僕たち……相棒じゃないの?」

 

「……ハリー」

 

「うるさい。今はマリアとして話してる。いいか、言い訳ならかしこくしろよ、マルフォイ。寿命が縮むぞ」

 

「縮められる前提なのか!?」

 

 

 壁に背をつけ縮こまっていたドラコは、やがて腕を伸ばして僕を包んだ。

 

 

「……悪かった。心配かけた」

 

「……フン」

 

 

 壁を使っての拘束を解く。秘密ならば僕のほうがよっぽどだ。棚上げもいいところだ。けれど──アステリアのためにも、スコーピウスのためにも、ドラコ・マルフォイはうしなえないのだ。

 

 

「君がのんきに寝てるあいだに色々動いたよ。とりあえずは事情聴取だ。なぜ君にあのペンダントが届けられたんだい?」

 

「動機なら絞りきれないのが僕らだろう。ただ──届けにきたのはセオドールだった」

 

「…………」

 

 

 片眉が跳ね上がる。セオドール・ノット──確かに、セオドールを使えば同じスリザリンの同輩としてドラコへかなり近付きやすい。つまりは、セオドールが『前回』のケイティに取って代わったのだ。ドラコが受け取っていなければ──セオドールは死んでいたかもしれない。

 

 

「かしこい言い訳にはならないが──そんな顔するなよ。不細工だぞ」

 

「母さんの顔はなにしたって美人だよ」

 

「中身が不細工だ」

 

 

 小さく笑い合う。程よく肩の力が抜けた。

 

 

「ほんとうに、狙いが僕だとは思っていなかったんだ。疑ってはいたが──ここで僕を殺すメリットなんて、私怨の他にないだろう。僕が死んだところでなにに響く? 個々への影響はあるにしても、組織を揺るがすほどの大事にはなり得ない。──ダンブルドアならともかく」

 

「ハリーを動揺させるって意味なら僕のほうがよっぽど有効だろうしね。つまりはおっしゃるとおり私怨なんじゃないか? そうなると、それこそ動機なんて無数にのぼるわけだけど」

 

「……さすがに殺しにかかられるのは看過できないね」

 

「周囲への被害もバカにできない」

 

 

 たとえばパンジー。たとえばセオドール。たとえば──アステリア。ドラコへ向けられた殺意の鎌はドラコごと周辺を刈り取ろうとしている。──オーグリーの鳴き声が不吉に死を呼んでいる。

 

 

「それじゃ、こちらからも報告だ──心して聞いてくれ」

 

 

 そして思っていたとおりにオーグリーの名を聞いたドラコは真っ青になった。ただでさえ青い肌が吸血鬼の色になっていた。

 僕もこいつも、そして僕たちの息子たちも、オーグリーに対してよい思い出を持っていない。オーグリー──ヴォルデモートの娘、デルフィーニに対して。

 

 

「その世界は、全員が試練を受け、全員が失敗した世界だ。可能性すら復活させてはならない」

 

「無論だ。僕が──私の息子が、王なんぞに仕立てあげられる世界はあってはならない。あの子は人の上に立てる子じゃない」

 

「私はよい父親ではなかった。役立たずの父親だった。君の息子にも酷い仕打ちをした。友情を引き裂こうとした──友と共にあることがどれほど力になるか、誰よりも私が知っていたのに。私の盲目が、息子たちを破滅させかけた。……君にも、ずいぶんと迷惑を」

 

「ハリー」

 

 

 ドラコが肩を叩く。友へするように。ドラコ・マルフォイが仲間である──それがどれほど得難いことか。

 

 

「だから、止めるんだ。僕たちで。──未来への持ち越しはなしだ」

 

「……ああ」

 

 

 深呼吸。感情を落ち着ける。子供たちにまで僕らの尻拭いをさせるわけにはいかない。オーグリーの望む世界は──私たち大人が打ち砕かねばならない。

 

 

「情報を集めよう。彼女が本当にこの世界にいるのか。だとすれば、彼女は──」

 

「奴の母親はベラトリックス・レストレンジで、出産場所はマルフォイ邸だった。だがしかしそれはこの世界ではありえない。オーグリーがどのようにして存在しているのか。なぜ──『僕』なのか」

 

「突き止めよう。僕たちで」

 

 

 しっかとうなずき合う。例の事件は起こるべくして起こった。残恨を後世までくすぶらせてしまった大人の責任だ。今度こそ──子供たちに血のにおいのしない世界を譲り渡さねば。

 

 

「頼りにしてるよ。──相棒」

 

 

 今さらな握手を交わす。僕と君の抱える未来は似て異なるものだけど──見据える先はきっと同じだ。

 

 報告会は終わりだとばかりに別れる。そして振り返る。そうだ、ひとつ文句をいい忘れていた。……これのどこがいいんだか。やっぱり見た目か? 色男め。

 

 

「ちゃんとパンジーに礼を言っておけよ。あと、あまり邪険にしてやるな。彼女、なかなかかわいいから」

 

「単純め」

 

 

 ニヒルに笑い返されて、今度こそ彼へと背を向けた。──たとえば。たとえば、それが、(マリア)がこの世界に在る理由なのだとしたら────

 

 

「……悪くないかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年は己の手のひらを見つめた。男になろうとしている手だ。子供のがむしゃらさが抜けて要領よく傷を負った手だ。だがしかし────幼い。

 

 

「デルフィーニ────罪の、清算か」

 

 

 男のかつての夢想に現実が追い付こうとしていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 薬草学を終えたハリーはげっそりしていた。昨日にはダンブルドアとの二回目の個人授業があったようだし、リドルへ繋がる記憶に触れて何か心に負ってしまったのかと思いきや、悩みの種は親友二人のことだった。

 

 

「あの二人、付き合うのかな」

 

「なにか不満かい? わかってたことじゃないか」

 

「ウン……でも」

 

 

 しょんもりした様子のハリーを土濡れの手を拭ってから雑に撫でる。

 

 

「さびしいの?」

 

「…………」

 

「君にはジニーがいるじゃないか」

 

「まだそんな関係じゃないよ。それに、それとこれとは」

 

「──別だよね。わかってる」

 

 

 言いよどむハリーに同意を込めてうなずく。この年って、そういったことも含めて大きく関係が動いたものだ。僕は結果的にロンとハーマイオニーが上手くいくことを知ってるから楽観視できるけど──いや、できない。息子たちが見た世界では、互いへの想いを抱いたまま二人は別れていた。

 

 

「……むずかしいね」

 

「ほんとうに」

 

 

 恋愛下手同士で寄り添い合う。チョウが絡まないだけ、ハリー自身はすっきりとしたものだけど──僕は。

 

 

「マリアは」

 

 

 ドキリとした。さすが双子というべきか。緑の目は僕を見ていながらその先を見透かすようだった。

 

 

「マリアは、どうするの」

 

 

 僕は。────(マリア)は。

 

 

 クィディッチ練習が始まるとロンとジニーの衝突も激化した。ロンのプレイには波がある。主に精神面がコンディションに大きな影響を与えている。それにジニーは堪えられないようだった。

 

 

「この、ヘボ! デメルザをごらんなさいよ。あなたの『事故』で何度顔をぶったの?」

 

「まだ調子が出ないんだ!」

 

「あなたの調子はいつ整うの? 三日後? 一年後? それともあなたの愛しのチャドリー・キャノンズが優勝するとき? それって何百年後の話かしら」

 

「この──言わせておけばっ」

 

「二人ともやめろ! ロンは冷静になれ。ジニー、ロンをヘボなんて呼ぶな」

 

 

 新チームのキャプテンを担うハリーはすっかりてんてこまいだった。それを僕はかつての自分を見る気持ちで見守る────とはいかない事態が、先に待ちかまえていた。

 それはすっかり見慣れた兄妹喧嘩を二人が寮までの道のりでくり広げている時のことだった。二人とも練習後で疲れていた。特にジニーはゴールを六回も決めてくたくただった。つまりは頭が回っていなかったのだ。その代わりに口が滑ってしまった。

 

 

「そんなだからハーマイオニーからクリスマスの誘いをもらえないんだわ」

 

「なんの話だよ」

 

「スラグホーンのクリスマスパーティーのことよ。彼のお気に入りメンバーから誘いをもらえればお気に入りじゃなくても参加できるの。あなたは誘ってもらわなくちゃ参加できないでしょ? ハリーはマリアと行くものね?」

 

「え?」

 

「ああ、うん。そのつもり」

 

 

 まさかの事後承諾である。唖然とハリーを見上げれば、ふにゃっとした腑抜けな笑顔で返されて肩をすくめた。僕が断るだなんてまるで思わない安心顔だ。まったく、僕の弟はいつまでたってもかわいい。……ダンスパーティーでは姉さんを見捨てたくせに。

 

 

「あたしはハリーじゃないから、兄弟を誘うなんてまっぴらごめんだわ。つまり、あなたはハーマイオニーからの誘いを受けないとクリスマスパーティーには来られないってことよ」

 

「別に──僕──そんなの──だいたい、あいつだって誘える男なんて僕とハリーしかいないだろ」

 

「あぁら、おあいにくさまね。ハーマイオニー、モテるわよ。だって綺麗になったもの。二年前のダンスパーティーで? それに、キスだって済ませたわ」

 

 

 ロンが立ち止まった。遅れてジニーも立ち止まった。その顔にははっきりと「しまった」と浮かび上がっていた。

 

 

「……それじゃ、あたし、先に行くわ」

 

 

 奇妙な顔の兄を置いて、ジニーはそそくさと逃げた。残された僕たちはロンに隠れて目で相談し合っていた。……どうしよう、これ。

 

 

「あれ、ほんとうか? 相手はクラムか? ダンスパーティーでなら、そうに決まってるよな?」

 

「えーと」

 

「ウーン」

 

 

 曖昧ににごすが、ロンの中ではすでに決定してしまったようだ。事実、ハーマイオニーとクラムが当時それなりにイイ仲になったのは本当なのだ。そして僕たちは──嘘が上手くない。

 それからロンのハーマイオニーに対する理不尽な攻撃は始まった。『前回』では親友に挟まれ昼はロン、夜はハーマイオニーとフォローに駆け回った『僕』だが、今回は『僕』が二人いるのだ。僕たちは絶妙に分け合って親友の聞き役に徹した。僕は当然ハーマイオニー側だ。一応……マリアは女の子なのだから。

 

 

「わけがわからないわ。どうしてロンはわたしに冷たくするの? わたしのなにがロンをあんなに怒らせたの?」

 

「ハーマイオニーは悪くないよ」

 

 

 君が二年前にクラムとキスしたからだよ。とは、到底言えそうになかった。

 

 

「わ、わたし──ロンを誘おうと思っていたの。クリスマスパーティーのことよ。わたし、ロンになら────でも、これじゃあ話すことすらできない! こんなのって、みじめだわ」

 

「ハーマイオニー……」

 

 

 顔をくしゃくしゃにするハーマイオニーを抱きしめる。ロンは君が好きだよ、と、一言いってしまえば全てがおさまる単純さで彼らの恋心ができていたならよかったのに。それではいけないのだ。誰かを愛するって──『好き』だけでは成立しない。

 

 親友二人の仲がめちゃくちゃのままクィディッチグリフィンドールチームは初試合を迎えた。案の定ロンはふてくされきって、今回のプレイに期待できそうな素振りはまるでなかった。ゆえに──ハリーは細工をした。

 ハーマイオニーは憤慨した。フェリックス・フェリシスをロンの飲み物に仕込んだと思い込んだハーマイオニーは正当にいかった。どうにか選手二人を会場へ送り込んでからハーマイオニーへとささやく。

 

 

「落ち着いて、ハーマイオニー。あれ、演技なんだ。実はなにも入れてない」

 

「……なんですって?」

 

「ロンに今日の自分は幸運だと思わせるためにひと芝居打ったのさ」

 

 

 現に空は絶好のクィディッチ日和で、対戦相手のスリザリンチームからは欠員が出ていた。ほんとうなら病的になってしまったマルフォイの代わりにド素人のシーカーがあてがわれるはずだったが、こたびのスリザリンシーカーはマルフォイでなくセオドール・ノットだ。セオドールが休場する理由はなく、どうどうと彼は立っていた。

 

 

「わたし…………そう。それじゃあ、その相談をわたし抜きでしたのね。石頭のわたしに話せば台無しにされると思ったんでしょう」

 

「そうじゃない!」

 

「いいえ、そういうことよ。そういうことなのよ。……わたし、戻るわ。ついてこないで。……マリアまできらいになりたくないの」

 

 

 ハーマイオニーは試合が始まる前にクィディッチ会場から去った。後ろ姿がずいぶんと華奢に見えた。傷付いているのだ。彼女はあんなにも傷付いているのに──僕ではろくに寄り添うこともできない。結局、僕は男だった。

 ハーマイオニーの心を置き去りにしたまま試合は万全に進み、晴天の下はグリフィンドール生やグリフィンドールチームを応援する生徒たちの歓声で溢れていた。むなしいくらい、世界は光を振りまいていた。ロンもハリーも笑顔だった。成功に酔っていた。

 少女たちはひとりで泣いているのに。

 

 グリフィンドール新チームの初勝利を祝う宴でもロンとハーマイオニーの悶着は起きた。ロンが当て付けのようにラベンダーとべったりするのだ。さらに最悪なのが元々ハーマイオニーとラベンダーは同室にあるため、ハーマイオニーの逃げ場所がことごとく奪われているということだった。

 魔法で作り出した小鳥にロンを襲わせたハーマイオニーは寮を飛び出した。慌てて追えば、僕とドラコが密会に使う湖畔で涙を流していた。

 ロンのほうはハリーがどうにかするだろう。僕は言葉なく少女の隣へと座り込んだ。

 

 

「うらやましいわ」

 

「なにが?」

 

「あなたたち、うまくいってるじゃない。それすら妬ましくなるの。もううんざりよ」

 

「あなたたちって──僕とドラコ?」

 

「他に誰がいるの? あなたのことを好きな人はたくさんいるわ、マリア・ポッター。あなた、毎年綺麗になっていくもの。グリフィンドールの男の子なら一度は一目惚れしてるわ。でも──あなた()好きなのはひとりだけ」

「…………」

 

 

 ハーマイオニーがそんなふうに僕とドラコのことを誤解してるのは知っていた。面倒からそれほど強い訂正も入れてこなかった。けれど──それはおそらく間違いだった。

 

 

「あなたたちって変よ。かなり変。でも──上手くいってる。形として成り立ってる。好き合ってるのに友達ができる。それって──」

 

「待って、ハーマイオニー。ドラコは確かに僕を好きと言ったかもしれない。けれど、彼にはとっくに心に決めた人がいて、」

 

「それってスリザリンのあの子のことでしょう? でも、あの子、ちょっと変わってきてるわ。──それでいいの?」

 

「────」

 

 

 マリアはどうするの────ハリーの声がよみがえる。

 

 

「ねえ、マリア──それでいいの?」

 

 

 涙に濡れた茶色の瞳はどこまでも誠実だった。正義に近い場所にあろうとする少女の眼差しは無垢に逃げ道を砕いていく。前を見ろと叱咤する。彼女の正しさはいつだって痛みと同じだ。

 

 

「わたしたち、もう誤魔化して見て見ぬふりをしていい歳じゃないわ。ちゃんと考えなくちゃ。マリア────あなたはどうするの」

 

 

 たとえば二人だけのダンスの夜。たとえばアンソニーと入れ替わりの空き教室でこぼれた言葉。駅での告白。パンジーが目について仕方なかった理由──

 

 

 子供のふりの時間は終わりだ。

 

 

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