マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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マリア・ポッターと謎のプリンス【完】

 

 暗雲を突く髑髏を見上げる僕の隣から鈍い音がした。ドラコが引き倒したセオドールの胸ぐらを掴んで強引に起こしていた。優雅ぶる彼にしては珍しい暴力的な動作だが、セオドールはそれでも勝利を確信して薄く笑っていた。

 

 

「なにをした。ダンブルドアがいないとはどういうことだ」

 

「言葉の通りだよ。僕が外へ誘い出した。オーグリーの名を使って」

 

「そんなものにダンブルドアが騙されるものか!」

 

「そんなもの? ──そんなもの(・・・・・)でなくしたのは君だろう」

 

 

 ダンブルドアへの侮辱の響きを持った返答に激昂すれば、セオドールの目はクルリと僕を見る。

 

 

「感謝するよ。マリア・ポッター。君のおかげでダンブルドアを騙せた」

 

「え?」

 

「君という『実例』がいた。ゆえにあの老人は耄碌になったんだ」

 

 

 オーグリーなんて不確定な存在を『ありえるかもしれない存在』にしたのは君だ。

 セオドールは続ける。

 

 

「きっと君がいなければあのご老人は厄介にも今でも校長室に居座っていたことだろう。僕への監視をおこたりはしなかったはずだ。未来から脅威を持ち込んだオーグリーなんてものは所詮、僕が妄想から作り上げた虚像なのだと。けれど、彼は思ったんだ。『マリア・ポッターがありえるなら、オーグリーもありえるかもしれない』と」

 

 

 英雄に関わる予言をいただき、その予言に添うかのように謎めいた少女。未来を見透かすような言動をくり返し、不可解な知識を持って試練を書き換えた予言の子。

 マリア・ポッターはダンブルドアに『可能性』を抱かせた。

 

 

「お前の存在がダンブルドアの判断を鈍らせたのだ」

 

 

 すべてお前のせいだ────セオドールは嗤った。

 

 

「──だとしても、城には彼が残した守りがある。いにしえの魔法が今も根付いている。死喰い人が介入する隙はない。お得意のはったりはもう通用しないぞ」

 

 

 セオドールを捕らえたままドラコがすごめば、クツクツ笑って少年はドラコの手を握り返した。

 

 

「ああ、そのとおりだ。我々スリザリンが馬鹿正直に正攻法なんて取るはずがないだろう? ──下水道だよ」

 

「下水道?」

 

 

 まったく思いもしなかった単語に、無防備にもドラコと顔を見合わせる。セオドールはドラコの手を払って立ち上がった。

 

 

「未来の僕は言った。様子のおかしいサソリ王が湖で発見されたと。君たちが逢瀬に使うこの湖さ。それによりマルフォイ氏──未来の君のことだけど──はサソリ王……自分の息子のスコーピウスを呼び出さざるを得なくなった。その隙をついて未来の僕は過去に渡ったのだそうだ」

 

「──!」

 

 

 つまり、彼に接触したセオドールはまさしく『例の事件』の真っ只中にあったセオドールなのだ。そして様子のおかしいスコーピウスとは僕たちの歴史のスコーピウスのことだ。

 少年たちを捕らえようとする大人の手から逃げおおせた二人は何を使って城を出た──?

 

 

「僕は気になった。おかしくなったスコーピウス少年はここでなにをしていたのだろうかと。そして見付けた────湖には城へと繋がる下水パイプがある」

 

 

 月明かりすら失い深い穴のような相貌へと変わり果てた湖を背にセオドールが闇を背負う。嵐が近付いていた。嵐が城を呑み込もうとしていた。

 

 

「ここのパイプは城内のマートルのトイレへと続いている」

 

 

 そうだ。子供たちはタイム・ターナーとマートルの協力を持って第二課題の妨害に当たったのだ。

 ──だから、セオドールは禁じられた森の付近に頻繁に現れた。的確に、確実に死喰い人たちを湖からパイプの旅へと導けるように。

 

 

「さあ向かえよ。愚かな英雄気取りども。────みんな、死んでしまうぞ」

 

「マリアッ!」

 

 

 駆け出す。セオドールなんてどうでもいい。城に残してしまった子たちは────ハリーは!

 

 

「マリア、待て!」

 

「僕は天文台へ向かう。君はスネイプを呼んでくれ」

 

「マリア!」

 

「ダンブルドアが帰ってくるまで持ちこたえさせる。──僕がそうする!」

 

 

 ドラコを突き放すようにして校舎内を駆ける。生徒の姿はない。とっくに消灯時間は過ぎていた。そうだ、いっそあの子たちがベッドの中にいてくれれば──

 

 

「エクスペリ──」

 

「ッインペディメンタ!」

 

「うわッ」

 

 

 少年の声だった。知った声だ──アンソニーだ!

 

 

「アンソニー」

 

「あれ、マリア……? ごめん、僕、てっきり」

 

「謝罪はいい。状況を教えてくれ」

 

「君はコインの連絡をもらってないの? ハーマイオニーがDAのメンバーを集合させたんだ。数人しか集まらなかったけど、小瓶の薬を一人ずつ飲めって……そこにハリーはいなかったよ」

 

「それで、みんなは?」

 

「わからない。すぐに散り散りになった」

 

「クソッ」

 

 

 心音を抑えて耳を澄ませる。天文台は静かだ。ならば天文台でないどこかで誰かが戦っているはずだ。不死鳥の騎士団員は到着しているのか? 先生がたは? ──ハリーは。

 おそらくハリーは透明マントを使用している。僕がドラコからの呼び出しに大慌てで寮を飛び出したのを気にして忍びの地図を持ち出したにちがいない。そして気付いた──城内にあってはならない名前が浮かんでいることに。

 ハリーは今どこに。

 

 

「そうだ、マートル!」

 

「マリア?」

 

 

 アンソニーを連れたまま再び駆け出す。下水パイプはマートルのトイレに繋がっているとセオドールは言った。彼の言葉が嘘でなければ──マートルが見ているはず。

 

 

「マートル!」

 

「うっ──うっ──あたしは悪くないわ。あたし、あたし、知らなかったんだもの」

 

「マートル、僕だよ。君の友だちのマリアだ。さあ話を聞かせて」

 

「ああ、マリア! ひどいのよ。あいつらったら──ほら、見て。洗面台がこわされたの。問答無用よ。だからあたし、すぐに飛んだわ。すぐに知らせてやった」

 

「だれに? なにを知らせたの?」

 

「マクゴナガルに知らせたわ。それから──スネイプとフィルチにも」

 

「スネイプに? スネイプに知らせたんだね? それは確かだね?」

 

 

 目も鼻も青くして泣くマートルへと食い付くようにしてくり返す。マクゴナガルならば真っ先に不死鳥の騎士団へと連絡を回してくれただろう。きっと魔法省にも──ダンブルドアへだって呼び戻すために尽力してくれるはずだ。そしてスネイプは────目印のために、ダンブルドアへと一目で状況を伝えるために闇の印を打ち上げたのはおそらくスネイプだ。

 

 

「ありがとう、マートル。君も──ゴーストだけど──安全な場所に隠れていてくれ。パイプの中とか」

 

「ええ。あなたの声がしたら出てきてあげる。……ねえ、行くの?」

 

「行かないと思う? 僕はハリーの姉さんだよ?」

 

「そう……止めないけど、そうね。あなたが死んだときのために隣のパイプを綺麗にしておいてあげる」

 

「光栄だよ」

 

 

 ゴースト流のジョークにほんの少し笑って水浸しのトイレを後にする。アンソニーは扉の向こうで沈黙していた。

 

 

「マリア……」

 

「こわいなら無理強いはしない。たぶん、寮にいるほうが安全だ」

 

「そうだろうね。特にレイブンクロー寮は謎を解かないと入れない仕組みだから。……奴らって、脳ミソが足りてるようには見えないし」

 

 

 ふと、手を取られた。彼の手は女の子のマリアよりも大きくて──震えていた。声だって震えていた。神秘部での事件を経験していないアンソニーは命懸けのやり取りなんて知らないのだ。……恐ろしくて、当然なんだ。

 

 

「アンソニー……」

 

「正直に言えばものすごく怖い。僕がDAに参加したのは自分の身を守るためだ。戦うためじゃない。許されるなら全部君たちに任せてベッドの中で震えていたいよ」

 

「許されるよ」

 

「ありがとう。でも────好きな子の前では見栄を張っていたいんだ」

 

 

 アンソニーは蒼い顔で精一杯に微笑んだ。──こんな顔を、させなくてはならないなんて。

 僕が──もっと──上手く──

 

 

「マリアが勇敢でなければ僕も尻尾を巻いて逃げ出してたかもね。──けれど、そんなのはマリアじゃなくて、そうでないマリアをきっと僕は好きにならなかった」

 

「────」

 

 

 頬へと手を添えられる。優しい眼差しと見つめ合う。レイブンクローの彼はグリフィンドールほど無謀ではなくて────勇敢だ。

 

 

「生きてくれ、マリア」

 

「アンソニー……ぜったいに、死なないで」

 

 

 アンソニーと分かれる。彼等にはフェリックス・フェリシスの幸運がある。ともすれば僕よりも安全だ。それでも、どうか──誰ひとりと欠けることなく嵐を乗りこえてくれ。

 

 天文台への螺旋階段を上がる。大きな悲鳴が聞こえた。それから怒声だ。爆発が起きた。誰の声だ。どちらの声だ。止まれない。振り返ってはいけない。足を動かせ。駆けろ。駆けろ。止まるな、進め────!

 

 

 

 

 

 

「アバダ・ケダブラ」

 

 

 

 

 

 

 スネイプの杖からほとばしる光がダンブルドアの胸をつらぬいた。

 

 

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