マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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 一部の生徒を寮に残してホグワーツはクリスマス休暇に入った。案の定、待ってましたとばかりに使命を遠く放り投げて雪遊びやチェスに興じ始めたロンとハリーを通信紙片手に眺める。帰省中のハーマイオニーのためにも、ニコラス・フラメルの件はどうしたと子供たちをつつき回してやりたいところだが……(マリア)は『秘密』を知らないことになってるしね。

 仕方がないので、そのうちに蛙チョコレートでもおやつに添えてやろうと頭の中だけで呟きながら、手元に視線を落とす。通信紙の伝達先は無論ドラコであり──なんと彼は現在スリザリン寮にいた。

 両親に溺愛され愛にたらふく心を肥やしていたマルフォイが、この世界では自身の信念ゆえに腫れ物のように扱われている。──そんな事実が、僕には奇妙でならなかった。

 彼の在り方に僕ばかりが罪悪感を覚えてしまう、というのは……彼に言わせれば、傲慢なんだろうな。

 

 

「僕、ちょっと出てくるよ。二人はここにいる?」

 

「「いる」」

 

 

 求めていた返事が紙面に浮かんだことを確認してから立ち上がる。念のため声をかけては見たものの、真剣勝負を邪魔してくれるなと仲良くチェス盤を睨む少年たちに苦笑してしっかり防寒着を着込んでから寮を出る。

 目指すは──ホグワーツ城の八階だ。

 

 

「ハァイ、ドラコ。なつかしいだろう、ここ」

 

「まったくだ」

 

 

 辿り着いた通路のその先、寒さだけが理由でない青白い肌のドラコがぽつんと佇むのに、してやったりと笑う。

 彼との何もない石壁を前にした待ち合わせは、たった一言で済んだ。──『必要の部屋』を探す、と。

 心に強く念じて三往復。そうすれば、誰かが本当に必要だと望んでいるとき──その部屋は姿を現す。

 

 

「出たね」

 

「もう二度と見たくなかった」

 

 

 厳かで古びた大扉を前にすっかり苦虫を食らった顔をしているドラコへと、そりゃあそうだと肩をすくめる。ドラコからすれば苦い思い出しかない部屋だろう。死喰い人を引き入れたり、悪霊の火に子分をさらわれたり。

 とはいえ、隣のコイツの自業自得(トラウマ)を僕が今さら気遣ってやる義理もない。なので、躊躇なく扉を開いた。ドラコの顔が苦虫十匹から苦虫百匹を噛みちぎった顔へと変わった。

 

 

「ウーン、相変わらずガラクタだらけだ。クラッブの炎で焼くくらいがちょうどよかったのかも」

 

 

 ジョーク混じりにぼやく。広く高い室内には、見渡す限りの物──物──物────

 書きかけで放置されたレポート。とっくに型落ちの古めかしいドレスローブ。穴の空いた靴下に、マーリンの顔が刻まれた何らかの記念コイン。空の香水瓶。封の切られていないペットフーズ。未返却の図書。折れた杖────歴代の生徒たちが隠し物を置いていった部屋。

 埃臭くゴタゴタしていて、けれどどことなく寂しさを感じさせる部屋だった。置き去りにしていったものの名残が、唯一息をする場所。

 

 

「……ここでなにをするんだ?」

 

 

 積まれた宝物(ガラクタ)を大きく見回し一秒だって長居したくない様子で僕へ問うドラコに、とことん意地悪な気持ちのまま笑う。

 

 

「──分、霊、箱、探、し」

 

 

 つい面白がって耳元で一句ずつ切って囁いてやれば、ドラコはいっそう顔を蒼くした。

 わかるよ。お互い、あの蛇顔にとんだトラウマを植え付けられたものだ。その魂の欠片を今から探すっていうんだから、蒼白にもなるだろうさ。

 

 

「もうか? もう少し様子見でも……帝王は復活だってしていないのに」

 

「授業が始まったら思うように時間が取れなくなるだろ。残れるとわかっているクリスマス休暇の間に済ませようって、ずっと決めてたんだ。……君まで残るとは思ってなかったけど」

 

「……さっさと終わらせるぞ」

 

「さっさと終わればいいけど」

 

 

 ぶつくさ文句は言うものの、やらないと言わない辺り、ドラコのプライドの高さを示しているように感じた。ついでに、身内には向かう誠実さも。

 

 

「探すのはレイブンクローの髪飾り。かたち、君も覚えてるよね? ──ああ、もちろん、今、破壊するわけじゃない。というかできない。あれを破壊するには、強大な魔力がいるんだ。今のところそれが可能だと確認できているのは、バジリスクの牙、悪霊の火、そしてバジリスクの毒を吸ったゴブリン製の武器。偶然の産物だけど、前回ではグリフィンドールの剣がこれだった」

 

 

 二手に分かれて、古い記憶を掘り返しながら古いガラクタたちをひっくり返していく。分霊箱はアクシオできないところが難点なのだ。地道な手探りしか方法がない。

 

 

「それなのに今、探すのか?」

 

「とにかく手元に置いておきたいんだ。ハリーたちが分霊箱のことを知ってから、偶然を装って渡そうと思ってる。知らない生徒が見付けてしまうのだけは避けないと。──人を殺してできた道具は、何度だって人を殺すんだ」

 

 

 僕は知っている。

 スリザリンのロケットの恐ろしさを知っている。リドルの日記の不気味さを知っている。マールヴォロの指輪はあのダンブルドアでさえ誘惑し蝕んだ。それは死の秘宝であることが大きいけれど……分霊箱がもたらす呪いは計り知れない。

 

 

「クリスマス休暇はすべてこの作業に当てるつもりだよ。レイブンクローの髪飾りが今のところ一番手に入りやすい。二番目はリドルの日記だけど……」

 

「それには及ばないな」

 

 

 ふと、ドラコお得意の自信にあふれた嫌味な声が返ってきて、不思議に思って振り返った。──その手には美しくも禍々しいティアラがあった。

 

 

「君……」

 

「僕ならここに隠すだろうと当たりをつけたら、案の定だった。闇の帝王ってのは案外、単純なんじゃないか?」

 

「ナルホド。類は友を呼ぶって?」

 

「あんなのと類にしてくれるな──っと、おい!」

 

 

 思わぬ収穫に、喜びのあまりドラコに勢いをつけてハグしてしまった。ドラコの手に取られた髪飾りの宝石が青く鈍く光る。

 だって、まさか初日で見つかるなんて。この作業のために、僕に休暇なんてものはないとばかり思っていたのに。

 

 

「最高だよ、ドラコ! あとは、そうだな……できるならリドルの日記も手に入れておきたいところなんだけど……今回も君の家にあるのかい?」

 

「ないな」

 

「そうか……」

 

 

 それもそうだろうと頷く。ルシウス・マルフォイはヴォルデモートに忠誠を誓っているのだとしても、その息子のドラコが反抗的な態度だ。反旗を翻す可能性がある人物のいる家に、どうして己の命を預けられよう。

 それも、ただの実験だったとはいえ自身の魂そのものを。

 

 

「僕がここに持ち込んでるからな」

 

「そうだね、リドルの日記の在処を探し出すのも今後の課題に────なんだって?」

 

 

 あんぐりと、口を開いていた。父そっくりの勝気な目だって、きっと今ばかりはルーナのように飛び出しているにちがいない。

 ドラコは長年の成果がやっと表れたとでもいうように、ハリー・ポーターへの悪戯が成功したいつかの日のマルフォイそのものの顔でニンマリ笑った。

 

 

「リドルの日記が、今、どこにあるって?」

 

「スリザリン寮の、ドラコ・マルフォイが与えられた寮室の、家から持ち込んだ鍵付きキャビネットの三段目──その奥に隠された、さらに鍵がかけられた箱の中だ」

 

「…………」

 

 

 言葉が出なかった。だから声なく、断言しよう。今ほどこの友人の狡猾さに感謝したことはない。この先もずっとそう言えるだろう。

 

 

「なんだって、そんなことに……?」

 

「まだ僕が従順さを演じていた頃に父上へとねだってね。ほら、あの人は主から渡された日記の真意なんて知らなかっただろう? だからあっさりと譲ってくださった。大切な人がくれたものだから大切にしなさい、なんて滑稽なことを言いながらね。もちろん大切にしたとも。──いつか(ハリー)と壊してやるものなんだから」

 

 

 皮肉ぶった男のわざとらしい言い分に、興奮から全身へと震えが走る。なんてゾクゾクする男なんだ──ドラコ・マルフォイ。

 沸き上がる気持ちにたえられず、再びドラコへと飛び付いた。

 

 

「──ドラコ! 君って本当に最高だよ!」

 

「当然だろう。グリフィンドールが誇る麗しの姫のナイトが最高でなくてどうする」

 

 

 二度目だからか軽々と僕を受け止めたドラコは、そして僕の旋毛にキスするフリをした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 寝ぼけ眼で談話室へと顔を出した途端、弟こと自分の浮いた生首を見た姉こと僕の気持ちを述べよ。

 

 ────ああ、もうそんな時期ですか。

 

 

「メリークリスマス、マリア! びっくりした? びっくりしたでしょ? さすがのマリアだってビックリ仰天?」

 

「マリアのやつ、かたまってるぜ。休暇が明けたらハーマイオニーに教えてやらないと。マリアだって兄弟の生首には普通の顔してられなかったってね!」

 

 

 イエーイ! と生首とロンが無い手にハイタッチするのを見て、ウゥンと唸る。

 

 

「君たち……姉をからかうものじゃないよ」

 

「僕が兄だよ!」

 

「僕たち同い年だよ!」

 

 

 おっと。うっかりうっかり。

 

 

「えぇと、そう。それで。ハリー、どうしたんだい、それ。フレッドとジョージから変なお菓子でももらったの? 体が消えるジョークグッズとか?」

 

 

 ──なんて。もしもここにドラコがいたならば、僕の言いざまにまったく白々しいと吐き捨てたことだろう。しかし現実は、クリスマスに浮かれ散らすイタズラ小僧が二人だけだ。

 

 

「ちがうんだ! 見て、このカード! 誰からかはわからないんだけど……父さんの知り合いだよ、きっと!」

 

 

 鏡じみた空気を脱ぎ捨て懐からクリスマスカードを取り出したハリーから、それをうやうやしく受け取る。独特の筆跡で書かれた透明マントの説明に、ああ、と目を細める。

 此度でも、ダンブルドアはハリーを見守ってくれている。……そこにどんな思惑があろうと。

 

 

「すっごいや。これでどこへだって行けちゃうんだよ、マリア!」

 

「たまには僕にも貸してね、ハリー」

 

「なにを言ってるの? 僕らの父さんのものなんだから、当然マリアのものでもあるんだよ。このマントを使うのに、君が僕に断りなんてする必要ないよ」

 

 

 ああ、そうか──

 純に小首を傾げるハリーにゆっくりと頷く。

 こんなにも当たり前に、簡単に、君は宝を分けてくれるのか。

 家族だから。僕と君は、兄弟だから。

 

 つくづく思う。兄弟って、ほんとうにすばらしいものだ。

 ──『僕』にもいたなら、よかったのに。

 

 

「お、もうお揃いだな? おチビちゃんたち、メリークリスマス!」

 

「やっぱりハリーにも届いたか、ウィーズリー家特製セーター。マリアは?」

 

「素敵な赤色のをもらったよ。着てくるね」

 

 

 上級生用の寝室がぱっかり開き、中から飛び出してきた双子のウィーズリーの来襲からさりげなく透明マントを隠すハリーにこっそり笑って、彼らと入れ替わりに自身の寝室へと引き返す。

 マリアとしては初めてホグワーツで迎えたクリスマスの今日この日、ミセスウィーズリー・ブランドのイニシャルセーターに続きベッドに並んだプレゼントの数々を眺めてくふりと幸せな息をこぼす。

 まず、ハーマイオニーから今朝に届いた爆発ボンボン。このあとさっそくいただこう。パーバティからは手作りと思わしきエキゾチックなビーズのバングル。さすが、女の子は手先が器用だ。キッチンにはラベンダーが休暇前にくれた猫マグカップが今日も気まぐれに微睡んでいるのだろうし、ハグリッドは昨夜に小型の木彫りのツリーをくれた。後で窓辺にでも飾っておこうかな。それから、あのダーズリー夫妻からは五十ペンス硬貨がフクロウ便にて届いていた──魔法界では価値がないのでフレッドとジョージにあげた。きっとそのままマグルオタクのアーサー氏の元へと渡るだろう──最後に、ドラコから宝石の中に炎を閉じ込めたネックレスをもらった。

 嫌味なベロア生地の小箱を開いて、赤い炎が灯るネックレスを光にかざしてみる。説明によれば、持ち主の体温に合わせ冬は赤くあたたかく、夏は反対に青くつめたくなる代物なのだとか。まったく、奴らしいなんとも洒落た魔道具である。デザインも極シンプルで、女性らしさを求められることに慣れていない僕でも違和感なく使えそうだった。

 ちなみに僕は、ハリーと共に作った本物の雪を閉じ込めたスノードームをみんなに贈った。子供の手作りプレゼントなんてこんなものだ。

 

 ウィーズリー兄弟に囲まれて、揃いのウィーズリーブランドセーターで向かった大広間では、既に教員達による盛大なクリスマスパーティーが行われていた。ハリーの頃から、何度見たって心躍る料理と飾り付けだ。もちろん、クリスマスクラッカーのお楽しみだって忘れてはいけない。

 学校に残っている生徒自体が少ないこともあり、寮関係なく一つの長机に集まる。そこにはドラコの姿もあった。キザにノンアルコールシャンパンを煽る彼に、フレッドとジョージがこれまたノンアルコールのワインをぶっかけた。髪の先まで酒浸しになったドラコにロンが笑い転げ、ハリーは食べるのに必死で気づかなかったが、僕はハリーの横でクラッカーから飛び出したハツカネズミと遊んでるフリをしながら笑っていた。ら、どうしてだかバレた。地獄耳め。

 

 朝から晩まで散々遊び倒せば、夜にはすべてが眠る静けさに包まれた。ハリーだった頃は、同室のロンのおかげで(イビキには悩まされたけど)夜でも温もりがあるような気持ちでいられた。けれど、この部屋は──ハーマイオニーが帰ってしまった女子寮の主は、僕ひとりだ。

 認めたくはないけれど、どうにも寂しくて誰もいない談話室へと降りた。

 ──ふと、空気に肩を叩かれた。

 

 

「マリアも眠れない?」

 

「……ハリー」

 

 

 なにもなかった空間からひょっこりハリーが現れる。──いいや、ハリーははじめからそこにいて、僕が後から来たのだ。ただ、彼は透明マントをかぶっていた。それだけ。

 

 

「パーティー、楽しかったね。マリアと過ごす二人だけのクリスマスだって僕は好きだけど。覚えてる? マリアが毛布を光る星柄に変えて、二人で頭からかぶって夜空を作ったんだ」

 

「うん」

 

「あれ、どうやったの? あの頃は杖もなかったのに」

 

「さあ、どうやったんだろ」

 

「他にも、マリアってば楽しいことばっかり」

 

「おじさんたちに見付からないようにするスリルがたまらなかったね」

 

「そういうところ、マリアってイイ性格してる。……今日、楽しかった。でも、やっぱりマリアと二人で話したりして過ごすクリスマスが、僕は好きだよ。きっと今日のパーティーだって、マリアがいないと楽しくなんてないんだ」

 

「そんなこと……」

 

 

 ──そんなこと、ない。

 だって『僕』は、ひとりでだって笑えたんだ。ひとりで、友と生き抜いたんだ。

 

 

「……ね、このまま冒険、行っちゃおうか」

 

 

 肩を並べて、小さくなって。二人でかぶっていた透明マントのまま、ハリーに引かれるままに一歩を踏み出す。

 ハリーからこんな提案が出るのは珍しかった。どうしてだか、僕のくせに僕よりも控えめな性格に育った彼を外へ連れ出すのは、いつだって(マリア)の役割だったのに。──この子は今このときにも、成長している。

 

 

「行こうよ、マリア」

 

「……うん!」

 

 

 きっと君は知らないだろう。

 無条件に差し出される家族の手の愛しさを。絶対にひとりになんかならないという狂おしい程の安堵を。自分の名前を一番に呼んでくれる存在を。──それを持たない現実があることを。

 それでいい。持たぬ者のむなしさなんて、この先も君は知らなくていい。

 

 君には──マリア・ポッターがいるのだから。

 

 

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