マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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1ー3

 

 とうとう、ハリーとマリアの十七才の誕生日がやってきた。ハリーは寝起き早々に杖を取り出し魔法三昧を始めたし、そんなハリーにジニーがクスクスと笑った。

 

 

「マリアはしないの?」

 

「ハリーの魔法が暴走しそうになったら試すよ。──あれとか」

 

 

 ハリーが手当たり次第にアクシオしたうちの一つにペーパーナイフが混ざっていたものだから、僕の日常での魔法解禁一番目の魔法はプロテゴになってしまった。ジニーはマリアらしいと笑った。

 

 だがしかし、十七才の誕生日は幸福だけでは終わらない。──招かれざる客の登場だ。

 

 

「ハリー・ポッター君、ロナルド・ウィーズリー君、ハーマイオニー・グレンジャーさん。個別で話がしたい」

 

 

 お楽しみの特大スニッチケーキが祝いの席へと運ばれたところで、思わぬ客人に誰もが硬直した。ハリーやダンブルドアと思わしくない関係にあったスクリムジョール魔法大臣だ。おかげでルーピン先生とトンクスは姿くらましでパーティーから退席しなければならなかったし、ドラコは僕が持ち出した透明マントに隠れるはめになった。

 三人を連れてスクリムジョールが隠れ穴の中へと入っていく。ご丁寧に防音魔法をかけて四人がこもる。主役の一人を失ったガーデンパーティーは気まずい沈黙に包まれていた。

 

 

「その……マリアはいいの?」

 

「なにが?」

 

「きっとハリーに関することなんでしょう? あの顔を見た? お誕生日おめでとうの挨拶に、まるで心のこもってないこと! ハリーに用があって、それにロンとハーマイオニーも呼ばれて────あなたは?」

 

「関係ないよ」

 

 

 即答する僕に、ジニーはショックを受けたようだった。そしてどことなく寂しそうに瞳をふせた。

 

 

「関係ないの?」

 

「関係ないんだ」

 

「そう……関係ないのね」

 

 

 やわらかな手がそっと僕の手を握る。スクリムジョールの話はダンブルドアの遺言についてだ。ハリーにはスニッチを、ロンには灯消しライターを、そしてハーマイオニーには童話集(ビードルのものがたり)を。すべてがダンブルドアからのヒントだった。……かなり、意地悪なヒントだったけど。

 ジニーのぬくもりに甘えて肩を寄せてみる。ジニーはなにも言わずに手を握り続けてくれる。──この手を、僕はなにがなんでも守り抜かねばならない。

 

 もう一人の主役が戻ってくるまで、これから先も永遠に愛している人のあたたかさに触れながら僕は目を閉じた。──なにかが足りないように感じる欲深い自分を、心の奥底へと追いやった。

 

 翌日には皆が待ちこがれたビルとフラーの結婚式が執り行われた。花嫁の介添人を務めるジニーとフラーの妹ガブリエルは金色のドレスに身を包んで輝くようだったし、なにより花嫁衣装とティアラを飾ったフラーはヴィーラをもしのぐ美しさにあふれていた。

 ダンブルドアの葬儀でも目にした小柄な魔法使いが新郎新婦の前に立ち杖を振る。魔法族流の誓いの言葉を厳かに唱える。

 

 

「──されば、ここに二人を夫婦となす」

 

 

 杖から銀の星が降りそそぎ抱き合う若き夫婦を取り巻いた。爆発的な拍手がわいて風船から飛び出した鳥が祝いを奏でた。各両家の両親は号泣しながら我が子を抱きしめ、みなが立ち上がって祝いの言葉を贈った。

 

 

「やっぱり何度見たっていいものだね、結婚式は」

 

「それなりだな」

 

 

 立食とダンスフロアに変わったテントの下で、隅に縮こまりながら言葉を交わす。グラスに映った彼のブロンドがウィスキーの波に揺らされながらなめらかに光っていた。

 

 

「君の結婚式はどうだった?」

 

「彼女がこの世のものと思えないほどに美しかったことしか覚えてない」

 

「ウゲェ……その顔、パンジーの前でぜったいにするなよ」

 

「いらない世話だ。君はどうなんだ? ────『フローレンス』」

 

 

 堅苦しいドレスローブと蝶ネクタイを開いて、ひと息ついてから隣の男を見る。

 

 

「もちろん──最高の花嫁のことしか覚えてないさ」

 

 

 グラスを互いの目を見たままかたむけて────男二人で僕たちは酒をなめた。

 男二人だ。元々男のドラコはともかく、現在の僕は立派な男性として式に参加しているのだ。男装ではなく、男性だ。良くも悪くも有名人のハリーが変装をするのは当然だが、オマケの僕もマリアのままの姿は許されなかったのだ。

 そこで、何度も活躍してきたポリジュース薬の登場だ。少し下りた先の村から、適当な赤毛の青年の髪をちょいと拝借して姿まで借りさせてもらったというわけである。なお、命名はルーピン先生であり、彼いわく「リリーは赤毛の男の子にはフローレンスと名付けようとしていたんだよ」とのことだった。僕が男のまま母の容姿に生まれていたらフローレンス・ポッターだったわけだ。

 

 ぐっと背伸びをして、食事の置かれたテーブルから遠くの席へと腰を落ちつける。

 

 

「やっぱり僕は男なんだよ。ほら、今ならハーマイオニーに、足を閉じる! なんて説教をされなくてすむんだ。気楽極まりないね」

 

「もちろん君は男だろうさ。君が自分を男だと名乗る限り、間違いなくそうだ」

 

「…………」

 

 

 思っていた以上に真面目くさった返答が返ってきて、思わず黙った。空のグラスを手の中でもてあそぶ。

 

 

「……たとえば、僕がこの見た目のまま一生を過ごすとしたら、それでも君は僕を好きなんて言うわけ?」

 

「その問答は今さら必要か? 君がマリアであろうと、ハリーだろうと、どこの誰とも知れないフローレンスだろうと────それが『君』であるなら、僕は何度だって言ってやる」

 

 

 グラスを奪われる。ちがう。奪われたのはグラスを持っていた手だ。首の後ろに回った指がうなじを沿って引き寄せる。

 耳に触れるほど近い場所に────彼の唇がある。

 

 

「好きだ。ハリー」

 

 

「────」

 

 

「好きだ。マリア」

 

「ドラコ」

 

「好きだ。フローレンス」

 

「やめてくれ」

 

 

「好きだ。────君が好きだ」

 

 

「────っ」

 

 

 立ち上がっていた。膝から落ちたグラスが軽い音を立てて割れた。──あんまりにも軽い亀裂の音だった。

 

 

「────アステリアとの結婚式、いいものにしなよ」

 

 

 捕らえられていた手首を振り払って駆ける。誰かにぶつかった気がしたけれど確認する余裕なんてなかった。隠れ穴の裏へと座り込む。会場の喧騒がずっと遠くなる。心臓が場所を間違えて耳の傍で鼓動を打ち鳴らしているようだった。笑い声よりも音楽よりも自身の心臓のほうが遥かにうるさかった。

 走ったからじゃない。わかってる──わかってる────わかってはいけない!

 

 

「ハ……僕、また泣いてるじゃないか。どうしたんだ。どこか壊れたのか? ハーマイオニーとチョウの泣き虫が移ったか? ほんとうにおかしいぞ。おかしいんだ、こんなの。────ぜんぶ、おかしい」

 

 

「マリア?」

 

 

 怯えるように顔をあげた。ルーピン先生だった。

 

 

「どうしたんだ、彼になにかされたのか? あ、いや──すべてを見ていたわけではないんだが」

 

「ルーピン先生……」

 

「さあ、さあ、これを使って。君が泣くだなんて……よほどひどいことを?」

 

 

 紳士のたしなみだとばかりにスマートに絹のハンカチを差し出される。それを受け取るとき、見えた。────指輪だ。

 

 

「……結婚、されたんですね。トンクスとでしょう?」

 

「ああ……ハリーから聞いていた? 君はまだあの時には大怪我で昏睡していたはずだし」

 

 

 照れくさそうにルーピン先生が指輪を撫でる。トンクスとの未来に思いを馳せて幸せをにじませている。──そして目をつむる。

 

 

「……マリア。彼の話をしたくないなら、僕の話を聞いてくれないか」

 

「先生?」

 

「マリアは、ほんとうに男の子の仕草になれてるというか──君はとても男勝りだったね。今だって、まったく演技には見えないんだ。とても自然体だ。八人のハリー作戦でも、どちらがほんとうのハリーか実のところ私は迷ってしまった」

 

「…………」

 

 

 指輪を握って、ルーピン先生は僕の隣へと座り込んだ。大の大人が地面に腰を下ろして縮こまる姿に、不覚にも笑ってしまいそうになった。

 

 

「ダメだな、僕は正直に言って駆け引きだとかは上手くないんだよ。案外、こういったことはシリウスが得意だった。────単刀直入に聞こう」

 

 

 ハリーとは違う緑の目が指輪から僕へと視線の先を移す。

 

 

「マリア────君は僕から守護霊の呪文を教わったのか?」

 

 

「────」

 

 

 かすかに残っていた心音すらも、体内から消えてしまった気がした。

 

 

「いいや、ちがう。正確に問おう。曲がりなりにも私は君たちの教師だったのだからね。────君が守護霊の呪文を習ったのは三年生のときで、それは私でないリーマス・ルーピンからだった」

 

 

 

 そしてルーピン先生は確信を告げる。

 

 

 

 

「君は──────ハリーなのかい?」

 

 

 

 

 声が出なかった。否定も肯定もできずにルーピン先生を見つめた。これは僕の身体じゃないからだ。そんなバカげたことを頭の中で呟いた。

 しかしルーピン先生は────肩の力を抜くように微笑んでいた。

 

 

「いいんだ。答えなくて。君は今こうして、ここでマリアとして生きているんだから。私は君に最低な願いを抱こうとした」

 

「先生」

 

「このことはずっと僕だけの秘密にしていたんだ。ダンブルドアにだって伝えてない。おそらくそれを知るのは僕だけだ。──シリウスも、ダンブルドアも、もういないのだから」

 

 

 ルーピン先生は立ち上がった。すべてを呑み込んだ顔だった。四年前、ホグワーツを辞職するときに見せたやさしい顔だった。

 

 

「悪かったね。雑談をするにはちょっと不釣り合いな場所だった。さあ──」

 

 

 手を差し伸べられる。指輪がある。真新しい指輪が愛を主張している。

 

 

「────あなたの子供は」

 

 

 手を取って、顔を見る。こんなにも似ている。あの子は父親と母親の良いところのすべてを受け継いで生まれてきた。

 

 

「ほんとうに優しい子で、とってもいいこで、ハッフルパフの監督生を務めます。首席で卒業して、誰からも好かれるかわいい子です」

 

「────」

 

「とても、立派に育ちます」

 

 

 指輪のはまった手が限界まで握りしめられた。

 

 

「そうか──そうか──僕と彼女の子は────生き残れるのか」

 

「先生」

 

「そうか──それだけでいい──それだけでいいんだ」

 

 

 ルーピン先生の瞳に涙が見えた気がして、それがハリーの見せる色とはまったくちがうように見えて、思わず手を伸ばしていた。

 

 

 

 

『魔法省は陥落した。スクリムジョールは死んだ。連中が、そっちに向かっている』

 

 

 

 

「────ッ」

 

 

 背を押された。駆け出した。振り向く。ルーピン先生が涙を払って叫ぶ。

 

 

「行くんだ、マリアッ!」

 

 

 走る。ハリーが手を伸ばしている。華やかなドレスが逃げまどう。ハーマイオニーとロンがハリーを掴む。ドラコがいる。机がなぎ倒される。ドラコがハリーの手を取る。ハリーが僕を見る。ドラコがうなずいた。────よかった。

 

 

 

「いってらっしゃい、ハリー。ホグワーツで待ってる」

 

 

 

 四人の姿が歪んだ。

 

 

 

 

 

「────マリアッ!!」

 

 

 

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