マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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2ー1

 

 男はその人を壁へと叩き付けた。大人と呼ぶには幼く、子供とするには覚悟が桁違いの男は周囲の目もかまいなしに声を張り上げた。

 

 

「どうして姿眩ましをしたッ──!? マリアが──マリアの手をまだ掴めていなかったのに! あの子を置いてきてしまった──君のせいで!」

 

「やめて、ハリー! ドラコの判断はただしかったわ。あれ以上は待てなかった」

 

「だから捨て置けって!? 彼女は僕の家族だ! 僕の妹だ! もしも捕まったら──やつらにどんな目に遭わされるか!?」

 

「捕まらない」

 

 

 胸ぐらを締め上げられてなお冷静に努めていた男は、小さく呼吸して、挑む目で目の前の男を見る。怒りの緑だ。なつかしい輝きだ。場違いにも高揚しそうになる己の心を叱咤する。

 

 

「あいつは捕まらない。絶対に」

 

「そんなこと──」

 

「あそこにはあれの最愛が溢れるほどある。君の兄弟はこの程度で崩落しやしない」

 

「置いていった分際でよくもわかったような口をきけるな!」

 

「ハリー、落ち着いて! 喧嘩してる場合じゃないわ。せめて場所を変えないと」

 

 

 そこでようやく激昂の声を上げていた男は四方から刺さる好奇の視線に気付いた。ネオンのうるさい街中だ。──マグルの世界だ。

 ハリーを掴んだ四人のうち、咄嗟に姿眩ましをおこなったのは純血の魔法使いたるドラコ・マルフォイで、彼がマグルの街を知っている意外性に不覚にもハリーは昂っていた感情が鎮まるのをかんじた。

 

 

「ダメね、この格好じゃ目立ちすぎるわ。着替えるためにも──わたしに掴まって」

 

 

 掴まれと言いながら自ら二人の腕を取ったハーマイオニーは改めて姿眩ましをした。(ロンは元々ハーマイオニーの腕を握って放さなかった。)

 目にうるさい都会のまたたきからそれた場所に出た一行は相談もなく路地へと進んだ。若干、潔癖症のふしのあるドラコがゴミの散らばる隅や排気ガスだのスプレーだのに汚れる壁を見てかすかに眉をひそめたが、文句は喉元で押し留めたらしかった。

 

 

「着替えるったって、荷物は」

 

「全部ここに入ってるわ。ハリー、あなたのもね」

 

 

 ハーマイオニーが検知不可能拡大呪文をかけたビーズバッグを軽く振ってみせる。ガランゴロンと中から雪崩のような音が聞こえた。

 

 

「ああ、しまった! 本が崩れたんだわ……せっかく項目ごとに積んでおいたのに」

 

「君って……」

 

 

 称賛すべきなのか正気を確かめるべきなのか、曖昧な表情を浮かべるロンに適当な衣服が押し付けられる。ハリーにも同様だ。そしてブロンドの目立つ美男子、ドラコ・マルフォイをチラリと見たハーマイオニーは、気まずそうにうかがう視線をロンへと移した。

 

 

「ドラコはハリーよりも背が高いわけだし──今はハリーだって普段の姿ではないけど、あと数分もすれば戻っちゃうわ──あの、ロン……あなたのお洋服がぴったりだと思うんだけど」

 

 

 あからさまに臭いものでも鼻の下にくっつけたみたいな顔をしたロンは、立っているだけで涼やかそうないけすかない男を横目で見て、ハーマイオニーを見て、ほんの少しだけうなずいた。身長の面ではまちがいなく勝ってる点だけがロンの男としての矜持を慰めた。

 

 

「マグルの街へ来たのは素晴らしい機転だったわ、ドラコ。けれどすぐに落ち着いて身を隠せる場所を探さないと……永遠にホテル暮らしというわけにもいかないんだし。ヴォル──」

 

「言うな!」

 

 

 マグルの装いに着替えた三人は(紅一点のハーマイオニーは着替えるあいだだけハリーの透明マントを借りた。)ドラコの突然の叱声にビクリと肩を震わせた。ハリーなんかは反射的に杖すら取り出していた。

 

 

「ドラコ?」

 

「『あの人』の名を呼んではいけない」

 

 

 マリアの件で不満たっぷりだったハリーは、ここぞとドラコを鼻で笑った。

 

 

「ドラコって存外、臆病なんだね」

 

「そうじゃない!」

 

 

 ハリーに子供っぽく噛み付いたドラコは、それからハッと咳払いをする。どうにもこの顔に生意気にされると────彼もまた反射なのである。

 

 

「……いいや、訂正しよう。君はただしい。僕は臆病だし、死ぬのが怖いし、追われるのも怖い。うしなうのだって怖い。大いに認めよう。だが、それだけじゃない」

 

 

 ここにもしもマリアがいたならば、あの意地っ張り坊ちゃんがずいぶん丸くなったものだと面白半分に冷やかしたことだろう。だがしかし件の三人は本来の陰湿なドラコ・マルフォイを知らない。一目置いている青年の圧し殺した説得に固唾を飲んで聞き入るしかない。

 

 

「『名前を言ってはいけないあの人』の名を呼べば感知される。そういった呪いがすでにほどこされているんだ。『あの人』は君たちが臆さず名を呼べることを知っている」

 

 

 そんなバカなと声を上げかけたロンを制したのはハーマイオニーだった。

 

 

「……ありうるわ。ヴォ──(ドラコが怯えを含みながらハーマイオニーを睨んだ。)ええ、ええ、わかりました。『あの人』はダンブルドアも認めた天才だもの──その使い道を決定的に間違えてしまったわけだけど──魔法省を落とした今、どうにだってルールくらい変えられるでしょうね。道理といえば道理だわ」

 

 

 立ち止まったハーマイオニーに合わせてロンとドラコ、ハリーも立ち止まる。

 

 

「けれど、どうしてそれを──?」

 

 

 ドラコはマグルの服を思いの外、着こなしながら不敵に笑った。

 

 

「お忘れかい? 僕はマリアの『協力者』だぞ」

 

 

 ドラコを除いた六つの瞳が示し合わせたように交差する。

 秘密を共有し、旅の共にと決めていた三人は予定になかったドラコ・マルフォイという追加要素を完璧にもて余していた。なぜなら、旅の目的である分霊箱のことを彼は知らないはずで──巻き込んでしまったことは、まったく不測の事態なのだから。

 けれど、この様子ならば。

 

 

「──マリアだね?」

 

 

 ハリーの主語もない確認に、ドラコはハーマイオニーからバッグを借り受け、中からとある物を取り出してみせた。

 

 

「君、それ──!」

 

「──これの仲間を探すんだろう?」

 

 

 ハーマイオニーのビーズバッグのさらに奥、ハリーのリュックに仕込まれていたと思われるスリザリンのロケットが、華奢な鎖を振り子にしてギラギラと揺れていた。

 

 

「どうして──」

 

「ハリー、君にしかこれは開けられないのだそうだ」

 

「……マリアが、そう?」

 

「いかにも。そしてあいつは僕が君たちに同行することを望んだ」

 

「…………」

 

 

 分霊箱が再びバッグの中へとしまわれる。バッグを受け取ったハーマイオニーはどことなく爆発物を持つ手つきで慎重に口を閉めた。

 

 

「わたしたちのことなんてまるでお見通し。マリアお得意の魅力(・・)ってわけね。賢者の石を守ろうと躍起になってたわたしたちを、わかってるくせに見てるだけだったあの頃からなにも変わらないわ。あの人ってほんとう──『魔法使い』なんだから」

 

「マリアは魔女だろ?」

 

 

 はやる心と共に自然と歩みも再開させていたロンが、今さらなにを言ってるんだとばかりに首をかしげた。

 

 

「マグル界では不思議なこと・ありえないこと・奇跡みたいなことを、まるで魔法のよう──と表現するのよ。彼女ってまさしく──『魔法のよう』でしょう?」

 

 

 男三人の中で唯一マグル社会の常識が通じるハリーが吹き出すようにして笑った。ほんの少し、気が休まったようだった。それを横目にしながら、ドラコは思い出していた。ダンブルドアの葬儀が終わってからの彼女──否、『彼』の言葉を。

 

 

「これを渡しておきたいんだ、君に」

 

 

 分霊箱の保管部屋へと連れ出され、封印箱の解除の手を取らされたドラコは、そのまま手のひらに乗る美しくも禍々しいロケットを眺めて呆然とした。マリアは、君まで魅入られないでくれよ、なんてどことなく悪戯っぽい目でうそぶいていた。

 

 

「最終決戦のときまで保管しておく話じゃ──?」

 

「そのつもりだったけど、よくよく考えればそれを開くのに蛇語が必要になるんだ。残念ながら、今の僕にはさっぱりだからね。──表面を傷付けた程度では壊せない。中を直接、穿たないと。……ダンブルドアとの約束でもある」

 

 

 持っているだけで心がざわつく気のする緑のSをなぞってみる。……そりゃあ、彼の元に置き続けるくらいならば己が持っていたいと何度も喧嘩──いや、話し合ってきたが。

 ドラコは、例の事件以来マリアがかたくなに預けようとしなかった分霊箱を今になってあっさりと渡してくれた意味を考えた。──つまりは。

 

 

「君の旅に、僕も同行しろと?」

 

「──いいや」

 

 

 マリアはゆるやかに首を振った。赤い髪が振れれば、空気を含んで所々傷をつけた細い首があらわになる。それにドラコはドキリとする自分を自覚せずにはいられなかった。──そして、そんなドラコをさらなる衝撃が待ちかまえていた。

 

 

「僕はホグワーツに残るよ」

 

「────は?」

 

 

 何かに包んでおこうか、直接持つよりはマシな気がするんだ。なんてマイペースにロケットをハンカチで包もうとしているマリアの手を掴む。マリアはきょとりと猫っぽい形の大きなハシバミの瞳をさらに大きく丸めると、無垢にドラコを見上げた。

 

 

「君、正気か? ハリー・ポッターは全国に指名手配されるんだぞ。僕は当時の君の貼り紙を飽きるほど見た。その血の繋がった兄弟が──ホグワーツに残るだって?」

 

「そうだ。彼等の旅路に(マリア)はまったくもって必要ないし──だからこそ僕にできることがある」

 

 

 決意の眼差しだ。散々、緑色のそれを見てきた。向けられてきた。ハシバミの色になっても──彼の魂は変わらない。

 手首を掴んだドラコの手を片手で取り返したマリアは、少女の頼りなげな手のひらの中にロケットと一緒にして包んだ。微笑む。自分よりもよっぽど不安そうな目の前の男を見上げる。

 

 

「安心してよ。正面からバカ正直に生徒として戻るんじゃない。ちゃんとやり方は考えてある。──ホグワーツでどうしても完成させておきたいものがあるんだ」

 

 

 ハリー・ポッターの旅はマリア・ポッターには不要だ。だから──僕は君たちの帰る場所になろう。

 

 

「見届けてほしい。『僕』の旅を。他の誰でもない、君に」

 

「────」

 

 

 かつて焦がれ憎み求めた輝きが色を変えてドラコ・マルフォイを射抜く。揺さぶる。惹き付ける。

 

 

「手は出さなくていい。ヒントも与えなくていい。『僕』は必ずやりとげるから。あの旅はハリー・ポッターの人生に必要不可欠だった。ロンとハーマイオニーを得たくらい──大切だ」

「このロケットだけはシリウスに彼の勇気を知っていてほしくてズルをしたけどね──これ以上は手出ししないよ。ここからは(マリア)の戦いをする」

 

 

 手を引いて、少女のマリアよりも高い場所にあるアイスグレーにハシバミが近付く。映るのは少女だ。──自分だ。マリア・ポッターだ。

 

 

「君が憎み、友になり、挙げ句とち狂って好きになんてなってしまった『ハリー・ポッター』を見てくれ。ドラコ・マルフォイ」

 

 

 ドラコは手の中のそれが脈打っているのか、少女の手が脈打っているのか、それとも己の鼓動なのかわからなくなっていた。わからなくてもいい。────もう、わかってる。

 

 

「やってやろうじゃないか」

 

 

 いつも通りの嫌味っぽくて憎たらしい顔で承諾したドラコにマリアは瞠目した。それから目をそらし睫毛の中へと動揺を隠した。

 マリアは分霊箱探しの旅の過酷さを知っている。かつて酒の席でチラホラとつまみにドラコへ語ったことはあるが、それがすべてではない。ロンとの決別がどれほどハリーを打ちのめしたかなんて──バチルダの遺骸をかぶったナギニの牙がどれほど近くへ迫ったかなんて──それらをドラコ・マルフォイが知る必要はないのだ。

 きっと死ぬような思いをするだろう。一歩間違えれば本当に────それでも。

 

 マリアはドラコをかつての相棒たちと同じくらい、『信じた』。

 

 

「死ぬのは許さない。いいかい、あの子たちが最後にたどり着く旅の先はホグワーツだ。レイブンクローの髪飾りを求めて帰ってくるんだ。そしてその封印を解くのは君だ。そこに君がいなくちゃだめなんだ。無傷で、なんて高望みはしないよ。────生きて、僕のもとへ帰ってきて」

 

 

 いっそ甘やかにすら聞こえる哀願にドラコは少女の頬へと指をすべらせていた。

 この距離に『君』がいる。得られるはずのなかった人がいる。ここまで育ちきってしまったのに──今さら、死なんかに彼との絆を譲れるものか。

 

 

「戦というのは勇敢なものが死に、臆病者が生き残る。そして僕は臆病者だ。父も母も臆病だった。失うことに対して臆病でいた。だから生き残れた。生きるために足掻けた」

「僕は何がなんでも、何を使っても生き残る。死ぬ気で『君』を守るなんてバカげたことはしない。どんな卑劣な技を使ってでも生き延びて──君のところに帰ってくる。だから、君も何をしてでも生き残れ」

 

「……さすが、僕の卑怯者(マルフォイ)だ」

 

 

 マリアはドラコの腕の中でくしゃりと笑った。

 

 

「──ドラコ?」

 

「……いや」

 

 

 どこに避難しようか──本来ならば介入できるはずもない三人の相談を片耳で聞いていたドラコは、腕を取ったハリーの力強さにハッとした。いつの間にか、この手よりも少女のやわらかさが馴染んでいた。

 

 

「数日ならマグルのホテルでもかまわないけど……それじゃあすぐに足がつくわ。やっぱりここは、」

 

「グリモールド・プレイス」

 

 

 三人分の目がドラコ・マルフォイへと向く。

 

 

「君たちの家、なんてどうだ?」

 

 

 アイスグレーをまっすぐに寄越されたハリーは、逃げるようにハーマイオニーへと顔を向けた。

 

 

「ダメよ、ドラコ。あそこにはスネイプだって入れるの」

 

「入れないようにすればいい。ブラックの家は忠誠の術で守られているんだろう? つまりは警戒すべきはスネイプ教授、」

 

「教授だって?」

 

「……失礼。君たちの天敵、セブルス・スネイプのみとなる。始終警戒しなければならない放浪旅よりもよほど落ち着けると思うが?」

 

「でも、どうやって」

 

「それは────着いてから考えればいい」

 

 

 ドラコの無責任な提案の意味を三人は屋敷を前にして理解した。

 

 

「お待ちしておりました、ハリー・ポッター!」

 

「ドビー?」

 

 

 愉快で小さな魔法使いの隣人──ドビーがご機嫌に屋敷を掃除していた。

 

 

「君、どうして」

 

「マリア・ポッターよりドビーはお願いをされました。クリーチャーはホグワーツに残るので大切なお屋敷をドビーに任せたいと。ハリー・ポッターのともだちのドビーに!」

 

 

 小柄な身体で胸を張ったドビーはドラコを見る。

 

 

「なぜなら、ドビーは自由な屋敷しもべ妖精だからです!」

 

 

 元々の召し使いにはっきりと挑まれたドラコは、なんだか裏でほくそ笑むマリアを見た気がして肩をすくめた。……暗躍の名前が似合うようになってきたじゃないか。

 

 

「そうね。クリーチャーでは所有権──この表現は好きではないのだけど──がシリウスからハリーへ移ったとはいえ、元ブラック家のベラトリックスに抗えるかわからないわ。妥当ね。……あまり、あのロケットを見せたいとも思わないし。ねえ、ドビー、屋敷の住所を教えたのはマリアなのよね。それから誰かこの屋敷に来た人はいる? たとえば──スネイプとか」

 

「いいえ。ドビーはホグワーツの夏休みからお屋敷の掃除をしていましたが、ずっとひとりでした。マリア・ポッターがハリー・ポッターとそのお友達以外は何人(なんびと)も入れてはならないと言ったからです」

 

 

 記憶の最後にある姿のままの居間まで案内されたハリーはぐっと切なくなった。もうここに──親と慕ったシリウスはいないのだ。マリアだって帰ってこない。

 ドラコははじめて踏み入れるブラック本邸の様子を眺めていた。

 

 

「ドビーはがんばりました。このお屋敷はほこりだらけで、ドビーがびっくりして声を上げるとブラック夫人もさわぎました。なのでドビーはあわてて扉をふさぎました」

 

「ああ……」

 

 

 シリウスが物理的に封じたとされる、一度だけ見たブラック夫人の形相と絶叫を思い出してハリーはげんなりとした。たしかにあれは強烈だ。ドビーがウキウキと茶を用意する中、四人で席につく。話題は当然、残す分霊箱についてだ。ドラコへの説明は当たり前にはぶかれた。

 

 

「僕らが探すべきはハッフルパフのカップだ。レイブンクローの髪飾りは──」

 

 

 緑の目がドラコを見る。

 

 

「……その時がきたら、渡してくれると思うから」

 

「だれが?」

 

「さあ。ともかく、ハッフルパフのカップのありかと、分霊箱を壊すための武器をどうにかしなくちゃいけない。日記のときにはグリフィンドールの剣を使ったけど、剣はここにはない」

 

「ダンブルドアの遺言で正式にハリーの財産になったってのに……ケチくさい魔法省のせいで」

 

「今はその文句を言ってもしかたないわ。スクリムジョールは『あの人』に抗って死んでしまったのだから。こうするのはどう? ハッフルパフのカップを手に入れたら、どうにかしてホグワーツへ戻り分霊箱の三つをグリフィンドールの剣で壊すの」

 

「で、そのグリフィンドールの剣をどうやって取り出すんだ? どうせ校長室にはスネイプが──」

 

 

 ロンの言葉は不自然に切り上げられた。ハリーが突如、うめきながら机へと突っ伏したからだ。額の傷をおさえて悶絶していた。ちょうど、盆にティーセットを用意して居間に戻ったドビーがおどろいてひっくり返った。

 ハリーの傷とヴォルデモートの感情が繋がるさまをドラコははじめて目にした。────壮絶だ。

 

 

「あいつ────怒ってる」

 

「ハリー! あなた、その繋がりは危険だって──しっかりと心を閉じなければ!」

 

「あっちの自制がきかなくなってるんだ。どこだ──? 杖を探してる──? あいつと対峙したときに僕の杖がおかしな動きをしたのに関係してるのか?」

 

「ハリー、ダメ!」

 

 

 ハーマイオニーが金切り声を上げる。それがさらにハリーの頭を攻撃して彼を苛んでいるようだった。

 

 

「落ち着けよ、ハーマイオニー。なあ、ハリー……それ、僕の家じゃないよな? 隠れ穴が見えたりは?」

 

「ないよ。とにかくあいつの怒りがすさまじくて──」

 

「ロン、この状態のハリーを利用しようとしないで。これは、ダメなの! 向こうが嘘の光景を見せてハリーを騙すことだってできるのよ。なんのための閉心術だっていうの?」

 

「僕には閉心術なんかできないんだ! 少しは声のトーンを抑えてくれよ。君の声は響く」

 

 

 ドラコはすっかり阿鼻叫喚の三人組を見て引いていた。否、思わず口に出していた。

 

 

「相当、苦手だったんだな……」

 

「ああ!?」

 

「いや、なんでも」

 

 

 ハリーの剣幕に元来の気の弱さから一瞬で口を閉じる。……なにが『とっくに完璧』だ、あいつめ。実はめちゃくちゃ苦手なんじゃないか。……強がってたな。

 

 

「ハリー・ポッターは病気だ! 大変だ!」

 

 

 盆ごと落としてしまったティーセットを指のひと振りで片付けて、ドビーが廊下へとすっ飛んでいく。新しい茶を用意しに行ったのかもしれない。その間に再びハーマイオニーから悲鳴が上がり、ハリーとドラコは無意識に杖を抜いていた。

 イタチと牡鹿の守護霊が中央に立っていた。

 

「家族は無事。返事を寄越すな。我々は見張られている」──と、イタチが。

「僕の吸血鬼はちゃんとそこにいる? 三人とついでの一人が揃ってることを信じてる。返事はいらない。ああ、僕は無事です」──マリアの牡鹿だった。

 

 へなへなとハーマイオニーが腰を抜かす。咄嗟に駆け寄って支えたロンにドラコはほんの少し見直した。

 

 

「みんな──みんな、無事なのね──マリアも。ロン、あなたの家族は無事なんだわ」

 

「ああ……」

 

 

 誰もが安堵の息をついた。牡鹿が四人を包むようにぐるりと回って消えた。

 

 ダンブルドアを喪ったホグワーツが新学期を迎えるまであとひと月。──四人と一人のしもべ妖精の生活が始まった。

 

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