マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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 ほとんど軟禁状態のまま無意味にひと月が過ぎようとしていた。三人は焦っていた。ハッフルパフのカップは一体どこに隠されているのだろう──

 その答えをドラコは知っていたが──グリンゴッツ破りの話をウィーズリーは何度だって酒の席で語ったものだ。そのたびに妻やハリーに誇張しすぎるなと叱られていた──素知らぬ顔で秘した。マリアが──『ハリー』はこの旅に手を入れられることを望まなかったのだから。

 つくづく、ダンブルドアの思想をよく受け継いでいる。

 

 そんなもどかしい日々の中、ルーピンが屋敷をおとずれた。

 

 

「ハリー、君は指名手配されている」

 

 

 ルーピンの持ち寄った日刊予言者新聞は『アルバス・ダンブルドアの死にまつわる疑惑』と不穏な見出しが占めていた。いわく、ダンブルドア殺害現場からハリー・ポッターの逃走を見たものがいること。そしてハリー・ポッターを止めようとしたと思われる少女(知る人ぞ知るマリア・ポッターその人だ。)自身の血の繋がった兄弟すらも問答無用に切り刻んだ彼の残虐性を見れば────

 続く内容にハリーは新聞を散り散りまで破りたい衝動にたえねばならなかった。マリアに闇の魔術を持って傷をつけた事実はいつまでもハリーの疵になった。

 

 注目すべき箇所はそれにとどまらない。『マグル生まれ登録』に『学齢児童の強制入学・登校』──着実にヴォルデモートの支配が進んでいる証だった。

 

 

「私は君たちの力になりたい」

 

 

 これ以上の同行者を増やすべきか悩む親友たちを置いて、ハリーはルーピンの態度に引っ掛かりを覚えた。

 

 

「トンクスはどうするの? トンクスは、あなたとは──?」

 

「そうだわ。彼女は今どこに? どうして一緒にいないの?」

 

「…………彼女は妊娠している」

 

 

 ハーマイオニーとロンが歓喜の声を上げた。暗いニュースばかりの日々にそれは間違いなく幸福な報せだった。だがしかし、ハリーはむしろ確信を持った。

 

 

「──僕たちを理由にして、逃げたいのか。妻と子供から」

 

 

 サッとルーピンのくたびれた顔に赤みが走る。それから白くなる。ハリーの挑発がルーピンの隠された本音へ突き刺さる。

 

 

「トンクスは大丈夫だ。実家にいる。子供だって大丈夫なんだ」

 

「どうして言い切れるんですか。僕なら──僕は、両親に側にいてほしいと思う!」

 

「──マリアが大丈夫だと言ったんだ!」

 

 

 怒りにかられたハリーが立ち上がる。臆病な男の無責任に食って掛かろうとする。──前に、彼女の拳が二人のあいだへと叩きつけられた。

 

 

「マリアだって間違えるわ!」

 

「ハーマイオニー……」

 

「あの子を神聖視しないで。あの子にあなたたちの理想を押し付けないで。彼女はたしかに『魔法使い』だけど──人間よ!」

 

 

 ハーマイオニーは思い出していた。殺人鬼と勘違いしたままシリウスを追い詰めた夜、ジェームズが死ぬとは思わなかったとのたまった哀れな男を。

 誓ったはずだ。ハリーは英雄じゃない。そしてマリアも──全知全能なんかではないのだ。

 

 

「わたしはあの子と同室だったから知ってるわ。寝ているとき、彼女は泣くのよ。セドリックを呼ぶの。シリウスを、ダンブルドアの名前を呟くの。そこにあなたまで入ろうというの?」

 

「しかしマリアは──」

 

 

 ルーピンはハリーを見た。ルーピンだけが知っている真実がそこにあった。

 

 

「──自分が恥に思うような父親はいないほうがいい」

 

 

 とうとう、ハリーがわからずやの父の肩を乱暴に掴もうとして────声は氷のように冷えていた。

 

 

「親のせいでつまはじきにされる子供は哀れだろうな」

 

 

 四人の視線がひとりへと集まる。──ドラコ・マルフォイ。

 

 

「つらいだろう。どれほど本人が優しい子でも、かわいい子でも──清らかな心であっても、親の汚名のせいで後ろ指を指され続ける。嗤われ、蔑まれる。子供の世界は大人が思っている以上に理不尽で、そして大人には手の届かない場所にある。それでも────子は、親を見ているぞ」

 

 

 どうしてか、ルーピンはドラコの言葉こそがこの場の誰よりも自分に寄り添っているように思えた。

 

 

「子は親の背を見て────ときに愛してしまうのだ」

 

 

 ドラコ・マルフォイには理解できるのだ。出自を疑われた我が子の手を掴もうともがいてきたのだから。

 彼の恐怖の名前を知っている。愛ゆえ臆病になる心を知っている。二人は臆病者だった。

 

 

「そしてそれをマリアは知っているし────『私』も知っている」

 

 

 ルーピンはまさしく混乱にあった。わかったような口ぶりの青年は、だがしかし汚名になるほどの欠陥を両親が抱えているようには──────気付いた。

 

 

「まさか…………君も?」

 

 

 マリア・ポッターの正体。まるで反対の立場にあるのにマリアの側に居続けた少年。理解し合っていた二人。それは──そこにあった秘密は。

 

 

「ならば、君のボガートは──あれは──彼は──」

 

 

 親友の後ろ姿のほんとうの名前を、知った気がした。

 

 

「リーマス・ルーピン、この旅にあなたを連れてはゆけない。なぜならそれを──『彼』が許さないからだ」

 

 

 ルーピンは立ち上がっていた。展開に追い付けず目を白黒とさせるロンの側を通って屋敷を後にする。言葉はなかった。ドビーだけがお客様はどうされたので? ときょとりとしていた。

 残された三人は異分子の仲間を見る。ドラコはとっくにソファへと着き直してティーカップをかたむけていた。

 

 

「──まるでマリアみたいだ」

 

 

 ハリーの呟きには寂寥がにじんでいた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 豊かな茶色の髪をまとめて、顔付きだけは上の姉に似ながらも穏やかさが件の悪女とは別人なのだと思わせる婦人はそっとささやいた。

 

 

「ほんとうに会っていかないの? あの子は──ドーラはあなたをいたく心配しているわ。無事ということは大抵の人に知れてるけれど……顔だけでも見せていかない?」

 

「ありがとうございます、アンドロメダさん。だけど、僕の居場所は誰にも知られたくないんだ。そのためのここ(・・)だ」

 

 

 屋敷だ。家主の方針から、質素でありながらも元々の豪奢っぷりを隠せずにいる立派な屋敷だった。

 アンドロメダ・ブラックが実家での居場所を失った際に親戚のアルファードより支援された新居だ。テッド・トンクスと結ばれた頃より触れずにあったブラックの残り香だ。そして今は──マリア・ポッターの隠れ家だ。

 カレンダーを見る。九月を過ぎている。強制的に子供たちを集めた学校という名の檻が動き出す。ならば────僕も動く時だ。

 

 

「ホグワーツへ行ってきます。ほんとうに、ここまで協力してくださりありがとうございました。そして、これからも。トンクスに伝えておいてください。ルーピン先生と仲良く──元気な男の子を生んでほしいと」

 

「マリア……」

 

 

 アンドロメダの切なげな視線を背にして、取っ手へと手をかける。必要なのは忍びの地図と、コイン。そして『僕』自身────僕のやり方で、僕は運命に足掻く。

 

 

「いってきます。──さようなら」

 

 

 アンドロメダはどれほど勇ましくとも華奢に見える少女の背を見送ってから、はて、と頬に手をやった。

 

 

「あの子、どうしてドーラの子が男の子だなんて思ったのかしら。まだ生まれてもいないのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 コインの熱を受け取った青少年たちは、授業中にも関わらず飛び上がった。さいわいにして死喰い人のカロー兄妹の授業は始まっていなかったために、従来の教師陣は素知らぬふりをした。カロー兄妹を除いた教師たちは、今や完璧に生徒の味方だった。

 

 

「ネビル」

 

「わかってる」

 

 

 シェーマスとネビルが意味深なアイコンタクトを交わす。コインには『必要の部屋に集合。カロー兄妹は入れず、ダンブルドアを心から尊敬する者のみが入れる部屋』とあった。DAの誰かが動いたのだ。

 シェーマスは意外に思っていた。本格的に動き出すのは、カリスマ性を見せ始めたネビルだとばかりに思っていたのに。一体誰だろう、しびれを切らしたジニーか? それともまさかのルーナ?

 ──その答えに、コインの連絡を受け(つど)ったDAメンバーたちは一人残らずと叫んだ。

 

 

「「「──マリア!」」」

 

「ワォ、熱烈だ。えーと──元気?」

 

 

 当たり前の顔をして鍋の前にあぐらをかいていた赤毛のその人は、くふくふと愉快そうに笑った。

 

 ああ、よかった──みんな元気そうだ。どうにか間に合ったらしい。

 

 

「君、なんで──ハリーと一緒じゃないのかい?」

 

「置いていかれてしまったんだ。かわいそうな僕をなぐさめてくれる?」

 

「ふざけてる場合じゃないよ! ホグワーツは今、かなり危険な状態なんだ。特に──君たちにとっては」

 

 

 詰め寄るネビルにうんうんとうなずく。──だから、ここにいるんだ。

 

 

「安心して。僕はこの部屋から出ない。ここから君たちを支援する。──おとなしくするつもりなんてなかっただろ?」

 

 

 期待の目でネビルを見上げれば、ネビルはため息をついてからふにゃりとやわらかく笑った。一年生の頃から見続けた心優しい少年の笑みだ。

 

 

「かなわないな、マリアには。ハリーだってそうだけど、君たちってほんとう、破天荒だ。でも、食事なんかはどうするの? それに君……なにを作ってるの?」

 

 

 鍋の中身は魔法薬だ。かたわらには使いふるされた上級魔法薬学の教科書があった。──プリンスの教科書だ。

 

 

「傷薬だよ。マートラップ触手液もいいけど、これは痛みを取り除いて、かつ傷の痕を数日にかけて残してくれる。……僕がアンブリッジから罰則を受けていた頃に役立ったものだ」

 

 

 スネイプ先生と一緒に特訓して作った薬だ。ほんとうに──ひどいひとだ。あなたの跡ばかりが僕の周りを取り巻いている。

 

 

「これを君たちに持っていてほしいんだ。カローのやつらが素直に君たちを医務室へ向かわせてくれるとは思えないし、傷つく子たちを一人でも多く救ってほしい。材料なんかは──申し訳ないけどスネイプの貯蔵からくすねさせてもらう予定だからさ」

 

「……君が?」

 

「いいや──彼が」

 

 

 僕が手のひらを指した先には老いつつも背筋をシャンと伸ばした老しもべ妖精が食事を両手に立っていた。

 

 

「みなさま、ご安心くださいませ。マリアお嬢様のお世話はクリーチャーがうけたまわります」

 

「お嬢様はやめてほしいって言ってるんだけど……」

 

「お嬢様はお嬢様でございます」

 

 

 姫の次に似合わないマリア・ポッターへの呼称にシェーマスが吹き出す。笑いが伝染していく。闇の脅威によってむしばまれていた子供たちの心がほぐされていく。

 

 

「一緒に戦わせてくれる? ネビル。みんな。……ジニー」

 

 

 当然だと次々に頼もしい顔がうなずく中、最愛の少女はくちびるを横に引き結んでうつむいていた。

 

 

「……心配したわ」

 

「ごめん。心配かけた」

 

「ハリーと一緒にいると思ってた」

 

「そうしたかったけど、僕はホグワーツを選んだ」

 

「ハリーは無事なのね」

 

「ぜったいに。ロンとハーマイオニーがそばにいるんだ。……あと、ドラコも。最強の布陣だろ?」

 

「……心配したわ」

 

 

 切々とくり返される。周囲が気を遣って彼女への道を空ける。ネビルがそら見ろ、とばかりにちょっとだけニンマリする。──そして少女は飛び込んだ。

 

 

「バカ──心配したんだから! あなたを心配してたんだから!」

 

「ジニー……」

 

 

 腕の中にあるぬくもりにぐっと幸福感が押し寄せた。その人が愛しくてたまらなかった。豊かな赤毛に指を差し入れて、彼女の香りを胸いっぱいに吸い込む。

 

 

「ありがとう、ジニー。────愛してる」

 

 

 彼のにおいとはちがうのだと、くすぐったい心の奥底で噛み締めた。

 

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