マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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4ー1

 

 ゼノフィリウス・ラブグッドに会いましょう。

 次の進路はハーマイオニーの希望により決定した。グリンデルバルドとダンブルドアが二人の間だけに通じる暗号のように扱った(マーク)、その正体を暴くためだった。

 

 

「イグノタス・ペベレルの墓石で見たマークとラブグッドさんの持つペンダント、そしてグリンデルバルドの印──これらはすべて同じものだわ。そしてラブグッドさんになら今のわたしたちでも危険なく接触できる。『ザ・クィブラー』であれほどハリーを支持してくださる人だもの」

 

「ドラコの分のクリスマスプディングまでしっかり食ったルーナのことも教えてやらなくちゃだしな」

 

 

 目的地へ向かって雪を踏み締める面々の足取りは軽かった。トントン拍子で事態は好転していく。ゼノフィリウスの最愛は先手を打った『魔法使い』によって安全を保障されているのだから。こたびのゼノフィリウスに旅人たちを陥れるいわれはない。

 ロンいわくの(ルーク)の主──ゼノフィリウス・ラブグッドは快く四人を迎え入れた。

 

 

「それはもちろん────『死の秘宝』だとも」

 

 

 ハーマイオニーから印についてたずねられたゼノフィリウスは、それが常識のひとつであるかのように答えた。ダンブルドアからハーマイオニーへと託された秘密──それが今、探求者であり信奉者の知識人によって明かされようとしていた。

 

 

「『三人兄弟の物語』からわかる通り、ニワトコの杖・蘇りの石・透明マント──これら三つをまとめて『死の秘宝』と呼ぶ」

 

 

 各々のマークがゼノフィリウスのえがく杖に従い、重なる。三角形の中に円が埋め込まれ、中央を直線が割る。アッとハーマイオニーが声をあげた。三つから一つに戻る姿は、まさしく求めていた印の通りだった。

 だがしかし、ハーマイオニーにはゼノフィリウスの語る真実(・・)が信じられない。なぜならそれはおとぎ話なのだ──ハーマイオニーがダンブルドアから受け取った物語は、子供に聞かせるためのおとぎ話なのだから!

 

 

「私にできる支援はここまでだ。君たちを送ったのち、私は姿を隠すことになっている。口惜しいが『ザ・クィブラー』も当分は休刊だ」

 

「わたしたちのことを待っていてくださったのですか?」

 

「そうだとも。マリアお嬢さんと交換で約束をした。こちらはルーナの安全を……そしてマリアは君たちが私を頼るだろうから、そのときに良くしてやってくれと持ちかけてきた。私は──君たちを待っていた」

 

 

 ハリーの胸の中にぐっと熱いものが広がった。マリアに苛立つことは当然ある。それはダンブルドアへの怒りにも等しい。それもまた熱だ。けれども──どちらもハリーの味方であることだけは、たとえ世界がひっくり返ろうとも闇に支配されようとも、違えられないのだ。

 ここに──自分を信じて待ち続けてくれた人がいる。

 

 

「貴重なお話をありがとうございました、ゼノフィリウスさん。ルーナと──きっとお元気で」

 

「こちらこそ」

 

 

 ゼノフィリウスと友好の握手を交わして、一行は分霊箱探しの旅を再開させた。だがしかし、決定的な変化が四人の間にもたらされていた。四人の──否、それまでひとつだった三人の目的が分かれた。

 ハリーはすっかり『死の秘宝』の魅力に心を奪われてしまったのだ。かたくなに迷信だと断じ、分霊箱探し以外に余力を費やすべきでないと強行するハーマイオニーと『死の秘宝』の可能性を捨てられずヴォルデモートの求めるニワトコの杖を追いたいハリー。長い旅の中で頑固者二人の意見はたびたび衝突した。

 

 

「──だから、『死の秘宝』なんてものは存在しないのよ。いくら魔法界だって死者を呼び戻すなんてことは不可能だし、もしも可能だとしたらこの世のすべてのバランスが崩れてしまうわ。それってすごくおぞましいこと。彼らの探求(・・)は不幸を呼ぶのだと知るべきだわ」

 

「けれど、現に『死の秘宝』の一つはここにある──僕の持つ透明マントがそうだ!」

 

「いいえ。それはとても高度なマジックアイテムなだけ。家宝にするぐらい貴重で、素晴らしくて──ただそれだけなのよ」

 

「そうだね、死から逃れられるマントなら誰だって家宝にするだろうさ。ただそれだけのことだ」

 

 

 中立のロンは火花を散らせる親友たちに挟まれ、すっかり頭を悩ませていた。ロンも、ハーマイオニーと同じく『三人兄弟の物語』については、あくまでもおとぎ話の一つとして見ている。けれども、ハリーの主張にもうなずける部分があるのだ。ハリーの持つ透明マントは──それほどに素晴らしい。

 ひとまず。青い瞳は二人旅によりちょっとだけ仲間意識の強くなったドラコへと、仲裁援助の視線を投げかけるのだった。

 

 

「あなただってバカバカしいと思うでしょ? ドラコ、あなたはわたしの味方だと知ってるわ」

 

「……『死者を呼び戻す』、それが限りなく不可能でおぞましいと見られる行為であることには同意するよ。それは罪だ。死者に会えるのは死者だけなのだから」

 

「ほぅら、ごらんなさい」

 

 

 だから、     。

 

 

「────」

 

 

 その声は誰にも届くはずはなかった。届いてはいけなかった。死することも、生まれることすら許されない祈りだった。

 

 けれども──────奇跡はここに成った。

 

 

「────ドラコ?」

 

「ハリー、君がそれを願った理由が、ようやくわかった」

 

 

 ふわりと。守護霊がドラコの元へと降り立つ。はじめて見る形の守護霊だ。それに触れて、ドラコはかすかに目を開いた。

 

 

「すまないが、僕はここで一旦離脱とさせていただこう」

 

「エーッ!?」

 

「ロンに続いてあなたまで──いったいなにを言い出すの?」

 

「ドラコ?」

 

 

 口論なんて忘れて当惑する三人を背に、マリアのイトスギの杖が振られる。杖先へと守護霊が吸い込まれていく。そして次の瞬間には、引き留める仲間たちの声もむなしく光のような青年は姿を消していた。そこには冬を越えた草若葉だけがそよいでいた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 記憶の最後にある姿のままの居間を通る。なつかしい場所だ。ぐるりと首を回す。ハリーと、ロンと、ハーマイオニーと──それから、ドラコ・マルフォイ。彼らの気配が濃厚に残る『ブラック邸』から、他のにおいは感じられない。魔力の残滓はここまでだ。──ウィンキーが再びこの場所を訪れた可能性は低そうだ。

 

 

「ドビー」

 

 

 いわゆる職業病の一つか、すっかり慣れた手付きで茶の用意を始めていたドビーへと苦笑と共に呼び掛けた。

 

 

「ほんとうに────明日にグリーングラス邸が開かれるんだね?」

 

 

 ドビーは帽子にしていたティーポットカバーを手に握り直して、しっかとうなずいた。

 

 籠城戦を決め込んでいたマリア・ポッターがホグワーツから離れ『我が家』にいる理由。それはドビーへの頼みごとから始まる。

 一つに、ホグワーツ内でのダフネ・グリーングラスの監視だ。四六時中だなんて大袈裟なものではない。ただ、不可解な動きがあった際にすぐに教えてほしいとドビーに頼んでいた。次に──こちらこそが本命だ。

 グリーングラス邸の在処特定と侵入経路の確保。アステリアの身に何が起きているのかを確かめるため、僕はついに強硬手段へと出ることにしたのだ。自由ゆえフットワークの軽いドビーにしか頼めない『お願い』だった。

 そしてドビーは見事に発見せしめた。──チャンスを。

 

 

「イースター休暇中にお屋敷で催しがあるようです」

 

 

 ドビーが得た情報はただただシンプルだ。ダフネのイースター休暇特別帰省に合わせて、グリーングラス家が自身の屋敷にて純血のみを招待したパーティーを開くというのだ。パンジーが以前に、グリーングラス家について突然羽振りが良くなり大きな顔をするようになったとぼやいていたが、それは現在も変わらないらしい。むしろヴォルデモートの政権支配にともない勢力を強めたきらいすらあるのだとか。──なにが、それほどにヴォルデモートにとってのグリーングラスの価値を高めているのか。こちらもアステリア捜索と共に要調査だ。

 

 ドビーと別れ二階への階段を上がる。目指すはハリーの部屋と扉一枚で繋がる自室だ。──まさか、自分から『アレ』を解放する日が来ようとは。

 

 

「──ゥワッ!?」

 

 

 扉を開いた瞬間、なにかが腹の辺りをすり抜けていった。ホグワーツの廊下でゴーストに体を通られたときみたいだ。はてさて、いつからこのブラック邸にゴーストが空き巣よろしく住み着いたというのか。叫ぶ夫人の肖像画で手一杯だというのに。

 振り返れば、ゴーストではなく誰かの守護霊が廊下を駆け抜けていくところだった。──その形は。

 

 

「…………サソリ?」

 

 

 棒立ちのままサソリの守護霊の後ろ姿を見送ってしまう。だって、守護霊の捕らえ方なんて知らないもの。

 

 

「いったい誰の守護霊だ?」

 

 

 小首をかしげる。グリモールド・プレイスにたどり着ける守護霊なのだから、まず不死鳥の騎士団の誰かのものと見て間違いないだろう。もしくは────

 

 

「ドラコ」

 

「なんだ、驚かし甲斐のないやつだな」

 

 

 扉の境界の向こうから二本の腕が伸びて室内へと引き込まれた。薄い胸板の感触にハラリと降り落ちる金糸の髪。少し見上げた位置には光射す水晶じみた輝きの明眸がある。──ドラコ・マルフォイ。

 

 

「君、どうしてここに」

 

「君の部屋に侵入する輩があった場合に、即座に駆け付けられるよう守護霊を置いておいたんだ。……まさか本人が引っかかるとは」

 

 

 クックと喉で笑う男につられて、背に彼の手のひらを感じながら頬を緩ませた。実に八ヶ月ぶりの再会だった。

 

 

「サソリだなんて、君らしいね」

 

「僕も僕らしいと思ったよ」

 

 

 部屋の中央を進み、かすかに埃を積もらせたベッドをたたく。ドラコと並んで腰を落ち着ける。ふと、クリーチャーが触れずにいたかつてのシリウスの部屋のさまを思い出した。──この部屋の時間はあの日から止まったままだ。

 

 

「ハリーたちは?」

 

「アルバニアの森の辺りだ。──『君』はずいぶんと、『死の秘宝』にご執心だったようだな?」

 

 

 ドラコからからかい混じりに寄越された含む言葉に、ああ、と肩をすくめた。やっぱり、こちらのハリーもかの誘惑に誘われてしまったらしい。……変わらないな、『僕』は。

 

 

「と、いうことは、無事にラブグッドさんから話は聞けたみたいだね」

 

「ハーマイオニーの頭の固さが中々のものだとわかった」

 

「だろう? 彼女、かしこい分、ああいった手合いにはとことん頭でっかちになるんだ」

 

「そして『死の秘宝』に頭がいっぱいのハリーに代わり、ロンが指揮を取っている。思わぬ才能だ」

 

「いーや、思わぬ、ではないよ。ロンに参謀をさせたら右に出るものはいないとも」

 

 

 まさか! なんて失礼なリアクションを取っている男にニンマリと笑って見せる。

 

 

「否定したければ────ロンにチェスで勝ってごらんよ」

 

 

 ちなみに、僕は一度だって彼に勝てたことはないよ──そう付け足せば、ドラコはわかりやすく百味ビーンズのゲテモノ味にでも当たったような顔をした。

 

 

「……考えておこう」

 

「ぜひとも」

 

 

 気の抜けるような会話だ。通信紙も使えない状態で、半年以上も互いに音信不通であったというのに、なんとも感動の薄いやり取りだった。再会を喜ぶ挨拶すらない。

 だのに、彼が隣にいて、彼の声があって、容易に手の届く場所に体温があることにこんなにも安堵してしまう。だなんて──憎らしいったら。

 

 

「思いの外、上手くやってるようで安心した」

 

「おおむね旅は良好だ。仲良く交互に喧嘩してるよ、君たちは」

 

「うーん、そうだったような、そうでなかったような」

 

「それから、クリスマスはロンと過ごした」

 

「……ロンを選んだの? ハリーでなくて?」

 

「君があの場にいたならそうしただろう? 土産話にでもしてやろうと思ってね。存分に羨み悔しがるといい。ラブグッドも相変わらずだったぞ」

 

「アハハ、なんだそれ。それって────相棒ってかんじだ!」

 

 

 ドラコを巻き込む形で勢いよく背から倒れる。ベッドのスプリングに合わせて息を吐き出す。道連れにされたドラコが声に出して笑いながら僕の手を取る。そして──ほとんど額が当たる場所で笑い方を変えた。

 

 

「さて、近況報告はここまでにしよう。──なにがあった? マリア」

 

「────実は、」

 

 

 今度こそ、僕は互いを繋ぐ少女の名を渇いた舌の上から滑り出した。

 

 アステリアにまとわりつく不可解な事実の数々を知ったドラコは、深く眉間にシワを刻んで黙り込んでいた。怒りだろうか──それもそうだろう。僕のふがいなさばかりが浮き彫りになったのだ。ドラコとしては、ルーナを気遣うよりもアステリアを優先してほしかったにちがいない。僕なら──そう願ってしまうし、期待してしまう。

 

 

「君の怒りはごもっともだ。ここから挽回したい。だから、もしも、君さえよければだけど──」

 

 

 そして、僕は封じ続けていたクローゼット(・・・・・・)を開いた。

 

 

「──僕のパートナーとして、共にパーティーへ出てほしい」

 

 

 そこには、たった一着だけのドレスが飾られていた。無駄な装飾はなく華美とは程遠いデザインでありながら、しかしハッとするほど白が鮮やかなドレスだった。純白の一着だけが、クローゼットの空間を埋めてさびしげに存在を主張していた。

 

 

「……それは、シリウスから?」

 

「ああ。ぜったいにありえないと思ってたけど……でも、もしも、彼の『望む通り』に僕がなったなら──そのときには、このドレスを着て見せてやろうって、考えてたんだ」

 

「……花嫁衣装のようだな」

 

「フラーのものほど派手ではないけどね」

 

 

 ドレスを取り出しベッドへと寝かせる。やわらかなシフォンがレースカーテンのように広がる。光の加減によって浮かび上がる百合の刺繍が見る者の目を楽しませる。

 ほんとうに見せるべきだったあなたはもういないけど──きっと、許してくれるよね。シリウス。

 

 

「我が家に代々伝わるティアラがよく似合いそうだ」

 

 

 ドレスを覗き込むドラコの髪が白に重なって、キラキラと反射した。とても綺麗だ。────これなら、問題なさそうだ。

 

 

「取りに帰るかい?」

 

「いいや、そんな余裕はないだろう。今の我が家は危険きわまりないからな。裏切り者の生家だ。父上がせっせとコレクションしていた地下の秘蔵品たちも、どう扱われているかわからない。それを除いても、人目に触れさせるには躊躇われる術式がたんまりと眠っている」

 

「マルフォイ邸は相変わらず禁術だらけってわけだ」

 

「君たち闇祓いのお手をわずらわせ続けた実績は伊達じゃないのさ」

 

 

 慣れた軽口を交わして、子供っぽく小突き合いながらドレスを適当な椅子にかけて眺めてみる。ハリーのクローゼットから男性用のドレスローブも取り出し、揃えて並べる。ブラック夫人の目覚めの阻害を任せていたドビーを呼び戻し、ああだこうだと二人と一匹でコーディネートに悩む。

 穏やかな時間だ。外では今この時にも誰かが死んで誰かが泣いているというのに──この時間が心地好いだなんて。

 

 

「傲慢だ」

 

「マリア? ──眠れないのか?」

 

 

 すぐ隣に寝転ぶ彼の指がこめかみをくすぐった。ハリーのベッドを改めて整えるのも面倒で、結局二人で雑に横になった僕のベッドの上でのことだった。室内の明かりは落とされ、窓から射す月明かりだけがかろうじてベッドと彼の輪郭を浮かばせていた。

 

 

「暗いね」

 

「夜中だからな」

 

「僕、暗いの苦手なんだ」

 

「それは初耳だ」

 

「せまいのも嫌いだ。ひとりぼっちの物置部屋を思い出すから」

 

「……そうか」

 

「あと、鳩かな。昔、ダドリーに鳩の餌を頭に撒かれてさ、めちゃくちゃにつつかれた」

 

「…………」

 

「怒るなよ。君だって似たようなことしただろ」

 

「掘り返すな」

 

 

 薄暗くともわかる苦々しい顔のドラコに、肩まで使って笑う。綺麗だ。彼にはこんなにも光が似合うのに──闇まで似合ってしまうだなんて、贅沢な男だ。

 

 

「ハリーは暗闇でもなにも言わなかったが」

 

「こちらのハリーは大丈夫だよ。……ハリーには背負わせない。『僕』の思い出は僕だけのものだ」

 

 

 指と指がなぞり合い、絡み合った。言葉はなかった。互いにその先へ踏み込んではならないと知っているからだ。少女の影と僕の未来が、それを許さない。

 手を繋ぎ合うのが精々────たったこれだけで、恐怖は薄れていく。

 

 

「『君』は、かつて『死の秘宝』と決着をつけた」

 

「ああ、そうとも言えるね」

 

「それなら──」

 

 

 月明かりを背にするドラコ・マルフォイは美しい死神のようだった。その手がこの首へ伸びたとしても──きっと僕は微笑むだろう。

 

 

「もしも死者に会えるとするなら──君なら、どうする」

 

 

 僕は。

 

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