マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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 グリフィンドール寮の談話室の床の硬さを知るものが、はたしてこのホグワーツ内にどれだけいるだろうか。──少なくともここに、一人いる。

 

 

「わたし、何度も言ってるわね? マリア。あなたってかわいいの。女性としてとても魅力的な外見をしているわ。中身があまり伴わないところも、好き人にとってはたまらないでしょうね。……それで? 深夜によその男子寮へ向かったあげく二人きりで寝泊まりしようとしたんですって? 聞いてみればお互いコイビトってわけでもないのだとか。弁明はあるかしら」

 

「アリマセン」

 

 

 目の前で仁王立ちする少女に向かって、ヒンッと鼻をすすりながら小さく答える。そんな僕に、ロンは同情的に、ハリーは妙に微笑ましげな目をしながら静観に徹していた。ロンはともかくハリー、君のそれは一体どういう感情からくるものなの……。

 どっちにしろ、蛙チョコレートを手慰みにつまんでいる二人はどちらも僕を怒れる女神から救ってくれる気はないらしい。薄情な親友と兄弟だ。

 ああ──しかしそんなことはおいといて──それはともかくとして──そんなのはどうだっていいから────

 

 そろそろ足の痺れが限界だッ────!!

 

 

 クリスマス休暇が明けて早々、僕の地獄は始まった。

 ドラコだ。ドラコが有言実行したのだ。──つまりは、告げ口を。やっぱりマルフォイはどこまでいっても卑怯者のマルフォイだった。

 べつに、告げ口の矛先がハリーまでは良かったのだ。だってハリーなので。せいぜいが「マリアがドラコの部屋に泊まろうとした? なにそれ羨ましい!」てなものだ。

 しかしハーマイオニーは駄目だ。ほら、女の子ってそういう冗談がわからないものだし。うちのリリー・ルーナだって、兄達のバカ騒ぎには大抵冷たい目を向けていた。ついでにジニーも。

 そして案の定、女の子代表・ハーマイオニー女史は噴火した。彼女はやたらにこう、マリアにレディとしての教育を施したがる悪癖があるので。帰省時にどんな妙ちきりんな本を読んだのか、好奇心混じりにそこに座れと彼女に床を指されてかれこれ一時間はこの状態……つまりは、僕はグリフィンドール寮の談話室の床の上──ご丁寧に絨毯をまくり上げている──にて、他国の仕置法『正座』とやらの刑を受けているのだった。うぐぅ。

 力なく項垂れる僕を、絶好調のハーマイオニーが見慣れた角度まで顎を高飛車に反らせながらジロリと見下ろす。あ、まずい。これは、お説教マシンガン第二弾がくるぞ。

 

 

「マルフォイが紳士だったからよかったものの、あなた──あなた──いえ、これってもしかしてマルフォイにも責任があったりするんじゃないかしら……。ハリーもよ。どうしてこの子がこうなるまで放っておいたの」

 

「あのう、ハーマイオニー?」

 

「いいわ、これに関する調査は後程します。とにかくマリア、まずはあなたよ。あなたが自分の性に対して無頓着なのは知ってるわ。ジェンダー問題がどれほどむずかしいかも、わたしは勉強してるつもりです。だからあなたに女の子らしくしろだとかそんなことは言わないわ。けれど少なくとも、その身体が女性なんだってことくらいは自覚してもらわないと。世の中の男がみんな、マルフォイやハリーのように優しくなんてないことを、知るべきよ」

 

「例えばフレッドとかな」

 

「ジョージもいい例えだ」

 

「黙ってなさい、問題を起こす方の双子」

 

 

 先程からやんややんやと僕らの周りをうろついていた双子がすかさず茶々を入れ、そしてすげなく年下の女の子に斬って返される。それにこれ見よがしに肩をすくめて口にチャックを引く仕草をする二人に思わず吹き出す。やめてよ、もう。せっかくそれらしい顔を作ってみせてるのに。ああほら、君達のせいでハーマイオニーに睨まれたじゃないか。

 ちなみに僕らも問題を起こす方の双子で間違いないので、ハーマイオニーの言う問題を起こさない方の双子はパチル姉妹のことだ。

 

 

「マリアって普段は同い年と思えないくらいしっかりしてるのに……どうしてこういうところはとことんダメなのかしら……」

 

 

 マグルの、確か歯医者をしている親の元でさぞやリフレッシュしてきただろうに早速頭を抱え始めているハーマイオニーに、とばっちりを受けそうな気配を察したハリーとロンが完璧な目配せをして逃げる。ああっ、ずるいぞ、僕もつれてってくれ!

 ──と、僕の嘆きとまだまだ続きそうだったハーマイオニーの説教は、しかしまったく思わぬところから打ち切られた。

 

 

「「──ニコラス・フラメル!!」」

 

 

 先ほど談話室を抜け出した裏切り者の二人がとんぼ返りしてきたのだ。手にひし形のカードを握りしめて。魔法族の子供なら誰もが知ってる蛙チョコレートの付録品・有名魔法使いカードだった。

 どうやら、ようやくニコラス・フラメルの名の載ったダンブルドアカードに当たれたらしい。ロンとハリーとついでにネビルを巻き込んで蛙チョコレートを食べまくった甲斐があった。

 ちなみに僕はニュート・スキャマンダーカードがやたらと当たったので何人かのハッフルパフ生に譲ると存分に喜ばれた。うん、善い事をしたものだ。

 

 

「ニコラス・フラメル? 今、その話はしてないの。また図書館にでも行くわよ。それよりもハリー、あなたにだってわたし、言いたいことが……」

 

「そうじゃないんだよ、ハーマイオニー! これ、これを見て!」

 

 

 興奮しきりのハリーに胡乱な眼差しを向けながら彼からカードを受け取ったハーマイオニーは、次の瞬間カッと目を見開くと二人を引っ付かんで談話室の隅へと移動してしまった。憐れマリアはすっかり放置だ。……君たち、企み事があるってことを最早僕に対して隠す気がないよね。

 

 

「「マーリア」」

 

 

 ハーマイオニーと入れ違いに形ばかり忍んでやってきた赤毛の双子が、ハーマイオニーによって僕へとかけられていた緩やかな魔法の拘束を解除する。あまりに手慣れている。さてはいつもこうしてフィルチや先生方から逃げおおせてるんだな、この二人。

 

 

「君たちまで悪巧み? フレッド、ジョージ」

 

「「俺たちが巧んでなかったことなんてあるか?」」

 

「それは失礼」

 

 

 双子の力を借りて、今のうちにとハーマイオニーの元から逃げ出す。階段を下りる足がまだジンジンしている。ジャパニーズはどこの家庭でも悪さをした子供にこんな拷問をおこなうって、ほんとうかしら。極東、おそろしい。

 なにはともあれ、おぼつかない感覚のまま双子にガッチリとホールドされて連れ出された先は、クィディッチ練習場だった。

 ……えーと、ハリーならまだしも、どうして(マリア)がここに?

 

 

「マリア、君はスネイプに気に入られている。そうだね?」

 

 

 戸惑う僕にそう切り出したのはジョージだった。パーシーの真似をして気取るジョージに、ううん? と首をかしげる。

 

 

「いや、まったくそんなことはないけど」

 

「いーや、そんなはずはない。ロンがいつも言っている。“アイツはハリーには難癖つけるくせに、マリアにはなにもないんだ! 犯罪だ!”」

 

 

 今度はフレッドがロンの真似をして甲高く訴えた。

 

 

「オーケー、オーケー、仮にそういうことにしよう」

 

 

 実際のところは、奴にマリアという存在を徹底的に無視されているだけなのだが、これに関しては言葉での説明が追い付かないほど複雑に事情が絡み合っている為この場では流す他ない。……この二人に諸々の関係を知られると面白がられて面倒くさい、ともいう。あだ名のことだって僕はまだゆるしてないんだからな!

 とはいえ、だ。

 

 

「──で、僕になにしてほしいんだい?」

 

 

 例えばそのスネイプ教授が今ここに通りかかったならば、人生をかけて憎む男にそっくりな悪巧みの笑みに反射的にマリアへと減点を叫んでいただろう。

 ハシバミの瞳の中に自分たちと同じ輝きを見出だした双子は、行先を見つけたチェシャ猫のようにニィンマリと笑った。

 

 

「「そうこなくっちゃ」」

 

 

 

 ***

 

 

 

 双子の相談内容は至極単純だった。次のグリフィンドール対ハッフルパフ戦のクィディッチ試合の審判を、なんの気まぐれかスネイプが受け持つと言い出したために、彼のお気に入りである(大いに誤解だ……)マリアにそれを止めてほしい、というものだ。ここに、できれば面白い手段だとなおよし、が副声音でついてくる。

 教師の決定に対しなんとも無謀な要求だが、しかし彼等の気持ちもわかるのだから悩ましい。かつては(ハリー)こそが当事者として気を揉んだ問題でもあるので。

 ──つまりは、スネイプがグリフィンドール相手にフェアに審判するわけがない疑惑がここに勃発したのだ。

 それもこれも、スネイプ先生が普段からグリフィンドール嫌い(と、スリザリン贔屓)を隠さないのが全ての元凶な訳だが。

 

 さてどうしたものか……しもべ妖精たちが次々に献上してくるビスケットやマフィンをむさぼりながら小机に頬杖をつく。心ここにあらずの状態でもすばらしく美味しい。さすが奉仕が生き甲斐の屋敷しもべ妖精たち、いい仕事ぶりだ。

 

 

「お嬢様! おかわりはいただきにおなりになりますか!」

 

「お嬢様! お紅茶はお飲みにおなりになりますか!」

 

「お嬢様! お味はおいしくお食べになりますか!」

 

 

 忙しなくあっちこっちから寄越されるお伺いの言葉にうんうん頷いて、絶妙にめちゃくちゃな敬語でいじらしく駆け回ってくれるしもべ妖精たちの姿に癒される。このキーキー声も慣れてしまえばかわいいものだ。

 そこに。

 

 

「マリア、またここにいたんだ。すっかり馴染んでるね。君のローブがそのうちイエローに見えそうだ」

 

 

 知る人ぞ知る──なにせ厨房への入口は立地の利からハッフルパフ寮生が常時独占してるも同然なのだから。ここに、ニュート・スキャマンダーカードという賄賂が役に立った──ホグワーツの厨房で馴染みの彼に会った。ハッフルパフの上級生、セドリック・ディゴリーだ。彼とは、以前にこの厨房で偶然相席して以来、見かければ挨拶をする仲だった。

 誠実で穏やかな彼は、『前回』も含めマリアの知る人々の中で最も人格のできた少年だ。初対面から好印象しかない。

 

 

「おかげさまで肉付きがよくなってきたよ」

 

「嬉しい報告だ。君は少しスリムすぎるくらいだから」

 

 

 颯爽と彼の為の椅子を用意する出来る屋敷しもべ妖精たちに礼と共に微笑んだ男は、厨房で出会えばお約束となっている相席を本日も当然の顔で始めた。互いに断りなんて必要ない程度にはすっかり親しい仲なのだ。

 

 

「次の試合、ハッフルパフとグリフィンドールだね」

 

「ああ。君の噂の弟君と戦わせてもらうことになるね。彼は天才と呼ばれているし、それが誇張なき事実だと同じシーカーの目から見ても思うよ。とても、楽しみだ」

 

「ワァ……やっぱり君って、セドリックだなあ」

 

「どういう感想なんだい、それ」

 

 

 少年のあまりの無垢っぷりに思わず骨抜きとばかりに肩から脱力すれば、すぐさま椅子の背もたれへとクッションを仕込まれる。どれだけ至れり尽くせりなんだ。うっかりここに住みつきたくなってしまうじゃないか。ずるいぞう、ハッフルパフめ。

 

 

「前から思っていたけれど、マリアはその、なんというか……人懐っこい子だね?」

 

「そう?」

 

「そうだよ。僕に兄弟はいないけど、なんだか妹を見てるような気持ちになってしまうんだ。君は甘え上手だ」

 

「うーん、それは……セドリックだからだよ」

 

「え?」

 

「セドリックだから、僕も一緒にいて安心するんだ。まったくの他人だったなら、僕だってここまで無防備にはしないさ。でもセドリックは……うん、セドリックはセドリックだから」

 

 

 そうなんとなしに告げた僕のいらえにきょとんとセドリックが目をまたたかせる。そして次には、彼はとても嬉しそうにくしゃくしゃと笑った。

 まだ幼さの残る優しい顔つきだ。僕は、君のことがほんとうに好きだよ、セドリック。……君を喪ったあの日の傷が、永遠にふさがることはないくらい。

 

 

「マリアはかわいくていい子だ。そんなマリアが自慢する弟も、きっと素敵な子なんだろうね。ますます楽しみになってきた」

 

 

 打算だとかそんなものは皆無の純度100パーセントの好意と評価に、心がむずむずして照れ臭さと共に笑い返す。そしてふと、思う。

 

 

「──フェアプレー、したいよね。セドリック」

 

「……? もちろん」

 

「ちなみに審判がスネイプだったりするんだけど」

 

「…………それは……いや、確かに好みの分かれる人ではあるけれど……」

 

「フェアプレー、したいよね?」

 

「……マリア?」

 

「僕の共犯者になってくれる?」

 

 

 一拍。きれいなグレーアイズをまたもパチパチとまたたかせたセドリックは、やがて、マリアとして出会ってから特に見られることの増えた彼らしい笑顔を浮かべると、応えた。

 

 

「いいよ。マリアが楽しそうだからね」

 

 

 嗚呼、どこまでいっても善のかたまりすぎるぞ、セドリック・ディゴリー。

 

 

 

 ***

 

 

 

 試合当日、この戦に出れば僕は生きては帰れないかもしれない……と悲壮感たっぷりに打ちひしがれている弟を控え室へ容赦なく送り出しつつ、向かいに見えたユニホーム姿のセドリックへと頼んだとウィンクを飛ばす。それにセドリックも茶目っ気たっぷりにウィンクで返してくれたため、これで一安心だと悠々とグリフィンドール用観覧席に向かおうとすれば、はてさてどこから見ていたのか依頼人の双子に前回同様のスタイルで問答無用にさらわれてしまった。この二人はまだユニホームには着替えていないようだ。

 

 

「マリアやマリア、我らが姫君。グリフィンドールの美しい人」

 

「今のはなんだ?」

 

「あのセドリック・ディゴリーが」

 

「きみにウィンクだって?」

 

「嘆かわしや──我らが獅子の姫は穴熊の貴公子に引っかけられちまったのか! まだあのいけすかない蛇王子の方がマシだぜ!」

 

 

 やいのやいのと同じ顔と同じ声で交互に騒ぎ立てる二人を、ハーマイオニーリスペクトのもと物理で黙らせる。かつてのハーマイオニーがこれで何度マルフォイを黙らせてきたことか。さすが僕らのハーマイオニーだ。

 

 

「勝手な憶測はよしてくれ。彼にも僕にも失礼だ。──セドリックは今回の協力者ってだけだよ」

 

「「セドリック・ディゴリーが協力者ぁ?」」

 

「そう。見てなよ、スネイプ先生が審判をすることは止められなかったけど……フェアプレーは確実だ」

 

 

 なんたってこの試合、スネイプ先生がわざわざ審判を名乗り出てくれたのには訳がある。それもこれも、ひとえにハリーの命を守るためなのだから。それを、よりによってこの僕が止めるわけにはいかない。

 ──けど、まあ。それとこれとは、別だよね?

 

 納得いかない顔のビーター二人を控え室へ叩き……ハリーに続けて送り出し、そして僕自身が客席へと戻る間にも、僕は早く『ソレ』が始まらないかと悪戯心にウズウズしていた。ああ──僕には間違いなく、あなたの血が流れていますよ、父さん。

 様々な思惑と期待と不安を乗せて試合開始のホイッスルが鳴る。ハリーはどうやら無事に客席からダンブルドアの姿を見つけられたようで、彼の飛ぶ様に不安や迷いはなくなっていた。この頃の(ハリー)、油断すればスネイプに殺されると思ってたからね。そしてダンブルドアさえいればどうにかなると盲目的に信じていた。

 件のスネイプ先生はハリーの命さえ守られればいい試合なので、当然、試合そのものに対する情熱はない。各々の懸念通りさっそくグリフィンドール選手へと難癖つけてハッフルパフにペナルティ・スローを与えたところで──事件は起きた。

 

 

「「「!?」」」

 

 

 ザワッと。会場の空気が困惑に揺れた。みんなの視線は杖からほとばしる光線のようにある一点へと伸びていた。──セブルス・スネイプの頭部へと。

 選手すらも動揺に動けないそれに、(結果、ブレーキを忘れたアンジェリーナがアリシアに激突した。)スネイプ先生が眉をひそめる。そうすれば、連動して不機嫌そうに動く『ソレ』。

 

 

「…………耳だ」

 

 

 隣の名も知らぬグリフィンドール生が呟くのに、僕は達成感と共に大きくうなずいた。

 そう。ハッフルパフへ正当な理由のないペナルティ・スローを与えた途端、スネイプ先生の頭部に奇妙なものが生えたのだ。──黒猫の耳が。

 愛らしい猫の耳は──くっついている本体はちっとも愛らしくない──僅か数秒ほどで消え、はて幻でも見たのだろうかとのろのろ動き出すハッフルパフ選手に静まり返っていた会場もどうにか声を取り戻す。唯一、僕とセドリック、そしてダンブルドアだけが訳知り顔でニンマリしていた。

 

 程なくして『二度目』はやってきた。これまた理由のないペナルティ・シュートがハッフルパフに与えられて────ピョコン。

 

 

「ン ゙ッ!?」

 

 

 とうとうスネイプ先生の近くにいたハッフルパフのキャプテンが吹き出した。何故なら、スネイプ先生の頭部に黒いうさぎ耳が生えたのだから。

 ハッとした顔でウィーズリーの二人が僕が陣取る客席付近へと振り返る。それに自信満々のサムズアップで返す。──ええ、お察しの通り、僕と彼の仕業ですとも。

 

 厨房でもりもりとビスケットをご馳走になっている時にひらめいてしまったのだ。スネイプ先生がフェアに審判をする気がないのなら、せざるを得ない状況(・・・・・・・・・)にすればいいのだと。そして、特別な指を持つ屋敷しもべ妖精たちに仕込んでもらったのである。

 “特定の人物の意に反する行いをすれば、人外の耳が生えてしまう”呪い入りのビスケットを。(これも、しもべ妖精たちのヒトとは違う耳を見て思い付いたアイデアである。)

 いくらスネイプ先生といえど、人間とは法がちがう妖精の魔法には敵うまい。

 

 そしてもう一点。協力者──否、共犯者セドリック・ディゴリーの存在も忘れてはならない。

 スネイプ先生に妖精仕込みのまじないビスケットを食べさせたのはセドリックだし(優等生のセドリックからなら疑われないだろうという目論見だ。完璧すぎる。)現在彼にありとあらゆるキュートな耳を生やしているのも実はセドリックなのだ。フェアプレーを信条に持つセドリックが「あ、今のは公平じゃなかったな」と感じると、自動的に妙な耳が生える仕組みになっているのである。

 

 さて、話を戻そう。

 たった数秒でうさぎ耳も猫の耳同様に綺麗さっぱり消えたわけだが、しかしさすがにスネイプ先生も何かがおかしいと勘づいたらしい。

 選手たちの悩めばいいのか笑えばいいのかわからないもごもごとした顔。全力で笑い涙を流しながら肩を叩き合っているウィーズリーツインズ。再び静けさに包まれる会場。ニコニコのダンブルドア。──全くもって怪しさしかない。特に最後。

 そして三度目の耳(ご丁寧にツノつきの鹿耳だった。)が生えたところで、ついに先生はカラクリに気付いた。そして激しく睨んだ。──ハリーを。憎い人を前に視線だけで人を殺せると聞かされた人間がいたならば、きっとこんな目をするにちがいない。そのくらい強烈な眼力だった。

 それを受けて、真実無実のハリーが「なんで僕!?」といった顔をする。至極当然である。そんな光景すらも、今の僕にとっては愉快でたまらなかった。なにせ、黒い鹿角を生やし耳をピルピルさせたセブルス・スネイプがハリー・ポッターに向かって歯軋りしているのだ。ああ、これが笑わずにいられるか。

 今回は漏れなく用意した双眼鏡を覗きながら、僕の心はいつになく晴れ晴れとしていた。父さん、シリウス──どうせイタズラするなら、やっぱり誰も痛くない楽しいものじゃないと、ね?

 

 スネイプ先生に睨まれるままハリーが最高記録の早さでスニッチを獲る。この時ばかりは、試合がさっさと終わってスネイプ先生もハリーに厚く感謝したことだろう。……冗談だ。

 グラウンドに殺到したグリフィンドール生に肩車されてすっかりお祭り騒ぎのハリーに祝いの言葉とハイタッチを送ってから、悔しそうだけれどすっきりした表情のセドリックの元へと駆け寄る。

 

 

「セドリック!」

 

「マリア」

 

 

 セドリックとも大きくハイタッチ。そこには、作戦成功への感謝と労りを込めていた。聡いセドリックのことだ、きっと伝わっただろう。

 

 

「おめでとう、グリフィンドール。やっぱりハリーは強かった。それから……君のおかげで、とてもワクワクしたよ。こんな試合は生まれてはじめてだ」

 

「きみに初体験をご提供できたようでなによりだよ」

 

 

 二人だけに通じる言葉でくふくふと笑い合う。あのセドリックをイタズラの道に引き込んでしまったのだ──こんなに楽しいことがあるだろうか。

 

 

「「公衆の面前でおあついねえ、お二人さん」」

 

 

 ふと、滑らかなユニゾンと共にセドリックと僕の肩へと均等に重みがかかった。言わずもがな依頼人の二人だ。

 

 

「君って、中々話のわかるやつじゃないか。ハッフルパフの貴公子殿?」

 

「最高だろう? うちの姫さま。これって、もしや王子と貴公子の間で姫の取り合いが勃発しちゃったりしない?」

 

「フレッド……ジョージ……」

 

 

 すっかり新しいオモチャを見つけた顔の二代目悪戯仕掛人たちに、生贄(セドリック)を守るという名目のもと、再びハーマイオニー流・物理拳と追加でジニー直伝・対息子用オイタも大概にしなさいビンタを叩き込んでおいた。

 

 まったくもう、いつの時代も悪戯仕掛人(わるガキ)はこれだから!

 

 

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