あの…あのう…すみません……本当に…申し訳ありません……
残り1話を投稿し忘れたまま…完結したと思い込んでいまして…完結…させちゃいまして……
あの……本当はもう1話あったんです……すみませんすみません……
これが本当のラストです………4年越しにすみません………
ちなみに何故気付いたのかというと、現在製本に向けてはじめからサイレント編集しているからです。181ページか〜先が長いな〜…て気紛れに最終ページ覗きに行ったら全然途中でびっくりしちゃった…………ごめんねぇ……
(ストーリーは何一切変わりません、ご安心ください)
土曜日だ。ハリーの頃とマリアの人生を合わせてかれこれ三度目になる退屈な授業を終えて、ハリーの手を取って中庭へと飛び出す。空気が新鮮で美味しい。ハリーと共に肺の底まで息を吸い込む。なぜなら、つい先ほどまで湿っぽく埃臭い地下室に詰め込まれていたのだから。──そう、魔法薬学の時間だ。
「地下室といえばスネイプの印象がつよいけど、スラグホーンの頃からあの部屋を使っていただなんて」
「きっと材料の保管の関係で教室を替えられないんだ。ドラコも完成した魔法薬とかその材料は地下に置くのが普通だって言ってたもの」
ふう。二人で息をつく。授業内容は初心者向けの実に簡単なおできの治療薬だったので、僕もハリーも隠れて安堵したのも束の間、スラグホーンは僕らを試した。特に
「スラグホーンのあの顔といったら……」
「この年代には母さんとスネイプが揃ってるんだから、そりゃあ生徒にかける理想も高くなるってものさ」
ふう。再びため息だ。土曜日の午後からは授業がないので、さて昼食後はどう過ごそうかと父母とその親友たちに連れられながらハリーと相談し合う。
「なにがしたい? ハリー」
「どうしようかな……」
「僕は昼食を食べ終わったらクィディッチの練習なんだ。聞けばハリー、君も未来で栄えあるクィディッチチームのメンバーに選ばれるそうじゃないか。どうだい、パパと勝負してみるかい?」
「……たぶん、僕が勝っちゃうからやめたほうがいいよ」
「意外に言うな、おまえ」
大広間へ向かう途中、調子を取り戻してきたハリーの生意気な冗談に父二人が唖然として、そんな様子に母リリーとクスクス笑い合う。今の、とてもジェームズっぽかったわ。そう言う母にハリーがニンマリする。
「そりゃあ──天下のポッターだから」
「どうしましょう、マリア。このままだとわたしたち、ポッターの遺伝子に負けてしまうのではないかしら」
「ここだけの話、実は僕もポッターなんだ」
「母さんの味方はいないってことね!」
とうとう、男女のキャラキャラとした大きな笑い声が廊下に響いた。それに反応するのは、僕らでも初代悪戯仕掛人の誰でもなく向かいからやってくる一人の男子生徒だった。
「リリー」
「クレスウェル! ごきげんよう」
「スラッギー爺さんが君を呼んでいたよ。いつもの昼食会だ」
「……それ、今日でないとダメ?」
「君、すでにもう三回も連続でパスしてるだろ。そろそろあの人だってヘソを曲げるぞ」
「それは……とてつもなく面倒そうね……」
男子生徒の忠告めいた誘いにしかたないと首を振って、艶やかな赤毛を風に舞わせてリリーが振り返る。
「残念だけど、今日はあの人のご機嫌取りに行くことにするわ」
「それじゃあ直前まで監督生同士一緒に行こうか、リリー。僕もスラグホーンに用があるんだ。かまわないかい? クレスウェル」
「……お好きにどうぞ」
「ありがとう。好きにさせてもらうよ」
トントン拍子で見慣れたメンバーから見慣れない男を追加して二手に分かれる。結果、ジェームズについて歩く僕らの進行先は大広間からクィディッチ競技場へと変更になった。途中、厨房に立ち寄って三種類のサンドウィッチを空間いっぱいにつめ込んだバスケットとレモネードを昼食用として受け取る。いつの時代も美味しい食事を提供してくれる屋敷しもべ妖精たちには頭が上がらない。
ふと、先ほど出会ったクレスウェルの、ルーピン先生の同行に納得いっていない嫌な様子が気にかかって、バスケットをハリーと二人で提げながら父へと疑問の眼差しを仰いだ。
「あいつはダーク・クレスウェル。僕らの一つ下でコレクター爺さんのお気に入りの一つさ。たぶん、リリーが好き。不毛な男だ」
「父さんとシリウスはスラグホーンのお気に入りではないの?」
「「まさか!」」
ぴったり声を揃えた魂の双子は、そして顔を見合わせるとジェームズ二世とフレッド二世も顔負け──いいや
「ありがたい夕食のご招待にお礼として糖蜜ヌガーを差し入れたら」「次から来なくていいと追い出されてしまったんだ。──ハグリッド渾身の逸品だったのに」
ああ、ほんとうにこの人たちは……。その時の惨劇が目に見えるようで頭を抱えてしまう。楽しく食事をしながらお話どころではなかっただろう──一度歯と歯がくっつけばセメントのごとく離れないのだから。ハグリッド作の糖蜜ヌガーは。
ハリーであった頃にこの父を散々ホグワーツへと召喚せしめてくれた悪ガキたちの血と信念の元になった二人に改めて頭を痛めながら、クィディッチ競技場を前にする。ここで、ジェームズとクィディッチ練習に飛び入り参加のシリウスとも別れる。さて──残るは僕たちポッター兄弟と因縁のペティグリューのみだ。
「僕、その──二人にレモネードじゃなくて冷えたかぼちゃジュースを差し入れようと思ってたんだ! 君たちの分ももらってくるから、ここにいて」
「ピーター」
「すぐ戻ってくるから」
ネズミじみた丸く小柄な体躯が、きゅっと僕らに背を向けると慌ただしく駆けていく。まんま、尻尾を巻いて逃げ出す卑怯な小悪党のさまを僕に思い出させた。きっと同じ姿を隣のハリーも彼の背に見た。
「ペティグリューのあれは母さんやルーピンが言うような世話焼きな性格だからじゃない。ただの下僕根性だ」
「ああ、その通り──────似てるね」
ふと、こぼれ出ていた。たとえば丸っとした小柄な体型だとか。己に自信を持てずにいるおどおどした態度だとか。──同じ、グリフィンドールであることとか。
──ネビル・ロングボトムは素晴らしいひとだ。
彼はとてつもなく優秀だし、時にはハリーをも超える勇気を持っているし、彼にもまた、もう一人の英雄足りえる運命と資格があった。ハリーはネビルだったし、ネビルだけが
そして、そんなネビルがもしも運命と闘うための術のなにもかもを奪われ、孤独に闇の中を生きたとしたら────ペティグリューの哀れな姿は彼のもうひとつの未来であったかもしれないと、僕はそんな残酷な予感に駆られてしまうのだ。
「お、おまたせ」
「ピーター」
器用にも四本のボトルを抱えていつのまにやら側に寄っていたペティグリューを受け入れる。ジェームズたちの飛び交うさまがよく見える場所へと移動しバスケットを広げる。ハリーとペティグリューのあいだに腰を下ろす。
「ねえ、ピーター──君は優秀だよ。君が思っているより、ずっと」
「────」
ボトルをかたむけながら何気なく呟いた僕の言葉に、ピーター・ペティグリューは若干バランスの悪い目を開くと次には思い詰めた顔でうつむいた。──あからさまなまでの劣等感。
「そういうの、みじめになるって、わからない? わからないよね。いいんだ、君たちみたいな人には日陰の人間の気持ちなんてわからない」
「…………」
「腰巾着で、鞄持ちで、人気者のおこぼれにあずかるネズミで──僕は彼らの背景でしかないんだ。対等なんかじゃない。引き立たせ役にすらなれない。……ほんとうは、友人かどうかすらもあやしい」
「ピーター……」
「──僕、リーマスの紹介で二人と話すようになったんだ」
ペティグリューはポツリと語った。
「そうでなくちゃ、どうして僕なんかが彼らとつるめるっていうんだ? はじめこそ嬉しかったし、優越感でいっぱいだったよ。彼らって、カッコいいしみんなのヒーローだもの。キラキラしてる。つよいんだ。でも──つよすぎるよ」
「釣り合わないんだ。懸命に食らいつくけど、後ろに立つのでせいいっぱい。そうしたら──いつのまにか後ろに立つことすら苦しくて、けれど今さら離れることだってできない。彼らをうしなえば僕はひとりぼっちだもの」
「……ねえ、ピーター」
堪えられないとばかりに口を開いたハリーを手のひらで制する。ハリーはまだ自分の心と決着をつけられていない。彼の倍を生きた僕ですらペティグリューへの感情には明確な名を付けられずにいるのだから。
迷子の言葉は、きっと偽善にもなれない。
「たとえば君ともっと前から友達でいられたなら、未来はちがったかもしれないね」
「マリア……」
「たとえば君がハッフルパフで、父さんたちの誰とも関わらない人生であったなら──」
きっとネビルは神秘部には忍び込まなかっただろうし、その手にグリフィンドールの剣を持って蛇へと立ち向かうこともなかっただろう。ハッフルパフの彼ならばはるかに平穏な人生を送れたはずだ。ハリー・ポッターと出会わないネビル・ロングボトムであったなら。
だけど、それでも。彼の友人として僕は──傲慢に望んでしまうのだ。
「あなたたちがグリフィンドールでよかった」
父さんも母さんもシリウスもルーピン先生も、誰もがそう思うはずなんだ。あなたの友なのだから。
「マリアもハリーも、やっぱりあの人たちの子供だね」
ペティグリューのそれは皮肉だった。けれども、不思議なやわらかさを持っていた。
「君たちより前に会ったハリーに聞いたんだ。未来の僕はどうなるのかって。ハリーはよくわからないって言った。関わりがないから……て。──僕は、早いうちに君たちの近くからいなくなるんだろうね。そしてそれは、勇敢なジェームズやリリーと同じ意味のものではない」
「ピーター」
「わかるよ、自分のことだもの。僕の臆病さは僕が一番よくわかってる。──僕は逃げ出すんだ。君たちから」
僕らを発見したジェームズとシリウスが空から手を振っている。ハリーとマリアと親友のワームテールに向かって無邪気に笑いかける。
「僕、ようやく彼らと別れることができるんだね」
隣の彼の声はまるで喜ぶようだった。望むようだった。ゆったり息をついて、解放じみていた。それなのに──ペティグリューの目は空を背負う親友たちを追って焦がれて求めていた。
「……そのハリーは、こうも言ったんじゃないかい。ジェームズもシリウスも、無敵なんかではないんだよって。──彼らもいつかは死ぬのだと」
「…………」
「その時、あなたがこの世でもっとも後悔することを祈るよ。ワームテール」
なけなしの呪いをペティグリューへと刻んで立ち上がる。ハリーに向かって手を差し出す。ハリーが僕の手を握る。あたたかくて、やわらかくて、マリアのただ一人の家族の手。──
ワームテールへと背を向け、僕らの様子に気付いた父がブラッジャーを避けながらも首をかしげるのに苦く笑う。彼らの歪だけれどありふれた友情を想う。
好きも嫌いも愛も憎しみもすべてを共存させて何食わぬ顔で生きてしまえるのだから、僕たち人間は底無しに傲慢だ。