マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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 気の進まない、味気ない夕食も済んだその夜。此度の罰則を担当するフィルチが待つ玄関ホールへと向かう間、ハリーとハーマイオニーの二人は沈痛としていた。特にハーマイオニーは、ハリーの仲間であると同時に成績優秀者としての誇りも持っていたから、なおさら自身が罰則を受けるという現実に堪えられないようだった。そんな二人の後ろを歩く僕はといえば、出くわすかもしれない例の存在に向けて、杖に、頼むから今回ばかりは言うことをきいてくれよ……と聞かせるのに必死だった。

 霞の存在とはいえ、とうとう顔を合わせることになるかもしれないのだから。──クィレルに寄生するヴォルデモートと。

 なお杖に関しては、食べた気のしない夕食を終え大広間から寮へと戻る合間に忍んで会いに来てくれたドラコが自分の杖を持っていけと気遣ってくれる一幕があったのだが、それは流石に……と一人の魔法使いとして断った。マグル暮らしに慣れている僕と違って、今も『前』も生粋の魔法使いであるドラコにとって杖を長時間手放すということがどれほど恐ろしいか。わからないほど無神経なつもりはない。無神経な人間の自覚はあるけど。実際、『前』ではマルフォイの杖を奪って持ち歩いてたわけだし。あの時は敵同士だったんだもん、情けはいらないよ。

 

 玄関ホールに到着する。意気消沈したさまの僕等をそれはそれは熱烈に歓迎してくれたフィルチは、自分の分だけカンテラを手に取ると城の外へと己のしなびた顎をやった。男の下品な着いてこいのジェスチャーにのろのろと子供たちが続く。合間に、嗜虐心たっぷりに罰則の恐ろしさを語って二人を脅かす彼に「このぶつくさ具合、和解前のクリーチャーみたいだなあ」なんて頭の中だけで呟いていれば、小屋の方からファングをつれたハグリッドがやってくるのが見えた。若干の武装をしている。やっぱり罰則内容は禁じられた森の中へと入ることのようだった。

 フィルチとハグリッドだけが持つ灯りを頼りに夜道を歩く。件の森が見えてきた。有難いことにフィルチとはここでお別れだ。結果として一行から灯りが一つなくなってしまうわけだが、あの辛気臭い老人が隣で鬱っぽくぶつくさするくらいなら暗闇を選んだ方がマシだと皆思っているようだった。

 そして、最後までたっぷり皮肉を残したフィルチが城へと戻ったところで、突然、ハグリッドが頭を振り下げた。勢いがよすぎて新手の攻撃かと思った。現に、臆病なファングはヒンッと悲痛に鳴くとハーマイオニーの背中へと逃げてしまった。おまえはもうちょっと番犬としての誇りを持つべきだぞ。

 

 

「すまねえ! マルフォイの坊主から聞いたんだ! 俺が……俺がぁ、悪かった……こんな罰則まで受けさせちまって……俺がぁ……」

 

 

 聞くに、どうやらドラコが此度の罰則の真相をハグリッドへと伝えるお節介を僕の知らぬところでしたらしい。……いや、あの性悪のことだ。お節介というより、単にハグリッドに堂々と嫌味を言える機会を楽しんだだけかも。

 大粒の涙を毛むくじゃらの髭に吸わせてオイオイ泣くハグリッドをハリーとハーマイオニーが慰める。けれども、嘘でもあなたのせいではないよ、とは言えなかった。だってハグリッドがアブナイ動物をこっそり匿うことで騒動を起こすのは、これが初めてではないのだから……。とはいえ、アブナイやらかしに関しては(ハリー)が言えたクチではないのでどこぞの問題を起こす方の双子を見習ってお口にチャックを引いておく。

 

 

「さっさと済ませちゃおうよ、ハグリッド。それで、あったかいミルクでもご馳走してくれたら嬉しいな」

 

「そうよ、ハグリッド。ノーバートは無事にチャーリーの元へいけたわ。警戒がわたしたちにも足りなかったの。ただ……その……ドラゴンを飼う計画はもうやめてほしいけど」

 

「もちろんだ!」

 

 

 ハグリッドが大きく吠えて、ファングがしみじみ頷いた。

 

 とはいえ、ハグリッド一人がどれだけ反省しようと実際問題罰則はなくならない。おそらくどこかの窓から今現在もフィルチが僕らを監視していることだろう。念の為、森に入るところまでは奴に確実に見せておかなくては。

 それから──ダンブルドア。彼だって、知っている筈なのだ。ノーバートのことも、それを引取りに空を渡ってやってきた魔法使い達のことも。

 ホグワーツ城は外部の攻撃から内を守る為、創立者の四人を始め歴代のありとあらゆる優秀な魔女魔法使い達の手によって徹底的に護りが施されている。それは無論、上空にだって。

 しからば、ダンブルドアが空からの不届き者をそう簡単に許すはずがないのだ──意図的に見逃したのでもなければ。

 この罰則だってそうだ。ちょっと考えればわかることだ。立ち入り禁止と定められた場所に立ち入ったから罰──ではなく、立ち入り禁止と定めた側がそれを破ることを罰とするなんて。理論があべこべだし本末転倒だ。つまりは、これもダンブルドアが定めたハリーへの『試練』のうちのひとつだったのである。

 

 

「まったく、おそろしいひとだ」

 

「オゥン?」

 

「なんでもないよ、大きな臆病者さん」

 

 

 ハーマイオニーと僕の間で暗い森を前にしょげ込んでいる大犬の頭を撫でてやる。

 ──すべては、あの人の王手(ハリー)ではなく無名(マリア)となった今だからこそ、理解できる事だった。

 

 

 罰則内容はハリーの記憶にあるものと同じだった。近頃、猟奇的な被害に遭っている憐れなユニコーンを見つけ出し可能であれば保護する事。動物を心から愛するハグリッドからすればユニコーンの保護はもちろんのこと殺傷事件の解決まで臨みたいところだろうが、いくらなんでもそれは子供たちが危ないのであくまで対象発見に集中する形だ。

『前』では人数もあることから二手に分かれて森を散策する作戦を取ったが、今回はミイラ取りがミイラなお間抜けのマルフォイがいないため全員で固まって進む。すると、途中、ケンタウルスに会った。ロナンとベインだ。ユニコーンを見なかったかと問うハグリッドに、ケンタウルスらしく明確な答えこそ無いもののロナンが火星が明るいと彼等なりの忠告を寄越してくれて────ベインが僕を脇に抱えた(・・・・・・・・・・・)

 

 

「え?」

 

「お、おう?」

 

 

 はじめて同じ高さになった顔をハグリッドと見合わせる。

 

 

「あの……?」

 

「お前はなんです」

 

「は?」

 

 

 言い様、ベインは四本脚を唸らせて荒々しく駆け出した。──僕を抱えたまま。ええっと……え、ええー!?

 ロナンが困ったような顔をしてベインを追いかける。だがしかし、そこにベインを止める意図は感じられなかった。本当にただ困惑しているだけの顔だ。その後ろを、ハリーがケンタウルスの尻尾に飛び付くようにしてついてくる。急展開に思考も身体も追い付かなかったハグリッドとハーマイオニーが粒になっていくのが見える。

 

 

「あ、あの、はなして、ングッ! は、はなして、もらえませんか」

 

「お前はなんです。惑星はお前を示していない」

 

「僕、ちょっと、ケンタウルス語は、わかんないです!」

 

「マリア!」

 

「ハリー!」

 

 

 とうとうハリーが派手に転んだのを、ロナンが気にして振り返った。けれど足は止めない。ハリーはクィディッチ練習でつちかった脚力をめいっぱい酷使して僕らを追いかけていた。

 ああ、ハリー、君を──ぼくのハリーを、すべての危険から守るつもりでいたのに。

 ハグリッドからもハーマイオニーからもはぐれて、当のハリーはボロボロで──なんだって僕達はこんなことになっているんだ。

 

 

「ひえっ」

 

「マリア!」

 

 

 漸く脚を停めたケンタウルスがポイッと僕を宙へと放り出した。なんというか、とてつもなく雑で完璧な荷物扱いだった。ケンタウルスは排他主義ではあるが、魔法界の中では比較的礼儀正しい隣人のはずなのに。

 そして、あわや地面と接吻かといったところで滑り込んだハリーにキャッチされた。おかげでハリーはすっかり泥だらけだ。

 一体何が何だか──二人揃って唖然とケンタウルス達を見上げる。戸惑う僕らを見下ろすベインは絶対的な冷たい目をしていて、ロナンはそんなベインにどう言葉をかけたものかと悩んでいるようだった。

 

 

「さあ、ユニコーンです」

 

「「え?」」

 

 

 ベインが予言じみた声色で告げる。彼の言葉の通り、僕達がへたり込む場所から幹を二本ほど向こうにした所に、美しく儚い真珠の死体が横たわっていた。そして、次には。

 ハリーも僕も、言葉なく『それ』を見た────

 

 ずる。ずるり。

 

 全身を地面に擦り付け引きずるみたいな、みすぼらしいローブが死んだユニコーンの元へと近付く。ずるり。ぐずり。不快な音が無遠慮に耳をなぶるものだから、全身に悪寒が走って、はたしてこれは僕の震えなのかハリーの震えなのか思考の境目が曖昧でよくわからなかった。

 ケンタウルスたちはなにも言わず見ていた。ただ、見ていた。ローブの中にあるモノが──ユニコーンの白い血を無惨にすするのを。 

 

 残酷な光景だった。罪深いものに、無垢な躰が犯されている。肉を裂かれ、生命をすすられている。死んでなお、辱しめられている。なんて、ひどくて、おそろしくて、みにくい──────哀れだ。

 恐怖よりも、ぐしゃぐしゃに胸を掻きむしって大声で泣き叫びたくなった。

 

 そうまでして、君は、生きたいのか。

 愛することも、愛されることも知らないで。愛を乞うこともゆるされないで。

 生きたいと叫ぶ心ばかりが生きている。それだけが彼の中の純粋だった。

 

 

「マリア……」

 

「ハリー……」

 

 

 互いに手を繋いで囁き合うしかなかった、そこに、突如としてハリーの苦しむ声が夜の森に響いた。呪いの傷が彼を蝕んだのだ。

 ローブの中が僕らの存在に気付く。ずうるりと、銀の血したたる指が地面を掻いて方向変換する。

 その間、ケンタウルスたちは少し離れた場所にいて、見ていた。ただただ観察する目で僕たちを、惨劇を、悲劇を──惑星を、視ていた。

 

 

「マ、リ……逃げて」

 

「いやだ! ステューピファイ!」

 

 

 僕の心身からの叫びにどうにか杖は応えてくれた。が──弱い。赤い閃光はローブの男にあっさりと弾かれてしまう。

 額の痛みに苛まれるハリーはこの場から動けそうにない。そして、女の子のマリアに倒れ伏す同じ歳の男の子を自らの手で持って運び出すだけの力は、無い。ああ、こんなことならドラコの厚意に甘えて、素直に彼の杖を借りて来ればよかった……!

 今更な後悔に唇を噛みしめた、その時────思い出した。取り憑かれたようにハリーのローブをまさぐる。

 

 そうだ────ハリーの杖がある!!

 

 だがしかし、柊の杖を探し当てる前に、ローブの影がおどろおどろと僕達の前まで迫っていた。間に合わない。

 

 

「ッエクスペクト────」

 

 

 まったくもってまともな判断でなかった。たぶん、ただ縋りたかっただけだ。せめて、自分の代わりにハリーを守ってくれる存在がここに在ればと。そうして、反射的にイトスギの杖でパトローナスを喚ぼうとした。──声は続かなかった。

 影がもうひとつ、影へとぶつかったのだ。ケンタウルスだ。ロナンでも、ベインでもない。遠くで見ている二人よりも若いケンタウルスだった。

 その圧倒的な衝撃にローブの男は弾かれ、沈むように闇の中へと消えていった。それを勇ましいケンタウルスの男はジッと見ていた。見続けた。そして次には、傍観するベインとロナンへと唸り立てた。

 

 

「なぜ、手を貸さないのです! この子がだれか、わかりませんか! ポッターの子だ! この子はポッターの子です!」

 

「ケンタウルスは天に逆らわない。我々が関心を持つべきは予言でしょう。君こそ、なぜ見届けなかった」

 

 

 ベインが仲間に冷たく返す。それに毅然とケンタウルスの男が答える。

 

 

「あなたには、この森に忍び寄るものの禍々しさがわかりませんか? あの憐れなユニコーンが、あなたには見えていないのですか? ベイン、私は立ち向かう。必要とあらば人間とも手を組みます。たとえ貴方に、あなた方に、お前はロバの身に堕ちたのだと謗られようとも。──さぁ、ポッターの子、ハリー・ポッター。私の背中へお乗りなさい。それから、君は……」

 

「フィレンツェ!」

 

 

 とうとうベインは前脚を怒りに上げていなないた。治まった痛みと突然の展開に目を白黒とさせていたハリーを背中へ乗せ、僕は彼の首にしがみついて、不安定な体勢のままケンタウルスの男・フィレンツェは走り出した。ベインとロナンは追ってはこなかった。

 やがて並足になったフィレンツェが緩やかに立ち止まったので、二人で支え合いながらそっと彼から降りる。ハリーがおそるおそると尋ねる。なぜ、自分たちを助けてくれたのかと。ベインの剣幕から、フィレンツェはなにかケンタウルスの法に反することをしてしまったのではないかとハリーは不安だったのだ。自分たちのせいで、フィレンツェがひどい目にあったりしたら……。

 

 しかしフィレンツェはハリーの問いには答えなかった。むしろ問いかけた。ユニコーンの血の意味を知っているか、と。ユニコーンを殺すことがどういうことか、君は知っているだろうか、と。──無垢を殺め、魂を呪われてまで“生きたい者”の存在を。

『ソレ』が賢者の石を求める本当の意味に気付いて、ハリーは今にも倒れそうに蒼く白くなった。そんな君を抱きしめることしか、僕にはできなかった。

 

 

「マリア……今のは……今のは……」

 

「ハリー。大丈夫、君は一人じゃないよ」

 

 

 腕の中の体温に語って聞かせる。

 この世界のハリー・ポッターは、ひとりなんかじゃないんだ。

 

 

「君は……」

 

 

 再び、フィレンツェが僕を不可解そうに見た。ベインとロナンも同じ目をしていた。惑星を読み予言を解くケンタウルスが、不可解そうに(・・・・・・)

 

 

「君は、なんです? 君は……」

 

「マリア・ポッターです」

 

「マリア。ポッターの子ですか? 君が(・・)?」

 

 

 それはやけに含んだ物言いだった。ハリーの緑の目と見合って、フィレンツェは一体何を言いたいのかと言葉の続きを待つ。

 

 

「マリア……なぜ君は……なぜそうまでして────呪われているのです?」

 

「──え?」

 

「君はこんなにも無垢なのに、罪がないのに、なぜ呪われているのです」

 

「え、僕、」

 

「マリアは呪われてなんか!」

 

 

 戸惑う僕を背に、家族想いのハリーがこれ以上は我慢ならないとばかりにケンタウルスへ食ってかかったその時、バウバウと犬の鳴き声が暗い森に響いた。ファングだ。大きな犬のシルエットの後ろから、さらに大きなハグリッドと息も絶え絶えなハーマイオニーが続いて姿を現した。

 

 

「ハリー! マリア! あなたたち、大丈夫なの? いったいなにが……」

 

「おう、おう。こんなことなら、はぐれた時の合図をキッチリ決めておくんだった。杖からこう、光を打ち上げるんだ」

 

「ハグリッド。今、この森は危険です。ユニコーンならば向こうにいました。もう息はありません。ハリー・ポッター、彼をつれてお帰りなさい」

 

 

 追い付きざま、杖の代わりにランプを振り回すハグリッドにフィレンツェが淡々と忠告を送る。同じケンタウルスだとしても、ロナンやベインよりも彼はよっぽど親切だった。少なくとも人間にわかる言葉になっている。

 

 

「幸運を祈りますよ、ハリー・ポッター。ケンタウルスでさえも惑星を読みまちがえたことがある。今回もそうなりますように。そして、マリア・ポッター……」

 

 

 フィレンツェは続く言葉を呑み込んだ。なにも言わず、蹄だけを響かせて森の向こうへと星詠みの賢者は去っていった。

 その場に残されたのは、手を繋ぎ合い、互いの存在を確かめるように震える君と僕の二人だけだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日、マリア・ポッターはドラコ・マルフォイにしっかりみっちり叱られていた。

 

 

「だから、僕の杖を、持っていけと、言ったんだ!」

 

「返す言葉もない……」

 

 

 いつかのように彼の杖でむいむいと頬を押される。

 だってさドラコ。僕だって、ヴォルデモート憑きのクィレルに遭遇するのはまだしも、あんなわけわかんないことになるとは思わなかったんだよう。

 

 

「自分の杖が駄目だとわかったならさっさとその辺の杖を取れ。今回の場合はハリーの杖だ。何故すぐ思い付かないんだ。闇祓い局局長だった頃のご自慢の判断力はどうした」

 

「うーん……」

 

 

 これに関しては、実は僕にも思うところがある。

 なので、ぽつんとぼやいてみる。

 

 

「なんだろう──なんというか、ハリーの杖は駄目な気がしたんだ」

 

「ハァ?」

 

「説明が難しいんだけど……触れちゃいけないと思ったんだ」

 

「……『君』の杖だろう?」

 

「だからじゃないかな。『ハリー』の杖だから、僕が触っちゃいけないと思ってしまう」

 

「…………」

 

 

 ほんの少し深刻に声を潜めかせた僕に、つられるようにしてドラコも陶器っぽい造りの顔をさらに人形めかせて考え込んだ。けれど、それはおそらく無意味だ。

 これはきっと、(マリア)にしかわからない感覚なのだ。ドラコは今も昔も、同じ杖を相棒にできたのだから。

 

 

「……わかった。それに関しては不問とする」

 

 

 黙考した末、幾分かはどこかに思考が着地したのか、杖を持ったまま両腕を組んだドラコはそして続けた。

 

 

「ところで君、呪われてるのか?」

 

「僕が聞きたいよ……」

 

 

 ガックリ。思わず大袈裟に肩を落としていた。呪いだなんてセンシティブな話題を目の前の男があまりにもあっけらかんと問うのだから。こちらまで気が抜けてしまった。

 そりゃあ、呪いだ禁術だはスリザリンの君にとっては専門分野みたいなモンだろうけどさ。

 

 

「どの範囲のどの部分かまで言っていけというんだ。これだからケンタウルスは」

 

「いいやドラコ、フィレンツェはケンタウルスの中でも相当親切なほうだよ。なにせ人間に合わせて会話ができる!」

 

 

 フッと僕等の間に笑いが弾けた。僕のジョークに声を出して笑ってくれたドラコに僕も小さく安堵の息をつく。

 ここまで、互いに茶化したふうにしていたけれど、その実ドラコは非常に緊張していた。杖を握る手はそのままに、僕の報告のひとつひとつに引っ掛かりを覚えているようだった。……よかった、やっと笑ってくれた。

 

 

「──残すは賢者の石だよ、ドラコ」

 

「ああ」

 

 

 お馴染みの湖から風を受けて立ち上がる。もう春も過ぎたっていうのになんだかまだ冷える心地がして自然とローブを握り込んだ。指に触れる──イトスギの杖の感触。

 ハリーたちは犯人という致命的な一点において以外、ほぼ答えを探し当てたと見ていいだろう。ダンブルドアがホグワーツを離れるその時──宿命との戦いが幕を上げる。

 

 

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