マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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後程された調査の話

 

 

 オブラートに包んだ表現でいうならば自由奔放でふわふわな髪を頭の動きに従わせて、友人想いの少女はくせ毛仲間の少年に向かって居丈高に凄んだ。

 

 

「ハリー、いいかしら。あなたにとっても大切な話があるの。──マリアの『問題』についてよ」

 

 

 ぱちくり。世界中をさらっても比較的珍しいとされる緑色の瞳が、少女を見つめて純っぽく二度ほど瞬きをする。なにせ、つい先ほど彼女・ハーマイオニーの口から『問題がある』と名指しされたその人は、緑眼の少年の同い年の兄弟であるので。なお、姉だか妹だか、そこのところは未だ判明していない。

 

 

「? マリアが、なぁに?」

 

「正確には、マリアの自身に対する意識についての話よ。あの子はあまりに無防備すぎるわ」

 

 

 自寮の談話室にて件のマリアから提供されたカップケーキを仲良く分け合っていたハリーとその親友・ロンは、ハーマイオニーの台詞にリスのように頬を膨らませながら幼気に小首をかしげた。(──ところでマリアは、いつもどこから此等のお菓子を調達してくるのだろう?)

 なお、現在話題のマリア当人はこの場にはおらず、気が付いた頃には寮から──延いてはハリー・ロン・ハーマイオニーの三人の元から消えていた。そして、そんなのは日常茶飯事なので今さらロンとハーマイオニーは気にしないことにしているようだが、実のところハリーだけは知っていた。ハリーの目から見て、妹の行方を。

 ──他寮の特別な友人、ドラコ・マルフォイに会いに行っているのだと。双子を甘く見るなかれ、ということだ。

 

 

「意識って……」

 

「たとえばマルフォイに易々とさわらせたり、異性の部屋に二人きりで泊まろうとしたりすることよ。フレッドやジョージにだってよくテキトウに肩を組まれているし、自分が周囲からどう見られるかの自覚が足りなさすぎるわ!」

 

 

 そうして、焼き菓子と本とレポート用紙が散らばる共用机にとうとう両手を叩きつけた少女は、湯気の立つ勢いでマリアの『問題』を捲し立てた。ふわふわ……いや、ぼさぼさ……ともかく、少女の豊かな栗毛も感情と共にぶわっと広がったように向かいのハリーとロンには見えた。

 ウーン……。カップケーキの次につまんでいたケークサレを一先ず置いて、ハリーが眼鏡の向こうにある眉間にやわらかくシワを寄せる。

 

 

「自覚って言ってもなあ……ドラコのアレは、本人のスキンシップ好きもあるし」

 

「そもそもね、あぁんなにかわいくて、どうしてそれを自覚せずに育つっていうの? ──あんなボロブラシで梳いただけなのにつやめく赤髮! そばかすの一つもない真っ白の肌! 猫のようなチャーミングな瞳! おおきく口を開けて笑うその無邪気さ! ああ、ハリー、あなたは生まれてからずっとあの子と一緒だからとうに見慣れてマヒしてるんでしょうけどね、マリアって実はすごーくカワイイのよ。タイプちがいの美人でいうならパーバティもそうだけど……少なくとも彼女にならぶ美少女よ。ソックリだった、ていうお母さまの美貌が知れるというものよ。プライマリースクールでもさんざチヤホヤされてきたでしょう? ──いい? わたしたちはマリアの外見に反したズボラっぷりとかぼんやりを散々見てるから、彼女が自分の容姿を本心からなんとも思ってないんだってわかるわ。でも、他人から見れば美少女のくせにすっとぼけてるあざとい女よ! あざとい……いえ、あざといにしてはがさつが過ぎるけど」

 

「それ、たぶん庇えてないよ。ハーマイオニー」

 

 

 途中、ロンが小声でツッコんだが、小声すぎて荒ぶる口先機関銃と化したハーマイオニーにはまったく届いていなかった。

 

 

「つまりわたしが言いたいのは、あなたもあの子の兄弟として今一度注意を──」

 

「自覚もなにも、チヤホヤされてないからだと思うけど」

 

「えぇえぇ、そうでしょうね。あのパーキンソンなんて裏でマリアのことをとんだ自惚れやだと言いふらし回って…………へ?」

 

 

 ロンとハーマイオニーが同時にハリーを見る。ようやく打ち止めになったハーマイオニーの独り善がりマシンガンもなんのそのと、ハリーは事も無げにアップルクランブルを口に放り込みながら続けた。

 

 

「マリア、チヤホヤなんてされてこなかったもの。知ってるでしょう? 僕たち兄弟が養い親から虐待されてきたの。プライマリースクールだってろくに通えてやいないさ。そんな家が、いないものみたいに扱ってる子供のこと、褒めたりすると思う? お前は世界一カワイイよ、シュガーちゃんって? 絵本を片手に頭でもなでてやりながら? もちろんクリスマスプレゼントは周りのどの子供よりも一つ多いんだろうね」

 

「それは……」

 

「ホグワーツに来るまで、鏡だってまともに見てこなかったよ、僕たち。マリアは女の子の服も着たことないよ。ぜんぶ従兄弟のお下がりだもん。横にばっかりブクブク育ったご立派な従兄弟のね」

 

 

 ハリーの稚気な唇から吐き捨てられる昏い言葉の数々に、ついにハーマイオニーは黙り込んだ。ロンも、ジャムを塗りたくったスコーンをかじりかけた状態のまま、困惑の表情で固まってしまった。

 

 

「そもそもマリア、別に無防備じゃないよ」

 

「……そうなの?」

 

「うん。君たちが特別なんだ。マリア、あれでけっこう付き合う人はえらんでるし、身体にさわられたりも好きじゃない。全く知らない人に絡まれそうになったら、ビックリするくらい上手に避けるよ。むしろどうしてドラコや君たちには初対面からあんなに打ち解けたのか……僕としてはこっちのほうが不思議でならないもの。あのマリアが」

 

「「…………」」

 

 

 あの、と付くほどにマリアが元来警戒心の強い人間であった事実に驚きを隠せない二人は、彼女を誰よりも知るだろう兄弟の語りに聞き入るしかない。

 

 

「マリアなりにきちんと基準があるんだと思う。他にも、フレッドやジョージはもちろん、ハッフルパフのセドリックだとか、ハグリッドもだね。とにかくあの子の中で大丈夫と大丈夫じゃないの線引きははっきりしていて、大丈夫な人にはまったく警戒しないってだけの事なんだ。君たちは『大丈夫な人』だから、マリアの『大丈夫じゃない人』に対する姿を知らないだけ。そのうちに見られるだろうから楽しみにしてなよ。それはもう──すっごく──こわいんだから。興味のかけらもない、その辺の石っころを見るのと同じ目で相手を見るんだ。僕、もしもマリアにあんな目を向けられたなら、はっきり言ってまともに生きていられる気がしないよ」

 

 

 ハリーから寄越される、マリアの一番近くで生きてきた家族だからこその説得力に、ロンとハーマイオニーの二人はおそろしい想像に身を震わせながら神妙にうなずいた。

 あのマリアから、靴の裏に引っ付いたガムを見るみたいな──ペン先がひしゃげて使い物にならなくなった羽根ペンを見るみたいな──そんな目で見られたとしたら、なるほど、到底生きていけそうにない。

 

 

「だからさ。つまりは、それだけマリアに信頼されてるんだって思ってやってよ。……ドラコにはちょっと、かわいそうな話だけど」

 

「マルフォイがなんだよ?」

 

「ロンにはまだわからないと思うよ」

 

「どういう意味だよぉ、ハリー!」

 

 

 声変わりも迎えていない少年の甲高い声がワッと二つ弾ける。おおかた片付いた机の上のお菓子の残骸を散らす勢いでじゃれ出す男の子たちを無視して、一方思慮深い女の子のハーマイオニーは新たに考え込んでいた。

 おそらくハリーいわくの『線引き』の話は、いわゆる女性の意識からくるものではない。マリアが人として理念に置いているものだ。結局、彼女の女性としての警戒心は未発達のままであると見ていいだろう。だとすれば。

 

 ──やっぱり、わたしがあの無自覚ちゃんを傍で守っていかなくちゃいけないんだわ。……男共はどいつもこいつも“こう”だし。

 

 ハーマイオニーの心配事は、親友の在り方の核心に触れたところで結局は増すばかりなのだった。

 

 

「──それにしても」

 

 

 さて、話は済んだとばかりにハリーがお菓子のクズをバスケットに戻して席を立とうとした時、(バスケットを手渡された際、マリアから「片付けまできちんとすること!」と釘を差されたのだ。)再びハーマイオニーから指示棒を振るう教師のポーズが現れた。ロンはそれを、魔法の杖も無しになにやってるんだろう、大人でもないのにもう杖無し魔法の練習かしら。と、ちょっぴりゾッとしながら見ていた。純魔法族の彼は指示棒なるマグルの逸品を知らないので。

 

 

「それにしても、今の話ってかなりおもしろいわ。こうして改めてハリーからマリアの印象をきくと、やっぱりハリーだからこその特別な視点がみえるというか──これなら、ハリーのほうがマリアのお兄さんなんだって言われてもうなずける気がするわね」

 

「そりゃあ、兄だもの」

 

「ほんとに?」

 

「……ここだけの話、白状すると、実際のところは知らないんだ。僕もマリアも。別に改まって調べようとも思わないし。──だけど、僕が兄だって決めたから。二人で」

 

「そうなの? あの、でも、マリアは、」

 

「うん。マリアったら、それをちっとも覚えてないんだよね。……それで、構わないけどね。僕らがまだ三つだか四つくらいの頃の話だし」

 

 

 でも。と、そこにハリーは続ける。

 仇敵からの死の呪いを跳ね返した代償とされる額の傷が巷ではもっぱら彼のトレードマークとされているが、そんなものよりよっぽど印象的で美しい母譲りの瞳が溶けてたわむ。

 

 ──それは、まさしく愛しい兄弟を想う兄の顔だった。

 

 

「僕がマリアの兄さんになるって、約束したんだ。マリアに。あの子が覚えていなくても、僕は永遠にこの約束を守るよ」

 

 

 満足気にそう宣言したハリーを、ロンとハーマイオニーは切なそうに見つめた。

 ハーマイオニーはひとりっ子であるからこそ、どこか憧憬を滲ませながら。ロンは自分たちの兄と、そして妹のことを思い出したにちがいなかった。

 

 

「……やっぱり、ハリーがお兄さんなのかもね」

 

「そう言ってるでしょ?」

 

「ハリーはいい兄貴だよ」

 

「ふふふ、もっと言っていいよ」

 

 

 ふわふわ笑って自慢げにする姿は、やっぱり子供っぽいけれど。

 

 

「それに、マリアって昔はもっと気弱で泣き虫だったんだよ? 僕の後ろによく隠れてた」

 

「ええ!?」

 

「あのマリアが?」

 

「うん。でも、いつの間にか変わってたんだよな。何歳くらいからだったかな……。まあ、なんであれ、どんなマリアだって僕は問題なく愛してるけどね」

 

 

 平然と、恋人への睦言と聞きまがうような台詞をも恥ずかしげもなく口にするハリーに、親友二人は慣れた様子で視線を遠くへやった。

 

 そうそう。マリアだって大概だけど、ハリーもいわゆる重度のシスコン──って、やつなのよね。

 まったく、実にお似合いのポッター兄姉だ。

 

 

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