マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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3ー1

 

 第一発見者の僕たち、そしてずれて到着したハリーたちを連れて、半狂乱のフィルチをなだめながら、ダンブルドア、マクゴナガル先生、スネイプ先生はロックハートの部屋へと移動した。──当然、もっとも疑われているのは僕とドラコだ。スネイプ先生ですら、自寮の優等生ドラコ・マルフォイへと複雑な眼差しを隠せずにいた。

 ダンブルドアによりミセスノリスが死んだのではなく石になったのだと診断されて、現場にいた僕たちへの事情聴取が始まる。

 

 

「なぜ、ハロウィンパーティーに出席せず三階の廊下をうろついていたのかね」

 

「あの、僕たち、絶命日パーティーに出ていたんです。ゴーストたちが証明してくれます」

 

「しかし、その後に時間があったはずだ。わざわざ三階へ行く理由に一体何があったのか……」

 

「──僕らを探してくれていたんですよ。それで、ホグワーツ中をくまなく、ね」

 

 

 スネイプ先生から粘着質に尋問されていたハリーへと、助け船を出したのはドラコだった。──けれど、その言い様では。

 

 

「……なるほど。では、君たち二人は一体、どこで、なにを? よもや他のゴーストの絶命日パーティーに参加していたとは、言うまい?」

 

 

 スネイプ先生は激しく複雑そうだった。僕はともかく、自寮の生徒たるドラコのことは庇いたいだろう。だが、状況がそれを許さない。──それほどに、深刻なのだ。

 

 

「マリアがあまり──『十月三十一日』を好きでなくて。パーティーで騒ぐ気分じゃないと言ったので──なら、僕と二人で過ごそうと誘いました。……ええ、二人きりで」

 

 

 ハーマイオニーがちょっとだけ耳をぽっと赤らめた。ドラコは十二歳と思えないほど挑発的に笑んでいた。

 

 

「……それで、三階の廊下を?」

 

「とにかく二人きりになれる場所を探していたものですから。……男女の逢瀬の意味を、今さらお聞きになったりはしないでしょう?」

 

 

 スルッと意味深に指を絡められた。そのまま、ねえ? とアイスグレーが熱を持って僕へと細まる。

 まったく、十二歳の顔じゃないぞ。もっと色気を隠せ、色気を。ハリーやロンまで真っ赤じゃないか。

 

 

「……それを、証明するものは」

 

「まさか。僕たちはずうっと──二人だけでいましたから。そこの三人とちがってアリバイはありません」

 

 

 ガタンッ──大きく椅子が震えた。フィルチだ。泣き腫らした目を憎悪に燃えあがらせてドラコをねめ付けていた。

 

 

「お前だ! お前が犯人だ! スリザリンめ! お前が継承者なんだ! お前は知っていたんだ──私が『スクイブ』だと! お前はハリー・ポッターと仲が良い、ハリー・ポッターから聞いていたんだ、そうだろう!?」

 

 

 突然名指しされたハリーはなにがなんだか、といった様子だったが、どうやら心当たりがないわけでもないらしかった。……ということは、やっぱりこのハリーもフィルチ宛の手紙、勝手に読んじゃったか。僕もやらかしたことだけど、後でプライバシーについてのお話をしなくちゃ。

 

 

「僕、そんなこと……」

 

「あれは秘密の部屋だろう! ええ? そしてお前はスリザリン! スリザリンの中でもかしこい部類だ! お前が継承者なんだ!!」

 

 

 とうとうドラコへ掴みかかろうとしたフィルチをダンブルドアが止める。ダンブルドアは、「疑わしきは罰せずじゃよ」と杖を取りかけていた僕へも微笑んだ。

 ハリーもロンもハーマイオニーも、不気味に落ち着いた態度で静観するドラコを見て真っ青だった。ドラコは、まるで王者のような貫禄を持って微笑んでいた。

 

 ほんとうに、君って……もう。

 

 ため息をこらえ、ドラコが絡め取った手を僕から握り返す。

 

 

 ──かくして、容疑者最大候補はドラコ・マルフォイとなってしまった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「猿芝居」

 

「そう拗ねるなよ」

 

 

 寮へ戻る道の最中で僕はチクチクと嫌味をこぼしていた。

 

 

「僕に監視の目が向いていれば君もハリーも動きやすい。ベストな選択だろう? さいわい、前回でも同じように疑われていたわけだしな。今回は自分から名乗っただけだ」

 

「……君のそういうところが嫌いだ」

 

「聞き飽きた」

 

 

 ニヒルに笑うドラコの肩を軽く殴り付ける。

 バカな真似をして。そんな打算なんて二の次に──ハリーを庇うためだったくせに。

 自分本位な生粋のスリザリンのくせに、両親のために命を懸ける。妻のためならお家断絶を覚悟する。子供のために過去すらも駆け抜ける。身内のためなら、誰よりも自己犠牲ってやつを厭わないんだ。ドラコ・マルフォイは。

 

 そういうところ、ほんとうに、きらいだ。

 

 

「……戻ったら、もう一度日記を確認する」

 

「……ん。頼んだ。僕はジニーに探りを入れてみる。……大丈夫だと、思ってたんだけど」

 

「僕だって思ってたさ。……気に病むなよ。君の奥方はつよい。闇は孤独に付け入るが、ジニー・ウィーズリーは孤独なんかじゃなかった。そうだろう?」

 

「──僕の奥さんじゃないよ」

 

 

 僕は立ち止まった。

 

 

「ハリーの妻だ」

 

 

 ドラコも立ち止まった。振り返る姿が、やけに緩慢に見えた。

 

 

「君──」

 

「ドラコ・マルフォイ。君は、ちゃんと手を掴めよ。──アステリアをはなすなよ」

 

 

 自分勝手に自己犠牲を厭わない君。どこまでも僕に付き合おうとする君。──同情なんかで、道連れになんてついてこさせるもんか。

 

 

「君……それでいいのか。君は、」

 

「ジニーを愛してるよ。それは、どんな形だってかまわない。──決して届かない愛を一途に抱き続けた人を、僕らは誰よりも知ってるはずだけど?」

 

 

 愛の言葉も懺悔も届かない。相手は微笑みも怒りもしない。記憶と、残り香と、忘れ形見だけの為に生き抜いた人。

 そんな人の後ろ姿を、『僕』は見つめ続けたんだ。たとえばそれが憎悪だったとしても──僕は確かに、あなたを見ていた。「僕を見て」と、泣いたあなたを。

 

 

「遠慮なんてクソな真似はするなよ。君はかつて『僕』に、アルバスにはスコーピウスと僕が必要だって説教した。なら、僕だって言わせてもらう。──これから生まれるスコーピウスには、絶対に、君が必要なんだ」

 

 

 少しの距離をあけて、少しの時間が僕らに与えられて──ドラコはうなずいた。

 

 

「ああ。同情も遠慮もしない。──ちゃんと、選ぶよ」

 

 

 無意味なネオンの光が存在しない夜空に、彼のブロンドは、まるでひとつの絵みたいに目映く見えた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日から、『秘密の部屋』という単語を聞かない日はなくなった。そも、秘密なんて名前がついている時点で秘密ではないのだ。このホグワーツでは。

 そしてドラコは徹底的に避けられた。スリザリン生以外から。スリザリンからは英雄のように讃えられていた。魔法界の王族、ブラック家が衰退した今、マルフォイの名はあまりに大きかった。

 ハーマイオニーやロンですら気まずげで──本来なら、その位置を為したのはハリーだった。

 ドラコと近しい僕もマグル出身生徒からは若干避けられたが、こんなものは痛くも痒くもなかった。……もっと激しいむなしさを、『僕』は知っている。

 ドラコは否定もせず肯定もしなかった。ただただ静観の姿勢を取った。それがさらに真実味を増させていた。

 

 

「やあ、スリザリンのプリンス。それとも今は継承者どのって呼んだ方がいい?」

 

「やあ、とばっちりを受けているグリフィンドールのプリンセス。君が継承者と呼んでくれたなら、噂は確定するだろうね」

 

「……とばっちりはどっちさ。減らず口」

 

「君こそ」

 

 

 ベンチにひとりぼっちでいる彼の隣へと腰を下ろす。少し前までは、通信紙を活用してようやく人目を避けられるか、といった具合だったのに、今は彼がそこにいるだけで皆いなくなるのだから楽なものだ。……まったくもって、バカげてる。

 

 

「さびしいって言いなよ、ドラコ」

 

「なんだい、突然。君、忘れたのか? 前回の僕がどれほどスリザリンの継承者であることに焦がれたか」

 

「ああ。僕らも絶対マルフォイだと思った。だからポリジュース薬を飲んでクラッブとゴイルに化け…………あ。」

 

「は? …………あれ、君たちだったのか!? 通りで様子がおかしいと……やってくれたな!」

 

「時効ってことにしておくれよ」

 

 

 唖然と身を乗り出すドラコにケラケラ笑う。まさか本気で気が付いてなかったとは。僕らの演技力も捨てたものじゃない。……ねえ、『僕』のロン。

 

 

「ほんとうに、お前は……ウィーズリーもウィーズリーだ」

 

「ちなみに発案者はハーマイオニー」

 

「…………」

 

 

 案外、大きなことを言い出すのは彼女なんだぜ? なまじ、知識があるだけにね。

 

 

「ねえ、ドラコ」

 

「……なんだ」

 

「さびしいって口にしなよ」

 

「またそれか。さっきも言っただろう、僕は現状に──」

 

「それは過去のドラコ・マルフォイだ。──今のドラコ・マルフォイはちがう。だろう?」

 

 

 ドラコはそっと口をつぐんだ。

 僕はめげなかった。だって──『僕』は知っている。

 

 

「君は痛みがわかる人間になったはずだ。……痛いだろう?」

 

「……マリア」

 

「『僕』は痛かったよ。かなしかった。……慰めさせてよ。『僕』を」

 

 

 腕を広げる。やがて、儚いブロンドがコトン、と胸に落ちた。

 

 

「……ずるい存在だな、マリアは」

 

「まったくだね」

 

 

 収まった華奢な体を抱きしめて、髪に頬を寄せた。

 

 ──『僕』にも、マリアがいたなら、よかったのに。

 

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