マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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3ー2

 

 クィディッチの試合がやってきた。相手はスリザリンだ。以前にはドラコが収まっていたポジションに、セオドールの茶色い髪が見えた。

 

 

「ひと雨きそうだね」

 

 

 すっかりお馴染みとなった隣の緑ローブへと囁く。赤の集団の中に緑はやっぱり目立つ。だというのにドラコはどこ吹く風だった。

 ……君、周囲の不躾な視線にはつよくなったよね。

 

 

「君に敗けた記念すべき初試合さ」

 

「今回はセオドールだからわからないかもよ?」

 

「……あいつより僕が劣ってるって?」

 

 

 おっと、久々に彼のプライドに火をつけてしまったようだ。

 じっくり見てやろうじゃないか、と双眼鏡を握りしめるドラコにこっそり苦笑いする。ごめん、セオドール。余計なこと言っちゃった。

 試合開始のホイッスルが響く。空の雲行きがどんどんと怪しくなっていく。ああ、ハリーの眼鏡に防水魔法をかけてあげればよかった。

 先制点はスリザリンだ。ブラッジャーにアンジェリーナが妨害され、ブラッジャーを防ぐためのビーター二人はなぜだかハリーに付きっきりで──

 

 

「んん?」

 

 

 ハリーがまたもおかしな動きをしていた。いい加減、クィディッチでは毎度といえるほどトラブルが起こったため、どの年のどの試合になにがあったのかなんて把握しきれていない。

 今回はなんだ? ディメンターは来年だから…………あ!

 

 

「ドビー!」

 

「は?」

 

 

 突然、実家のしもべ妖精の名を叫ばれてドラコは呆けた。

 

 

「言っただろう? 今年はドビーがめちゃくちゃに妨害してくるって! あれもその一つなんだ。ブラッジャーがおかしいの、わからない? あれ、ドビーが操ってるんだよ! ハリーを殺す気だ! あ、いや、本人はちょっとのつもりなんだけど、少なくとも『僕』は殺されると思った!」

 

 

 慌ててドラコが確認した双眼鏡の先には、めちゃくちゃに旋回するハリーがいた。

 この後には、ついでとばかりにロックハートのバカに文字通り骨抜きにされる未来が待ってるんだ! あのでしゃばりのトンチキの無能め!

 

 

「君……そんなことになってたのか……それでよくスニッチなんて取れたな」

 

「感心してくれるのはけっこうだけど、ともかくドビーを呼んで! 君、マルフォイだろ!?」

 

「あ、ああ」

 

 

 パチンッとドラコが指を鳴らせば、おどおどした様子のしもべ妖精が姿を現した。

 本当に、皮肉だけどドラコが今、生徒たちから避けられている状態でよかった。おかげさまで、こんなところにしもべ妖精を引き出しても誰にも咎められない。

 

 

「ドビー、ブラッジャーを操ってるのは君だろう? 今すぐ止めて! 君はハリーを殺す気かい!?」

 

「めっそうもございません! ドビーめは……ドビーめはハリー・ポッターをお救いしようと……」

 

「ドビー」

 

 

 ドラコのひんやりとした声に、ドビーはテニスボール大の瞳を極限までひん剥いた。

 

 

「ドラコ坊っちゃま! これは、ドビーは……ドビーは……」

 

「命令だ。今すぐお前が行っている魔法をやめろ」

 

 

 哀れっぽくうなずいたドビーが指を鳴らす。ひたすらハリーを追跡していたブラッジャーは、次にはあっさりと標的を替えていた。

 しかし時遅かった。僕が見たのは、骨折こそしていないもののスニッチを掴んだハリーが箒から落ちていくところだった。

 

 

「ハリーッ!」

 

 

 立ち上がって、人波を強引にかき分けながら下りる。ドビーのことはドラコがどうにかしてくれるだろう。それよりも今は──

 

 

「この私が完璧に治して差し上げましょう」

 

 

 あの救いようのないバカを止めなければ!

 

 

「ぼ、僕、いいです。このままにしてください」

 

「ハリー、心配めされるな。私はこの魔法を何十回と──」

 

「あなたの応急処置よりマダム・ポンフリーという本職者がいるのでけっこうです!」

 

 

 グラウンドに突然現れた怒り狂う赤毛に場が困惑する。オリバー・ウッドの「ポッター姉か?」という呟きに返答するよりも早く──少女は自身の最愛の弟を抱き上げた。お姫様だっこで。

 去年のトロール事件時にハーマイオニーひとり担げなかったのが悔しくて、ひそかに筋トレしていた甲斐があった。

 

 

「家族の面倒は家族が見ます。失礼します」

 

 

 石のように動けない選手たちをかき分けながら、男前すぎる少女は医務室へと向かう。誰かが呟いた、普通逆だろう……という言葉に、その場にいた誰もがうなずいた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 コリン・クリービーが石にされた──その情報は瞬く間に拡散されていった。なんだかんだと交流のあったハリーは落ち込み、またまたアリバイがなかったドラコはさらに疑われた。仕向けているとはいえ、ドラコにアリバイがないこと自体は偶然だ。君、時々ものすごく運がないよな……。

 生徒たちの疑心暗鬼は加速し、スリザリンはドラコを勝手に王と祭り上げて有頂天だった。ホグワーツ中に不穏な空気が蔓延していた。──そんな最中。

 

 此度も『決闘クラブ』が開催される。

 

 

「なんの価値があるんだ。あの茶番に」

 

「それには同意だけど、とりあえずハリーを守りに行かなくちゃ。ここでハリーのパーセルマウスがバレたら、君の努力が水の泡だよ。一瞬で空気が冷えてすごかったんだから。とっても刺激的」

 

 

 夕食後に貼り紙を見てすぐ、僕とドラコは一直線に大広間へと戻っていた。

 鼻で笑った僕に、ドラコが肩をすくめる。……まあ、蛇を出したのはコイツだし。

 

 

「それに、どこに真犯人が潜んでるかわからない。ジニーの時みたいに、本人には犯行に及んでる自覚がないんだ。ジニーのことは僕が見てるつもりだけど、ジニーは日記に触れてもいない」

 

「……単純に考えれば、スリザリン生が有力か」

 

「あんなガチガチの封を解除できる生徒がいるならね。そいつ、きっと天才だよ」

 

 

 なんたって、ドラコは現状自分に使える能力と、長く生きた未来の知識を持って分霊箱を管理している。大人ですらプロフェッショナルを連れてこない限り無理だと僕には思える。今のホグワーツでドラコ作の封印を解除できるのは、ダンブルドアと闇の魔術に詳しいスネイプ先生くらいだろう。

 それを、生徒がだなんて──七年生の首席だって無謀だ。

 

 だが、現に秘密の部屋の扉は開かれている──

 扉を開く条件に日記とリドルとの交流は必要不可欠のはず。ヴォルデモートの魂でも引っかけてない限り、普通の人間がパーセルマウスを使える可能性はまず無いのだから。

 けれど、日記が飾り箱の中から動いていないことはドラコが毎日確認している。

 ドラコがいない間に行動してるとでもいうのか。それとも──

 

 

「……日記の他に、鍵があるのか」

 

 

 ドラコも同じ考えへ至っていたようで、僕らはとても十二歳がする眼差しでない目で見合っていた。

 

 

「ともかく、今できるのは怪しい人間の観察だけだ。焦ると未来が書き替わってそのうちに死人が出る」

 

「みんなの認識では君が一番あやしいんだけどね」

 

「僕は除け」

 

 

 冗談を交えてクスクス笑う。大広間は長机が撤去されて既に人で満杯だった。三人組を見つけ、やあ、と肩を叩く。ロンとハーマイオニーはドラコを見てビクリと肩を震わせたが、ハリーはふんわり笑っていた。ハリーはドラコのことを欠片も疑っていないのだ。ロンとハーマイオニーも本気でドラコを犯人とは思っていないだろう。

 ふふ、どうだどうだ。信頼されるって、くすぐったいだろう?

 

 

「誰が教えるのかしら?」

 

「誰だっていいよ、アイツでなけりゃ……ゲェッ」

 

 

 ハーマイオニー以外がロンとまったく同じ反応をした。喋らなくても輝く歯がうるさいロックハートと天敵のスネイプのご登場だ。さて、ハリーの中で現在、印象最下位なのはどちらだろう。

 

 ロックハートお得意の自己陶酔演説が始まり、ドラコと嫌味に笑い合う。

 スネイプ先生の決闘の知識がごくわずかだって? 最前線に立つ男がごくわずかならお前の知識は赤子にだって劣るだろうよ。

 散々の美辞麗句を経て、ようやく決闘台へとスネイプ先生とロックハートが立つ。僕とドラコの心はひとつだった。

 

 ──こてんぱんにしてやれ! セブルス・スネイプ!

 

 

「エクスペリアームス!」

 

 

 勝負は一瞬だった。スネイプ先生は欠片も本気じゃない。そんなのにあっさりと吹き飛ばされて、どうして自信過剰のフリをしていられるのだろう。そうするしかないのかな。

 

 

「さぁ、二組になって」

 

 

 気まずげなロックハートが、自身をチヤホヤしてくれる女子生徒の集まりの中へと飛び込む。ハーマイオニーもフラフラ寄せられかけていたので、咄嗟にリードを引くみたいにローブのフードを掴んでしまった。わざとじゃないんだって、睨むなよ。

 

 

「僕とドラコ、ハリーはロンと、ハーマイオニーはパーバティとがいいんじゃないか?」

 

 

 各自、実力が近しいものとで合わせた結果だ。周りでは見事に乱闘が起きていたが、僕らのチームは比較的穏やかだった。

 

 

「ドラコ、僕は魔法、使わないからね」

 

「杖なし魔法もか?」

 

「だって──間違いなくバレるよ」

 

 

 僕らの視線の先はロックハートでなくスネイプ先生だ。

 

 

「……バレるだろうな」

 

「でしょう?」

 

 

 ポンコツの目は欺けても、欺き続けてる人の目は誤魔化せない。

 

 

「アー……コホン、エクスペリアームス」

 

「ハイ、降参です」

 

 

 ヒョイッと奪われていった杖に両手を上げて降参のポーズを取る。ドラコは僕の杖を捕らえて、複雑そうに笑った。

 

 

「この呪文で君に勝ったのははじめてだ」

 

「あれ、そうだっけ? ダンブルドアからも奪えたのに」

 

「言うな。胃が痛くなる」

 

 

 そっと腹を押さえた十二歳の彼に、子供に振り回されていた頃の大人のドラコを見た気がしてなんともいえない気持ちになった。……お互い、苦労したな。

 

 乱闘をスネイプ先生がフィニートで終わらせ、見本模擬戦の時間がやってくる。やっぱり指名されたのはハリーとドラコだった。ハリーと交流のあるドラコを知っていてあてがってくれる辺り、スネイプ先生なりの恩情なのかもしれない。

 今のドラコなら蛇を呼び出すなんて真似はしないだろう。けれども。──念には念だ。

 

 

「先生、よろしいですか?」

 

 

 手を挙げた僕にロックハートの目が向いた。──よし、ロックハートならチョロい。

 

 

「ハリー、実は夕食後から具合が悪いんです」

 

「え? マリ……ングッ!?」

 

 

 僕の肘打ちがきれいにハリーの脇腹へと入ったのを見て、壇上のドラコと隣のロンが通り魔を見る目で僕を見た。

 

 

「実は立っているのも精一杯で……ああっ、ハリー、しっかりして! かわいそうなハリー……私は休んだら? て言ったんです。でも、決闘クラブを先生が……ええ、尊敬するロックハート先生が行われるとお聞きして、こうして無理を押して来ていたんです。でも、もう限界です。ほら、こんなにもつらそう……。まさか、まさか先生は、先生を尊敬するあわれな生徒に無理やり壇上へあがれだなんて……そんなことはおっしゃいませんよね? ロックハート先生はとってもお優しいですもの。そうでしょう?」

 

 

 ドラコとロンが真犯人を見る目で見ていた。あとハリーは本気で涙目だった。

 

 

「ええ、ええ! そういった事情ならばいたしかたありません。しかし、だとすると……」

 

「ですから、私が姉として代わります」

 

 

 ハリーをロンに預けて、ロックハートがうなずく前にドラコの前へと立つ。ドラコは呆れ果てていた。周囲のざわめきは最高潮だった。

 おいおい、姫と王子が決闘だって!? 王子が姫に呪文なんてかけられるのか? 姫こそ王子に杖を向け……向けられそうだな、グリフィンドールの姫なら。でも、大丈夫かしら……だって、彼って……ほら。

 様々に飛び交う声を無視してドラコと握手を交わす。その際に小声で「使うのか?」と問われたので、瞳だけで笑い返した。

 ……ま、杖が聞いてくれるかは別としてね。お前、もしかしてセストラルの尾じゃなくて杖が気まぐれになるとかいうヴィーラの髪が杖芯なんじゃないか?

 

 十分に距離を取り、お辞儀をする。……あ、ちょっとお辞儀をするのだのトラウマがよみがえりそう。

 静まり返った場にロックハートのカウントが響く。一──二──三──

 

 

「「エクスペリアームズ!」」

 

 

 同時に杖を差し向けた。そして飛んだ──僕の杖が。

 軽やかにドラコの手へと収まって、思わず吹き出す。

 

 

「あははっ、やっぱりダメか」

 

「わかってたくせに」

 

 

 杖を返してもらう際、再び囁かれた。──「満足か?」

 ……ああ、満足だ。たぶん、これで正解のはずだ。この杖の本質は、そういうこと。

 

 それからも、まかり間違っても蛇が現れるなんてハプニングが起こることはなく、決闘クラブは平穏に終わった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 杖を振る。手応えはない。そうだ、気付いたんだ。君が応えてくれたのは三度だけ。

 一度目は、落下するネビルを救うとき。二度目は、森でハリーを庇うとき。三度目は、ネビルの拘束を解くため。

 

 君は。

 

 

「僕を守らない杖なんだね」

 

 

 もう一度振ってから、大切にローブの中へとしまい直す。

 ヘドウィグの判断は確かだった。これは、間違いなく僕の杖だ。

 

 ──なんて、マリアらしい杖だろう。

 

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