マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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 それから僕はずいぶんとドラコを無視した。通信紙にだって応答しなかった。ロックハート案のバカげたバレンタインカードが届いたって、絶対に受け取らなかった。

 バジリスクによる襲撃事件が止み、今のうちに犯人を突き止めたいという考えもあったが──なにより、彼のあの日の眼差しを許せそうになかった。

 そうして、何ヵ月も口を利かずにいれば、とうとう三人揃って仲直りしてくれと懇願された。

 

 

「マルフォイ、ほんとうにひどいのよ。あんまりにも顔色が悪くて」

 

「あいつの顔色が悪いのは生まれつきだよ」

 

「なにがあったかは知らないけど、アイツだってきっと悪気はないよ。あのキザ男がマリアにわざと意地悪なんかするもんか」

 

「お言葉ですけど、昔のあいつは性悪も性悪だったよ」

 

「マリア……ドラコ、ほんとうに反省してるよ。どう謝ったらいいかわからないって、この前、僕にそう言ったんだ」

 

「僕が甘いってわかってるハリーを使うスリザリンらしい根性が気に食わない」

 

「「「マリアぁ……」」」

 

 

 情けない声をあげる三人にツーンと顔をそらす。

 子供っぽい? 子供なんだからしかたないだろう。『僕』はハリーよりもずっと癇癪持ちで子供っぽかったさ。

 

 けれども、そんな僕の態度も長くは続かなかった。廊下でふと見かけたドラコの顔色が、ほんとうに信じられないほどに蒼かったのだ。それに、隈まで作ってひどい有り様だった。憔悴している、という表現がぴったりだった。

 

 

「ドラコ……?」

 

「マリア……」

 

 

 フラついた彼を咄嗟に駆け寄って抱き留める。まるで──ダンブルドアの殺害を命じられたあの頃の彼みたいだった。

 

 

「ドラコ……なんて顔色をしてるんだ」

 

「君と、ずっと話したかった」

 

「……僕、意地を張りすぎた。ごめん」

 

「君の意地っ張りは今に始まったことじゃないし、僕らが意地を張り合うのも慣れたことだ。だろう?」

 

 

 弱々しくも挑発的な笑みを忘れない彼に、しょうがないな、なんて肩の力が抜けてしまう。あーあ、もう……許す気なんてなかったのに。

 

 

「ドラコ、どのくらい眠れてないの?」

 

「ん……ちょっと」

 

「オーケー、君のちょっと(・・・・)すごく(・・・)だ。ハリー、僕たち……」

 

「言い訳は任せてちょうだい、マリア」

 

「アリバイ工作もね!」

 

「お昼、取っておくね」

 

「……頼りになるよ、僕の親友たちと弟は」

 

 

 お先に、と変身学の授業へ向かう三人を見送って、久々に湖付近へと腰を下ろした。湖から流れてくる風はほどよく冷めていて、日射しとの対比に春を感じさせた。

 

 

「君と話せないのは、思った以上にこたえた」

 

 

 ポツリと、覇気なく声は落とされた。

 

 

「ん、僕も大人げなかった。ごめん」

 

「……もう怒ってないのか?」

 

「ついさっきまでは怒ってたけど──君の顔を見たら忘れちゃった」

 

 

 コツ、と額を突き合わせる。頬を両手で包んでみれば、子供らしいやわらかさが失われていて、罪悪感がシクシクと刺激された。

 こんなになるまで……バカだな、もう。

 

 

「喧嘩と呼ぶには一方的だったけど……仲直り、だ」

 

「ああ」

 

 

 うつらとブルーグレーに睫毛の影がかかったところで、彼の頭を僕の膝へと誘導した。ドラコは抵抗しなかった。

 

 

「おやすみ、ドラコ」

 

「おやすみ、マリア」

 

 

 春の風にあおられて、ようやく、雪が解けた心地だった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ハグリッドが魔法省に連行されたという情報が入った。その上、ルシウス・マルフォイの謀略によってダンブルドアの停職が決まった。ペネロピー・クリアウォーターが石になってすぐのことだった。

 これらは、透明マントを使ってその場にいた三人から聞いた話だ。

 

 

「確かに、ハグリッドは大きな──ちょっとデンジャラスな生き物を飼いたがるところがあるわ。でも、だからって……」

 

「五十年前──五十年前になにがあったんだろう。トイレで死んだ女の子、水溜まり、おかしな動きをしていた蜘蛛……」

 

「ハグリッドが犯人なわけないさ。秘密の部屋を作ったのはサラザール・スリザリン。スリザリンだぜ? ハグリッドがスリザリンなもんか!」

 

 

 リドルの日記からハグリッドが追放された日の光景を得ていない三人は、どうにも行き詰まっていた。けれど、今回はハーマイオニーが無事だ。ハーマイオニーがいれば必ず真実へたどり着く。前回でも、彼女はバジリスクを突き止めていたのだから。

 ダンブルドア不在で生徒たちどころか不安感が教師陣へも伝染する中、二度目のクィディッチ試合がやってきた。相手はハッフルパフだ。朝に厨房で会えた(こんな日に限って寝坊したのだ。朝食を食いっぱぐれた。)セドリックを激励した僕は、次にグリフィンドール用の控え室まで来ていた。

 

 

「あれ? ハリーは?」

 

「それがまだなんだ」

 

「寝坊かしら」

 

「オリバーはもうおかんむりよ」

 

 

 すでに揃っている選手陣から口々に答えられる。

 どうしたんだろう、ハリー。僕も寝坊したし、彼もそうなのか。

 

 

「僕が探しに行こう」

 

 

 扉の向こうで話を聞いていたドラコが声を上げる。選手たちが彼を見て目を剥いた。

 

 

「マリアはそこにいればいい。ハリーが来た時にすれ違いになる」

 

「ああ、うん。ありがとう、ドラコ。それじゃあお願いするよ」

 

 

 ドラコが去るのを息を殺して見守っていたグリフィンドールの選手たちは、緑のローブが消えた瞬間にワッと僕へと詰め寄った。

 

 

「やだ、あなた、まだ付き合いがあったなんて……それにどうするの? ハリーにもしものことがあれば……」

 

「ドラコは犯人じゃないよ、アリシア」

 

「それは……あなたはそう思うのかもしれないけど……」

 

 

 ウィーズリーの双子を除いて、皆が渋面だ。ウィーズリーの双子は、三人組につられてなんだかんだとドラコとも交流があったので、この場ではハリーを除いてもっともドラコの性格を知っていた。ドラコは犯人じゃないと、迷いなくうなずいてくれた。それはそれとして「これはこれは継承者様!」だなんてからかい倒してはいたけれど。

 

 

「ハリーはすぐ来るさ。どうせ寝坊だ。それよりいつもの演説は──」

 

 

 いいのかい、オリバー? ──フレッドの言葉は続かなかった。

 おそろしく緊張した様子のマクゴナガル先生が、クィディッチの中止を呼びかけたのだから。

 

 

「「「ハリーだ!」」」

 

 

 着替えるのも忘れて皆が飛び出す。僕もそれに続いて、マクゴナガル先生の元へと駆けた。

 

 

「せ、先生、いったい……」

 

「ああ……ミスポッター……ついていらっしゃい。それから、ミスターウィーズリーも」

 

 

 観客席からこちらへ向かっていたロンが真っ青で僕を見る。この二人が揃えられるってことは──まさか。

 

 

「また襲われました。──今度は二人です」

 

 

 喉はすっかりからからだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 僕とロンとマクゴナガル先生は、神妙な面持ちで医務室へと向かっていた。マダム・ポンフリーが僕らを通す。沈痛としている。──ああ、やっぱり。

 

 

「ハーマイオニー!」

 

 

 ロンが声をつまらせて冷たい彼女の手に触れる。あれだけ──あれだけ一人になるなと言ったのに──!

 しかし、ロンの絶望はハーマイオニーのみにとどまらなかった。

 

 

「……ジニー?」

 

 

 ずっと見守っていたはずの彼女が──前回で犯人だった彼女が、ハーマイオニーと同じ顔で石になっていた。

 

 

「どうして……」

 

「二人は図書室の近くで見つかりました。心当たりは?」

 

 

 マクゴナガル先生の声に、痛ましく動揺するロンが答える。

 

 

「僕たち、ハリーの応援に行くはずだったんです。でも、ハーマイオニーが突然、調べたいことがあるって。図書室に行きたいって──それで、一人はまずいから後にしようって言ったら、それならわたしがついてくわって、ジニーが……」

 

 

 ああ、なんてことだ。一人行動を避けろと言ったのが仇になるなんて。

 

 

「そうですか……私はこれから先生方への報告に行きます。二人はここで待っていなさい。寮まで送りましょう」

 

 

 厳格な彼女は存外、人情事に弱い。いつも厳しく引き締められている目元には、少しの涙が浮かんでいた。

 マクゴナガル先生が去り、マダム・ポンフリーも席を外したところで、僕はじっくりと二人を観察した。

 

 

「ロン」

 

「ハーマイオニー……ジニー……」

 

「ロン、気持ちはわかるけど聞いて。ハーマイオニーはなにを握ってる?」

 

「え? なにって……なんだこれ」

 

 

 ロンがハーマイオニーの手をパッと放す。そして、固く握りしめられたそこから破られたページを捻り取り出した。

 

 

「バジリスク……? こ、これって──!」

 

 

 バジリスクの説明が載ったページと、ハーマイオニーによって付け加えられたパイプの文字。

 

 

「バジリスク──バジリスクなんだ! 秘密の部屋の化物は! ハリーに知らせなくちゃ」

 

 

「────」

 

 

 ハリー、は。

 

 大きな声を上げるロンヘ、マダムが来てしまうから静かに──と注意をする前に、もっと大きな声によって僕らの会話は遮られた。

 ──クィディッチ中止の報せよりも、より大きな警告に。

 

 

「生徒は全員、寮に戻りなさい。教師は至急職員室へとお集まりください」

 

 

 ──うそ。

 

 

「え、どういうことだ? マクゴナガル、迎えに来るって……」

 

「ロン、寮に戻ろう」

 

「マリア? でも、」

 

「いいから! すぐ!」

 

 

 ロンの腕をとって走り出す。廊下を走るなと注意する教師のいない廊下は、パニックの生徒で溢れかえっていた。

 なんたって、純血のジニー・ウィーズリーが被害にあったのだから。もう、純血だとか、混血だとか、そんなのは関係ないのだ。

 

 どうしよう。どうしよう。

 走っているだけが理由でない心臓は、痛いくらいうるさかった。

 

 

 犯人は──そして連れさらわれた生徒は────ハリーだ。

 

 

 ずっと考えていたことだった。ハリーが、なにかを僕に伝えようとしてくれたあの日から。

 アリバイがないハリー。なにかに怯えるようにしきりに周囲を見回していたハリー。思い詰めていたハリー。ジニーのように、勇気を振り絞ってくれたハリー。

 

 秘密の部屋の鍵がリドルの日記なのは、日記に魂を注ぎ込み、リドルに操られることで蛇語を話せるようになる必要があるからだ。蛇語こそが真の鍵で──日記を利用せずとも、蛇語を扱える人間はここホグワーツにはひとりだけ。

 

 人混みを割きながらグリフィンドール塔を駆け上がる。こんな時に限って通信紙を部屋に忘れてくるだなんて──僕の大間抜け!

 鍵となるハリー本人がさらわれたとなると、どうやって扉を開けばいいのか。

 ハーマイオニーには聞けない。僕だけじゃ思い付かない。ドラコに、相談しないと────

 

 

「──マリア!」

 

 

「…………へ?」

 

 

 談話室へ飛び込んだ僕を、ハリーが受け止めた(・・・・・・・・・)

 

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