マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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4ー3

 

 透明マントをかぶり廊下を駆ける。まずは腰抜けの捕獲からだ。

 

 

「──よろしいでしょうか、ロックハート先生」

 

 

 ガタン、ゴソゴソ。と、物を雑に移動させる音がもれる扉にノックをすれば、息を止めたかのような沈黙に迎えられた。

 

 

「よろしいでしょうか、ロックハート先生。マリア・ポッターです」

 

「……あ、ああ、ポッターさん。なにかな、私は少々、忙しくしていてね」

 

「マクゴナガル先生より、預かり物を届けにまいりました」

 

 

 隣のハリーから胡乱な視線をいただいてしまった。ちゃんと意味のあるウソだから許してよ。

 

 

「そ、そうですか……それはけっこう」

 

 

 扉が顔を出せる程度に開き、ひきつった顔の似非ハンサムが姿を表した瞬間、僕はそれにグーを叩き付けていた。そのまま拳を振り下ろして杖腕へと当てる。ロックハートの手からこぼれ落ちた杖を宙で受け取って、本人へと突きつける。

 

 

「ステューピファイ!」

 

「あひゃんッ!」

 

 

 なんかちょっと艶かしい悲鳴を残してロックハートは気絶した。ハリー時代から含めて、一番まともに入った気がする。

 

 

「ウワァ……」

 

「ブラキアビンド……いや、わかりやすくインカーセラスかな」

 

 

 ハリーの引いた顔なんて見えてない、見えてない。

 室内へと入り、案の定まとめられようとしていたトランクを蹴りつけながら、羽根が邪魔なだけのロックハートいわくサイン用ペンを取ってメモを残す。

 

 

「えー……この男は詐欺師で……忘却術で……また、逃走をはかり……真実薬使用推奨、と」

 

「ようしゃないね……マリア」

 

「犯罪者だもの」

 

 

 元闇祓いとしては、ね?

 

 簀巻きにされ目を回しているロックハートの顔にメモをバッチンと貼り付ける。

 

 

「よし、ロックハートの処理は終わり。さ、マートルのトイレに行くよ。ハリー」

 

「……ハァイ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 トイレはひどく水浸しだった。またマートルが癇癪を起こしているのだろう。透明マントを一番目のトイレの便座に置いて、マートルへと声をかける。

 

 

「マートル、顔を出してくれない? 君が死んだときの話が聞きたいんだ」

 

「あら、あんた──ウゥ、いいわよ。あたしはね、ここで死んだの」

 

 

 生き生きとした──死んでるけど──マートルが死に際の様子を語りながら、バジリスクの目が見えた付近を指す。例の蛇口だ。

 

 

「ハリー、開けって言ってみて。蛇語で言うんだ」

 

「蛇語……」

 

「蛇口を蛇と思い込んで」

 

 

 ハリーが呟く。「開け」──人間の言葉だ。

 

 

「もう一度。この辺り、蛇の彫り物があるだろう? そこを見て言ってみればいい」

 

「うん……」

 

 

 ──「『開け』」

 

 

 ハリーには人の言葉に──そしてマリアにはシューと喉から息だけを吐き出すような音に聞こえた。

 ただの人間からはこんな風に聞こえるのか……そりゃ、気味悪くも思うだろうな。

 

 蛇口が回り始め、手洗い台が沈んだ。大きな洞穴がそこに現れていた。何度見ても不気味だ。

 

 

「……ねえ、マリア」

 

 

 穴に足をかけていた僕を、ハリーのひっそりした声が止めた。

 

 

「ドラコに、言っていかなくてよかったのかい? ほら、いつも一緒だから……きっと心配すると思うんだ」

 

「ああ、それなら──メモを残しておいたから」

 

 

 通信紙にだけど。

 いつドラコが見てくれるかはわからないけれど、気付き次第追いかけてきてくれるだろう。穴は一応、一定の間は開いたままになるはずだ。

 

 思えば、リドルの日記で大騒動が起きてるっていうのに、恩恵ばかりを受けている通信紙のモデルがその日記だなんて、痛烈な皮肉だ。

 ハリーが犯人でなかった今、さらわれた生徒が日記も使わずどうやって部屋を開けたのかもわからない──し────

 

 

「……マリア?」

 

 

 パチリと。急速に線が繋がっていく。

 

 日記を使わずに扉を開くなんて可能か? 無理だ。無理なんだ。日記は確実に使用された。

 では日記はどこの誰に渡った? ──どこの誰にも渡っちゃいない(・・・・・・・・・・・・・)

 

 日記はどこにも移動していない。ずっとずっと──そこにあったんだ(・・・・・・・・)

 

 

「……ああ……」

 

 

 そうだ。確認してたじゃないか。何度も何度も──僕と『彼』は確認したじゃないか!

 

 前回、ジニーが予兆を見せたのは風邪が流行した時だ。ジニーの体調の悪さは別にあって──今回もジニーは調子を崩していて────そして、『彼』も崩した。

 その前から顔色はどうなっていた? 去年再会した時、彼は健康そうに見えた。けれど、今年は? 吸血鬼に見えた頃の蒼白さに戻っていた。

 この時、僕はもっと疑問を覚えるべきだった。下がっていく体温に気付くべきだったんだ──!

 

 

「……ハリー、行こう」

 

「マリア……?」

 

 

 穴を滑り落ちる。頭がガンガンと警鐘を鳴らしていた。ハリーがルーモスで光を灯し、全身どろどろのままトンネルを歩く。蛇の脱け殻を抜け、二匹の蛇の彫刻が絡み合った壁へとたどり着く。

 ハリーが囁く。「『開け』」

 

 

「マリア……ねえ、君、ひどい顔色だ」

 

「ハリー、立ち止まれないんだ」

 

 

 足を進める。喉がひきつる。

 

 僕は何度も、自分の口で言っていた。──本人には、自覚がない。

 だって、そうだ。──その人は操られているのだから(・・・・・・・・・・)

 

 自覚がない。──書き込んだ(・・・・・)、自覚すらないんだ。

 

 柱の間を進む。指先が冷えていた。感覚がない。ハリーがそっと握ってくれる。

 

 日記はどこにもいっていない。

 日記には厳重な封印がされていた。とても他人に解ける代物ではなかった。

 

 

 巨大な石像の下に子供が死んだように眠っている。

 

 

 

 なら────本人(・・)しか、いないじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は、日記を抱いて眠っていた。

 

 

 

「────ドラコ」

 

 

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