サラザール・スリザリンについての話
ハーマイオニーが何かしらの本を読んでいるのはいつものことだが、ここ最近はジャンルが統一されていた。──歴史書だ。
「サラザール・スリザリンの残した化物が潜む部屋。──やっぱり、本から得られる情報はこの程度ね」
疲れ目を押さえるハーマイオニーの後ろから、ロンがオーバーにリアクションする。
「まったく、このサラザール・スリザリンってやつは狂ってるよ。だから他の創立者から追い出されるんだ」
「──それは、ちがうと思うな」
ハッと、ハリーとロンとハーマイオニー──いつもの三人組の目がひとつに集まった。ソファへ寝転びぼんやりしている赤毛の美少女──マリアだ。
いつもならハーマイオニーが、はしたない! と叱るところだが、彼らは彼女の雰囲気がどこかちがうことに気付いていた。特に、ハリーは。
「嫌われもので誰とも意見を交えない奴だったなら、寮としていつまでも名前を残したりしない。千年経った今でもスリザリン寮が一つの思想として尊ばれるのは、そこにサラザール・スリザリンへの敬意があるからだ。誰かに尊敬される人間が、君の言うクズなだけだったとは、僕には思えない」
齡十二の少年少女は、彼女の語る言葉がなんだかひどく難しいもののように思えて困惑した。三人──否、十二歳の同級生たちの中でもっともかしこいハーマイオニーはどうにかマリアの言葉を噛み砕こうとしたが、残す少年二人はすっかりお手上げだった。
「でも、サラザール・スリザリンは純血主義で、だから他を追い出そうとして……」
「うん。そこからたぶん、『伝言ゲーム』になっちゃったんじゃないかな」
「伝言ゲーム?」
ロンが首をかしげる。
「人へ伝えていくごとに少しずつ間違えて、結局一番はじめに伝えられた意図がまるっきり変わっちゃうこと」
あれか。とハリーはプライマリースクールでの嫌がらせの一つを思い出した。
「これは、あくまで僕の推測にすぎないけど……純血が貴族に多い点から見るに、サラザールはノブレス・オブリージュを伝えたかったんだと思う。純血はその血ゆえに元々魔力が強い。操れる操れないは別にして、単純に、ね。だから、特に教育して弱きを導けるものにしたかったんじゃないかな。それが、いつしか湾曲して今の純血思想に落ち着いてしまった──」
子供たちはすっかり聞き入っていた。同い年であるはずの少女の演説に。素直に、とても説得力がある気がした。
なにより、マリアの言葉である、というのが大きかった。──この少女は同級生たちに比べずいぶんと大人びているのだ。
「──なんてね。全部、僕の想像の話だ。だから、まあ、うん──僕はわりとスリザリン、嫌いじゃないよ。ドラコみたいな生徒もいるわけだし?」
ドラコの名前を出されて、三人は唸らざるを得なかった。
うーん、確かに。ドラコ・マルフォイは性格はスリザリンらしいけど……そんなに、嫌なやつではない。ロンですら、そこは認めている。
眉間にシワを寄せ懸命に考える子供三人へとマリアは微笑んだ。
彼らは、かしこくて、思いやりがあって、勇気がある。今は難しくとも、きっといつか、本質を見ようと努力してくれる。
子供の身の内に大人の傲慢な真心を持つ少女は、一分一秒だって成長している子供たちを今日もまぶしく思うのだった。
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[chapter:ドラコとドビーの話]
「それで? お前はなにを思ってハリーに害を為しているんだ?」
なるべく関わらないようにしていた我が家のしもべ妖精に、ドラコは感情を抑えて問いただした。
ドビーはめっそうもない、めっそうもない、と耳をパタパタ振り回しながらくり返していた。
「ハリー・ポッターは危険なのです。ホグワーツにいてはならないのです。ハリー・ポッターは帰らねばならない」
「お前のせいで十分、危険な目に遭ってるといえるが?」
「さらに恐ろしい災いがふりかかるのです!」
ドビーはキーキー喚きながら懸命に訴えた。ドビーだって、ただただ必死なだけなのだ。
「なにがどう危険なんだ。命令だ、答えろ」
「ご主人様の命がございます。ドビーは余計な口を利いてはならない! ……しかし、ご主人様もお知りではない」
「……父上が?」
「ご主人様はお知りでない! 利用されてございます! ですがドビーはそれをお教えできない!」
ほろほろと涙を流すドビーに、ドラコは面食らっていた。……しもべ妖精が泣くだなんて。
前回から見ても、こんなに感情豊かだったなんて、知らなかった。
「ご主人様は利用され、ハリー・ポッターは狙われている」
「……それは、秘密の部屋に関することか?」
ドビーが驚いてぎゅうっと目を瞑ったのが答えだった。
「……それなら、とっくに開いてる。中で何が起こっているかも把握して、」
「いいえ!」
ドビーは大きく遮った。
「坊っちゃまはお知りでない!」
「ドビー……日記のことなら僕たちは、」
「いいえ、いいえ! 坊っちゃまはお知りでない! ハリー・ポッターは危険です! ──坊っちゃまがお側にいらっしゃるのだから!」
「────は?」
ドラコが聞き返す前に、ドビーはいっそう怯えた顔で姿眩ましをしてしまった。きっと屋敷へ自分を罰しに行ったのだろう。
取り残されたドラコはその場で考えるしかなかった。
ドラコ・マルフォイが側にいるから危険──その意味を知るのは、あと少し先の話だ。