マリアとハーマイオニーが女の子する話【下着編】
ハーマイオニーはカンカンだった。
確かに、彼女の着替える姿を見たことはなかった。パジャマに着替えてしまえば夜更かしもしないで寝ることが多かったし、彼女はベストやセーターを愛用していた。まだ兆しを見せるだけの幼い膨らみは、それだけで隠せてしまえる程度のものだっただろう。
──けれど、だからといって。
「ブラジャーをしていないなんて──!」
案の定、カミナリを落とされたマリアはちんまりとジャパニーズ正座をしていた。
「生理用品は持ってない、ブラジャーもしてない。前代未聞よ」
「前代未聞ですか」
「未曾有の大事件よ」
意味は一緒だがなんだか深刻さが増した。
「とにかく、あなたの家庭環境が想像をはるかに超えて劣悪だということはよくわかりました。年頃の娘にまともな下着すら与えないなんて……持ってもいないんでしょう?」
「持ってもないですね」
「……わたしのをあげるわ。もちろん新品よ。そうね……マリアなら暖色系かしら」
ハーマイオニーのトランクから真新しい、封すら開けられていない淡いオレンジ色の下着を取り出されて、マリアはたいそう慌てた。
「ま、待って、受け取れないよ」
「受け取るのよ。無論タダじゃないわ。代金はしっかりいただきます。わたしは、手に入れる機会のないあなたに代わって提供するだけ。……これなら気後れしないでしょう?」
フリルの愛らしい布を手に押し付けられて、さあ、と笑顔で凄まれたマリアは、光によって宝石みたいにキラキラする瞳をまたたかせた。
「それは……とても助かるけど。さあ、って?」
「あなた、着け方だって知らないでしょう。脱ぐのよ」
「…………」
「さっさと上だけ裸になりなさい」
ここだけ聞けば誤解を生む会話間違いなしだ。心底この場に他の同室者がいなくてよかったとマリアは冷や汗をかいた。
「つ、着け方くらいわかるよ。あの、後ろ手でホックをかけるんだろう……?」
「それ、口で言うのは簡単だけどけっこうむずかしいわよ。やってごらんなさいよ」
「実践!?」
「ちゃんと見なくちゃ安心できないわ。この手のことに関してはあなたの信用はゼロなんだということをよーくに肝に銘じておくことね」
ハーマイオニーの厳しい目にたじろぎつつ、しかしマリアは動き出せない。マリアは普通の女の子ではないのだ。女性の前で裸体をさらすなど……どちらかといえば自分が露出系の犯罪者になった気分になるのだ。
「恥ずかしいならわたしだって脱ぐわよ。見本はあった方がわかりやすいものね」
「もっと悪いよ!?」
「なにがよ」
目を剥いたマリアにハーマイオニーは首をかしげるしかない。ハーマイオニーはマリアとは逆に普通の女の子なために、女同士でここまで恥ずかしがる意味がわからないのだ。
「わかった、脱ぐ、脱ぐから──君が脱ぐのはやめてくれ」
ご両親とロンに申し訳なくなる。
今にも羞恥で死んでしまいそうなマリアは、懸命に床だけを睨みながらセーターとシャツを脱いだ。
「……あなた、着やせするのね」
「あんまり見ないでよ……」
耳まで真っ赤にして胸の前へと腕を持ってくるマリアに、ハーマイオニーは無性にいけないことをしている気分になった。なんだこの、いたいけな生き物に無理強いしてるみたいな空気は。
「……ウゥン、コホン。それじゃ、着けてみて。サイズ、もしかしたら小さいかもしれないし」
「う、うん……んん?」
思った以上にマリアの初・下着着用は難航していた。──ホックの位置がまったくわからない。引っかけようとしても布が邪魔だ。
「ね? むずかしいでしょ?」
「ほんとだ……女性は毎日これを留めてるのか。すごいな」
「他人事じゃないのよ。今日からあなたもするの」
「アッハイ」
ハーマイオニーの茶色い瞳が鋭く光ったので、マリアは反射的にうなずいていた。ハーマイオニーには逆らってはならないと彼女は魂レベルで刻まれている。
「はじめは前で留めてクルッと背中へ回すのをオススメするわ」
「前で留めて……? ──ってワァァ! なにするのさ!」
ブラジャーを取り上げられ、咄嗟に身を抱きしめた。そんなマリアにハーマイオニーは呆れ返っていた。
「まるでわたしが痴漢みたいな反応ね? ほら、シャンと立って!」
「は、はい」
羞恥を懸命に殺して背を伸ばす。ハーマイオニーによってテキパキと着付けられる。
ホックを胸の下で留めて、クルリ。最後にストラップへ腕を通せば完成だ。
「ナルホド……」
「うーん、やっぱりわたしのサイズだと少し小さいわね。憎たらしい」
マリアを上から下まで眺め回したハーマイオニーは──そして突っ込んだ。手を。ブラジャーとマリアの胸の間に。
「ッひゃわあ!?」
すっとんきょうな悲鳴を上げて逃れようとするマリアを押さえ付ける。マリアはもうこの上なくゆでダコであった。
「ちょっと、暴れないで」
「な──な──な────」
「これが大事な行程なのよ。いい? 女性の下着は保護だけじゃないの。形を美しく整える意味があるのよ。こうやって、ちゃんと下からすくいあげて、収まるようにしなきゃ。……聞いてる?」
「ひゃい」
最早マリアの羞恥は限界だった。
今すぐロンに土下座したい。人様の(未来の)奥さんに何をさせてるんだ。
「ん、やっぱりオレンジ、似合うわよ。今日は一日これを着けてなさい。まずは慣れないとね。わたしはふくろう通販のカタログを探してくるわ」
「ハイ……アリガトウゴザイマシタ……」
上半身が下着姿のままぐったりとベッドへ突っ伏したマリアは、心から思っていた。
女の子って、大変だ。