マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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2ー2

 

 履修登録をハリーとまったく一緒にした僕は、今、彼女を前にしてなんとも言えない気持ちで苛立つハーマイオニーをなだめていた。

 

 

「あなたはグリムに取り憑かれています」

 

 

 トレローニー教授だ。牛乳瓶みたいな大きくて厚い眼鏡越しに、ハリーを憐れんでいた。ウゥゥゥ、と彼女いわくの世にもおそろしい未来を垣間見て声を震わせている。

 彼女が予言者だっていうのは……ウン、間違いではないんだけどね。

 

 

「わたしにはそうは見えないわ」

 

 

 ハリーのティーカップに残った茶葉を眺めて、ハーマイオニーはうさんくさげに吐き捨てた。トレローニーがひっそりと眉をひそめた。

 トレローニーとハーマイオニーの確執が始まった瞬間だった。

 

 

「ねえ、君、ほんとうにグリムを見てないの?」

 

 

 変身学にて、死の宣告をされたハリーに、マクゴナガル先生が実にブラックなジョークを交えてくれたことによって話題は流れたかと思いきや、ハリーよりもよっぽどロンの方が気にしているようだった。

 ハリーと僕は顔を見合わせた。

 

 

「「見たよ」」

 

「エーッ!?」

 

「とってもかしこくておとなしいグリムだったよ」

 

「グリムがあんなに人懐っこいなんて、僕、しらなかったよ」

 

「ちなみにグリムの好物は骨付きチキンさ」

 

「そして毛は真っ黒。きれいにすれば触り心地ばつぐんだと思うよ」

 

 

 クスクス笑い合う。本気で取り合ってもらえないロンはいかにグリムがおそろしいかを、被害に遭った(とロンは考えている。)親戚の名を出して諭すも、効果はなかった。

 

 昼食後はスリザリンとの混合授業の魔法生物飼育学だ。どうやら僕たち以降に怪物の本を求めた生徒は、本のなだめ方を店主より聞いたらしく、ちらほらとおとなしい本が見受けられた。

 

 

「こんな本を生徒に持たせるなんて、気が狂ってるよ」

 

 

 緑ローブの中から冷ややかな声がこれ見よがしにハグリッドへと向けられた。セオドール・ノットだ。彼の手にはベルトで締め上げられてなお暴れ狂う本があった。

 おや、彼はかつてのマルフォイよりは大人だと思ってたんだけど。まだ冷静っぽく話せる辺り、バカではないだろう。

 まったく、この頃のマルフォイときたらほんとうに手当たり次第で──いや、水に流すと決めたじゃないか。落ち着け、僕。

 

 

「ごきげんよう、ミスターノット。私たちは本のなだめ方を書店の店主から教えてもらえたんだけど……君は聞かなかったのかい?」

 

 

 ハグリッドが初っぱなからつまずいてしまわないよう嫌味を持って返す。暗に店主に選り好みされたのかと笑った僕にセオドールは実に忌々しげに顔をしかめた。

 

 

「やあ、双子の出来損ない。バカの混血がかしこぶらないでもらえるかな。男の真似をいくらしたところで君はただの女だ」

 

 

 セオドールの言い草に、グリフィンドール勢(特に女性陣)は非難ごうごうだった。なんて時代遅れな差別意識なんだ。

 

 

「お言葉ね、ノット。ところで、お供を引き連れていないと女の子ひとりへの文句もままならないどこぞの誰かの女々しさに比べれば、あなたいわく女なマリアの方がよほど男前だと思うんだけど?」

 

 

 痛烈に返したのはハーマイオニーだ。クスクスと笑いが上がる。

 このままでは授業にならないと察したハグリッドは、下手くそな咳払いで無理に注目を戻した。

 

 

「ウン、そんじゃあ、授業だ。すんげぇのを見せてやるぞ。ちぃと待っとれ。ええか、喧嘩せずに待ってるんだぞ」

 

 

 しかと釘を刺したハグリッドが森へと入っていく。相性最悪の赤と緑に無茶を言う──とは思うが、彼としても初授業で乱闘を起こされるなんて堪ったものではないだろう。

 比較的ハグリッドに友好的なグリフィンドールの生徒たちは、スリザリンを無視することに決めた。

 

 セオドール・ノットか……おそらくハグリッドが連れてくるのはヒッポグリフだ。あの頃のマルフォイみたいなバカはしないと思いたいけど──注意はしておくか。

 

 ちらりとスリザリン側を横目で見れば、ドラコと目が合った。そしてあっさりそらされる。涼しそうな顔をしているけれど、僕にはわかる。あれは昔を思い出してうんざりしている顔だ。

 ちなみに、先程の小競り合いにドラコは初めから首を突っ込まない体勢でいて、ハリー含む三人組は大変不満げだった。

 

 

「こんな時に好きなやつを守れないなんて男じゃないね」

 

「マルフォイってこういうところ、冷たいわ。ええ、ええ、スリザリンらしくてけっこうよ」

 

「僕のことはともかく、マリアのことは庇ってくれたっていいのに……ドラコのやつ」

 

 

 ぶつくさ文句を言う三人にウーンと困った顔で笑ってしまう。

 ドラコにはドラコの立場があるし……グリフィンドールに下手な味方をしないことは僕らの中では了承済みなんだけど──三人にはまだわからない話だろうね。

 ドラコがわざとそうしてる限りは、僕が彼を庇いだてしないことも暗黙の了解の内にあるので、当分、誤解は解けそうにない。

 

 ままならないな、と子供たちを眺めていると、ヒッポグリフを何頭か連れたハグリッドが戻ってきた。見惚れるもの、おののくもの、距離を取るもの──生徒たちの反応は様々だ。ハグリッドはご機嫌にヒッポグリフとの交流の仕方を説明すると、今回も一番乗りにハリーを指名した。

 

 

「よーし、よーし、さぁそこで礼だ……そんでええ……」

 

 

 戸惑いながらも頭を下げたハリーに、ヒッポグリフのバックビークが目をくるりとさせて前脚を折る。成功だ。バックビークの背中に乗せてもらえたハリーは、空高く舞い上がった。

 

 

「すっげぇや、ハリー」

 

 

 青空に浮かぶシルエットを眺めて羨ましげにするロンに心の中だけで返す。──ちっとも、優雅な空の旅なんかじゃなかったよ。

 ハリーが戻ってきて、その後もバックビークになつかれている様子に勇気づけられた生徒たちが、次々にヒッポグリフの前へと立つ。僕も白い羽が美しい──通りすがったハグリッドが雌だと教えてくれた。どこで判別するのかさっぱりわからない──レディのお相手をつかまつり、存分に嘴や艶やかな毛並みを堪能させてもらった。ところどころから感嘆の息や楽しげな声が上がっていて、おおむね成功な授業なんじゃないかと胸を撫で下ろしたところで──

 

 

「簡単じゃない。こんな醜い怪物に触らされるなんて、どうなることかと思ったけど」

 

 

「──マリア!」

 

「マルフォイ!」

 

 

 やらかしてくれたのはセオドール・ノットではなくパンジー・パーキンソンだった。ドラコが咄嗟にパーキンソンのローブを引き、僕が間に体を滑り込ませる。パーキンソンを引いてくれたおかげでできた隙間は、僕の腕だけを犠牲にパーキンソンとヒッポグリフの命運を救った。……念のためスリザリン生の近くにいてよかった。今回はどうにか間に合った。

 

 

「マリア! なんてことを……医務室にはやく!」

 

「このくらいはかすり傷だよ」

 

「バカを言うな!」

 

 

 ハグリッドは殺気立つヒッポグリフをなだめていて、ハリーは僕の腕を取って今にも倒れそうな顔だ。バジリスクの件以来、ハリーは僕の怪我に敏感なのだ。

 

 

「ドラコ、ありがとう。わたし……わたし……」

 

「パーキンソン、あなたが礼を言うべき人はもう一人いるんじゃないの」

 

「誰もグリフィンドールに助けてくれなんて言ってないわ。そいつは勝手に蹴られたのよ」

 

「あなた……!」

 

「いいよ、ハーマイオニー。……ハグリッドのこと、お願い。──もう少しおとなしい動物から始めた方がいいかもって、言っておいて」

 

 

 小声で加えて、急かすハリーに従って医務室へと向かう。だくだくと落ちていく血に、廊下が汚れるなあ、なんてぼんやり思う。

 

 

「マリアは……どうしてもっと自分を大切にしてくれないの」

 

「してるつもりなんだけど」

 

「してないよ! あんなやつ、庇う必要なかったんだ。見たかい? 命の恩人に感謝すらできないんだ」

 

 

 ドラコにしなだれかかりつつ器用に僕を睨んでいたパーキンソンを思い出す。

 なんだろう、それなりに厄介者たちと生きてきたハリーとしての意識があるからか、あのくらいはかわいいものと思ってしまうというか──むしろ潔いというか。……ドラコのことがほんとうに好きなんだろうな。残念ながら彼にはアステリアがいるけど。

 

 

「僕、時々マリアが──」

 

 

 続く言葉はなく、医務室の主人に回収された僕は、なんだか小さく見えるハリーの背を見送るしかなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「医務室通いが趣味の姫君、お加減はいかがかで?」

 

 

 目の前にサンドウィッチを置かれて、野菜が足りない気分だった僕はモッシャモッシャとそれを三口でたいらげてしまった。ハーマイオニーがここにいたなら、一日三回はお約束のはしたない節が炸裂するだろう有り様だ。

 夕食をハリーとロンが持ってきてくれたはいいものの……彼らってば、見事に肉ばかりなんだもの。さすがに胸焼けだ。そのうえ、部屋中に充満した臭いのせいでマダム・ポンフリーに睨まれてしまった。

 

 

「もうとっくに良いよ。……ヒッポグリフの鉤爪の具合なら君の方がよく知ってるだろう?」

 

「なんの話だか」

 

 

 すっとぼけられて、無事な方の手で頬をつねっておいた。

 

 

「パーキンソンはどうだい? なんともなかった?」

 

「無傷も無傷さ。ありもしない傷ですり寄ろうと必死だ。まったく、たくましいものだな」

 

「スリザリンだね」

 

 

 三角巾に吊られた腕を振ってみてクスクス笑う。恋する乙女の行動力をなめてはならない。ハーマイオニーとジニーとそれからトンクスから僕は学んだんだ。

 

 

「気を付けなよ? どこで愛しのアステリアに見られるか──もう顔合わせは済んでるの?」

 

「ああ。純血貴族にはパーティーだの会食だの、面倒な横の繋がりが必須だからな。歳の近い子供は大体が顔見知りだ」

 

「あ、そうなんだ。じゃあちゃんと汽車も二人で来れたかい?」

 

 

 ニンマリする僕に、ドラコはどこかくたびれた風に視線をそらした。

 

 

「そこまでの仲じゃあない。大体、ダフネと一緒だっただろう」

 

「ダフネ?」

 

「ダフネ・グリーングラス。スリザリンの同級生だ」

 

「つまりアステリアの姉、と」

 

 

 なら、ドラコは──クラッブとゴイルからも距離を取っているドラコは、『あの時』ひとりだったのだろうか。

 

 

「……君、大丈夫だった? その──」

 

「ディメンターか?」

 

「……うん」

 

「まあ、いい心地ではなかったな。君こそ──アー、散々からかった僕がきくことじゃないのはわかってるが、」

 

「大丈夫だったよ。……ルーピン先生がいてくれたもの」

 

 

 小さく微笑む。先生のパトローナスはきっと、美しくてあたたかかっただろう。気絶してしまったのが残念だ。

 

 

「そうか」

 

 

 うなずいたドラコに撫でられて、ハッとした。──そうだ、これがいけないんだ!

 

 

「ドラコ」

 

 

 頭上の手を掴んだ僕に、ドラコはきょとりとしていた。徐々に頬や顎がシャープになってきて、僕の知るドラコに近付いているというのに、そんな顔をすればやっぱり幼い。

 

 

「君、誤解されるようなことはしちゃダメだ。僕はアブラクサンに蹴られたくなんてないからね。これからは僕だって注意するから」

 

「…………」

 

 

 再び無防備に呆けたドラコは、やがて意味を理解して大きくため息をついた。

 

 

「ああそうか。そうだろうとも。君ってそういうやつだ」

 

 

 ……うん? なんで僕が怒られてる風なんだ?

 

 

「──遠慮はしないって言ったからな。君が言ったんだ」

 

 

 次は僕がきょとりとする番だった。ズゥッと顔を近付けたドラコは、アイスグレーに熱をチラチラと覗かせて僕を睨んだ。いけすかない頃のマルフォイを思い出させる、挑発的で負けん気に溢れた目だった。

 

 

「覚悟してろよ」

 

 

 …………エ、なにを?

 

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