マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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 クリスマスがやってきた。今年もモリー母さんからのあたたかいセーターやハグリッドの木彫りシリーズ、ハーマイオニーはホグワーツに残っているので後でカードを交換するとして、ドラコからはイヤリングをもらった。なんでも、月明かりに当てると宝石が自ら輝くらしい。ちなみに去年のプレゼントはサテンを使った緑の髪飾りだった。とても普段使いできそうなデザインではなかったため、すっかりアクセサリーケースの主となっている。(アクセサリーケースは、散らかしてしまう僕に見かねたラベンダーがお下がりをくれたのだ。)

 残念ながら、このイヤリングもアクセサリーケース行きとなりそうだ。着飾る習慣のない僕には、使い道なんてさっぱりなのに。

 喜ぶべきなのかな、これ。そりゃ、単純に綺麗だとは思うけどさ。……もしかして、女らしくできない僕への当て付けだったりする? あの性悪め。

 

 

「メリークリスマス、マリア」

 

「メリークリスマス、ハーマイオニー」

 

 

 寝起きのハリーに負けず劣らず髪を爆発させているハーマイオニーに苦笑する。彼女のため、すぐさまブラシを取ってしまう辺り、ハーマイオニーの淑女教育はほんの少しくらいは成功してると言えるかもしれない。僕としては、いつか会えるリリーを甘やかすための練習、くらいの気持ちでいるのだが。

 

 

「これ、クリスマスカードよ」

 

「ありがとう。それじゃあ、僕からも」

 

「うれしいわ。……あなたって、字まで男らしいというか、テキパキした字よね」

 

「そうかな?」

 

「書類ばかり書いてるくたびれた公務員の字ってかんじだわ」

 

「……ハハハ」

 

 

 するどい。

 

 ティンセルのリボンを結んだクルックシャンクスと共に談話室へと降りれば、無人の談話室にまで男の子たちの興奮の声が届いていた。小首をかしげたハーマイオニーが臆することなく男子寮への扉を開く。今は僕だって女の子だけど、当時は当然のように入ってくる女の子のハーマイオニーにはどぎまぎしたものだ。

 

 

「なに笑ってるの?」

 

 

 ロンはクルックシャンクスを目にすると、ぐっと顔をしかめたが、僕の腕の中に収まっているのを確認して衝動を抑えたようだった。そのクルックシャンクスはひたすらスキャバーズを黄色い目で追っていたが。

 

 

「マリア、メリークリスマス! これをみて!」

 

 

 ここ数日ギクシャクしていたハリーが、それすらも忘れて満面の笑みで箒をかかげる。──ファイアボルトだ。

 やっぱり心躍ってしまう。この艶、このフォルム、完璧な尾。あの乗り心地が今にも浮かんできそうだ。

 言葉はなくとも僕も喜んでいることが伝わったのだろう。ハーマイオニーを除いて、箒を中心に僕らは感動に包まれていた。

 

 

「待ってよ、おかしいわ。これって、つまりは──すごいものなんでしょう?」

 

「すごいなんてもんじゃないさ! 国際試合級の箒だぞ」

 

「それを、ハリーに? 誰が?」

 

「わからない」

 

「カードは?」

 

「なかった」

 

「一言も?」

 

「ない」

 

 

 ハーマイオニーは信じられないと言いたげな顔だ。

 

 そう、ハーマイオニーは正しいんだ。僕だってわかる。でも──今の彼らに、その正しさはナイフになる。

 

 

「相談しましょう」

 

「なにを?」

 

「その箒のことをよ! マクゴナガル先生にご報告するの」

 

「ああ、うん。こんなに素晴らしい箒を手に入れたってね」

 

「ちがうわ! 調べてもらうの。呪いがかかってないか、罠はないか──」

 

「君はなにを言ってるんだい?」

 

 

 ハーマイオニーとロンがヒートアップしていく。ハリーは、なんだかずいぶんと静かな瞳で僕を見ていた。

 

 

「だって、おかしいわ! こんなにも明らかに──罠よ! それ──シリウス・ブラックが送ってきたのよ!」

 

 

 カッとなったロンがハーマイオニーへ詰め寄ろうとするのを止めたのはハリーだった。

 

 

「──マリアは、どう思うの」

 

「え……」

 

「マリアの意見が聞きたい」

 

 

 ハリーは奇妙なくらい冷静だった。

 

 

「……僕も、同意見だよ。ハーマイオニーと」

 

「マリア……!」

 

「だって、考えてもごらんよ。ここで隠したところでハリーが練習にファイアボルトを持っていけば、まちがいなくマクゴナガルからハーマイオニーと同じことを疑われるよ。そのときに取り上げられたって遅いんだ。それなら、今、調べてもらった方が箒ははやく手元に戻ってくる」

 

「戻ってこないかもしれない!」

 

「戻ってくるよ。──絶対に」

 

 

 ロンは僕にも不満を爆発させようとしていたが、ふと、ハリーを見て怒りを呑み込んだ。──ハリーは冷徹ともいえるくらいに無表情だった。

 

 

「マリアが言うなら、そうなんだろうね」

 

「ハリー」

 

「わかった。その通りにしよう」

 

 

 もうハリーは僕を見ていなかった。ファイアボルトを持って、談話室を降りてしまった。

 僕らは再び、彼の怒りに取り残された。

 

 

「……あの、マリア? ハリーも色々考えてるんだよ。マリアを嫌いになったとかじゃないからさ、ゼッタイ」

 

「マリア、わたしもそう思うわ。ちょっと──その──男女の兄弟ってむずかしいのよ、きっと。そうよね、ロン」

 

「ウ、ウン、そう! 僕とジニーを見るといい。アイツ、僕のことを兄なんてちっとも思っちゃいないんだ」

 

「……僕が姉だよ」

 

 

 懸命に慰めてくれる親友たちにどうにかいつもの答えを返して、僕は寝室へと戻った。通信紙と、それから『箱』を持って──

 

 

「兄弟って、こんなにむずかしいんだ」

 

 

 冷々とした廊下が足先から僕を凍らせる。

 魔法薬のにおいを染み着かせる彼に、無性に会いたくなった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 分霊箱の管理について、僕らは非常にもめた。ドラコがなにがなんでもと譲らないのだ。分霊箱のせいで死にかけたというのに、手放したがらない──と、いうより、僕の元に置いておきたくないというのが彼の言い分だった。

 そんなのは僕も同じだ。いいやむしろ、被害を出してしまった身として彼よりも想いは大きかっただろう。だというのに──

 

 

「やっぱり、この妥協案はどうかと思うよ」

 

 

 僕とドラコのみが入れる必要の部屋にて、僕らは禍々しいティアラを前に頭を悩ませていた。互いの元ではなく第三の場所──それが、両者譲らない僕らがどうにか絞り出した案だった。

 だがしかし、必要の部屋だって絶対ではない。ダンブルドア軍団時の苦い思い出が脳裏をよぎる。……犯人、隣にいるんだけどね。

 この部屋自体、僕とドラコのみ、という設定で開かれてはいるものの──はたしてどこまで信用なるものか。

 

 けれども、僕が持てばハリーに影響がありそうで危険。ドラコの元はドラコ自身と、家にうっかりヴォルデモート(正確にはヴォルデモートが憑依した下僕か被害者)がやってきてしまう可能性があるので危険。となると、ホグワーツで保管するのが無難に落ち着いてしまうのだ。ホグワーツ城そのものにかけられた結界もある。

 ドラコ案のグリンゴッツは……僕らが破れると証明しちゃったからね。

 

 

「しかたないか。──はい、ドラコ」

 

 

 僕は持ち出した『箱』をドラコへと手渡した。ハリーにはファイアボルトが──そして僕は、シリウスに『強力な封印専用の秘密箱』をねだっていた。

 分霊箱の封印をドラコだけに頼らず、物から徹底しようと考えたのだ。

 

 ドラコはそれをしみじみと眺めて、そして呆れた顔で僕に返した。

 

 

「もはや箱自体が兵器だ。ブラックの財は底無しか?」

 

「没収されてなおファイアボルトとか『これ』とか買えるんだから、底無しなんだろうね」

 

 

 僕まで嘆息してしまう。前でもシリウスは金銭感覚に関しては根っからのお坊っちゃんだったのだから。

 僕好みのソファに身をうずめて──僕らのための部屋なので、互いの好みが混ざりあった内装となっているのだ──装飾の美しい、仕掛けを解かねば決して開かない秘密箱を眺める。

 説明によれば、火も水も通さず、蓋をした瞬間に空間は遮断され、どんな衝撃にも負けないのだとか。一体こんなものまで使って世の富豪たちはなにを保管するのだろう。

 

 

「さっさと壊してしまいたい」

 

 

 バジリスクの牙を手に、ドラコは憎々しげに呟いた。

 バジリスクの牙──そう、ドラコはなんと秘密の部屋にて非常に混乱した状況にありながら、ちゃっかりバジリスクの牙も収集していたのである。転んでもただでは起きないとはこのことだ。しかも、二本。僕らが一本ずつ持てるように二本だ。完璧だ。用意周到すぎて僕は実はちょっと引いた。

 

 

「まだダメだよ。一つくらいなら問題ないかもしれないけど──いいや、やっぱりダメだ。まだ危険は犯せない。アイツ、分霊箱を壊しすぎるとわかっちゃうんだもの。ナギニ以外を集めてギリギリで一気に壊すのが最適解だ。……それは、理想論だけどさ」

 

 

 牙とティアラを箱の中へとしまってみる。蓋をした瞬間、箱はただの箱(・・・・)となった。もはや綺麗なだけの飾り箱にしか見えない。ドラコも驚いていたので、呪いに敏感なドラコの目をも欺ける擬態っぷりなのだろう。

 仕上げにドラコが箱の外側へと封印の術を施して、黒いキャビネット──これはドラコの趣味だ──へと隠す。分霊箱の処理は以上だ。……今度こそ、無事に最後まで保管できるといいんだけど。

 

 

「時々、確認に来なくちゃね」

 

「怪しまれない程度にな。特にダンブルドアだ」

 

 

 彼好みのリクライニングチェアへと彼が腰を下ろしたところで、あ。と僕は声をあげた。

 

 

「そういえば僕、スネイプ先生に探られちゃった」

 

「は?」

 

「このあいだスネイプ先生に慰められたんだけど」

 

「……うん?」

 

「まぁわかってはいたんだけど、お前は予言ができるのかって。たぶん、というか確実にだね。ダンブルドアの差し金だ」

 

「…………」

 

「ドラコ?」

 

 

 ドラコはさっそく椅子を贅沢に使って全体で顔を押さえていた。リクライニングなんだからもたれないと意味ないんじゃないの。

 

 

「…………それで、君は」

 

「もちろん常に心は閉じてるさ。試してみる?」

 

「……いや、いい」

 

 

 長い長い息をつかれる。そんな全身全霊で呆れてますアピールしなくても。

 どうせダンブルドアはそのうちに僕の正体へとたどり着く。すでに、ハリー・ポッターとまではわからずとも、『二度目』辺りは推測の一つに入れているかもしれない。そのために、予言ができるかどうかなんてスネイプ先生に探らせたわけだし。

 ……大丈夫だ。知られたところで、僕とダンブルドアの目的は同じだ。僕は──あの人が手を差し伸べなかった人たちを出来うる限り拾いたいだけなんだから。

 

 

「さて、そろそろ出よう。居心地がいいのはわかるけど、クリスマスパーティーが待ってるよ」

 

「ハリーと行くのか」

 

 

 わかりやすく目をそらしてしまった。……わかっていて聞くのだから、いやなやつだ。

 

 

「早めに仲直りしろよ。ハリーの側にいられないのはまずいんだろう?」

 

「そんなの、僕が一番わかってるよ。……自分と喧嘩だなんて、笑える」

 

 

 ドラコは笑わなかった。

 

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