マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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6ー1

 

 ファイアボルトのお披露目試合がやってきた。相手のシーカーはレイブンクローが誇る美少女、チョウ・チャンだ。双眼鏡から覗いて、やはりエキゾチックで愛らしい顔立ちに目が惹かれてしまう。

 

 

「そういえば、ここで僕、チョウに一目惚れしたんだっけ」

 

 

 隣のドラコがギョッと僕に向かって目を剥いた。

 

 

「ジニーはどうした!」

 

「もちろん今はジニーひとすじだとも。というか、僕らって中身が中身だから同年代も年上もそういう対象で見るのはむずかしいと思うんだ。ちがう?」

 

 

 ジニーのことだって、愛しているのにちがいはないが、たとえば僕がハリーのままだったとしてもまさかこの年齢のジニーに手を出したりはしなかっただろう。そもそも僕、この手の欲求は薄かったからね。常に命懸けで余裕がなかったもので。

 

 

「僕としては君の方が心配だよ。君ってば、ほんとヘビみたいに距離をつめるのが上手いというか……昔はあれだけ空回ってたのに」

 

「……相手が悪かったんだ」

 

「ふーん? アステリアを泣かせたら僕が仇討ちに行くからね。君の杖で」

 

「完璧に勝算がなくなるからやめろ」

 

 

 心底から嫌そうな顔をされて笑っていれば、リーのファイアボルトの宣伝にしか聞こえない解説と共に両チームが飛び上がった。やはりファイアボルトの性能は圧倒的だ。圧巻の飛びっぷりを見せている。ハリーの顔には自信が溢れている。

 しかしチョウだって負けてない。レイブンクローの頭脳をもってすぐさま対応してくる。レイブンクローの強みは速さではないのだ。

 

 

「……ま、だからといってファイアボルトの敵ではないけどね」

 

 

 呟けば、性格が悪いぞ、なんてドラコにたしなめられた。よりによってドラコにだ。どの口が──とはまあ、ひねくれてる自覚のある僕にだって言えることではないのだけど。

 

 

「でも、事実、ファイアボルトは素晴らしいだろう? どこかでハリーから借りられないかなあ。あの乗り心地はまさに夢のようなんだ。君だって乗りたいって思うだろ?」

 

「……まあ、この時代のプロが乗り回す箒だからな」

 

 

 ずいぶん素直にうなずくようになったドラコに、くっくと形だけ笑いをこらえる。そしてふと思う。

 

 

「──君、クィディッチはもうしないのかい?」

 

 

 いつだったかは忘れたが、彼は語ったはずだ。クィディッチだけが──心休まらない学校生活において唯一のよすがだったと。

 

 

「ああ。……もう、必要ない」

 

 

 ドラコはやわらかく目を細めて僕を見ていた。

 

 

「そ、そう……ウン、それなら、いいんだ」

 

 

 カッと頬が熱くなった気がして、双眼鏡へと視線を逃がした。……あの頃よりは、充実した学生生活を送れてるってわけだ。僕のおかげ、だとか──目がそう言いたがってる気がしたけど、意地でも反応してやるもんか。

 

 

「ところで今日は……あー、伯従父上はどうなさったんだ。ファイアボルトはあの方からだろう? 僕はてっきり、前回同様に観に来られるんだと」

 

「うん、僕もそう思って透明マントを用意しておいたんだけど……申し訳なさそうに首を振られちゃった。シリ……君の伯従父さんって、僕相手だとすっかり犬のフリを忘れちゃうんだよ。どう思う? まあ、元から犬っぽいからいいんだけど」

 

「かの美形一族を捕まえてそれか……」

 

 

 念のためとでもいうように周囲を見渡したドラコは、そして立ち上がった。

 

 

「ドラコ?」

 

「野暮用だ」

 

 

 観客席からドラコが離れていく。その背をぼうっと見ていれば、グリフィンドール席から歓声が上がった。アンジェリーナが得点したらしい。ハッと双眼鏡をかまえ直して試合を追う。

 ハリーとチョウがスニッチ目掛けてせめぎ合う。降下して──上昇。ほぼ直角のそれについていけなかったチョウのコメット260号が置き去りにされていく。

 ──ホイッスルが響いた。スニッチはハリーの手の中に収まっていた。

 

 

「ハリーィ!!」

 

 

 チームメイトたちにもみくちゃにされているハリーの元へと飛び込む。ジョージやフレッドも巻き込んでハリーを全身で抱きしめる。

 

 

「最高だったよ! あの動き! あの速さ! さすが僕の弟だ!」

 

「兄だよ!」

 

 

 いつもの茶番に盛大に笑いが上がる。次々とハリーは囲まれ、胴上げされ、騒ぎは拡大していく。

 ふと競技場口を見れば、コソ泥のように数名のスリザリン生が縄へとかけられていた。スリザリンのクィディッチチーム選手たちだ。黒い襤褸をかぶっている。……ああ、そうか、ドラコはディメンターのフリをするだろうバカたちを捕らえるために抜けたのか。よく覚えてたな。……前では自分だったものな。このバカ共の中にセオドールがいなかったことだけが救いだ。

 案の定怒り心頭のマクゴナガル先生が盛大にスリザリンを減点しつつ、けれどもドラコへの温情にその後五点をドラコへと与えていた。

 

 

「今は近付けそうにないからな。ハリーに代わりにおめでとうと言っておいてくれ」

 

「それなら僕からも」

 

 

 ニヒルに笑ったドラコの横から現れたのはセドリックだった。嫌味なんてひとつもない穏やかな微笑みで、良い箒だね、と心からの賛辞をくれる。善性がまぶしい。ひねくれものの僕と性悪のドラコにはまぶしい男だ。

 

 

「ほら、マリア。また髪が乱れてる。せっかく綺麗な赤毛なのに」

 

「ああ、ありがとう。セドリック」

 

 

 いつものように手櫛を入れようとしてくれたセドリックの腕を掴んだのはドラコだった。

 

 

「ドラコ?」

 

「マリアの面倒なら僕が見ますので、ミスターディゴリーはどうぞレイブンクローの彼女のところへ慰めにいかれては? ……物凄い目で見ていますよ」

 

「ウワァ」

 

「マリアはそんなんじゃないって言ってあるんだけどね……。ごめんね、マリア。頼んだよ、ミスターマルフォイ」

 

 

 セドリックがチョウの元へと走っていく。モテる男は大変だ。

 

 

「ほら、マリア。背を向けろ」

 

「また弄くり回す気かい? 君に整えられるとハーマイオニーがからかってくるからいやなんだよな……」

 

 

 あとハリーがちょっと拗ねる。

 

 

「それならアレンジの仕方くらい覚えろ」

 

「他人のはそれなりにできるようになったさ。知ってる? 時々ハーマイオニーの髪を結ってやってるのは僕なんだよ」

 

 

 お祭り騒ぎのグリフィンドール生をよそに、もみくちゃにされたままだった髪がハーフアップへとまとめられていく。早業だ。小さく、ここに母上のバレッタがあれば……なんて呟きが聞こえた気がして、無心で聞こえないフリをした。

 去年もらった髪飾りで十分だよ。お貴族さまが身に付ける装飾なんて、触れるのもおそろしい。

 

 そのまま、なにやら複雑に捻ったりされているらしい髪型で談話室へと戻れば、大祝宴の真っ最中だった。ハニーデュークスの品が机中に広げられ、そこかしこでバタービールの乾杯の音頭が交わされている。ロンと喧嘩中のハーマイオニーも、今ばかりは宿題の山から離れて宴会に参加しているようだった。

 

 

「姫のおかえりだ!」

 

「ハリー大閣下のもとまでお通ししろ!」

 

「救世主の姉御どのへバタービールを献上せよ!」

 

 

 赤毛の双子を中心にやんややんやと持ち上げられる。ハリーと並ばされ、バタービールのジョッキを持たされてハリーと苦笑いで見合う。当初の目的なんてみんな頭からすっぽ抜けているにちがいない。とにかく彼らは騒いで騒いで騒ぎ抜きたいのだ。

 青少年たちのらんちき騒ぎは、マクゴナガル先生にナイトガウン姿で怒鳴り込まれるまで続いた。

 

 

「ねえ、マリア」

 

 

 ラベンダーとパーバティの寝息に包まれる中、隣のベッドのハーマイオニーが囁く。

 

 

「なぁに、ハーマイオニー」

 

「今日の髪型もかわいかったわ」

 

「なんで気付いちゃうかなあ」

 

「気付くわ。あなたをよーく見てますもの」

 

 

 クスクスと軽やかな笑い声が重なる。

 優しい夜だった。ここ数日とない平穏だった。このままおやすみを告げてしまえば終わる夜だった。

 

 ──彼の絶叫がグリフィンドール塔内を突き抜けるまでは。

 

 

「ちょっと、何事なの?」

 

「おっ、再開か?」

 

「バカ言わないで。今のはロン?」

 

 

 バタバタと声に起こされた面々が談話室へと集まる。パーティーの残骸が散らばる中で、呆然としたハリーと震えるロンを中心にハリーのルームメイトたちが辺りを見回していた。

 

 

「いい加減にしないか! まったく……さぁベッドへ戻るんだ」

 

 

 ご丁寧に監督生バッジをパジャマに着けたパーシーが現れたところで、ロンは真っ青の顔のままパーシーへと訴えた。

 

 

「ち、ちがうんだ、パース。今──」

 

「これは何事ですか!」

 

 

 再びマクゴナガル先生が肩を怒らせてやってきた。次は頭にヘアネットがされていた。

 

 

「揃いも揃って……パーシー、あなたがいながら」

 

「せ、先生────ブラックなんです」

 

 

 たとえばハリーがヴォルデモートの名を不用意に呼んでしまった時のような──凍りつきそうな沈黙だった。

 

 

「……ミスターウィーズリー、今、なんと?」

 

「ブラックが──シリウス・ブラックが、僕を襲ったんです! ハリーも見てました!」

 

 

 沈黙に困惑が混ざった。誰もが真実を探すように近くの人間と目を合せていた。

 

 

「……事実ですか? ポッター」

 

「……はい」

 

「よろしい。みなさん、動かないように」

 

 

 毅然とした態度でマクゴナガル先生が肖像画の向こうへと消える。カドガン卿へと問いかけている。──男を一人通したかと。

 

 

「おお、通しましたぞ。ご婦人!」

 

 

 今度こそ、与えられた沈黙はマクゴナガル先生すらも呑み込んだ。

 

 

「あ……合言葉は……」

 

「持っておりましたぞ! 紙切れを読み上げておりました」

 

 

 動けもしない。声も出せない。

 息すらも殺してしまうような重い空気をまとって、マクゴナガル先生が再び生徒らの前に立つ。

 

 

「……誰ですか」

 

 

 声は怒りに震えていた。

 

 

「──合言葉のメモをその辺に放っておいた底抜けの愚か者は、誰です」

 

「私です」

 

 

 視線がいっせいに動いた。蒼白のネビルを押し退け進み出た──赤毛の少女へ。

 

 

「先生、私です」

 

 

 誰もが嘘だとわかっていた。マクゴナガルだってわかっていた。それでも、少女はゆずらなかった。

 

 

「私が──メモをなくして、シリウス・ブラックを招き入れました」

 

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