マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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3ー2

 

「それじゃあさっそく、建設的な話をしようか。君はどこの寮に入るつもりなんだ? やはりグリフィンドールか?」

 

「そんな君はやっぱりスリザリン?」

 

「……で、ないと、これ以上父上との間にすれ違いを起こすわけにはいかない」

 

 

 その言葉にふと気付く。わざわざホグワーツ特急のホームで僕たちのことを待っていてくれたドラコだけど(本人はきっと、そうは認めないのだろうけど。ほんと素直じゃないんだから。)そういえば、愛息子の大事な出立だというのにルシウスとナルシッサの姿を見ていない。『前』はそんなこと、有り得なかったのに。

 

 

「今日は、君のご両親は……?」

 

「……少しずつ、僕の考えや希望を僕なりに伝えてはいるんだがね──中々、スコーピウスのようにはいかないよ」

 

 

 そう、視線をそらして寄越された、少年のほんの少し寂しそうな微笑み──それが答えだった。

 

 

「そう……。……ルシウスさん、父親してた頃の君よりさらに頭が固そうだし」

 

「ちがいない。僕があまりに嫌がるから不信感自体は抱きつつも、まだ『我が君』に夢を見ているのさ。父とのことがなければ──グリフィンドールなんかも、面白そうだとは思ったんだけど。君がいるし」

 

「僕も、またホグワーツの寮を選べる日がくるなら、次はスリザリンもいいなって思ってたよ。君やスネイプ先生、うちの子のような例もあるんだもの。スリザリンは悪じゃない。手段を選ばないだけで、自分の中のただ一つだけの正義を貫き通す。そういう、いっそ誠実ともいえる人たちが集まる寮だ」

 

「そしてグリフィンドールは勇気だけが取り柄の能無し集団ではない。誰よりも成長の可能性を秘めた場所だ。自分の限界を超えられる──ネビル・ロングボトムのようにね」

 

「レイブンクローだって、ハッフルパフだって、最高の寮にちがいない。どこが優れてるだとか、どこが劣ってるだとか、そんなのはナンセンスではなから存在しやしなかったんだ。──それに気付くのに、ずいぶんかかったけど」

 

「二回目だからね、僕たちは。ちょっとしたズルさ」

 

 

 軽やかに語る隣の彼とおもむろに顔を見合わせて、ふと不思議な心地にひたる。あのドラコと──喧嘩ばかりだった子供のドラコと、まさかこんな話をすることになるだなんて。酒も交えずに。

 それだけで、この世界は『違う』のだと思い出せる。

 

 

「──ねえ。君、やっぱりグリフィンドール、こない? 僕がスリザリンに行くのは、ハリーのサポートが難しくなるからできないけど……君と同じ寮で過ごすって、正直すごく魅力的だ」

 

「熱烈なお誘いをどうも。……そうすると、僕がマルフォイ家初の『血を裏切るもの』になるのか。昔の僕が知ったら正気を疑うだろうな」

 

「それじゃあ!」

 

「──けど、やっぱり僕はスリザリンへ行くよ。……君を守るために」

 

「え?」

 

「君は側でハリーを守るんだろう? なら、僕は遠くから全体を見る役割をしよう。敵を騙すには味方から、てね」

 

 

 敵を騙すには味方から。それを命を懸けておこなった人を二人、僕は知っている。そしてそれは──どちらもがスリザリンの勇者だった。

 

 

「……やっぱり、君はスリザリンだ」

 

 

 

 ***

 

 

 

「さて、そろそろ僕は戻るよ。制服を向こうに置きっぱなしなんだ。クラッブとゴイルのことも今のうちに叩き起こさないと。君だって、城に到着する前に着替えなくてはならないだろう? 僕が出てからここで着替えればいい。──いいか、マリア。間違っても男の前で脱ぐなよ。君は今レディなんだ、わかってるな?」

 

「はいはい。わかってるよ、ドラコママ」

 

「誰がママだ」

 

「だって、ドラコってば小言の言い方がモリー義母さんそっくりなんだもの。ほら、早く出てよ。レディの着替えをどうどうと覗く気かい? ドラコのえっち」

 

「…………頼むからもっとおしとやかにしてくれ。じゃじゃ馬はグレンジャーひとりで十分だ。なにかあったら連絡は『あの方法』で僕に寄越し──おい! まだ脱ぐな、僕がいるのが見えないのか!」

 

 

 ああだこうだと細かい……じゃなかった、ドラコのありがたーいご忠告のとおりに早速シャツを捲ろうとしたところで、慌てて顔を背けたドラコが変な動きをしながら立ち上がるものだから堪らず失笑する。目の先、耳元と首がほんのり赤い。元々が蒼白い肌なために大変わかりやすい。

 君、未来で子供まで作っておいてなんて反応するんだよ。相手は僕だぞ。

 

 

「──ねえ、ドラコ」

 

 

 冗談はさておきと引っ張り上げていたシャツを放し、秘密の相談をしている間おとなしくしていてくれたヘドウィグを手慰みに撫でてから、コンパートメントを去ろうとしたドラコへと扉越しに問いかけた。

 

 

「ホームで君、呼んだよね。ハリーって。────どっちのことだったの」

 

 

 返事はなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ごめん、ハリー。ドラコと話し込んじゃって──おや、もう友達ができたのかい?」

 

「おかえり、マリア! 彼、ロン。ロン・ウィーズリー。そしてこっちがさっき話してた妹のマリア。それで、君は……」

 

「ハーマイオニー・グレンジャーよ。マグル出身なの。よろしく、マリア。ハリーのことは『近代魔法史』『闇の魔術の興亡』『二十世紀の魔法大事件』を読んだから知ってるけど、双子の妹がいたことは知らなかったわ。それで、マリア。さっそくだけどわたし、あなたにすごぉく聞きたいことがあるの。────その格好、なに?」

 

 

 ドラコと別れ悠々と戻った先、予想したとおりにコンパートメントの中にはハリーだけでなく男女の子供が一人ずつ増えていた。

 太り気味のみすぼらしいねずみを手にした赤毛の男の子に、杖を気取ったふうに構えるくしゃくしゃ頭の栗毛の女の子──なにものにも替えがたい、ハリー・ポッターの最高の親友たちだ。

 そのうちの、マリアに向かって息継ぎなしに台詞を捲し立てたほうの子供──ハーマイオニーに、相変わらずだなあ、なんて苦笑する。

 

 

「制服だけど。なにかおかしい? あ、君たちもはやく着替えたほうがいいよ。そろそろホグワーツに着くから。はい、ハリー、これ、君の制服。荷物ずっと預かっててごめんね」

 

「なにか、おかしい──? なにか、おかしいか、ですって──!? なにもかもよ! あなた、女性でしょ!? かわいい顔をしてるし、胸だってあるわ!」

 

「あら、褒めてくれてありがとう。胸のある男性かもよ?」

 

「ハリーはあなたを(シスター)と言ったわ!」

 

「しまった、口止めしておくんだった」

 

「そんな笑いながらじゃ説得力ないよ、マリア」

 

 

 突如噴火したハーマイオニーの癇癪じみた剣幕に、しかしハリーはハーマイオニーと知り合った時点で彼女の僕への反応に予想がついていたらしく、僕から制服を受け取りながら呑気にのほほんとしていた。癒しだ。ロンはめちゃくちゃに引いていた。おいおい、この彼女、今は仲良くないけど君の未来のハニーだぜ。

 

 うーん、わかってはいたけど苛烈だ。いいじゃないか──女生徒が男子制服を着るくらい(・・・・・・・・・・・・・・)。正確にはズボンだけだ。

 

 

「校則違反だわ! あなた、それじゃあ入学できないわよ!?」

 

「そんな校則があったの? 校長先生からの許可があっても無理?」

 

「えっ──そ、それは──そうなの……?」

 

「うん。制服を作る時にマダム・マルキンと話し合ってね。彼女がダンブルドア校長先生と掛け合って強制的に頷かせ……う ゙う ゙ん。ごほんごほん。失礼、喉の調子がちょっと」

 

 

 ちなみにこれが、僕の採寸に時間がかかっていた理由だ。粘ってくれてありがとう、マダム。

 

 

「そ、そんなの──あなただけ特別扱いってこと……? そんなの、ずるいじゃない。贔屓よ。それが真実なら、わたし、ダンブルドア校長先生のところに行って直接抗議しますからね。ハリーが言ってたけど、女の子らしい格好が嫌だからって、制服を変えてしまうだなんて……」

 

「そこに理由があったとしても?」

 

「え?」

 

 

 こればっかりは百聞は一見に如かずだと、下ろしたてぴかぴかのローブの前を開いて、セーターとシャツをズボンから引っ張りだしめくり上げて見せる。途端、ひゃあ! とロンが素っ頓狂な声を上げて己の顔を手でおおったが、その指の隙間からはしっかりブルーの瞳が覗いていた。そういうところだぞ、ロン。

 また、ハーマイオニーも突然なんてことをするのだと声を荒げかけて──やがてコンパートメントに訪れたのは気まずい静寂だった。

 

 

「これ、今お世話になってる家のおばさんにアツアツのお湯をかけられてできたんだ。小さな頃にね。中々、芸術的でしょ? それは過ってだけど──僕とハリーを見てわからない? 僕たち、虐待されてきたんだ。かわいそうに、ハリーの腕を見て。ガリガリだ。これまでろくにご飯すら与えられなかった結果だよ。さて、乙女が自分の傷を隠したいと努力するのはおかしなことかい?」

 

「ぁ──わたし──あの、そんな──」

 

「ハーマイオニー、君は正しいよ。きっとこれまでも君は正しく、誠実に生きてきたんだと思う。それは誇るべきところで、僕もこれからたくさん君のことを尊敬する。でも、その正しさを発揮するタイミングは、相手の事情を把握してからでも遅くはないんじゃないかな。でないと、結果的に傷付けかねない。だろう?」

 

「……ええ、そのとおりだわ。わたし──ごめんなさい」

 

「うん。こちらこそごめんね。偉そうなことを言ってしまった。忘れないで、君はなにも間違ってないよ。君は正しかった。ほんとうは謝る必要なんてないんだ。たぶん、僕も。ただ互いに別の主張があってぶつかっちゃっただけ。だから、ね、謝るより──そうだ、握手をしよう。せっかく友達になったのに、僕たちまだ名前しか知らないよ。ほら、ロンも」

 

 

 両手で、惚ける二人の手を片手ずつ取る。

 

 

「これからよろしくね。ロン、ハーマイオニー」

 

 

 それはもう、長くて濃厚な人生の一時をね。

 

 

「……っマリア!」

 

 

 感極まったとばかりにハーマイオニーが飛び付いてくる。そのまま、彼女を受け止めた流れを利用して通路へと出た。

 扉を閉める間際、ここまで静観の姿勢を取っていたハリーと確かに目が合ったので、きっと僕の意図は伝わっただろう。僕の片割れは優秀なのだ。

 

 ああ、懐かしいなあ。ハーマイオニーのこの激しめのスキンシップ。せっかく十一年ぶりの親友たちにキスしたいのを我慢して握手にしたっていうのに。……初対面でキスはダメだって、ハグリッドに怒られちゃうからね。

 

 それはともかくとして、彼女はまだ幼いのに存外厳しいことを言ってしまったのには訳がある。──この先にロンとの事があるからだ。

 本当に、昔のハーマイオニーとロンってばひどかったんだもの。どれだけ二人の壮絶な喧嘩に巻き込まれたか。大人になってからもそれは変わらないけど。

 今にして思えば、アレは互いに互いを男女として意識し合ってたからこそだとわかるけどさ。間に挟まれて振り回される(ハリー)の身にもなってほしいよ。

 ──と、いうわけで、ハリーの平和な学生生活のためにここで先手を打っておいたのだ。

 

 ちなみに、殊勝なふうにハーマイオニーへと腹の傷痕について語ってみせてはみたが、こんな火傷1ミクロンだって気にしてないのが本音だ。

 五歳になる前に本当に過って伯母さんからつけられたものだけれど──

 

 

「ねえ、マリア? わたし、聞いたことあるわ。ホグワーツにはとっても優秀なお医者さまがいらっしゃるって。そう、えっと……こちらでは癒者(・・)、というのだったかしら。きっとその傷もなんとかしてくれるわよ。それが魔法なんだもの」

 

「ん? あー……うん。そうだろうね」

 

 

 ハーマイオニーの言葉に、ホグワーツに勤める噂の校癒の姿を記憶から掘り起こす。

 マダム・ポンフリーなら勿論、たとえ寝ぼけていたって完璧に治せるだろう。ハリーの呪いの傷とはちがうのだから。──けれど。

 

 

「僕、あの家にいて着けられた傷を一つだって消すつもりはないよ。少なくともあの家を出るまではね」

 

「え──?」

 

「綺麗になっちゃったら、自分たちが僕らに何をしてきたのか、忘れちゃうかもしれないじゃないか。──そんなのは、許せない。ハリーと(マリア)のことを、なかったことになんかさせるもんか」

 

「…………」

 

 

 気付けば、ハーマイオニーはどことなく奇妙なものを見る目で僕を見ていた。

 

 なにせ、バーノン伯父さんやダドリーはともかく、ペチュニア伯母さんの僕らに対する感情は複雑だ。殊──リリー似のマリアには。

 たとえばハリーに対しては見るのも忌々しいなんて態度を取っておきながら、その実、彼女はよくハリーの目を見ている。ハリーに見られている時、自分の中の何かに堪える顔をしている。

 けれど、マリアには──

 

 

 ──その顔で! その目をしないで!!

 

 

「…………」

 

 

 あの叫びは、本物だった。

 

 

「あの、」

 

 

 再びの沈黙になってしまい、ハーマイオニーはあたふたとした。何か言葉を返さなきゃ──そう、まだまだ子供の顔に目一杯書かれているのがなんとも微笑ましくて、つい続きを待ってしまう。

 娘のリリーも、言葉につまってはよくこの顔をしたものだ。

 

 

「あなた、ええと、その────男らしい、のね?」

 

「ブハッ」

 

 

 思わず吹き出した。だって、まさか、かの才女がようやく絞り出したのがそれだなんて!

 ──おっと、いけない。咄嗟に口を抑えるも、僕の声はしっかりきっちり彼女に届いてしまい、ハーマイオニーは顔をヤカンみたいに赤くした。ふわふわの髪もなんだか湯気と共に広がったように見えた。

 

 

「もう! もう! わたし心配したのに! いいわ、そこでバカみたいに笑ってるといいんだわ! せっかくのお顔が台無しになるまで笑えばいいわ!」

 

「ごめんって、ハーマイオニー。君があんまりにもかわいくて」

 

「間抜けで気が利かなくてかわいい? ええそうね! あなたとちがってわたしは子供よ! ──ごきげんよう!」

 

 

 そうして、プンプン怒った栗毛のお姫さまは、結局、盛大にすねたまま自身のコンパートメントへと戻ってしまった。

 うーん、これは僕が悪い。あとで彼女のご機嫌取りに尽力するとしよう。

 

 ──さて。

 

 

 

「君たち? そこでいつまでも聞き耳たててないでさっさと着替えなさいね。あと、ちらかしたお菓子の片付けも忘れないこと」

 

「「ハ、ハァイ」」

 

 

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