マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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7ー1

 

 試験を終えてすぐ、ハリーたちと別れた僕はドラコと落ち合っていた。今宵の協力を仰ぐためだ。しかし──ドラコは首を横に振った。

 

 

「すまない、マリア。今夜は協力できそうにない」

 

「え……」

 

 

 厚顔はなはだしいが、まさか断られると思っていなかった僕は唖然とした。

 

 

「アステリアの熱が引かないんだ。クィディッチの試合があっただろう? 普段、彼女がああいった場に顔を出すのは珍しいことでね……無理が祟ったらしい」

 

「……そうか。それで」

 

 

 あれほどに甲斐甲斐しく面倒を見ていたのには、ちゃんと理由があったのだ。

 

 

「高熱はすぎたが、まだ微熱が残っている。油断すればぶり返すのが彼女なんだ。だから、」

 

「うん──うん、わかった。側にいてあげて」

 

「ほんとうにすまない」

 

「いいや、こっちこそ。当たり前に君に甘えようとした。……恥ずかしいや」

 

 

 背の後ろで手を握りしめる。

 ──恥ずかしい。彼はなにものからも僕を優先してくれると思い込んでいた。傲慢だ。アステリアを選ぶと、彼はいつかでしっかりと宣言していたじゃないか。

 

 恥ずかしい。

 

 

「マリア、待ってくれ。君に頼られるのは嬉しいんだ、ただ──」

 

「わかってる。わかってるから」

 

 

 なおも言い募ろうとするドラコに突っぱねるようにして腕を突き出す。

 

 

「アステリアは医務室?」

 

「いや、寮でダフネが看ている。ただ、もしもの時に彼女だけではアステリアを運ぶことはできない。だから」

 

「わかってるったら。君もたいがいしつこいな」

 

 

 正面の肩を拳で叩く。ドラコはとんでもなく情けない顔をしていた。

 

 

「僕なら大丈夫。大体、君なんてただの保険なんだから。たかだか鼠一匹を追うだけだ。変に気遣うなよ」

 

「マリア」

 

「明日には大広間で大臣から一大ニュースが聞けるだろうさ」

 

 

 このままでは僕まで奇妙な顔をしてしまいかねなかったので、さっさと切り上げてきびすを返した。そうすれば、ドラコの焦ったような声が追う。

 

 

「マリア、僕が君への協力を惜しむことは決してない。これまでも、これからもだ。それだけは信じてくれ」

 

 

 彼の真摯な言葉に、僕は腕をチラとだけ振って答えた。

 

 情けない。こうも思い上がりを突きつけられる。なまじ、中身がそれなりに自分の短所と付き合ってきた『僕』なせいで自己分析を気取ってしまう。

 ……こんな気持ちにさせられるなんて、思ってもみなかった。

 

 

「切り替えよう」

 

 

 パシッと頬を叩く。まずはペティグリューを見つけ出さなくては。

 予言がある限り──誰かが予言を壊そうと意図的に動かない限り、ペティグリューがこのまま、ハリーと接触する前にホグワーツを離れるということはないはずだ。

 奴を逃がしたのは僕の落ち度だ。完全に油断していた。僕だけは──常に状況を把握しておかなくては。

 

 前回では確か、ハグリッドの小屋に隠れていたんだったか。

 今回も同じとは限らない。確認が必要だ。そのためには────

 

 

「もしもし? ──ルーピン先生?」

 

 

 戸をノックして部屋の主へと呼びかける。返事はない。──中にはいない。

 

 

「……アロホモーラ」

 

 

 杖で戸口を叩く。やはり反応はない。これは僕の杖の問題なのか、それともルーピン先生の防犯が完璧なのか。

 

 

「困ったな」

 

 

 開かずの扉──ルーピン先生の準備室を前に腕を組んで唸る。

 このまま先生を待つべきだろうか。しかし、ハリーが自ら差し出したというのに、せいいっぱい教師らしくあろうとするあの人が僕にそれを預けてくれるものか。

 

 ふと、鍵口になにやら緑の小枝のようなものがうつった。

 

 

 ──カチッ。

 

 

「…………え」

 

 

 ボウトラックルだ。本日の魔法生物飼育学試験にて、試験対象として扱ったボウトラックルがくるくると瞳を回して鍵穴から顔を覗かせていた。

 

 

「な、なんで……?」

 

 

 ボウトラックルはまるで答えるようにキーキーと鳴いた。さっぱりわからない。わからない──けど。

 わかることが一つだけある。──これはチャンスだ。

 

 誰もいないとわかっていても、心持ち音を立てずに扉を開く。視界の端に、一仕事終えたとばかりに廊下を駆け抜けていく生きた緑の小枝があったが、礼を言っている余裕はなかった。

 どこだ──どこに────

 

 

「──あった!」

 

 

 備え付けの棚付きデスクの二段目──そこに『忍びの地図』は保管されていた。

 

 よし、これでワームテールを確認して……地図はルーピン先生に見てもらわなくちゃいけないから、秘密を開いた状態で────

 

 

「──なにを、発見あそばせたのかね。ミスポッター?」

 

「────」

 

 

 ねっとりとした猫なで声だ。──大きな蝙蝠のようなその人が、黒々しい瞳に剣呑な光を乗せて戸口に立っていた。

 

 

「スネイプ、先生」

 

「嘆かわしいことよ。まさかまさか、マクゴナガル教授とて誇り高き自寮から──コソ泥を輩出することになろうとは。夢にも思わなかったでしょうな。さぞ、偉業を成し遂げて鼻が高いであろう」

 

 

 切れ味抜群の嫌味で逃げ場を奪われていく。普段は、チラとて寄越しはしない視線がナイフのように僕を刺していく。

 

 

「あの、誤解です、スネイプ先生」

 

「さて、この場合、我輩が問うべきはいち生徒ごときに侵入される防犯の甘さか、校則も常識もかえりみないとある生徒の意識か。どう思われますかな、ミスポッター」

 

「……っ」

 

 

 元来の負けん気から彼に食ってかかろうとするのを、寸でで押しとどめる。

 現在、不利なのは間違いなく僕だ。落ち着け──抑えろ──ただでさえ元闇祓いが聞いて呆れる失態だというのに、これ以上馬鹿はしでかすな。

 

 

「ポケットにあるものを見せたまえ」

 

「え?」

 

「ポケットを裏返せと言っている」

 

 

 目前まで迫ったスネイプ先生に杖を突きつけられる。──僕が何を目的に忍んだかまでは気付かれていないようだ。

 僕は差し出した────通信紙を。

 

 

「これは?」

 

「余った羊皮紙の切れ端です」

 

「ほう、余った羊皮紙の切れ端を大切に取っておくとは……ミスポッターは大層な倹約家と見える」

 

「孤児同然ですから。余裕なんてないんです」

 

 

 どこかの誰かが両親を殺してくれたおかげでね──そんな皮肉を交えれば、スネイプ先生はゾッとするほど瞳を暗く落とした。

 ……ハリーだった頃はこの程度の皮肉が彼に響くことはなかったのに。──少なくとも、(ハリー)に対して隠し通せるくらいには感情を殺しきっていたのに。

 マリア(リリー)だと──こうなるのか。

 

 

「それを寄越せ」

 

 

 通信紙を引ったくられる。杖を当て、彼は唱える。

 

 

「汝の秘密を顕せ」

 

 

 羊皮紙はただの羊皮紙のままだった。

 

 

「正体を現せ」

 

 

 杖先で紙を突かれるが、ウンともスンともいわない。

 

 

「ホグワーツ校教師、セブルス・スネイプ教授が汝に命ず。汝の隠せし情報を差し出すべし!」

 

 

 通信紙は応えなかった。当然だ。──この紙に秘密なんてものはない(・・・・・・・・・・・・・・)

 ただ書き込まれたものを伝えるだけ。終われば消えるだけ。それだけなのだから。なにも隠されてはいないのだ。

 たとえば両面鏡に同じことをしたとしても、鏡がしゃべり出すわけではないのと同じだ。

 

 

「……フン、大いに結構。これは我輩が預かるとしよう」

 

「ええ!」

 

「なにか問題でも? ただの、余った羊皮紙の切れ端なのであろう?」

 

 

 器用に目も合わせず嘲笑される。クリスマス休暇の一件で開心術は効かないと完全にバレてしまったようだ。だからこんなにも警戒されているのか。

 あーあ、それ、けっこう作るのに苦労したんだけど。僕が通信紙を没収された事実を伝える前に、ドラコが書き込んでしまわないよう、祈るばかりだ。

 

 

「さらに。夕食後、我輩の研究室へと来るように」

 

「は?」

 

「教授の教科準備室に不在侵入しておいて、なんの咎もないと君は本気で思っていたのかね? 頭がめでたいのは試験中だけにしろ」

 

 

 通信紙をローブに突っ込んで、話は終わりだとばかり退室を促される。

 

 そ、そんなことって────ああ、どうしよう。

 

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