マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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 落ち着かない気持ちのままシェパードパイをつつく夕食。大広間は試験からの解放により、ここ数日となかった談笑で溢れ返っていた。みんなシリウス・ブラックのことなんてすっかり忘れた様子だった。

 この中でいまだ気を張り続けているのなんて僕くらいだろう。もしくはドラコ──いや、わからないな。どうやら夕食の席にもいないようだ。……通信紙を利用したりしてなければいいんだけど。

 

 

「ああ、やっぱりDADAの失敗が痛手だった気がするわ。首席が遠退いてしまったらどうしよう」

 

 

 おや、それからここにも気の緩まない勉強家が────あっ!?

 

 僕は思わず身を乗り出していた。

 

 

「ハ、ハーマイオニー、その子……」

 

「え? なに? 今、試験中にどう解答を書いたか思い出してるところなの」

 

「いや、そうじゃないんだ。君の──髪に」

 

「髪? ──ああ、この子ね」

 

 

 ようやくとかす余裕が出てきたらしい彼女の髪から──それでもボサボサだというのは、口にしてはならない暗黙の了解だ──鮮やかな緑の小枝が見え隠れしていた。ボウトラックルだ。……まさか、さっきの?

 

 

「実は魔法生物飼育学の試験からついてきちゃったみたいで。ハグリッドのところへ行く余裕もなかったから、それからずっと一緒なの」

 

「君の髪を巣だと思ってるんじゃないか」

 

 

 ロンが横から余計な口出しをする。次には目を飛び出さんばかりにひん剥いていたので、机の下で隣の彼女に足を踏みつけられたにちがいない。

 

 

「そういえば、ここにはあなたにあげられるご飯がないわ。だってこの子たちが食べるものって、昆虫よ?」

 

 

 優しく髪から掬い出し、ボウトラックルを手のひらの上に乗せたハーマイオニーは困った顔をした。手の中のボウトラックルはいとけなくハーマイオニーを見上げていた。……リータ・スキーターでもやれば喜ぶんじゃないだろうか。

 

 

「このあとにでもハグリッドの小屋へ行こう」

 

「ついてきてくれるの?」

 

「もちろんだよ」

 

 

 ハリーが微笑み、ロンが当然とうなずく。僕は生憎だ。

 クルルル。ボウトラックルは軽やかに鳴いた。

 

 

「「ハーマイオニー、君、いつからボウトラックルを飼い始めたんだい?」」

 

 

 後ろから、愉快げなユニゾンが降って落ちた。フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーの双子だ。ふくろう試験は無事に終わったらしい。否、無事なのかどうかは僕の知るところではないが。

 

 

「ちがうのよ、ついてきちゃったの」

 

 

 ジョージ・ウィーズリーがボウトラックルをよく見ようと割り込む。その隙とばかりに、フレッドに肩を組まれて机の下を覗かされた。

 ニンマリ笑うフレッドの手には、糞爆弾と爆竹花火のセットがあった。

 

 

「一度もホグズミードに来なかったつれないお姫さまにゾンコのお裾分けだ。使い方は──君次第」

 

 

 パチン。ウィンクを飛ばされる。ジョージからも飛ばされたので共犯だと悟る。(よりによってこの二人なのだから当然といえば当然だ。)

 思いもよらなかった土産を僕に握らせて、主犯たちは何食わぬ顔で大広間を後にした。

 ……使い道がまったく見えないよ、悪戯仕掛人たちめ。

 

 夕食が済めば楽しい楽しい罰則の時間だ。スネイプ先生は隣の部屋でなにやら作業に没頭していたので、僕はその間ひたすら鍋洗いに準じた。だれだ、こんなにも底にヒルの皮をこびりつかせたのは!

 空が闇色に染まっていく度に焦りが襲う。間に合うだろうか。ハリーたちはペティグリューを発見できただろうか。

 

 

「ミスポッター」

 

 

 ものすごい悪臭を放つゴブレットを手にスネイプ先生が戻ってきた。鼻がひん曲がりそうだ。そんなものと共に部屋にこもるだとか……この人の嗅覚は訓練されすぎだ。

 

 

「そこまででよろしい。我輩はこれから出る。君はさっさと寮へ戻りたまえ。──いいかね、寮にだ。愚かしい弟のように徘徊なぞして我輩の手を煩わせてくれるなよ」

 

 

 鼻の上にシワを寄せて、ローブを引きずるようにして年中不機嫌な育ちすぎた蝙蝠は教室を出た。慌てて追えば、杖の一振りで背後の教室を施錠された。スマートだ。

 そのまま、ふり返りもせずどこかへ向かうスネイプ先生のあとをひっそりと追う。僕の予想が正しければ──あれは脱狼薬だ。うっかり飲み忘れたルーピン先生に渡しに行くのだ。そして──地図を発見する。

 

 予想の通りルーピン先生の準備室を訪れ、容赦なく鍵を解除しようとしたスネイプ先生は、ふと杖腕を止めた。杖ではなく手で押せば、扉はあっけなく開いてしまった。鍵がされていなかったのだ。

 曲がり角に隠れて様子を見る。数秒後、スネイプ先生はゴブレットもなにもかもを置いて飛び出していった。きっとルーピン先生もこんな風に急いだから、鍵まで頭が回らなかったのだろう。

 二人とも、案外抜けている。──なにもかも(・・・・・)、置いていってしまうなんて。

 

 

「なんで忘れちゃうかな」

 

 

 地図とゴブレットを手に、僕も暴れ柳の元へと向かった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 スネイプ先生が透明マントをはおる。彼の姿が完全に消えてしまったので、慎重に叫びの屋敷へと続く抜け穴に忍び寄る。ゆっくり──ゆっくり──焦るな──

 

 声が聞こえる。──ハリーのものだ。

 

 

「──シリウス・ブラックと、手を組んでいたんですか」

 

 

 声だけでわかった。──ハリー、ギリギリだ。感情が爆発してしまいそうなのを、ギリギリで抑え込んでいる。

 

 

「それはちがう、ハリー。私も、今、知った。今、気付いた。ようやく、親友を取り戻した」

 

「そして僕とマリアを騙していた」

 

「騙してなどいないとも! ほんとうに──私は、ずっとシリウスを──」

 

 

「その答え合わせは、アズカバンでしていただこう」

 

 

 スネイプ先生が透明マントを放り捨てる。──エクスペリアームス!

 四本もの杖がスネイプ先生のもとへと飛んだ。────ので。

 

 

「えいっ」

 

 

 間に割り込んで誰かの杖をかすめ取った。そして向けた。──スネイプ先生へと。

 

 

「エクスペリアームス! ブラキアビンド、シレンシオ!」

 

 

 先生の杖が僕の手に収まる。彼の腕は背の後ろへと拘束され、怒鳴る声すらも奪う。足も腕と同様だ。

 このまま、誤解し続けたまま『前回』のように邪魔されるのだけは回避せねば。──本当に誤解だったのか、今となってはわからずじまいだが。

 すっかり捕らわれた強盗のような姿になってしまったスネイプ先生に、上っ面だけでごめんなさいと謝る。

 

 スネイプ先生は無言呪文を習得している。だが──杖なし魔法となればどうだろう。人より戦闘経験の記憶が多い僕だって、アクシオだとか簡単なものでしか杖なし魔法は扱えないというのに。

 

 床に散らばった杖を拾って、一人一人へと返していく。そして最後に、僕のイトスギの杖をシリウスへと渡した。

 

 

「マリア……」

 

 

 不安げに呼んだハリーへ、ニッコリ笑いながらふり返る。

 

 

「大丈夫だよ、ハリー。さて、手荒な真似をしてすみませんでした、スネイプ先生。罰則ならまた明日にでも受けますので。──さすがに、教師に杖を向けたのは、鍋洗いでは済みませんね」

 

「…………」

 

「でも──答え合わせは今すべきなんです」

 

 

 奪われた声の代わりに、ギラギラした銃口の瞳を開くその人に、ほんの少し、胸が苦しくなった。

 ……こんなときばっかり、僕の瞳を見るんだから。──今は、『どっち』を見ているんですか、先生。

 

 

「まず、ルーピン先生。命に関わるうっかりは、どうかと思いますよ」

 

 

 スネイプ先生が押し入った扉の裏に置いておいたゴブレットをルーピン先生へと手渡す。ルーピン先生は、アッ、と声を裏返らせると、窓の外を見た。

 月はまだ昇りきっていない。きっと間に合うだろう。

 

 

「やっぱり、そうなのね」

 

 

 ハーマイオニーが呟いた。

 

 

「……いつから気付いていたんだい? ハーマイオニー」

 

「スネイプ先生が臨時講師をなさって、人狼の項目を選ばれた時からよ。あなたのボガートが満月に変化したのを覚えていたの」

 

 

 ルーピン先生がまいったな、と眉を下げて笑う。スネイプ先生がちょっと得意気に口角を上げていた。

 まったく理解できていない子供二人──特にロンは、なんの話なんだと子供らしく癇癪を起こして、足の怪我にうめいていた。

 

 

「ロン、動かないで。応急処置しかできないから、あとでちゃんとマダム・ポンフリーに診てもらうんだよ。──エピスキー。フェルーラ」

 

 

 痛みを取り除き、適当な添え木を包帯で巻いていく。家具はボロボロ、床だってえぐれ放題なので、添え木には困らなかった。……ドラコなら、もっと上手く処置してやれただろうに。

 ジッとどこかおそろしいものを見るように、薬を飲み干したルーピン先生は僕を見ていた。ロンはポカンと呆けて、ハーマイオニーは薄々察していたのか、やっぱり、なんて肩をすくめていた。

 

 

「僕の話はあとです。──答え合わせ、だよね。ハリー、ハーマイオニー」

 

 

 さりげなくクルックシャンクスの側へ寄っていつでも鼠に杖を突きつけられるようかまえる。そんな僕にクルックシャンクス以外は気付かず、ハーマイオニーは迷いながらも話を続けた。

 

 

「……そのひと、人狼よ」

 

「エーッ!?」

 

 

 やはり一番に反応したのはロンだ。立ち上がることこそできないが、メンタル面はかなり元気を取り戻している。改めてロンのタフさには驚かされる。

 

 

「それが、今、どう関係するの? ルーピン先生が人狼だろうがどうでもいい。そんなのは些細な問題だ」

 

 

 苛々するハリーの吐き捨てるような言葉に、ルーピン先生と、そしてシリウスの目が大きく開かれていった。きっと彼らの目には今、ハリーがジェームズに見えていることだろう。堪え性がなさそうな辺りも助長しているかもしれない。……『僕』なんかより、ずっと我慢強いけどね、ハリーは。

 

 

「それがそうでもないんだ、ハリー。ルーピン先生の問題は、君の味方だった『地図』の製作にも関わっている。──そうですよね、ルーピン先生。そして────シリウス」

 

 

 クルックシャンクスを挟んだその向こう、隣立つシリウスはおそるおそると僕を見た。

 

 

「──つまり、プロングズ、ムーニー、パッドフット、ワームテールのうちの二人が──あなたたちってことだね」

 

 

 ハリーが懸命に答え合わせのため頭を働かせる。

 

 

「私がムーニーだよ。ハリー」

 

「そして俺が……いや、私が、パッドフットだ」

 

 

 シリウスにはどこか観念したような雰囲気すらあった。

『前回』では骸が動いているかのごとき悲壮さだったが、今は毎日の食事とたびたびかけてきた洗浄魔法によって元の美貌がわかる程度には身だしなみが回復している。──それが、彼の感情をわかりやすくさせた。

 

 

「ハリー──もう一人いるんだ」

 

 

 ルーピン先生とシリウス──そして僕が、クルックシャンクスの前脚に捕らわれている鼠を捉える。

 

 

「そいつはワームテール────ピーター・ペティグリューだ」

 

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