マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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7ー4

 

 きょどきょどする男に、朗らかにルーピン先生が笑う。

 

 

「やあ、ピーター」

 

 

 まるで久々に会えた旧友とでも接するかのような気楽さだった。──ゆえに、おそろしい。

 

 

「シ、シリウス──リーマス──」

 

 

 男は震えながら自身を囲む面々の顔を見て回った。ハーマイオニーの腕の中へと避難していたクルックシャンクスが、シャーッと激しく威嚇した。

 

 

「し、信じないでくれ。すべてうそだ、デタラメだ。わかるだろう? この男は狂っている!」

 

「マリアの前でその言葉を口にするな」

 

 

 ハリーの声は冷たかった。

 

 

「リーマス、リーマス、まさか君は──信じたりしないだろう? やさしい友達。君は一等、優しかった」

 

「ピーター……私は──君のことを、ずっと守ってきたつもりだよ。もちろん、シリウスも──ジェームズも。けれど君は──」

 

 

「──なら、今度も守っておくれよ!!」

 

 

 それは、媚びだとか情けだとかをかなぐり捨てた哀れな姿だった。──これこそが本音なのだと、悟った。

 

 

「僕ひとりでなにができるっていうんだ! 臆病者のピーター! 腰巾着のピーター! その通りだ──私は君たちのように強くなんてない。だから、しかたがなかったんだ」

 

 

 そしてピーターは──次に続けた言葉によってみんなから怒りや恐怖の感情を奪いさった。

 

 

 

「だって────ジェームズが死ぬなんて思わなかった!」

 

 

 

「………………は?」

 

 

 誰だっただろう。誰もがかもしれない。心の底から理解できないと──困惑が場に満ちた。

 

 

「あのジェームズだ! 僕らのヒーロー、ジェームズ・ポッター! 天才で、秀才で、誰もが憧れたジェームズ!『あの方』から二度も逃げ延びた英雄ジェームズ! そんな男が──殺されるなんて、思わないじゃないか」

 

「お前は……お前は……なにを言ってるんだ……?」

 

「ジェームズなら死なないと思ったから、だから、だから──僕が死ぬような目に遭うくらいなら、ジェームズなら────」

「でも、ジェームズは死んだ。あっけなく殺された。それって──つまり、それほど恐ろしい方なんだ。あのジェームズをあっさりと殺してしまうほど強い力を持つお方なんだ。そんなの……劣等生のピーター・ペティグリューが立ち向かえるわけないだろう?」

 

 

 シリウスは理解が欠片もできないと怒りに不健康な肌を染め上げ──ルーピン先生とスネイプ先生は、呆然としながらも彼の心からの叫びを噛み締めるようにして瞳を揺らせていた。

 

 

「気が狂っているのはお前だ、ピーター。ジェームズだって人間なんだぞ──人間である限り、人は死ぬんだ! それが──それがわからなかっただと──?」

 

 

「──僕、わかるよ。それ」

 

 

 シリウスの唸りに答えたのは、ピーターでも残す大人たちでもなく──ロンだった。

 

 

「だって僕、ハリーが死ぬなんて思えない。ハリーって、一年生の頃からかなりデンジャラスな問題に巻き込まれてるけど──それこそ、生まれた頃からなんだろうけど──ホグワーツで二度も『あの人』と対決したのに、こうして生きてる。大怪我をしても僕たちの元へ帰ってきてくれる。だから、次も──て、思ってる」

 

「──わかるわ」

 

 

 ロンの独白を、ハーマイオニーが引き継いだ。

 

 

「わたしも──ハリーなら大丈夫だって、心のどこかで思ってる気がする。でも、そこに理由なんてないの。いいえ、ハリーこそが理由なんだわ。ハリーだから(・・・・・・)大丈夫だって──ああ、これってものすごくおそろしい思考だわ」

 

 

 ハリーへと一心に視線が集まる。そのハリーは──

 

 

「わかるよ」

 

 

 ハリーまでもが、ペティグリューの危うさを肯定した。

 

 

「僕も──去年のことがあるまで、マリアは死んだりしないって思ってた」

 

「え──」

 

 

 出てくると思わなかった名前に、隣の片割れを見上げた。

 

 

「でも、マリアは死にかけた。死んだっておかしくなかった。マリアが冷たくなっていくのを、この手で感じた。マリアの血はあたたかかった。それで、気付いたんだ。──マリアだって、死ぬんだって。だってマリアは──生きているから」

 

 

 シン──重苦しい沈黙だった。

 ……僕にだって覚えがある。僕も──ダンブルドアは死んだりなんてしないと、信じきっていた。

 

 危うい。誰かを英雄視するというのは──時として相手を死にまで至らしめる。

 

『僕』は──ずっとそんなものを────

 

 

「ピーター」

 

 

 ハリーがペティグリューの元へと膝をつき、彼とまっすぐに目線を合わせた。

 

 

「──ジェームズは死んだ。ジェームズ・ポッターは──君の英雄は死んだんだ」

 

「あ────」

 

 

 ジェームズの顔が、リリーの目が語る『死』に、ペティグリューははじめて聞いたとばかりに虚ろな目を開いた。

 

 

「あ……ああ……死んだ……死んだのか、君……ジェームズ……ああ……」

 

 

 ボロボロと涙がこぼれ落ちる。お世辞にも彼の外見は見られたものとは言えなかったが、その姿ばかりは、汚ならしいと罵倒する気持ちにはなれなかった。

 

 友達だったんだ。父さんとピーターは──まちがいなく、友達だった。

 

 

「……お城へ行きましょう。ちょうど、魔法省からの役人が来てるわ。直接引き渡すのよ」

 

 

 毅然とハーマイオニーが立ち上がった。ペティグリューに集まっていた視線は気遣わしげにロンへと移動し、そしてそのロンこそが一番にペティグリューの腕をひねり上げた。

 

 

「行こう」

 

「ロン……ええ、行きましょう」

 

 

 不自由な足でペティグリューを繋ぐロンをハーマイオニーが支える。ルーピン先生がペティグリューの反対の腕を捕らえる。僕はスネイプ先生へと杖を返して、そしてイトスギの杖を取り戻してからトンネルを進む彼らへとついていった。

 ようやく光が見えたところで、手を繋いでいたハリーが振り返った。

 

 

「──その、マリア? 君は……」

 

 

 しんがりを務めていたシリウスが、とつとつと切り出す。

 

 

「私が──つまりは──」

 

 

 聞きたいことなんて山ほどあるだろう。もしも僕がシリウスなら、ルーピンなら、スネイプなら──ハリーだったなら、こんな怪しい人物を信用しやしない。

 シリウスは数秒考えあぐねると、おそるおそると尋ねた。

 

 

「……犬に玉ねぎをやってはならないと、君は知っているか?」

 

 

 思わず吹き出してしまった。なんて──なんて不器用な確認の仕方をするんだ、この人は! 隣のハリーまできょとんとしていた。

 ほんとうに──あなたって人は──

 

 

「──当然でしょ、黒犬さん!」

 

 

 トンネル内に、僕のおかしな笑い声が反響した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 城は目前だ。しかしそこで事件は起きた。──ディメンターが待ち構えていたのだ。

 

 

「なぜ──!」

 

 

 混乱は最悪を生んだ。とんでもないタイミングで月が現れ、理性を持つとはいえ身体は変化してしまうルーピン先生が恐ろしい狼の姿で暴れ柳の元へと取って返してしまい、パニックになったペティグリューがロンをなぎ倒して鼠に変わって逃走したのだ。

 きっとペティグリューはディメンターさえ現れなければ完全に観念していただろう。彼が逃走する際の言葉は「死にたくない」だった。不運が重なりすぎた。

 

 

「だめだ、あいつを逃がしたら──」

 

「マリア、離れないで!」

 

「魔法省に突き出さないと──シリウスが!」

 

「シリウスの冤罪証言なら僕らだってするから」

 

「それじゃ駄目なんだ!」

 

 

 ロンの腕を振りほどく。

 かつての僕とハーマイオニーの証言は、子供だからと聞く耳すら持たれなかった。ファッジは──目の前で事を起こさねば、不都合を認められない腐った男なのだから!

 

 

「マリア──」

 

 

 ハリーが僕の手を握った。──震えていた。

 

 

「おねがい──そばにいて」

 

「────」

 

 

 ハリーが杖をディメンターへと伸ばす。その数は百を超えていた。城の外を警備と称し徘徊していたディメンターのすべてが集まったようだった。

 

 

「エクスペクト──」

 

 

 杖が三本、闇に向かって輝いた。

 

 

「「「エクスペクト・パトローナム」」」

 

 

 それは幻想的な光景だった。雌鹿が二匹、牡鹿が二匹──睦まじく寄り添いあうようにして二組の番が駆け抜けた。闇を銀の輝きで割いて、死の温度をやわらかく溶かした。

 

 

「きれい……」

 

 

 ハーマイオニーが思わずと呟いて、それに同意を込めてうなずいて────待て。牡鹿が二匹(・・・・・)

 

 僕はハーマイオニーの手を掴んで駆け出していた。二組の番鹿に夢中になっている面々は離脱する僕らに気付いていない。──今だ。今しかない。

 

 彼らから完全に死角の場所へとハーマイオニーを引き入れて──僕は懇願した。

 

 

 

「ハーマイオニー────君のタイムターナーを使わせてくれ」

 

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