マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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2ー1

 

 試合が終わってからのロンとハリーは魂が抜けたようだった。それほどに壮絶な試合だったのだ。これまでだって腕を折ったり箒から落ちたりと、ハリーも中々に危ないプレイに見舞われてきたが、プロたちがぶつかり合う試合は比べ物にならなかった。

 なにより──クラム! ビクトール・クラムが所属するブルガリアチームは結果的に点数差でアイルランドチームに敗北はしたが、スニッチを獲ったのはクラムでありその勇姿は讃えられるべきものだった。満身創痍でスニッチを追う姿には壮絶な命の躍動があった。ハーマイオニーですら、彼ってすごいわ……なんて瞳をポウ、とさせていた。咄嗟にロンのほうを見てみればロンのほうがポー……となっていたのでもうどうでもよくなった。

 僕はといえば『前回』で観戦しているはずの試合だが、当然、試合内容だとか結果だとかまで覚えているはずもなく、まったく新鮮な気持ちで改められた。選手が怪我をするたび、プロとして活躍していたかつての妻を思い出して──そして同じ少女が隣で拳を握りしめていた──僕まで殴られた気分になっていたが。

 

 

「僕、まだ信じられないよ。クラムってまだ学生だって聞いたことがある。……かっこいいなあ」

 

 

 テントへ向かう途中、いまだ余韻でフラフラするハリーを僕が、そしてロンをハーマイオニーが支えていた。ジニーは双子の兄たちに興奮のままもみくちゃにされては父の元へと避難していた。

 

 

「ええ、そうね……て、ロンったらいつまで惚けてるのよ。クラムはヴィーラじゃないのよ」

 

「あ、当たり前だろ!」

 

 

 屈強な男が男を虜にする魔性生物なんかに例えられて、ロンは顔を真っ赤にして噛み付いた。

 ヴィーラ、ヴィーラか……ロンはヴィーラに特に弱いもんな。ハリーだって人並みに気を持っていかれてたし…………と、いうか。──実は僕もだった。ヴィーラの魅了は男性にしか効かないはずなので生物学上女の僕には関係ないと油断していたら、このざまである。ハーマイオニーとジニーに魅了された男性陣の中の一人にくくられじっとりと睨まれてしまった。誤解だよ、お嬢さんたち。

 

 テントへたどり着いても、興奮さめやらぬ人々の歓談は盛り上がり続けた。誰一人と僕に注目していないことを確認してから、そっとテントを抜け出す。

 

 

「──マリア、こっちだ」

 

 

 彼の声が囁く。ウィーズリー家と同じく、特等席にて家族と観戦していたマルフォイ家のキザなお坊っちゃんが、キザに木の幹へともたれかかっていた。

 

 

「……バレてないな?」

 

「うん。でも、早めに戻りたい。こんなところをハリーに見つかったら……」

 

「相変わらず姉離れのできない弟だな」

 

「かわいいだろう?」

 

 

 慣れた軽口を交わして共に森の影へと潜む。ドラコの金髪が目立つんじゃないかと思ったが、光を完全になくしてしまえば、存外、彼は闇に溶け込めてしまうようだった。

 

 

「君こそ、お父上は?」

 

「ファッジ大臣のお相手をされている。母上共々だ」

 

「なるほどね」

 

 

 どうりで、案外抜けている父親はともかく息子を溺愛する母の目まで掻い潜れたわけだ。……いや、溺愛していたのは『前』の話か。

 

 

「──君、わかってるな?」

 

 

 ドラコの『確認』に僕はしっかとうなずいた。うなずいてから、この暗闇じゃ見えないかと口に直した。

 

 

「もちろん、寝ずに備えるつもりだ。……君は? その、ルシウスは──」

 

「……わからない」

 

 

 ドラコの声は頼りなげに細かった。

 

 

「父上は──以前にも増して、僕を避けておられる。屋敷でその手の情報は回ってこないんだ。おそらく、父上が止めている。……すまない。ただ、母上の側にいろとだけ」

 

「謝らないでよ。それは君にどうこうできる問題じゃないだろ。……そうか」

 

 

 気まずい沈黙となる。やはり、僕の言葉は届かなかったのだろうか。たかだか、怪しい小娘の忠言など──

 けれど、彼の家族への愛情は確かだと──あの日のルシウスを見た僕には思えたのに。

 

 

「どっちにしろ、奇襲があるのは間違いない。何人か怪しい動きをしている輩を見かけた。……阻止は、できないんだな?」

 

「マッドアイの目でもなければ無理だよ。相手は透明人間だからね。……正直、この辺りは僕も記憶があやふやなんだ。なんたって興奮しきりの観戦あとだったから」

 

 

 ドラコが防音魔法をかけてくれてはいるものの、念のためにとぼかしながら伝えれば、ドラコはたぶん、悪夢を振り切るように首を振って、それから僕と同じように声に直した。

 

 

「ともかく、今回ばかりはハリーの安全優先だ。死喰い人なんて面倒きわまりない」

 

「えっ、それ君が言う?」

 

「だからこそだ」

 

「経験者は語るか」

 

 

 ぽやぽやと中身のない会話で気が緩んだところで、さて解散だとばかりに立ち上がった僕の肩に──ポンッと、手が置かれた。

 

 

「──逢い引きは終わりか? マリア」

 

「ひえっ」

 

 

 咄嗟に防音魔法を解除したポーズのまま杖をその人へ向けたドラコも、ガッチリと固まっていた。

 

 

「シ──シリウス……」

 

 

 どこかのテントからもれる明かりを背に受けてニッコリ微笑むシリウスは、顔面の美しさもあって怒れる夜の魔物にしか見えなかった。頭からバリバリ食われそうだ。……めちゃくちゃ怒ってる。

 

 

「マリア、女の子がこんな暗闇に年頃の男の子と一緒というのは……感心しないな?」

 

「いや、あの、ちがうんだ、シリウス。そんなんじゃ、」

 

「さて……あー、ドラコ君? ────誰に向かって杖を向けている」

 

 

 僕へのものとはまったくちがう敵意の声に、ドラコは電気ショックでも受けたかのように杖を振り下ろした。

 

 

「ッも、申し訳ありません、シリウス伯従父上」

 

「ちょっと、シリウス! ドラコをいじめないでよ」

 

 

 シリウスに誘導されるままに森を出れば、マグル対策なんて頭からすっぽ抜けた魔法使いたちがいまだ宴会を開いていた。どこもかしこも賑やかで笑いに溢れているというのに──ここだけがまるで氷河期だ。

 

 

「前々から気になっていたんだが……君は、うちの愛娘と一体どんな関係にあるんだ?」

 

「シ、シリウス……」

 

 

 どうしよう、喜んでる場合じゃないのはわかってるけど……愛娘の言葉にときめいてしまう。

 

 

「僕は……」

 

 

 何を言う気だとドラコをおそるおそる窺い見れば──あ、ダメだこれ、ビビり倒してる。

 そりゃそうだよな、貴族たちのアレコレなんて魔法大臣ハーマイオニー閣下に任せっきりだった僕ですらわかる。王族とまで言わしめたブラック家の、それも本家の長男とかマルフォイのお坊っちゃんからすればとんだ爆弾だよな。

 でも安心してくれ、ドラコ。……この人、そこまで考えてない。基本的に本能で生きる人だから。

 

 

「いいか、ドラコ……よく聞け────俺の目が黒いうちは、娘はやらん!」

 

「シーリーウースー!」

 

 

 言ってやったとホクホク顔で恥ずかしい宣言をしているシリウスに、バッと顔をおおう。そもそもあなたの目の色は灰色でしょうが!

 

 

「あ、あと娘がほしければ俺を倒してからにしろ! ……も、一度言ってみたい台詞だったんだ。ハッハ、天国でジェームズのやつが悔し涙流してら!」

 

「バカ……もう、バカ……」

 

「娘を持った父親なんてのはどいつもこいつもバカになるもんなんだ。ジェームズが赤ん坊のお前にどれだけメロメロだったか、聞かせてやろうか?」

 

「知ってるからやめて」

 

 

 いたたまれない気持ちのままシリウスの肩を軽く殴り付ける。

 よく知ってるとも! 僕だって愛娘リリーにはことさら弱かったからね! リリーのおねだりに負けてどれだけジニーに叱られたか。リリーがボーイフレンドを紹介してきた時なんて、僕も「私と決闘して傷を一つでも付けられたら考えよう」なんてバカなことを言ったよ! そしてリリーの「パパおとなげない」の一言に撃沈したよ!

 

 

「ごめん、ドラコ……僕が責任持って回収するから……ほんとごめん」

 

 

 呆けているドラコに謝り倒せば──ドラコはまるで、これこそがこの世の幸福だとでもいうように、やわらかく笑った。

 

 

「……よかったな、マリア」

 

「────」

 

 

 きっと、この場にシリウスがいなければ──ハリーと、彼は呼んでくれただろう。

 ドラコは『僕』がどれほど──こんなバカをシリウスとできる日をどれほど望んだか、知っている。

 

 泣いてしまいそうだ。

 

 

「……フン、あいつらの子供にしてはいい顔をするじゃないか。──ドラコ。ナルシッサとルシウスが探していた。早く戻ってやれ。心配してたからな」

 

「お気遣い痛み入ります。シリウス伯従父上」

 

 

 ドラコが丁寧に礼をして去る。それをなにも言えず見送った僕に、シリウスは加減なしにぐしゃぐしゃと頭を撫でてくれた。彼なりのスキンシップと、実は照れ隠しなのだとわかった。……そんなこともわかるようになれた。──幸せだ。

 

 

「……ま、アイツならお前の婿に考えてやらんでもない」

 

「そんなんじゃないってば。……シリウスおじさんの親バカ」

 

 

 あなたが生きて笑っている。それだけで、幸せだ。

 

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