マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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2ー2

 

 暗闇を走っていた。森の中だ。途中、遭遇したボーバトンの生徒や小鬼、ヴィーラとその取り巻きたち、そして、「悪い魔法使いがいる!」と密告してくれたクラウチ家の勇敢なしもべ妖精ウィンキー。そのすべてを振り切って僕たちは走った。

 

 

「──この辺りにしよう」

 

 

 暴動の声も聞こえなくなったところで、三人を引き留めて立ち止まった。誰の頭の中にも先程見た醜悪な光景が焼き付いていた。

 火をつけられたテント。絶叫と悲鳴。マグルの一家を愚弄し、翻弄し、抵抗することもできない弱者をなぶり嘲笑った仮面の集団。渦巻く悪意の連鎖。──どうか、あの中にルシウス・マルフォイがいませんように。逃げの一手しか打てない僕には祈ることしかできない。

 

 

「みんな、杖を出して。ここでアーサーおじさんを待とう。何があってもいいように──」

 

「どうしよう、マリア」

 

 

 ハーマイオニーのルーモスによって照らされたハリーの顔は蒼白だった。

 

 

「杖がない。僕の杖が」

 

「なんだって? 君、落としたのかい?」

 

「テントの中に置いてきてしまった?」

 

「わからない。でも、かなり前からだと思う」

 

「三人とも落ち着いて。しずかに」

 

 

 混乱につられて声が大きくなる三人をたしなめる。

 ……と、いうことは、ハリーの杖はすでに『アイツ』の手にあるのか。どのタイミングで奪われたのだかはわからないけれど──あの杖で悪さをされるのは、やっぱり気にくわない。『僕』にとっても思い入れの深い相棒なのだから。

 

 

「ハリー、僕の杖を持っていて」

 

「でも」

 

「いいから。身の安全を第一に考えるんだ」

 

「それならわたしの杖をマリアが持つべきだわ」

 

「え、え? どういうこと?」

 

 

 ハリーに無理やりイトスギの杖を握らせて、そうすればハーマイオニーが僕に自身の杖を渡そうとするのでそれを止める。おいてけぼりのロンが目を白黒とさせて────彼の後ろへと、ハリーが杖先を突きつけた。

 

 

「だれ?」

 

 

 ハリー以外の三人の目がいっせいに(くう)を見た。

 

 

「誰か、そこにいる?」

 

 

 目には見えない。杖の先にあるのは不気味な木の影ばかりだ。けれど、僕にはわかった。ハリーにもわかってしまった。

 僕らが今もっとも警戒すべき『透明人間』がそこにいた。

 

 

「誰かいるなら──」

 

「モースモードル」

 

 

 男の声と緑の光が闇を垂直に切り裂いた。三人は糸で引かれるみたいに光を追って顔を上げた。その間に透明の男は姿眩ましをし、捨て置かれたハリーの杖と強制的に喚び出されたウィンキーだけがそこにいた。呆けるウィンキーが杖を拾った。──僕だけが、そのすべてを見ていた。

 

 爆発的な悲鳴がテントの群れの方向から上がる。空に打ち上げられた髑髏。それはかつての闇の時代を記憶するすべての人の恐怖を煽った。先程のマグルへの残虐行為の比でなかった。

 ハリーやロンがそれにポカンとして、すぐさま意味を理解したハーマイオニーが二人の腕を取った。僕へは信頼のアイコンタクトをくれた。

 

 

「ハリー、離れましょう。今すぐによ」

 

「ハーマイオニー?」

 

「ここを離れるの。だめよ、あれはだめ──」

 

「あの髑髏がなんだっていうのさ」

 

「わからないの!? あれは────」

 

 

 ハーマイオニーの判断は正しくも、遅かった。次々と姿現しをした役人たちに四人の子供は囲まれた。そして。

 

 

「ステューピファイ!」

 

「──プロテゴ!」

 

 

 杖を持ちながらも構えることすらできなかった三人と丸腰の一人へと走った閃光は、鋭く放たれた透明の壁によって弾かれた。二十人ほどの役人たちのその後ろ──年齢にしては落ち着きのない彼が、常ならばクルクルと変わる表情をごっそりと落として立っていた。整っているがゆえに彼の無表情は、人間であるかを疑わせるほどに恐ろしかった。

 

 

「シリウス……」

 

「──私の子供たちに杖を向けたのは、誰だ」

 

 

 態度だけで役人たちをしりぞかせ、僕らの前に立ったシリウスの声は冷々としていた。人を従わせる方法を本能で知っている声だ。

 シリウスは繰り返した。

 

 

「誰が、ハリー・ポッターとマリア・ポッターに──私の代子たちに攻撃呪文を放った」

 

「シリウス・ブラック──貴様──」

 

「──待ってくれ、やめてくれ!」

 

 

 シリウスの隣に、円になっていた役人たちをかき分け駆け付けたアーサーおじさんが並ぶ。アーサーおじさんは、呆然としながらも傷一つない子供たちを見てほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「これはなんのつもりだい、クラウチ」

 

「現行犯。──そうだろう? アーサー」

 

「誰が現行犯だって?」

 

 

 役人たちの中から一歩進み出たクラウチ・シニアの杖は、今や僕らではなくシリウスを指していた。──こいつ、シリウスを疑ってるのか!

 

 

「闇の印が上がった場所にシリウス・ブラックがいた。そして闇の印は到底、子供に放てる魔法ではない。となれば……みなまで言う必要はあるまい」

 

「バーティ、落ち着きなさい。いくらなんでもそれは」

 

「そうですよ、クラウチ。ブラック氏の『例の件』は冤罪と認められたではありませんか」

 

 

 さすがにこじつけが過ぎると周囲すらも止める中、クラウチはそれこそシリウスを憎んでいるのだとばかりに目に殺意を滾らせていた。……シリウスが、というより、彼は闇の魔術やその勢力そのものが憎いのだろうが。

 シリウスは、今にも攻撃魔法を放たんとしている苛烈な視線を身一つで受け止めて、決して僕らの前から退こうとはしなかった。頼もしすぎる彼の背中が、僕にははがゆくてならなかった。

 

 

「クラウチ、君らしくもない。シリウスを疑うのは子供たちの話を聞いてからでも遅くはないだろう。さあ、マリア、ハーマイオニー、なにがあったのか教えてくれ」

 

 

 アーサーおじさんの穏やかに努めた催促に、ハーマイオニーは震えながらも毅然と男の声のことを話した。それに時折、僕が付け足す──たとえばハリーの杖紛失の件だとか──形で事情聴取は進んだ。そしてすぐさま、自分のご主人様の登場により動けなくなっていたしもべ妖精のウィンキーが発見された。

 

 

「これは……これは、どういうことだ? まさかしもべが──? それも──クラウチさん、あなたのところの」

 

 

 クラウチ・シニアは唖然としていた。ウィンキーはひたすら哀れに主人へと無実を訴えていた。

 

 

「しもべは杖を扱えない。誰かがしもべに杖を与え、闇の印を上げる魔法を教えた……はて、そんなことができるのは」

 

「エイモス、やめてくれ」

 

「そして杖はハリー・ポッターのものだ。それは、つまり──」

 

 

「──つまり、誰かがハリーの杖を奪うだか拾うだかして闇の印を上げ、さっさと姿眩ましして逃げたところに運悪く騒動から避難していたウィンキーが鉢合わせて杖を拾った。……ということではないでしょうか」

 

 

 その場にいたすべての人間の目が僕へと集まった。これ以上、疑われて真っ青になるハリーも、悲痛に涙を流すウィンキーも、そして僕らを庇うために気を張りつめて立ちふさがり続けるシリウスも見ていられなかったのだ。……いい加減にしてくれよ。

 

 

「そうだね、マリアの仮説がもっとも現実的だ。さあ、ここからは大人の話だ。子供たちを引き取らせてもらっても? シリウスも一緒に来るといい」

 

「アーサー!」

 

「エイモス、ここは魔法省じゃない。召喚状もなしにプライベートを拘束というのは──いくらなんでも横暴だ。また日を改めるべきだ」

 

 

 ウィンキーをクラウチへと引き渡し、アーサーおじさんが有無を言わせず僕らを連れて歩く。僕の片手はハリーにしっかと握られ、逆隣にはシリウスが固い表情で付き添っていた。森を抜ける道中、ほとんど子供たちに会話はなかった。

 

 

「……シリウス」

 

「わかってるさ。ハリーが疑われるくらいなら、俺の監視が厳しくなろうがまた軟禁生活を強いられようがかまうものか。いくらでも呼び出せばいい」

 

「すまないね、まったく……不祥事に続く不祥事で魔法省もピリピリしているんだ。だからといって許される話ではないが」

 

「今さらだ」

 

 

 テントへたどり着いて、アーサーおじさんはロンとハーマイオニーを先に中へと招くと、僕らとシリウスに向かって訳知り顔で微笑んだ。シリウスとの時間を少しでも作ろうとしてくれる彼の気遣いが嬉しかった。素直に甘えて、ハリーと僕とシリウスとで改めて顔を合わせる。

 

 

「シリウス……」

 

「すまない。私の軽率な行動のせいでまた少し、一緒に暮らす約束が遠退いてしまったかもしれない」

 

「そんなこと!」

 

「けれど、必ず──君たちのことを迎えに行く。今度こそ務めを果たそう。私は君たちの後見人なのだから。……信じて、待っていてくれるか?」

 

「「そんなの、当たり前だ!」」

 

 

 僕らは同時にうなずいて同時に飛び付いた。軽々と受け止めたシリウスは、僕とハリーとまとめて、きつくきつく抱きしめてくれた。

 

 

「ありがとう。たくさん待たせてしまった。寂しい思いをさせた。──もう、させない。愛してる。ハリー、マリア」

 

「「僕も大好きだよ、シリウスおじさん」」

 

 

 たとえ実の父でなくとも。

 ──僕とハリーを誰かと重ねて見ているのだとしても、この時の僕たちは正真正銘、『家族』だった。

 

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