目覚めたその日、僕は見慣れない内装よりも慣れた体温が傍にないことに混乱した。
……あれ。ハリー、先に起きたのかな。もうキッチンに行っちゃったの? いつも起きる時は一緒なのに。起こしてもくれないなんて。
ふわふわした頭でベッドを叩く。やわらかい。二人分どころか一人だけだってギシギシ文句を言ってくるスプリングが聞こえない。
次第に薄ぼんやりと見えてきた目で天蓋と天井を確認する。ああ……呟く。そうか、ここ──ホグワーツか。しかも女子寮。
一度だけぐるりと室内を見回して、改めてルームメイトを確認する。ラベンダーにパーバティにハーマイオニー……どうやら前回のハーマイオニーのルームメイトたちの中にマリアは入れてもらえたらしい。
あまり少女たちの無防備な寝顔を見てしまうのも悪いと、ふやけた頭のまま制服に着替える。ボロボロだけれど微妙に愛着がわいてしまったブラシを手にして。
「おはよう、ハリー」
「おはよう、マリア」
やっぱりハリーは起きていた。談話室の暖炉を前に、緑の目をとろりと溶かしてふわふわの頭をさらにふわふわにしていた。
「なんとなく、マリアが起きた気がして」
「僕もハリーが起きたと思って」
絨毯の上に座り込むハリーを足の間に挟んで、ブラシでゆっくりと目の前の頑固な癖毛を解かしていく。
「目を開けて、一番にマリアを探したんだ。先に行っちゃったのかなって。それで、ロンのイビキが聞こえて、ここはホグワーツだって気付いたの」
「僕もだよ。真っ先にハリーのこと探しちゃった。ロンのイビキってすごいよね。……アー、えーと、僕の想像の中でだけど」
「その想像で間違いないよ」
「「……ふふっ」」
ようやく黒髪が思うとおりの指通りになったところで、兄弟と役割を交代する。自身ではろくに整えたこともない乱雑な赤毛が、ハリーの指にすかれて肩を流れていく。母さんと同じ髪色──僕がマリアとなってから、ずいぶんこの髪も伸びた。
「昨日までずっと一緒に寝てたもんね。一つのベッドで。せまくって、だからできる限りぎゅうってしてさ。……さびしい?」
「ちょっとだけ。慣れるまで起きるたびにマリアのこと探しちゃいそうだ。あと、冬がさむそう」
「なら、夏は離れられて嬉しい?」
「ちっとも」
二人で毛布をかぶって秘密の遊びをする時みたいにくふくふ笑い合う。今は杖があるから、指先で簡単な魔法を使って遊ぶやり方はできなくなっちゃったけど。
二人で一つしか与えられてないプリベット通りのボロベッドを恋しく思うわけではないけれど、ハリーと一緒に寝られなくなったことは素直に残念だ。僕も数日は寝ぼけ眼にハリーのことを探してしまいそうだ。それで──
「ハーマイオニーに呆れられるんだ」
「ロンに笑われそうだ」
「「…………アハハッ」」
聞かなくったって同じ事を考えていたとわかる互いの呟きに、今度こそ声を出して笑った。
「「おやおや、そちらの双子は朝から仲睦まじいようで」」
「「そっちの双子はちがうの?」」
「「もちろん仲良しさ! 互いの名前を間違えて挨拶するくらい!」」
僕らの笑い声につられたように、チェシャ猫みたいなニンマリ顔が二つ談話室に飛び込んできた。厄介で愉快なウィーズリー家の双子のご登場だ。
そして、見た目も中身も声も同じ彼らは相談の一つもなく互いの両腕を繋いで輪を作ると、中に僕らを閉じ込めてグルグルと回り始めた。
「気になってたんだ」
「僕ら以外に双子が入学すると聞いて」
「パチル姉妹のことかと思ったら」
「あのハリー・ポッターに双子がいたなんて!」
「しかもとびきりの美少年と美少女ときた! ズボンだってかわいいよ、マリア」
「これで気にならなかったらウソだろ? スカートもイカすと思うぜ、ハリー」
「「ぜひとも双子同士仲良くしようじゃないか!」」
僕らと違い顔も仕草も同じために、交互に入れ替わる彼等のどちらに話しかけられてるんだかまるでわからない。きっと、どっちがどっちと説明されたところで結局わからないにちがいない。──それが、『僕』の知る彼等だった。
「おっと、紹介がまだだったな。こっちがフレッド」
「そしてこっちがジョージ」
「いいや待てよ、もしや君がジョージでは?」
「おいおい、まだ寝ぼけてるのかいフレッド。さてはフレッドのフリしたジョージだな?」
「「よし、ロンに聞いてみよう!」」
弟をオモチャにするためハリー達の寝室へとすっ飛んでいった二つの赤毛に、ハリーとクスクス笑い合う。後ろから未来の親友の「ウワァ!」なんて情けない悲鳴が聞こえてきて、さらに腹を抱えて笑った。
「あなたたち、早いのね。笑い声が部屋まで聞こえていたわ。ねえ、マリア。わたしの髪、とかしてくれる? 毎朝ひどいのよ」
「ウーン、ハリーのほうが上手だよ。僕の髪も、いつもハリーが整えてくれるんだ」
「マリアのほうが上手だよ。僕のこの髪が落ち着いていられるのは、マリアのおかげだもの」
「どっちだっていいわよ。このままじゃ朝食に遅れちゃう。でも、ハリーは着替えなくちゃいけないわ」
寝起きの才女のごもっともな意見に、ハリーから剥げたブラシを受け取って、ハーマイオニーをハリーと同じくブラッシングの定位置へと座らせて。
「……あー、ハーマイオニー? 君のブラシを使わない?」
「え?」
「ほら、これが僕らの愛用品」
「…………わたし、予備のブラシを持ってるから一つあげるわ」
うん、ありがたい。
***
制服に着替えたハリーと兄に叩き起こされたロン、そして未だ、あんなブラシでこの髪の艶を作り上げるなんてありえないわ、と僕の毛先を捕まえぶつくさ呟くハーマイオニーと共に双子のウィーズリー案内のもと朝食へと向かう。
席に着いて、梟たちが一斉に荷物を運ぶさまをあんぐり見上げているハリーとハーマイオニーを横目に、ローブの懐から一枚の羊皮紙を取り出す。そこには『おやすみ、マリア・ポッター』と誰かの筆跡で書かれている。なんとも神経質そうな字だ。
それを指先で擦ってみれば、文字は羊皮紙の中へと沈むように消えていった。
「ンー……とりあえず……オ、ハ、ヨ、ウ──と」
食器の影に隠れながらさっさと書き込んで、再び指で擦ればそれも消える。そして少しすると、じわりじわりと先程の筆跡の文字が紙面に新たに浮かんできた。
「『寝るなと言っただろうが』……無茶言うよ、ドラコのやつ」
そう──まるで即席文通のようなこれは、僕が密かに作り上げた僕らだけに伝わる伝達方法なのだ。ダンブルドア軍団時の通信手段としてハーマイオニーが用いたコイン、忍びの地図、そしてリドルの日記から発想を得たものだった。
インク──見えればなんでもよい──を使って書き込めば対になる紙にそのままが浮かび上がり、また浮かんでいる文字(あるいは絵)は指で擦れば消える。我ながら、非常に便利なマジックアイテムであった。特許とか今のうちに取っておきたいくらいだ。
なにせ、大人になれば緊急の連絡といえばもっぱら守護霊を飛ばすこととなりがちだが、ここホグワーツでおいそれと新入生の僕が牡鹿を飛ばすわけにもいかない。梟だって簡単なメモには向かない。その点、この連絡用羊皮紙──通称『通信紙(マリアの大変テキトウな命名)』は学生の味方であった。
難点としては、コインのように熱を発したりはしないから連絡が来ていても見なければ気付けないこと、書くというアプローチが必要なこと、長話には向かないこと、書き込んだそばから移るので修正は利かないこと、対の紙でないと意味がないこと──そして、双子のウィーズリーのような悪戯好きの生徒に見つかれば一巻の終わりなことくらいだった。
「──わっ! ヘドウィグ? ああ、おはよう。これ、食べてくかい? ……ありがとう」
いつの間にやってきたのか。僕の耳を甘く啄んだ愛くるしい彼女に咄嗟に顔を上げれば、ハーマイオニーが怪訝に僕の手元を覗き込もうとするところだった。あぶないあぶない……悪戯好きの生徒だけでなく、真面目な優等生の監視にも気を付けないと。
ありがとう、ヘドウィグ。君は本当に優秀な相棒だ──心の中だけで呟いて、通信紙をポケットに押し込んでから礼を込めて一番綺麗に焼けているトーストを空飛ぶ彼女へと贈呈する。
「マリアってヘドウィグの扱いに慣れてるよね。僕に内緒で梟の友達とかいた?」
「僕よりハリーが妖精なんかの友達を僕に黙ってないかが心配だよ。うっかり仲間と間違えられて連れていかれたりしないでよ?」
「そんなのいないよ……この歳でチェンジリングしてどうするのさ。そういうのは赤ん坊のうちに済ませてくれないと」
隣の弟がファンシーなことを言い出したので同じようにからかい返して見れば、なにやら向かい席のハーマイオニーとウィーズリー双子がコソコソ囁き合っていた。
「「子猫と子犬?」」
「わたしは子リスと子うさぎだと思うわ」
…………なんの話?
***
授業が始まった。勉強という行為が食事よりも睡眠よりも恋人の世間話よりも大好きなハーマイオニーはそれはそれは張り切っていて、授業に必要ない本(でも勉強の本だ!)を常に何冊も持ち歩いていた。正直いって、彼女の辞典みたいな本がたくさん詰まったショルダーバッグを振り回したほうが杖を振るよりもよっぽど殺傷能力が高いんじゃないかと思えた。
才に恵まれた彼女のことなのでそのうちに検知不可能拡大呪文だとかを覚えて楽するんだろうけど、それにしてもガッツがある。
そんなハーマイオニーとは対照的に、ハリーとロンは既に七年分の苦労をした、と言わんばかりの顔で今日もとぼとぼと廊下を歩いていた。──ホグワーツが広すぎるのだ。なにせ、れっきとした城なので。
忍びの地図を思い出す限りでもホグワーツ敷地内に在るのは山に森に湖に地下……縦にも横にも広く、階段なんて城内だけで一四二箇所もある。しかもただの階段じゃあない。動く・消える・足を引っかける──エトセトラ。
そんでもって、行き着く先の教室も一筋縄ではいかないのだ。たとえばドアノブが五つもあるくせに真に扉を開く鍵はドアノッカーだったりするし、開いた先が崖だったりする。そもそも扉の形をしていなかったり、謎掛けに答えられないと水をかけてくる意地悪な扉とかもある。
まずまず、一年生がこのホグワーツ内において一人で目的地へとたどり着ける可能性はゼロに等しかった。──僕とドラコと記憶力お化けのハーマイオニー以外は。
そこで、ハーマイオニーも行ったことのない教室だとかハーマイオニーとはぐれてしまった場合だとかにさりげなく二人を誘導していると──案の定バレた。ハーマイオニーに。
「マリア? やっぱりあなた、ホグワーツに通ってたこと、あるでしょう。パーシーを追いかけた時だって、あなた、まるで迷わなかったわ」
「たまたまだよ。迷わないんじゃなくて、ちょっと運と勘がいいだけ」
「そんなテキトウでごまかされないわ。白状なさい」
「ほんとうだって。君がとっても頭がいいのと同じだよ。君だって、入学する前から呪文をそんなに覚えられるはずがない! なにかトリックがあるんだろう! さてはホグワーツに通っていたな! なんて言われたって困るでしょう? 僕の場合は、方向に関してちょっと人より感覚が鋭かった。それだけの話だよ。…………ホグワーツ限定で」
「……はあ。もう。そういうことにしておいてあげる。マリアってば、実は秘密主義で頑固者なんだもの。頑固なのはあなたの兄も同じだけど」
「僕が姉だよ」
「あら、やっぱり? そうだと思ってたの」
なんて。ハーマイオニーと二人ぽつんと残された廊下でハリーが聞けばうっかり拗ねてしまいそうな会話をだらだら続けていると、途中、天文学の先生の元へとなにやら質問に行っていたハリーと付き添いのロンが戻ってきたので、諸々がバレる前にさっさと彼女との雑談を切り上げることにした。
「マリア!」
「ハリー!」
廊下の先、
ところで隣から、やっぱり子うさぎだわ……とかいう不思議な呟きが聞こえてきて改めて彼女に色々と問い質したい衝動に駆られたが、まぁ先ずはと目の前のハリーをしっかと抱き留める。
「僕、やっと聞けたんだ!」
「なにを?」
「──スコーピウス!」
おや、その名前は────片眉をピクリと上げて、ハリーの言葉の続きを待つ。
「スコーピウスって、夏の星座で赤い星のことなんだって! なんだったかな……ええと、探求心とか執着とか、神話にちなんだ意味が色々とあるらしくて……ああ、そうなるとドラコはもしかして夏生まれなのかな? それとも
「……もしかして、それをわざわざ先生に聞いてきたの?」
「ドラコに機会があれば調べるって、僕、前に約束したもの」
そう無邪気に笑う弟に、たまらなくなってさらにつよく抱き締めた。今日もお熱いね、ポッターツインズ! なんて野次がゴーストの誰かから飛んできたけれど関係ない。
ああ、ドラコ、聞こえますか。僕の弟は今日も天使です。
同じハリー・ポッターだっていうのに、どうしてここまでちがうのだろう。──やっぱり、環境かな。僕も、ロンとロンの兄さんたちのじゃれ合いを眺めては、僕に兄弟さえいればなにかが違ったかもしれないのに、て、ずっと思ってたもの。
後で狂ったように通信紙にハリーのことを書きつらねるだろう自分を想像しつつ、まだまだ己の小さな腕の中におさまってしまう小さな男の子とくふくふ笑い合う。
──複雑な何かが心の底で渦巻くのには、気付かないふりをして。
「ちなみにドラコは六月生まれだよ」
「えー!?」
***
さて、順風満帆に思われた授業開始から数日を経て──問題は変身学の授業で起きた。
マリアの杖が反応しないのだ。
内容は至極簡単な──マリアやドラコにとっては、だが──マッチ棒を針に変える、というもの。失敗するわけがない。
だというのに、マクゴナガル先生から僕に与えられたマッチ棒はいつまで経っても転がるマッチ棒のままだった。
一先ず考えられる要因としては、姿現しの例のように必要魔力に十一歳の体が適応していない場合だが──ありえない。
だって──たかが──マッチを針にするだけなのに?
現にマリアは、今までもハリーの前で杖なしで小さな魔法を使ったり、ドラコと出会ってからは通信紙なんてデタラメを造り上げたりしている。明らかに理由にならない。
「マリア? これ、むずかしいよね」
「あ、う、うん。そうだね……」
同じく隣で唸っているハリーに曖昧に頷きながら、杖でぺちぺちとマッチをつついてみる。
おおい、どういうことなんだ。どんな杖でも使えるとオリバンダーさんは言っていたのに。
「…………」
杖を振った際の、魔力が杖芯を通っていく感覚に狂いはない。感覚からして使えない筈がないのだ。
しかし、杖はウンともスンとも言わない────
結局、その日に針の提出ができたグリフィンドール新一年生はハーマイオニーだけで、僕はヘドウィグが選んでくれた杖を握っては難しい顔をするしかなかった。
「──と、いうわけなんだよ、ドラコ」
「そもそもどの杖でも使えるとかいうトンデモな報告を僕は今はじめて聞いたんだが?」
通信紙を使って巨大イカが住んでいると噂の湖の近くで待ち合わせていたスリザリンの彼に、むいむいとほっぺを押される。杖先で。
せめて杖先はやめてくれよ、杖先は。スペロテープで応急処置した杖みたいに妙な魔法が誤発したらどうするんだ。
君に話すべきことが多すぎて、すっかり忘れてたんだよ……。
「呪文学はどうしたんだ」
「呪文学では杖を振ってヒョイ。しかしてないもの」
「ああ、そうか」
初心者への配慮に素振りから、というのが呪文学における初回授業のお決まりなので。他には、フリットウィック先生がハリーの名前に驚いて、教壇──いやあれは教卓か?──から転げ落ちるところしか見ていなかった。
「魔法が使えなくなったわけではないんだろう?」
「…………」
ドラコの問いに沈黙したまま人差し指を湖へ向けて小さく振る。ヒュン──いくつかの光が水の上で踊って、やがて水面に落ちた。
「やっぱり僕は杖なしで学生生活を送るしかないのか……」
「杖なしで軽々と魔法を使っておきながらほざくな」
僕がわりと本気で落ち込んでいることを察したのか、口調はともかく躊躇いがちに僕の頭を撫でる彼の手は優しかった。
不器用な慰めに励まされて、もう一度、イトスギの杖を握って湖に向かって振ってみる。
「インセンディオ」
──ゲプ。
間抜けな音と共に、杖の先っぽからちょろりと火が出るだけだった。マグルのライターよりひどい。
「…………」
「…………」
「ポリジュース薬でマリアに化けてるロングボトム、なんてオチはないだろうな」
「ここで『前の君』の恥ずかしい話をしてやろうか」
「冗談だ」
次に、杖なしで同様に唱えてみる。
「インセンディオ」
──ボゥッ!
それなりの勢いで炎が湖をなめていった。イカの触手らしきものが湖の平穏を荒らす僕たちへと抗議するようにペロンッと水面を叩いた。
「…………ドラコ、僕、嫌な予感がしてきた」
「奇遇だな。僕もだ」
「……借りていい?」
「ああ、存分にやれ」
ドラコの懐から出てきた、ある意味で思い出深いサンザシの杖を握る。……これで、かつてはあのヴォルデモートにも立ち向かったのだ。
「インセンディオ」
──ゴウッ!!
今までで一番の火力──僕が思い描いていた通りの魔法が、杖先より放たれた。そう──まるで、僕が『僕』の杖を使ったみたいに。
「…………」
「……オリバンダー氏は間違っていなかったわけだ。むしろ間違ってたのは杖の方か」
容赦なく現実を突きつけるドラコの言葉に、ぐったりと脱力してしまう。サンザシの杖をドラコへと返して、僕の──
「君、もしかして────やる気ないだけ……?」
心做しかほんのりと持ち手に熱がこもった気がした。
「そんなぁ……」
「杖を替えた方がいいんじゃないか。オリバンダー氏だって売る気はなかったんだろう。新しいのを買えば、」
「──いや」
ローブの中へと『僕の』杖をしまい直す。
「せっかくヘドウィグが選んでくれたんだもの。なにか意味があるんだ、きっと。僕はこの子を使い続けるよ」
「授業はどうするんだ」
「当分は杖を振って『フリ』だけしながら
「……そんなもの、聞くな」
「ありがとう」
彼なりの快諾に、ようやく落ち着いた心持ちで笑みをこぼす。
原因さえわかってしまえば、あとは僕と杖との粘り勝負だ。諦めだけは悪い僕の底力をわからせてやろうじゃないか。蛇は執念深いのだから。
「それにしても、君と同じでおかしな杖だな。素材はなんだ?」
「どういう意味だよ。……えーと、イトスギと──杖芯にセストラルの尻尾、だったかな」
「セストラルの──? オリバンダー氏はユニコーンの毛とドラコンの心臓の琴線、それから不死鳥の羽根しか杖芯に使わないんじゃなかったか?」
「らしいね。だから、売り物じゃないんだろ?」
「……ふぅん」
立てた膝に頬杖をついたドラコは、どこか先の見えない瞳で呟いた。
「セストラルの尾──ね」