マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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4ー3

 

 ──結果。

 当たり前に惨敗だった。にべもなかった。何だったら、くだらないことを考えてる暇があるならレポートの完成度を上げてらっしゃい! と、宿題を増やされかけた。これにはハーマイオニー以外の全員が堪らないと逃げ出した。

 

 僕は次の作戦に出た。

 

 

「ドレスがない」

 

 

 だって、僕はダンスパーティーなんてものにははなから出場する気がなかったのだから。予定にないもののために荷物を増やせるか。

 意地でも用意しなかった。今学期の必要な物リストに記載されていたって、そこだけ都合よく見えないことにした。もしも一言でもシリウスにもらそうものなら仕立てから入ることは容易に想像できたし、ドレスローブが必要なのはハリーだけだと彼にはちょっとのウソを混ぜておいた。(ハリーのドレスローブは僕が隠し持っているのだ!)

 

 そう、僕は自分を女性らしく着飾る品なんて持ってない────はず、だった。

 

 

「少し早いが今年のクリスマスプレゼントといこうじゃないか」

 

「…………は?」

 

 

 ある日ドラコに渡されたのは濃厚な藍と深緑のドレスだった。夜空のような滑らかな濃藍から足元へかけて深緑のグラデーションがされた逸品で、たっぷりとしたシルクをふんだんに流しシンプルながらもフィッシュテールで足元を飾った実に上品なデザインだった。小柄なマリアのシルエットに寄り添う形だ。着ずともわかる。──似合う。

 さらにヒールを控えめにしたパンプスまで用意されて──つまりは完璧なドレスコード一式がそこにあった。

 

 

「それほど金はかかってない。君でも気後れしない程度の品だ。シリウスに今から金にものを言わせたドレスを貢がれるよりはよっぽどマシだと思うが?」

 

「…………」

 

 

 僕は脱力した。とうとうドレスか。タンスの肥やしになるしかない君からの謎のクリスマスプレゼントシリーズはとうとうここまできてしまったのか。────ん?

 

 

「ネックレスに、イヤリングに、髪飾り。そしてドレス──これだけあればパーティーの装いとしては十分だと存じますが? マイレディ?」

 

 

 声が出なかった。目も口も開いて目の前の男を間抜けに見上げた。ドラコはすっかり見慣れた憎たらしいしてやったり顔で僕にトドメを刺した。

 

 

「ドレスはグレンジャーあたりに着付けてもらってこい。──髪は、僕が いつものように(・・・・・・・)まとめてやる。練習の甲斐があったよ」

 

 

 ──まさか。四年前のその日からすべて計算尽くだったなんて。

 

 なんて男だ。ドラコ・マルフォイ──このスリザリン!

 

 

 次はパートナーだ。──と、いっても。今回は団子で歩く女子に投げ縄をかける必要はなかった。なんたって、僕には異性の兄弟がいるのだ!

 すっかり、ハリーと踊れるものだと油断しきっていた僕は──まさかそのハリーにフラれるだなんて思いもしなかった。

 

 

「ええ!? ジニーと行く約束をした!?」

 

「うん……ごめんね、マリア。ほら、四年生より下はこちらから誘わないとパーティーに参加できないだろう? ジニーが行きたがってたから……つい。ロンにも頼まれちゃって」

 

「そんな……いや、そう……そうだね、ジニーも喜ぶよ……」

 

 

 がっくりと肩をおろす。まさか──まさか再びこの苦行を強いられることになるだなんて。

 

 

「マリアなら選り取りみどりだろ?」

 

「バカ言わないでよ……」

 

 

 ハリーの後ろからちょっかいをかけてくるロンをじっとりと睨む。それにハリーも神妙にうなずいていた。

 

 

「その辺のてきとうな男なんかに僕のマリアは任せられないよ。そもそも──マリア? ドラコと僕ら……あとはセドリックかな。他に君が気を抜ける異性はいる? フレッドとジョージはパートナーがもういるし……」

 

「なんでマルフォイはダメなんだ?」

 

「ドラコはもうパートナーがいるもの」

 

 

 僕は答えた。もちろん相手はアステリアだ。ハリーだってそれは知っていた。──否、まだハリーしか知らなかった。

 ピタリと立ち止まって目をまんまるにしたロンとハーマイオニーは絶叫した。

 

 

「「えええええ!?」」

 

 

 

 ***

 

 

 

「そんなに驚くことかな……アステリアのことはみんなだって知ってるだろうに」

 

 

 ぶつくさ呟きながら、ひとり昼食後の散歩としゃれ込む。ハーマイオニーは図書室。(きっとクラムと会っているのだ。)ハリーはロンにさらわれていった。

 ──だって、目立つのだ。赤と緑が共にいるのは。ドラコのことはすっかり慣れたグリフィンドール生たちだが、アステリアは性別からしてドラコとはわけがちがう。年下でおしとやかな美少女だ。活発な美少女のジニーともタイプが分かれる。お祭り気質なグリフィンドール生には見られないスリザリン美少女はなんだかんだ珍しいのである。

 

 

「どうしよう……」

 

 

 ずいぶん前に同じようにして頭を抱えたことを思い出しながら、再び頭を抱える。あの時はロンも一緒に売れ残り仲間でいてくれたけど……今回は僕ひとりでパートナーを見つけ出さなくてはならないのだ。

 そりゃあ、一番勝手がいいのはドラコやハリーに決まってる。だけれど、アステリアからもジニーからも、僕が自己都合で奪っていいわけはない。セドリックだって同様だ。……と、いうか。これ以上チョウに目の敵にされるのはつらい。僕が恋した彼女とちがうとはいえ、曲がりなりにも初恋の人なのだ。

 ならばロンはどうかという話だが──恋する乙女というのは、時に友情にすら亀裂を生む。僕はハーマイオニーとだけは敵対したくない。未来の魔法大臣に誰が勝てるものか!

 

 ハァー……深々としたため息が無情に廊下を踊った──ところで。

 

 

「やあ、マリア! こんなところにいた」

 

 

 僕の肩を叩いたのはレイブンクローの彼だった。前にもこんなことがあったな。

 

 

「ああ、久しぶり…………あれ」

 

 

 ふと、僕ははじめて彼を見た心地になった。

 背がずいぶんと伸びていた。骨格がしっかりして、特に輪郭の無駄な肉がなくなっていた。くすんだ金髪は短く刈られ、彼の顔がよく見えた。この夏で身長共々青年への成長を大幅に進んだらしい彼は────見覚えがあった。

 

 

「…………アンソニー?」

 

「うん? なんだよ、改まって」

 

 

 レイブンクローの彼──アンソニー・ゴールドスタインは無防備にきょとんとした。

 そうだ。アンソニーだ。彼はアンソニー・ゴールドスタイン! DAに参加し、レイブンクローの監督生だって勤めた彼じゃないか。『僕』の記憶の彼はDAで顔を合わせた頃からしか知らなかったから、まるで気付かなかった。

 

 

「君……そういえば背が高かったね……」

 

「マリアと比べれば大抵の男は高いと思うけど」

 

 

 暗にチビだと揶揄されて、不満たっぷりに小突いた。成長期の栄養不足はバカにならないのだ。

 

 

「それで、なんだい? アンソニー」

 

「ああ──スリザリンのあいつはいないな? よし」

 

 

 大袈裟に廊下を見回したアンソニーは、ドラコの影がないことを確認すると何気なく続けた。

 

 

「君のダンスパートナーに立候補させてもらえないかなって」

 

「ワォ、もしや君もあぶれちゃった口かい?」

 

「君も、て……まさかマリアが? スリザリンのプリンスはどうしたんだ」

 

「ドラコはしっかり美少女を捕まえてるさ。そんなわけで立候補者は君一人。満場一致で勝ち抜けだ」

 

 

 ニンマリ笑う。マリアはなんて運がいいのだろう。向こうから獲物が飛び込んできてくれるなんて! これでテキトーな男子に投げ縄をする必要はなくなった。

 

 

「あっさり決めてくれるなあ」

 

「だって困ってたもん。君も困ってたんでしょう? 相互救助だよ」

 

 

 ケラケラと笑い合う。アンソニー・ゴールドスタインだとわかっただけで、これまでの警戒はすっかり消えていた。

 

 

「マリア」

 

「──っと、じゃ。そういうことだから。また近いうちに予定を合わせよう」

 

「うん。またね、アンソニー」

 

 

 やっぱり現れる緑ローブに、青ローブは今日も飄々と逃げていった。『以前』ではDAくらいでしか交流がなかったけど──あんなにも取っつきやすい性格だったのか。セドリック同様、惜しいことをしたな。

 

 

「……今のはなんだ?」

 

 

 それまでアンソニーが並んでいた隣にドラコが収まって、青ローブを睨む顔のままむっすりと僕を見るので不思議に首をかしげた。

 

 

「なにって?」

 

「名前、呼んでいただろう。距離も近かった。以前はあれほど……ただの知り合いに触れさせたりはしなかっただろう? ──『身内』か」

 

 

 ちょっとした暗号めいた問いかけに、ああ、と肩をすくめる。

 

 

「アンソニーだよ。アンソニー・ゴールドスタイン。君は知らないかもしれないけど、DAの初期メンバーのひとりさ。僕もついさっきまで気付いてなかったんだ。──ま、その通り『身内』だ」

 

 

 ドラコはやっぱり苦い顔をしていた。僕だって、DAは楽しかったけど自動的にあのガマガエルババアを思い出すことになるので心底から気持ちいいとは言えない。苦虫の数なら隣の彼といい勝負だろう。

 

 

「それで、あいつと行くわけか」

 

「タイミングがよかったよ。売れ残り同士うまくやるさ」

 

「ああそうかい」

 

 

 ドラコは吐き捨てた。それから、いや……と考え込むと、どこかを見ながらほくそ笑んだ。

 

 

「ドラコ?」

 

「マリア──めいっぱい、僕が着飾ってやる」

 

「うん? それは……まあ、お願いするけど?」

 

 

 ドラコが僕の髪に触れる。不機嫌になったりご機嫌になったり──ご機嫌にしては不穏だけど──虫の居所がよくわからないドラコだった。

 

 最後の問題である。ドレスもパートナーも整ってしまった僕は、マクゴナガル先生の放課後ダンスレッスンを前にしてようやくソレに気が付いた。────あ。僕、『リード』しかできない。

 当然だ。ただでさえダンスが得意というわけでもないのに、踊ったこともない『フォロー』ができるはずもない。むしろリードの先行知識が邪魔をして頻繁に事故を起こしかねない。アンソニーの足の甲の安全が保証できない。

 由々しき事態であった。ここまで外堀を埋められたならば、いっそ完璧に仕上げてしまいたいと思うのが人のさが。──そこで。

 

 

「ご指導よろしくお願いいたします。……ミスター?」

 

 

 唖然とするドラコの前で、見えないドレスをつまんで礼をする僕がいた。

 

 

「ハリーと一緒にマクゴナガル女史にしごいてもらえばいいだろう」

 

「それだとなんでリードは踊れるんだって話になるじゃないか」

 

「今さらだろう? 誰からも教わってないのに色んなことを知ってる秘密主義の『マリア』?」

 

「うるさい。……ハリーたちの前で女役をするのは恥ずかしいんだ。わかれよ」

 

「わざとだ」

 

 

 僕の腰を抱きながら意地悪く笑うドラコへと悪態をつく。顔を上げろ、なんて顎を持たれて妙に照れてしまう。相手はドラコだってのに。いやドラコだからこそか。これがロンやジョージだったならなんとも思わないのに。

 ライバルだったあのマルフォイとホグワーツでダンスしてるだなんて──まったく、どうかしてる。

 

 

「心配するな。完璧なレディに仕上げてやるとも。──見せ付けてやろうじゃないか」

 

「……誰に?」

 

「さあ」

 

 

 ぐっと寄せられて、額がささやかに当たって。近すぎるアイスグレーがなんだか熱っぽくて。

 機嫌が良かったり、悪かったり──やっぱりドラコは変だった。

 

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