マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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 第二課題の日が近付いてきた。ハリーはすっかり食欲など失せてしまったようで、呼吸……一時間……呼吸……とゴーストも真っ青な顔色で呟いていた。我が弟ながら病気にしか見えなかった。

 そして僕も──ハリーと同じような状況にあった。

 

 

「どうしよう……なにも思い付かない……どうしよう……」

 

 

 相手は水中にいて、僕らは客席だ。息子たちはセドリックを膨らませただとかで見事妨害せしめたらしいが、それはあの子たちがタイムターナーでその時代からすぐに消えられるからできたことだ。この時代に生きる僕がそんなあからさまな妨害行為なんてしようものなら、その場で魔法省役人のお世話になってしまう。

 ──無理難題すぎる。

 

 今日もドラコと二人、大イカがぺろぺろと触手を振る湖を眺める。

 

 

「……第二課題はパスしないか。ようはトロフィーに触れさせさえしなければいいんだろう。つまりハリーに勝ち越してもらえばいい」

 

「ハリーに全部丸投げするって? 人の命がかかってるんだぞ」

 

「なら、君、誰にもバレずに水中のディゴリーへと呪文を飛ばせるか? 透明マントも使わずに」

 

「…………」

 

 

 実りのない時間ばかりが過ぎていく。結局、どれだけ月日を費やし策をひねり出そうともどん詰まりには変わりないのだ。まだまだ雪の名残が見られる地面へと背中から倒れ込む。

 

 

「……探すよ、方法を。ギリギリまで。このままセドリックの不幸を見届けるだなんて、そんなのはいやだ。それって見殺しだ。シリウスを助けられたんだ、セドリックだって──きっと──」

 

 

 ふと、ドラコの手のひらによって目をふさがれた。冬の空気に冷たくなった彼の手にたちまち僕の体温がつたってじわりとした熱を生んだ。

 

 

「ドラコ?」

 

「…………」

 

「おーい、この手はなにさ」

 

「……────」

 

「え? 聞こえなかった、もう一度言って?」

 

「……大したことじゃない」

 

 

 あたたかい闇が離れれば、次は冬の太陽に目を焼かれる。チカチカと目の前を光が跳ねる。

 

 

「ドラコ?」

 

「風邪を引くぞ。今日は切り上げてまた明日考えよう」

 

「……今日も、だろ」

 

 

 ドラコの手を取って立ち上がる。気持ちばかりが焦ってそれはため息の形に変わる。きっと明日も駄目だ。

 

 

 ──第二課題の日が近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──英雄の目をするなよ、マリア」

 

 

 

 ***

 

 

 

 前日である。とうとう、ハリーの第二課題日は明日に迫っていた。

 どうやらハリーはいまだ水中で一時間呼吸をたもつ方法を見つけられずにいるようで、ハーマイオニーやロンの力も借りて図書室に通い詰めていた。そして僕はというと。

 

 

「明日だ……明日……僕ってこれだから……後回しにばかりして……だからハーマイオニーにいつまでも叱られるんだ……」

 

「……大丈夫? マリア」

 

 

 談話室で膝を抱えてうめいていた。心優しい少年、ネビルが僕の周りでオロオロしている。とぼけた仔犬みたいでちょっと和んだ。

 

 

「ハリーの課題のことで悩んでるの?」

 

「……うん、まあ、そんなかんじ……」

 

「そっか……。どんな内容なんだろうね、マリアをここまで悩ませるなんて。とんでもなく難題なんだ」

 

「うわこころがいたい」

 

「え、マリア!?」

 

 

 ネビルの純粋な心配に、疲労感の上に罪悪感までずっしりと重なった。ダンスパーティーなんかに悩む時間があったなら、もっとこちらに真剣に取り組むべきだったんだ。ハリーもそれで今になってツケを払わされている。ほんとうに成長しないな──『僕』は。

 せめて目先のことだけでも片付けてしまおうとネビルを見上げる。

 

 

「ねえネビル、水中で息をする方法、知ってる?」

 

「僕が知るわけないよ。そんな呪文があるの?」

 

「呪文じゃなくったっていいんだ。たとえば魔法薬とか──植物とか」

 

 

 植物と聞いたネビルは丸顔をキョトリとさせると、次にはパッと目を開いて自室へ駆けていった。さすがネビル、未来の薬草学教授だ。

 

 

「僕、ぴったりのものを知ってるよ! ここ、これを見て──あ、この本はムーディ先生が貸してくださったんだけどね」

 

「うん、うん、よかったね、ネビル」

 

 

 瞳をキラキラさせてエラ昆布を指すネビルに、ニコニコになってうなずく。ネビルは僕が見てきた子供の中でもひときわ素直だ。彼と話しているとどうも父親だとかお爺さんの気持ちになってしまう。ルーナも別の意味では素直で純粋だけど。

 

 

「ネビル、今の話をハリーにもしてやってくれないかい?」

 

「エラ昆布のこと?」

 

「そう。もしかしたら思わぬ助けになるかも」

 

 

 再び、ネビルはエラ昆布のページを開いたまま幼げに目をまたたかせた。そしてニッコリ笑ってうなずいてくれた。

 ネビルを三人組が待ち構える図書室へと送り出せば、次は厨房だ。──入れ違いでなければいいんだけど。

 

 

「ドビー!」

 

 

 目的の、愉快なソックスにティーポット帽子を被った小さな友達は、厨房の隅にて飲んだくれる同僚の面倒を見ていた。

 

 

「マリア・ポッター! マリア・ポッターがドビーに会いにきてくださった! ドビーめは嬉しくてマリア・ポッターにお茶をお出しします!」

 

「ああ、お嬢様……ああッ」

 

 

 僕や、ハリーにロン、ハーマイオニーもだ。あの日の夜に関わった人間を見ると大切なお坊っちゃまのことを思い出すのだろう。飲んだくれのウィンキーは鼻唄でも歌い出しそうなドビーとは反対に、ブワァッとテニスボール大の目に涙を溜めていた。

 

 

「マリア・ポッター、ウィンキーはずうっとこうなのです。ドビーはそれではいけませんとウィンキーに言いますがウィンキーはお酒を飲むのです」

 

「ああ、うん……ウィンキー、また、ええと……話せる時に話そう。あの──君がよければ、だけど」

 

 

 ウィンキーは顔の半分も隠れるかわからない両手で目をおおった。心は痛むが、ウィンキーのことは後回しだ。

 

 

「ドビー、いいかな? ──ちょっと頼まれてくれるかい?」

 

 

 

 ***

 

 

 

 ハリーへのエラ昆布調達の下準備は終わった。さて、次は──

 

 

「……セドリック」

 

「なんだい? マリア」

 

 

 意図せずこぼれた呟きに、これまた思わぬ返事が返ってきて肩が跳ねた。振り返れば、セドリックが爽やかに首をかしげていた。

 

 

「僕のことではなかった?」

 

「あ、ううん。君のこと……」

 

「よかった。僕がなに? マリア」

 

 

 セドリックは相変わらず人好きのするハンサムで優しい顔立ちを微かに笑ませた。

 

 

「えっと──第二課題のことで、すこし」

 

「ああ。……もしかしてハリーはまだ悩んでる?」

 

「うん。でも、それは大丈夫。ハリーなら大丈夫だよ。それより──」

 

 

 君のほうがよっぽど危ないんだ──セドリック。

 

 

「セドリックは……」

 

 

 彼の目的地は寮ではなかったようで、厨房と寮の前を通り過ぎ自然と廊下を共にする形になった。セドリックは穏やかに微笑んでいるが、僕はそんな彼を罪悪感ゆえに横目で見るしかできなかった。

 

 

「──どうして立候補したの?」

 

 

 グレーの瞳が子供みたいに丸まった。

 

 

「対抗試合のこと?」

 

「そう」

 

「それはもちろん──自信があったから。自分の力を試したかった。……ま、ドラゴンなんてあてがわれた時はちょっと後悔しかけたけどね」

 

 

 あと一歩で大人の青年が子供っぽく肩をすくめる。三年前に再び出会えたその日から彼は変わらず優しい人だった。

 

 

「それから──父が、喜ぶと思ったんだ。あの人は僕を誇りに思ってくれてる」

 

 

 セドリックはガラス玉にきれいなものだけを詰め込んだ瞳で前を真っ直ぐに見た。僕は複雑だった。セドリックを応援したい。セドリックのストイックな志を尊いと思う。けれど──ほんとうにこれでいいのか。

 

 

「優勝したい? お父さんのためじゃなくて──君は、危険を背負ってまで優勝したいの?」

 

 

 それは、命をかけられるほど──?

 

 

「当然だよ。立候補した限り、優勝を求めるのは礼儀だと思う。……無理矢理だったハリーは別としてね」

 

 

 一歩だけ僕より前進したセドリックは己の意志をもって宣言した。

 

 

「僕は優勝するよ」

 

 

 ひとりの人間として──未来を望む顔だった。

 

 

「──そうか。わかった。君はやっぱりセドリック・ディゴリーだ」

 

「もちろん、僕はセドリック・ディゴリーだとも」

 

 

 心の中の一番大きなささくれが消えた気がして、僕はセドリックとニッコリ笑い合った。

 

 ──なんだ。初めから、僕がやるべきことは一つだったんだ。

 

 セドリックと別れて談話室へと向かう途中、頬を紅潮させたネビルに会った。この様子ならば、無事にエラ昆布の情報を渡すおつかいは完遂されたと見ていいだろう。仔犬を褒める気持ちでふわふわと頭を撫でる。

 

 

「わっ──マリア? ああ、いいところに! マクゴナガル先生が君を探してたんだ」

 

「マクゴナガル先生が?」

 

「うん。さっき談話室にいらしてね、すれ違いにならないよう準備室で待ってるって」

 

 

 ふーん? 首をかしげる。なんの用だろう。宿題はすべて提出してるはずだし──守護霊の呪文のことか? あれはてっきり不問になったんだとばかり。それとも通信紙か? はたまたタイムターナーの不正使用がバレた?

 心当たりが多すぎてキリキリと胃が痛む。

 

 

「マリア?」

 

「……行ってくるよ」

 

 

 なんだって、ハリーが大事なこの時に──そう、恨めしく思うと同時に思い付いた。

 

 

 ────あ。まさか。

 

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