マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

88 / 184
6ー4

 

 ハリーは怯えていた。占い学でおそらくヴォルデモートの夢を見て、痛む傷痕を押さえながらダンブルドアの元へと向かったハリーは、戻ってすぐに僕を捕まえると校庭へ出た。会話なく手を引かれるままに突き進んで、すっかり青草の絨毯へと換わった湖畔で立ち止まる。

 

 

「ハリー?」

 

「ワームテールが」

 

「うん」

 

「ワームテールがアイツに拷問されて──頭が割れそうなくらい痛くて」

 

「うん」

 

「先生のところで色んな記憶を見た」

 

「そう」

 

「カルカロフだけじゃない。スネイプも──」

 

 

 死喰い人だった──

 色んなショックが重なって自分をたもてないただの少年に、肩を抱いてそっと座らせる。ただの子供だ。ただ、生き残ってしまっただけの男の子なのに。

 

 

「僕、シリウスに教えてもらった。手紙で。少しずつ、色んなことを。それで──クラウチは息子をも無慈悲にアズカバンへ送ったんだってことも」

 

 

 ハリーが両耳に爪を立てる。あまりに痛々しくて、せめて片手だけでもと指を絡めて取り上げる。

 

 

「耳から離れないんだ。あんなに必死に──お父さん、お母さんって──あんなに──どうしてあれほど非情になれるのか、我が子を突き放せるのか、わからないよ。──あんなに、呼んでいたのに」

 

 

 クラウチ・ジュニア──今なお父への憎しみに生きる人。そしてとうとう──肉親をその手にかける憐れな人だ。

 

 

「僕、思ったんだ。もしも──もしもマリアにあんな目をされたら──もう生きてなんていけないって」

 

「ありえないよ。絶対に。僕はハリーの一番の味方だ」

 

 

 背中をなでれば、ハリーは微かにうめいて、そしてもっと小さな消え入る声で喘いだ。

 

 

「それ、なら──」

 

 

 ただの子供なのに英雄に祭り上げられる可哀想な生贄の、精一杯の悲鳴だった。

 

 

「それなら、助けてよ。もうたくさんだ。うんざりだ。どうして僕ばかり──僕がなにをしたの。これはなんの罰なの。生まれた瞬間から殺されかけて──どうして生きてるだけで死を願われなくちゃならないの」

 

「ハリー」

 

「助けてよ。僕を助けて。望んでないよ、こんなの。見せられたんだ、次の課題は迷路だって。面白くともなんともない。だれが僕を狙ってるの。──お願いだから、だれかかわって」

 

 

 僕はうなずいた。──うなずいた。

 

 

「わかった」

 

 

 涙を溜めたうつくしい翡翠が──『僕』が僕を見上げていた。

 

 

「僕がハリーになるよ」

 

「マリア……?」

 

「今ならポリジュース薬の作製も間に合う。僕がハリー・ポッターとして第三課題に出よう」

 

「なに、言って」

 

 

 クラムよりも、セドリックよりも、ずっとずっと小さな体を抱き込む。

 

 

「よく頑張ったね、ハリー。──これからは、『僕』がやる」

 

 

 茫然とするハリーの傷痕にキスを落として立ち上がる。そうと決まれば材料、それからドラコだ。僕ひとりではポリジュース薬なんて複雑なものは作れない。少しでも早く。少しでも──この子を解放したい。

 

 

「ハリー?」

 

 

 僕のローブをハリーが握っていた。

 

 

「ありがとう」

 

「いいんだよ。君は十分、がんばった」

 

「うん──うん、十分だ」

 

 

 ローブから腕に手は移って、強い力で引かれて再びハリーの元へと座らされる。

 

 

「ハリー?」

 

「ありがとう、マリア──その言葉だけでいいんだ」

 

「ハリー、僕は本気だ」

 

「わかってる。だからいいんだ。もう。──いつだって本気で僕を救おうとしてくれるマリアがいるから、それだけで、僕は立てる」

 

 

 言葉の通り、ハリーは立ち上がった。僕を正面から抱きしめて、震える声でありがとうを繰り返した。

 

 

「マリア──僕の兄弟でいてくれてありがとう」

 

「ハリー……」

 

 

 ちっとも力の入らない弱々しい腕で、ハリーの背を抱き返した。

 

 

「こちらこそ──ありがとう」

 

 

 

 どうか──

 

 知りながら君にすべてを背負わせる『僕』を────ゆるさないで。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。