マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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7ー1

 

 第三課題のその日まで、僕は期末試験勉強なんて二の次にしてハリーの付きっきり指導にあたっていた。少しでも多くの呪文を覚えてもらい、精度を上げて、勝率と──そして生存率を上げてもらおうと必死だった。ロンとハーマイオニーもできる限り手伝ってくれたが、彼らには試験がある。もちろん僕にだってあるが、一度経験しているという利点をここぞと利用して乗る切るつもりでいた。

 

 

「ハリー、いいかい? 情けはかけちゃだめだ」

 

 

 何度も繰り返す。絶対に君が──トロフィーを掴むんだ。

 

 とことん攻撃呪文や防御を叩き込んだ翌日。とうとう試合当日となった朝にハリーはマクゴナガル先生から呼び出された。午前試験を乗り越え大広間で再会すると、ハリーの周りにはモリー母さんとウィーズリー家の長男、ビルの姿があった。ジョージやフレッドも駆け付けてハリーを囲むさまは、まるで隠れ穴の空気がまるごとホグワーツへやってきたかのようだった。ハリーが課題に備えるあいだに午後の試験も終わり、夕食をみんなで囲んだ。誰もが笑っていた。セドリックも、フラーも、クラムも、各両親も──誰もが。

 

 

「ハリー、ハリー、忘れないで」

 

「わかってるよ。同着はなし。絶対に僕がトロフィーを取る。覚えてるったら」

 

「ハリー……」

 

「まあ! ハリーよりもよっぽどマリアのほうが顔色が悪いわ。落ち着きなさいな、ハリーなら大丈夫よ」

 

「はい、モリー母さん。でも、」

 

「大丈夫。かわいい子たち、きっと上手くいきますよ」

 

「……はい」

 

 

 モリー母さんのあたたかでふくよかな腕に抱かれて、ようやく息をつく。一足先に会場へ向かった代表選手たちを追って観客席へと入場すれば、なんとそこにはシリウスの姿があった。

 

 

「シリウス!」

 

「やあ、マリア。遅れてすまなかったね。魔法省のやつらがギリギリまで渋ったんだ。私には君たちの保護者としてここに駆けつける権利があるってのに。うん? 少し背が伸びたか?」

 

「思ってもないこと言わないで」

 

「ハッハ、女の子はむずかしいな」

 

 

 駆け寄ればわしゃわしゃと髪を混ぜられた。せっかくのブラッシングが台無しになってしまったが、それすらも嬉しくてニコニコしてしまう。

 

 

「ハリーにはさっき挨拶を済ませてきたんだ。マリア、どうしてドレスのことを言ってくれなかったんだ? 君の写真をもらったが──あのコリン・クリービーとかいう少年は実に優秀だな──私ならばもっとすばらしいドレスを用意してやれただろうに。ああいや、決して似合ってないという意味ではないぞ。美しかった。私は君ほどの美女を知らないとも」

 

「母さんは?」

 

「リリーももちろん美しかった。だが、うむ……マリアには敵わないな」

 

 

 うそぶくシリウスにケラケラと笑った。大袈裟なことばっかり言って。親の欲目の権化みたいな人だ。

 

 

「ドレスのことは、ごめんなさい。僕、ほんとうはパーティーに出る気はなかったんだ。でも、ほら、ハリーが──ね? それで、あんまり急だったから……間に合わせで」

 

 

 ……ドラコに用意してもらったとは言わないほうがよさそうだ。面倒事になるとわかりきっている。

 

 

「次は私にプレゼントさせてくれるかい?」

 

「……機会があれば」

 

 

 二度とダンスパーティーになんて出る気のない僕は曖昧に流しておいた。スカートはこりごりだ。防御力が低すぎる。転んだだけで傷だらけになるじゃないか。

 

 ルード・バグマンの開会挨拶によって生徒たちの注目が迷路へと集まる。課題内容の説明後、笛が響く。同点一位のハリーとセドリックの対決が始まった。次々と笛が追いかけ代表選手みなの姿が迷路の中へと消えていく。すっかり観察対象をうしなった観客たちは、思い思いに誰がトロフィーを勝ち取るか予想したり賭けをしたり話し合うことで盛り上がっていた。その中で、僕たちは声を潜め情報を交換し合った。

 

 

「──となると、やはりこの試合は誰かに仕組まれている、か」

 

「まちがいなく。──今日、起きるよ。ハリーがトロフィーを掴んだ、その時に」

 

「……予言か?」

 

「やだな。どうしてみんな僕に予言なんてできると思うのさ。僕の占い学の成績を見せてやりたいよ。……僕は、知ってるだけだよ」

 

 

 ただ、知ってるだけ。変える力はない。勇気もない。ほんの少しだけ──拾い上げたいだけだ。

 

 

「マリア……君は────いや。信じよう。私は、なにがあっても君たちを信じるよ。もう、君たちが二人だけで生きる必要はないのだから」

 

 

 肩を抱かれて強く引き寄せられた。不安を隠しきれない子供をなだめるように──父が我が子を包むように、大きな腕は力強かった。

 

 

「シリウス……」

 

「一緒に生きてほしいと君が泣いた日から、私の心は君たちに捕らわれてしまったのだ。君を二度も泣かせたとなったら、今度こそ私はジェームズに祟られる。リリーにもだ。リーマスにはこんこんと説教をされるね。それから──ハリーに杖を向けられてしまう」

 

「そんなことはしない!」

 

「いいや、するとも。あの子は君のためなら神にだって杖を向けられるよ。──あの子はジェームズの子だ」

 

 

 よく、わからない。困惑する僕に、二度肩を叩いたシリウスは哀愁を含ませながら微笑んで続けた。

 

 

「君も──まったく、ジェームズの子だね」

 

「……手がかかるって言ってる?」

 

「君たちなんてかわいいものだ。私とジェームズのほうがよっぽど手がかかった!」

 

「それは武勇伝みたいに語ることじゃないよ、シリウス」

 

 

 小突けば、軽快に声を上げて笑われた。『僕』が知ってるシリウスがこんなふうに笑ったのは、初めて共に過ごしたクリスマスの日だけだった。鼻唄まで歌って、あの陰気なブラック邸をクリスマス一色に飾り付けて──そして、次には、もう。

 あの陰は今のシリウスにはない。それだけが救いだ。──さびしいなんて、そんなことを思うのは筋違いなのだ。

 

 

「……シリウス、信じてね。ハリーを。絶対に。これからハリーはひどい立場に立たされる。だから、あなただけは──ハリーの心の支えは、あなたなんだから」

 

「……マリア? 君はなにか、おかしな勘違いをしていないか? あの子は──」

 

 

 客席がざわついた。迷路のどこかから赤い閃光が空へと打ち上げられたのだ。選手が棄権した合図だった。近くにいた先生が救出に入り、バグマンが脱落者の名を叫ぶ。フラー・デラクールだった。

 僕は唇を噛み締めた。──始まった。

 

 

「マリア、落ち着きなさい。なにをそんなに焦ってる? 時代がちがうんだ。安全面はそれなりに考慮されて……」

 

「それでも、死人が出るかもしれない」

 

「マリア、ハリーが心配なのはわかるが」

 

「可能性があるんだ!」

 

 

 シリウスへと勢いをつけて振り返る。彼の眼差しは僕が思っていた以上に真剣だった。

 

 

「わかった。警戒は怠らずにしよう。だが、君は落ち着くべきだ。わかるね?」

 

「……うん」

 

 

 背中から力を抜いてシリウスへともたれかかる。シリウスは大きな胸板で受け止め肩を撫でてくれた。

 

 

「これで死人なんて出せば、魔法省はさらに落ち込むだろうな。いいざまだ。スキーターあたりに手酷く書かれればいい」

 

「ああ……フフッ、それはむりだよ。シリウス」

 

 

 僕の含み笑いに、シリウスは、うん? と眉を上げた。

 

 

「当分、スキーターは記事を書けない。──僕とハーマイオニーで思い知らせてやったからね」

 

 

 今頃、小瓶の中で会場の声を聞きながら悔し涙を流していることだろう。……コガネムシが泣けるかどうかなんて知らないけど。

 

 次の閃光が上がった。クラムだ。やはり残るのはハリーとセドリックとなってしまった。ああ、ハリー、どうか……。

 いてもたってもいられなくなった僕は立ち上がった。シリウスに場所を替えると告げてコロシアム風の客席を下りる。せめて、せめて近くで──ヴォルデモートと対峙し恐怖して帰ってくるだろうあの子に、誰よりも早く駆けつけられる場所でいたい。

 

 迷路の入り口へと向かう途中に、地面になにかが光るのが見えた。──ネックレスだ。誰かの落とし物か……近付いた僕はそれをはっきり目にすると思わず周囲を見渡した。

 ネックレスは僕のよく知る形をしていた。中に不思議な炎を閉じ込めた宝石と、それを繋ぐ華奢な鎖。──ドラコからもらったマジックアイテムであった。

 

 どうしてこんなところに……? 普段はラベンダーがお下がりでくれたアクセサリーケースの中へとしまっているというのに。

 

 僕はかがんだ。指を伸ばした。

 

 誰かが僕を呼んだ。

 

 宝石に触れた。

 

 

 

 景色がぐるりと歪んだ。

 

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