マリポタシリーズ   作:椎名@大体pixivにいる

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 魔法省は『前回』同様にヴォルデモートの復活を報道しなかった。だが、『前回』に比べ状況はずっと良かった。ほとんどの人がハリーの語った真相を信じたのだ。

 スキーターがハリーについてバカげた記事──たとえば『生き残った男の子ハリー・ポッターは精神面に問題有りか?』なんてゴシップだ──を書く前に僕らで捕らえられたことも大きいかもしれない。デタラメだろうと情報による印象操作はバカにならない。僕はそれをよく知っている。

 

 学期末の大広間にてセドリックへの追悼が行われた。誰もが手元のゴブレットをかかげ喪われた善良な魂に祈った。そしてダンブルドアからの布告におののいた。

 

 

 ヴォルデモート卿は復活した。

 

 

「ミスポッター」

 

 

 激動の一年を終え、家族の元へ帰れると思い思いにトランクを運ぶ生徒たちの中から、たおやかながらも凛としていた彼女の弱々しい声が僕を呼び止めた。

 

 

「……ハイ、ミスチャン」

 

 

 目や鼻を痛々しい赤で染めたエキゾチックな美少女は、唇を噛み締めて僕を睨んでいた。

 

 

「話を──させてほしいの。時間はあるかしら」

 

「マリア、行きましょう」

 

「いいよ、場所を変えようか」

 

「マリア!」

 

 

 ハーマイオニーが、ロンが、僕の手を引きしっかりした足取りで歩いていたハリーが、心配そうに振り返った。……僕の親友たちと弟は、ほんとうに優しい。

 

 

「大丈夫。馬車の時間までには間に合わせるよ。……待っててくれる?」

 

「当たり前だ」

 

「マリア、僕も一緒に」

 

「女の子同士の話を邪魔するものじゃないよ、ハリー」

 

 

『僕』のジニーと娘のリリーからの受け売りで茶化せば、ハリーはますます心配そうに眉を寄せた。

 

 

「……大丈夫」

 

 

 うっすらと目元に隈の浮かぶ弟の額へと背伸びをしてキスを送る。

 

 

「待たせたね。──行こうか」

 

 

 チョウは唇を噛み続けていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「──彼は、どんなふうにして死んだの」

 

 

 温室やハグリッドの小屋が見える位置まで歩いて、ようやくチョウは口を開いた。声は静かだった。

 

 

「僕を庇ったんだ」

 

「──っ」

 

 

 息をのむ音が聞こえた。

 

 

「ホグワーツ行きのポートキーに向かって走っていた。三人で。みんな必死で、背後なんて見えていなかった。誰かの死の呪文が僕に迫ったんだ。でも、僕は気付かなかった。──セドリックが、気付いた。そして、僕の代わりに彼が呪文を受けた」

 

 

 パァン──乾いた音が耳元で破裂した。少し遅れて、頬に熱が生まれる。

 

 

「あなたが──あなたさえ──あなたなんか──」

 

 

 チョウはその先を続けることができなかった。

 可哀想な人だ。なまじ、善良なだけに──憎い女を徹底的に責めることすらできない。

 

 言ってしまえばいいのに。──お前が死ねばよかったんだ、と。

 

 

「……彼は、わたしのことをなにか言っていた? 最期に、わたしに?」

 

「そんな暇はなかったよ。……一瞬だ」

 

 

 僕の頬を張った手を抑えるようにして、恋人を奪われたあわれな少女は涙を一粒こぼした。

 

 

「だけど」

 

 

 僕はもうずっと昔の出来事のような──こんな結末を迎えるなんて知るよしもなかったダンスパーティーの夜を思い出していた。

 

 

「卒業したら──君を、家に呼びたいって……ご両親に紹介したいって──そう言っていたよ」

 

 

 チョウはとうとう、顔をおおってワァッと崩れ落ちた。僕は咄嗟に伸ばした手を握り戻してその場から離れた。

 彼女からセドリックを奪った僕に、彼女を慰める資格なんて──ない。

 

 馬車の前には見慣れた三人組が落ち着きなく立ち尽くしていた。僕を視界に認めて、真っ先にハリーが駆け寄ってくる。

 

 

「マリア! その頬……」

 

「まあ! あなた、ぶたれたの? なんてこと──あのチョウとかいう女……つらいのは自分だけだとでも思ってるのかしら。目の前で死──ごめんなさい。でも、マリアのほうがよっぽど、」

 

「やめて、ハーマイオニー。……やめて」

 

 

 馬車へ乗り込んで、ハリーの手に誘導されるままに彼の肩へともたれる。目を閉じれば、チョウとセドリックの美しいダンスと華々しい笑顔が浮かんだ。──もう、二度と取り戻せない。

 

 

「チョウには僕を叩く権利も、責める権利も、恨む権利もあるよ。そして僕には──チョウに憎まれる権利がある」

 

 

 僕は、彼女の最愛も未来をも奪ったのだ。

 

 セストラルの引く馬車が動き出す。ハリーにも見えるようになっただろう。それになにも告げず、窓枠から遠退いていくホグワーツ城を見上げた。

 

 後戻りなんか、とっくにできなくなっていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 キングス・クロス駅にはシリウスが待ち構えていた。それから、ルーピン先生の姿もあった。不思議に思って、ハリーと共に駆け寄りながら首をかしげる。

 

 

「シリウス、どうして?」

 

「ああ、いけないな、マリア。質問の前に君は言わなければならないことがある」

 

 

 ハリーと目を合わせて、ますます首をかしげる。ルーピン先生はなぞなぞに悩む子供を見るような目で僕らを見守っていた。

 

 

「──おかえり。ハリー、マリア」

 

 

 高い背を曲げて腕を広げるその人に、ハッと目を見張る。ああ────

 

 

「「──ただいま! シリウス!」」

 

 

 十四歳の子供二人を受け止めた腕と胸板はこの世のなによりも頼もしかった。

 

 

「……でも、ほんとうにどうして?」

 

 

 ぎゅうぎゅうと苦しいくらいに僕らを抱き締めるシリウスの肩から顔を覗かせて、ルーピン先生を見上げる。

 

 

「つまり君たちは、伯父さん伯母さんの元に戻る必要はない──ということだよ」

 

 

 ぱっくりと口を開いた。ハリーもまったく同じ顔をしていた。

 

 

「それって……それって──!」

 

「ああ。──一緒に住もう、私の子供たち」

 

 

 憂鬱でしかなかった目の前が途端に明けた気がした。

 

 シリウスやルーピン先生が僕らの荷物を持ってどのように帰ろうかと相談する中、僕の肩を叩いた存在があった。──ドラコだ。

 涼しげに笑むドラコが目線を流した先にはマルフォイ夫妻が立っていた。夫人が緊張の面持ちで息子を見ていた。──ルシウスは感情の見えない瞳で僕を見ていた。

 

 

「ドラコ……?」

 

 

 僕らの様子に気付いたシリウスやルーピン先生もどことなく警戒するように夫妻を見た。ハリーは困惑していた。そして僕も、戸惑っていた。

 少なくともルシウスは闇の陣営だとはっきりしている中で──彼の前で僕に接触するだなんて。……らしくないぞ、ドラコ・マルフォイ。

 

 

「ドラコ、これは」

 

「君の気持ちを考えるなら──今、言うべきことではないんだろうな」

 

 

 ドラコが僕の手を取った。瞳を細めて、頬を撫でた。

 

 

「ドラコ……?」

 

「だが、君もご存知の通り僕は狡猾なスリザリンだからね」

 

 

 ドラコは笑った。青と灰のあいだの溶ける氷の瞳が美しかった。

 

 

 

「君が好きだ」

 

 

 

 新しい波乱が幕を開けようとしていた。

 

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