ハリー・ポッターと病める血の少女   作:ぱらさいと

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 今回は短めです。


呪いのアイテム

 ホグワーツ特急がキングズ・クロス駅を出て一時間。

 ロンドンの街並みを抜けて、徐々に窓の外の景色がのどかになっていく。

 客車の中は賑やかだ。

 大体は夏休みどうしていたかという話で、成績のことにはなるべく触れない。

 私は旅行も成績も話題がなかった。ずっと家でゴロゴロしていたからだ。

 日本のじめっと湿った空気すら懐かしいし、友達はみんな都会に行ってしまった。

 残っているのはあまり交流のなかった魔法使いの子ばかり。

 魔法の話をしたくないので家から出なくなっていた。

 他の四人はそれぞれ色々なところへ旅行したそうだ。

 どこも聞いたこともない土地ばかりで反応に困ったが、適当に微笑んで誤魔化した。

 ドラゴンを見にルーマニアへ行ったとか、魔法界では有名なバンドのライブに行ったとか。

 CD聞いて鼻歌歌ってたなんて言えない。

 さらに、ドラコはついこの前の話題を出した。

「今年の成績がよければ、父上が『ボージン・アンド・バークス』でなんでも欲しい物を買ってくださるんだ。最近はなかなか首を縦に振ってくださらなかったから楽しみだよ」

「いいなあ。お爺様は私があそこに行くのはまだ早いって。みんな行ってるのに、お店の場所も教えてくださらないのよ」

「私もあそこで色々見て回るの好きなんだ。もう何年も行ってないけど、夏休みの間にまた行きたいなあ」

「その『ボージン・アンド・バークス』というのは古物屋さんですか? ダイアゴン横町にはなかったと思いますが」

「なんだ、アオイはそんなことも知らないのか。叔父上から聞かなかったのか?」

「叔父さんは食事以外の寄り道が嫌いな人なので。古物にも興味ないですしね」

 うちの家系はみんな買い物に掛ける時間が短い。

 買うものを事前に決めて、リストの商品を揃えたらすぐに帰ってしまう。

 ダフネも行くような店となると由緒正しい名店なのだろうか。

 ドラコは「お前も安物なら一つくらい構わないとおもうよ。ま、そこは今後の振るまい次第だな」となにやら鼻を高くしている。

 とりあえず「それはどうも」と笑顔を返しておいた。

「『ボージン・アンド・バークス』っていうのは『ノクターン横丁』にある曰く付きのインテリアだけ扱ってるお店なの。魔法界でもあそこより品揃えのいいところはないし、品質もいい老舗よ」

「特に最近は闇の物品が多く集ってる。この前だって『栄光の手』があったんだ。これなら来年の夏には宝の山が出来てるぞ」

「曰く付き……って言うと、呪いのネックレスとかですか?」

「そうそう。流石に刃物とか棘がついてるのは危ないから買ってもらえないけないけど、やっぱり手元にあるってだけでもステータスよねぇ」

 パンジーのうっとりした顔である。

 色々な場面で感性が違うなと思うことは多々あった。

 その中でもこれほど理解しがたいのは今日が初めてだ。

 ドラコが言っていた『栄光の手』も、確か人間の手の屍蝋だったはずだ。

 買ってもらってどこに飾る気だったのだろう。聞くのも怖い。

 ダフネすら『鉄の処女』や『ギロチン』は華があっていいと言う。

「なのに魔法省の連中と来たら! 毎週毎週抜き打ち検査であれこれ没収しようとする!」

 没収して当然だと思う。

 ドラコたちには悪いが、こればかりは私も魔法省側だ。

 そんな危ないものが民間人の元にあるのはよろしくない。

 この空気で言うのは命懸けだけれど。

 ただ、ずっと聞き手だとドラコがどんなキラーパスを放ってくるか分からない。

 とびっきりのネタを披露するいい機会でもある。

「私の家にも似たようなモノがありますよ」

「へえ、そっちにもあるんだな。どんな品だ?」

「掛け軸と聞いています。お姫様の見返り図だとか。ただ、その顔がたまに笑うんです」

 道具自体は話せばたったそれだけの内容だ。

 ドラコは吹き出し、パンジーは唖然、ダフネは苦笑している。

 魔法界の写真や絵はもっと動く。たかが顔の表情一つ、怪談でもなんでもない。

 しかし、これで終わるならどれだけよかったか。

「その絵を描いたのはマグルです。魔法は使われていません」

 件の掛け軸は魔法と無縁の品。

 タネも仕掛けもないのに笑う。

「『その絵が笑うと不幸が起きる』……そんな言い伝えがありまして。実際、持ち主の長男は幼くして発狂。養母も間もなく病死しています」

「大した話でもないな。よくあるネタだよ、呪いの仮面でもなんでも置き換えられるありきたりな設定だ」

「そうですね。ただ、この発狂した長男というのがさっき言った『幽霊屋敷』の元凶なんです」

「掛け軸に呪われて、おかしくなった……それで家族をみんな?」

「ええ。お婆ちゃんはそう考えていました。この話の面白いところはですね、呪いの掛け軸が幽霊屋敷の悪霊を生み出しただけじゃないんです」

「まだあるのか……?」

 ドラコも少し怯んでいる。

 いい調子だ。

「掛け軸の最初の持ち主は田舎の炭鉱王でした。あるとき炭鉱で火事が起きて、たくさん人が亡くなっています。それ以来、彼の屋敷には事故死した坑夫の霊が出て、恨み言を言うんです」

 

 いたるところに石炭がある炭鉱で火がつけば、消すのは不可能だ。

 鎮火するには炎上している坑道を封鎖。酸素を断つしかない。

 逃げ遅れた人たちはみな、閉ざされた炭鉱の中で生きたまま焼かれ命を落とした。

 ならば怨まれても仕方ないものがある。

 

「この炭鉱王は後に家族を手にかけています。自らに火を放ったと記録がありますが、こういうときって油をかぶるものなんです。彼はマグルですから魔法は使えません」

 

「しかし油の痕跡がどこにもない。しかも、炭鉱王の身体にはなぜか石炭の燃えかすがあった。先に殺されたはずの妻子も、生きたまま石炭で焼かれていた。刀で斬られても生きていたんです」

 

「この無理心中で炭鉱王の家は途絶えました。彼の持っていた掛け軸は別の富豪のものとなり、その家の長男を狂わせた。この長男は『床下の人』が自分に「殺せ」と囁くと訴え、家の一室に閉じ込められた」

 

「日本の古い建物は通気性を確保するため、軒下があるんです。人が這って入れるくらいの隙間です。長男は皆が寝静まったのを見計らい、床板を外して軒下から部屋を脱出して家族を襲った。その家は数年後、売りに出されてある夫婦が買い取りました」

 

「この夫婦も資産家で、親に捨てられた赤ん坊を何人も引き取っていたんです。でも家に赤ん坊の姿はまったくない。親戚や友人に預けた、と夫婦は説明していました」

 

「どんどん赤ん坊を引き取り、同時に家から漂う異臭にご近所も悩み始めます。ついに誰かが警察に通報して、夫婦は赤ん坊を引き取ってすぐに殺し、床下に埋めていたと判明したんです」

 

「逮捕された夫婦もまた、『床下から聞こえる声に命令された』と供述しました。見つかっただけでも十人を超える赤ん坊が犠牲になったとか……その後、この家は不吉だからと取り壊されました」

 

 言い切ると同時に青ざめた顔のパンジーが叫ぶ。

 これも予想通りだ。

 私一人だけ盛り上がり、ダフネまで冷や汗をかき始めている。

 

「取り壊されたって、じゃあアンタの家にあるカギはなんなのよ! 話がめちゃくちゃじゃない!」

 

「まあまあ、すぐに分かりますから。そのあと戦争で辺りはみんな更地になりました。そこから、復興のために区画整備をして新しく住宅街を作ったんです。当然ですが、新しくやってきた人々はこれまでの嫌な出来事なんて知りません」

 

「さて。ここであるご家庭の娘が都会から実家に戻ってきました。結婚のためです。戦争以前からの名士の家に嫁ぎます。夫は立派な若者で評判でした」

 

「その夫が今度は奥さんを……?」

 

「いえ。結婚式が終わって家に帰ったら間も無く、花嫁の母親が自殺したんです」

 

 その母親は『赤子の声がする』と訴え、ノイローゼ気味だった。

 しかし近所に赤ん坊などいない。

 友達すら疑い始め孤立していたところへ首吊り自殺。花嫁は後に離婚し、父親とともに土地を離れてしまった。

 

「ね、ねぇスミレ。もしかしてその赤ちゃんの声って、まさか床下から……?」

 

「そうですよダフネ。どうも娘さんは都会で悪い男に騙され、おまけに妊娠していた。慌てて連れ戻し、中絶して、バレる前に適当な家へ押し込めようとしたのでしょう。そこへ資産家夫婦に殺された赤子の霊が現れ、勘違いの果てに命を絶った」

 

 さらに、この地域には他にも『床下がゴミまみれの家』『放火未遂を繰り返す少年』『床下の猫に話しかける老婆』がいると話し、締めに入る。

 

「怪談が怪談を生み、増殖する。これこそ最強の怪談でしょう。そのせいでしょうか。話すだけでも、聞くだけでも祟りがあると言われています……まぁ私も元気ですから大丈夫ですよ。お婆ちゃんも死ぬまでずっとパワフルでしたし」

 

 三人とも大きく息をついた。

 私が元気かはさておき、祟られた人間はいない。

 それを聞いて安心したようだ。祟りがあると言ったときの、この世の終わりみたいな顔から一転して余裕と安心に満ち溢れている。

 ダフネとパンジーはもう言葉も出ない様子だ。

 ドラコも声が少し震えている。

「長いなりに、そ、そこそこ面白かったよ。海外の本格的な怪談は初めてだけど、これくらいならイギリスにも掃いて捨てるほどある。君にも今度聞かせてやるよ」

「それは楽しみです。まあイギリスの建物は軒下がないですから、祟ろうにも幽霊が入り込む隙間なんてありませんしね」

「そう! そうよ! よく考えたらホグワーツにも家にもそんな換気用の床下スペースなんて――」

「あ。でもホグワーツのベッドは、下に人一人分くらいの隙間がありましたね」

「そうだったかな? ぼ、僕はブレーズに借りていた本を返してくるよ! すぐ戻るから気にしないでくれ!」

 今度こそ青ざめたドラコはコンパートメントを飛び出し、周りを押しのけて逃げていった。ダフネに至っては泣き出す寸前だ。そんなに怖かったのか今の話は。

 やりすぎちゃった。

「まあ、どれも関係ない土地の話なんですけどね。事件自体も似たようなものがいくつもありますし」

「そ、それもっと早く言ってよ……私、二度とホグワーツで寝られなくなるところだったのに……」

「まさかこんなに怖がるなんて思いませんでした。あとでドラコに謝らないと……その前にこちらですね」

 私の隣ではパンジーが涙を流して気絶している。

 我慢の限界に達してしまったようだ。

 どうしようかな。ロックハート教授なら上手く盛り上げてくれそうだけれど、あの人を連れてくるのが大変そうだ。それにファンが押しかけてくるのも困る。

 仕方がないので、起きるまで手を握ってあげることにしよう。

 どのみち気づいてないだろうけれど。

 そのくらいは、流石にしないと良くない気がした。

 

 あの怪談の一番怖いところは、実は『増殖する』ところよりも『関係ない土地なのに大元は同じ』という点である。

 

 しかし今までこの本当のネタばらしにたどり着いたことはない。

 

 今回も失敗してしまったのがとても残念だ。




 怪談の元ネタは『残穢』です、少しアレンジを加えてますけど。

 歓迎会はカットして、次回は翌朝からスタートします。
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