ハリー・ポッターと病める血の少女   作:ぱらさいと

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 今回は長いですよ。
 朝食~ロックハートの初授業です。


ギルデロイ・ロックハート

 翌朝、スリザリンのテーブルはある話題でもちきりだった。

 昨日、新入生の歓迎会の最中のことだ。

 前年度に『賢者の石』を守ったハリー・ポッターとロン・ウィーズリーがとんでもない騒動を起こしたのだ。それも憎きグリフィンドールの、特に憎い二人とあって大いに盛り上がっている。

 ホグワーツ特急に乗り損ねた二人は、あろうことかロンの父親の空飛ぶ車を盗んで学校まで乗りつけ、挙句に貴重な『暴れ柳』という古木に傷を負わせた。

 しかも複数名のマグルが空飛ぶ車を目撃し、記憶を削除するため魔法省は大慌てで忘却術師を出動させる大事件に発展。これが『日刊預言者新聞』の一面大見出しとなり、翌朝には全校生徒の知るところとなった次第である。

 危うく魔法界の存在が明るみに出る寸前だった。

 古木の損傷だけでも重い処罰は免れ得ないところを、魔法省まで巻き込んだ事態に発展してしまっている。

 そして翌日。生徒は誰もが二人の退校処分を確信していた。

 が、学校は厳重注意と重い罰則を課したに留まった。

 その証拠にハリーとロンが朝食の席に堂々といるのだ。

 ドラコが大声で――二人によく聞こえるようにという彼なりの『気遣い』である――当事者を罵倒する一方、別のところを気にしている生徒もいた。

 スリザリンでも貴重な優等生、ダフネ・グリーングラスは空飛ぶ自動車そのものを問題視していた。

「……ねえ、マグルの自動車って空は飛べないよね?」

「ええ。車が空を飛ぶなら飛行機は必要なくなります」

「やっぱり魔法で空を飛べるようにしてたんだ。スミレは知らないかもしれないけど、こっちだとマグルの製品に魔法をかけるのは法律違反なの。それを取り締まる局が魔法省にあるくらい問題視してる」

「なるほど。つまりウィーズリー氏が非難されているのは、役人にも関わらずその法律を破って今回の騒動のきっかけを作ったから、ということですね」

 ダフネは頷き、さらに付け加える。

「しかもマグル製品不正使用取締局のトップがアーサー・ウィーズリー、そこの赤毛の父親。『聖28一族』の恥さらしよ。もしかしたらチェンジリングで取り替えられたマグル生まれかもしれないけど」

 普段の大人しい雰囲気が嘘のような辛辣さ。

 どうしたんですか、と尋ねるのもはばかられるほどダフネの言葉は厳しい。

 書店でルシウスの言った『魔法界いちの汚れ仕事』とはマグルの品を相手にすること。

 純血を誇るスリザリンにしてみれば「マグル生まれじゃないか?」と言われるのは耐え難い屈辱だろう。ドラコや他の生徒ならいざ知らず、ダフネが口にするほどアーサー氏の評判が悪いことにスミレは問題の根深さを再認識した。

 パンケーキをナイフで切り分けながら「それより校長のグリフィンドール贔屓が私には気になりますね」と返す。

「ううん、あれは絶対にポッターがいるからだよ。だって従兄に聞いたら私たちが入学する前はあんな駆け込みで大量に加点しなかったって言ってたし」

「では今年のクィディッチはブラッジャーの活躍に期待しましょう。あの殺人暴れ玉がキッチリトドメを刺してくれれば問題は解決です」

「スミレって澄ました顔でサラッとひどいこと言うんだね……」

「冗談のつもりだったんですが」

「ならせめて作り笑いしなきゃ。真顔じゃ誰も冗談だと思わないよ?」

 こうですか、と指で口の両端を上へ押し上げる。

 不格好な笑顔にクスクスと笑うダフネ、それを見ながらパンケーキを食べるスミレ。

 いつの間にかスミレの左右に座っていたヘスティアとフローラがいそいそチーズとトマトを皿に載せてスミレの前に並べる。

 変な教授はいるが賑やかな初日だ。

 フクロウ便が手紙や新聞を届けに来る朝食の席。

 今年は何事もなく終わりますように、とダフネは心の中で祈った。

 しかし一通の手紙がすべてぶち壊していく。

 

 

「ロナルド・ウィーズリー!!!!」

 

 

 なにかが爆破したのかと思うほどの衝撃。

 震動で天井からパラパラと埃が舞うほどの声で吠えたのは手紙だった。

 ウィーズリー夫人の怒り狂った声が反響し、壁際にあるスリザリンのテーブルはぐわんぐわんと頭の中までかき回されるほど凄まじい。

 

「――車を盗むとはなんてことです!!」

 

 全校生徒と全教職員はその一言ですべてを察した。

 生徒は『吼えメール』の内容を聞き届けるのに――誰も示し合わせることなく――黙りきっていた。

 

「……まったく愛想が尽きました。お父さんは役所で尋問を受けたのですよ。みんなおまえのせいです。今度ちょっとでも規則をやぶってごらん。わたしたちがおまえをすぐ家に引っ張って帰ります」

 

 文面を読み上げ終えると手紙は発火して燃え尽き、ロンのオートミールの上に出来たてアツアツな灰のトッピングを加えた。

 夏休み中お世話になった夫妻に申し訳ない気持ちで胃が焼き切れてしまいそうなハリー。

 あまりの恥ずかしさで今すぐにでも『姿現し』でどこかへ逃げてしまいたいロン。

 そして冗談も愚痴も出てこないパーシー、フレッド、ジョージ、ジニー。

 そこへドラコが追い打ちを掛ける。

 

 

「一週間後には君たちともう会えなくなるなんて残念だよ。まあフィルチはタチの悪い生徒が二人も減って喜ぶんじゃないか?」

 

 

 入口の脇で、心底嬉しそうに頬肉を歪ませている管理人がすべてを物語っていた。

 爆笑の渦に包まれるスリザリンのテーブルに対し『吼えメール』だと盛り上がっていたグリフィンドールのテーブルは静まりかえっていた。

 この二人が一週間も校則違反せずにいられるのか、誰もが不安でならなかったからだ。

 

 

 ホグワーツでの生活が始まった。

 今年最初の『魔法薬学』はレイブンクローとの合同で、するとスネイプ教授の贔屓は嘘のようになりを潜めた。

 どのみちスミレはパンジーに火加減の調整を注意し、ミリセントに材料を加えるタイミングを確認させ、クラッブとゴイルには文章の意味をこんこんと説き、セオドールには鍋の中身を混ぜる回数を教えている。

 そのため自分の魔法薬は大した出来映えにならない。

 当人は「まあいいや」と気にしていないので周りも頼りっぱなしである。

 一方、他の授業では地味で目立たない。

 ハーマイオニーに比べれば『呪文学』での成果も微々たるものだ。

 たまに暇なロックハート教授が授業の見学に現れ、先生方をイラつかせながら自慢話を披露しているうちに金曜日がやってきた。

 今年の『闇の魔術に対する防衛術』は金曜日にグリフィンドールと合同で行なう。

 スミレは廊下ですれ違ったフローラとヘスティアに授業の内容を聞いていた。

 

「教授の自伝を読むだけですわ」

 

「教授の自慢を聞くだけですわ」

 

「それ授業なんですか?」

 スミレ以上に無表情な二人がうんざりした顔を見せた。

 それだけでも冷や汗ものである。

 しかし彼は女子から人気が高い。

 教授陣の中でも若くハンサムでオシャレだ。

 双子はスリザリン以外の男子の中にも少なからず信奉者がいると嘆いている。

 教科書の『狼男と大いなる山歩き』で、電話ボックスに追い詰められて絶体絶命の状況を、腕っ節と天才的な閃きで切り抜ける場面が受けてしまったらしい。

「コリン・クリービーというマグル生まれがいますの」

「魔法のことなどなにも知らないただのカメラ好きが」

「まさか授業の最後に教授の撮影会が始まるだなんて……」

「今すぐにでも昨年の教授を呼び戻して欲しいですわ……」

「……大丈夫なんですかねその子は。将来詐欺に引っかかりそうですよ」

 重ね重ね『賢者の石』を作り直すべきでは、とスミレは思う。

 クィレル教授の死はホグワーツにとって大きな損失だった。

 コリン・クリービー少年についても、顔も知らないグリフィンドールの新入生だが、今から将来が不安になってしまう。

 ……これが最初の報告だった。

 ハッフルパフのジャスティン・フィンチ・フレッチリーという礼儀正しい男子から情報を得たシェーマスもスミレに話しかけてきたのだ。

 普段はスミレをドラコの取り巻きと認識して嫌っていたが『背に腹は替えられぬ』と腹をくくったようだ。

 スミレからすればいい迷惑である。

「ハーマイオニーがいれば大丈夫と思ってたけど、彼女アイツにどっぷりなんだよ。ロンは杖が折れて役に立たないし、ネビルは……分かるだろ?」

「そちらにはハリーがいるでしょう。なんだって私にそんな面倒くさいことを……」

「ダメだ。ロックハートのやつハリーのことを気に入ってて隙があったら絡みに行くんだよ。『有名虫』がなんとか言ってベラベラうるさくってさ」

「知りませんよ……ロンのお兄さんになにか役立つモノでも売ってもらえばどうです? それで保険には十分じゃないですか」

「相手は『闇の魔術に対する防衛術』の教授だ。イタズラ道具ぐらいでどうこうなると思うのか?」

 思いませんが私は減点されかねないことはしません、と協力ならぬ共犯関係を求めてくるシェーマスを撤退させてもまだ止まらない。

 面倒見がいい性格だと学年に知れ渡ってしまっている。

 あのクラッブとゴイルに文章の意味を教える変人は彼女だけだ。

 金曜日当日の朝には、双子の妹から授業での大惨事について教えられたパーバティが「隣か後ろの席に座ってもいい?」と聞いてくる始末。

 妹のパドマ・パチルはレイブンクロー生で、ハッフルパフと合同でスリザリンより先に授業を受けていたのだ。

 よほどの事故があったようだがスミレは追及せず「お好きにどうぞ」と頷いておいた。

 ハーマイオニーがロックハートファンとなったことでグリフィンドールには不安が広がっている。

 スミレも授業の前からサボろうかとばかり思っていた。

 あらゆる学年の生徒が寮を越えて情報を交換し合う中、なにも知らない――あるいは知らされていない――ファンたちのボルテージが静かに上昇していくのを肌で感じながら、ついに運命のときが訪れる。

 

 教室はクィレル教授のときと様変わりしていた。

 天井からドラゴンの骨格標本が吊るされ、あの強烈なニンニク臭さはない。その分だけ教授が胡散臭くなった。

 他は去年と同じく人数分の机と椅子が並び、ロックハートの肖像画や写真が飾られている。

 興奮に頬を赤くする一部の女子たちに対し、大半はどんどん覚めていく。

 南極と南国が隣接しているような雰囲気などいざ知らず。

 颯爽と現れたロックハートは教授室の扉の前でまずはにかんだ。

 綺麗に整列した白い歯がきらんと光った。

 

 堂々とした足取りで階段を降りると、ネビルの持っていた『トロールとのトロい旅』を取り上げ、表紙を掲げる。

 

『トロールをステーキにしたヤツの前でよくやるよ』

 

 ロンの寄越したメモにハリーは噴き出しそうになった。

 パンジー・パーキンソンの席が離れているのがとても残念だった。

 

「皆さん――私です」

 

 表紙の写真と本人が同時にウインクした。

「ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして、『週間魔女』で五週連続『チャーミング・スマイル賞』を受賞――ですが、この話は置いておきましょう。バンドンの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払ったわけじゃありませんからね!」

 彼なりの気を利かせたジョークだったが、教室内の温度差が広がるだけだった。

 寒すぎて顔の筋肉が凍っている気すらしてくる。

 スミレの隣にいるパンジーは窓の外を眺めている。

 スリザリンで真面目に話を聞いているのは一人だけ。

 サイン会で大はしゃぎだったミリセント・ブルストロードだ。

 グリフィンドール生はハーマイオニーの他、ラベンダー・ブラウンも夢見る乙女の顔でロックハートの言葉を噛み締めていた。

 噛み締めるほどの厚さがあるかはさておき。

 

「全員、私の本は勿論揃えていますね? そして当然一、二冊くらいは読み終えている事とは思います。そこでまずは簡単なミニテストを実施します。心配ご無用! 君達が私の本をどれくらい読んでいるかをチェックするだけ。満点を取れて当たり前のテストです!」

 

 そう言って答案用紙を配り始める。

 確かに教科書は娯楽的なものだったが『どのようにして敵を打ち倒したか』は描写されていた。

 そこから闇の生物に対処する手段を学ぶのか――誰もが一瞬、好意的な捉え方をして、間も無く打ち砕かれる。

 最初の問題で、彼がまともな人間でないと気づかざるを得ない。

 

 

「さあ、制限時間は三十分。始め!」

 

1.ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?      

 

2.ギルデロイ・ロックハートのひそかな大望は何?

 

3.現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うか?

 

 こんな調子の問題が裏面までビッシリだ。

 大半の生徒はもはや答えを書き込む気力すら奪われ、体面を気にしたネビルや数名だけはそれらしい答えをでっち上げてなんとか空欄を残さなかった。

 最前列にいるハーマイオニー、ラベンダー、ミリセントの三人だけが顔を用紙にキスしかねないほど近づけてペン先を走らせていた。スミレは分からないフリをして寝ていたし、授業態度には気をつけているダフネすら夕飯はなんだろうと考えている。

 試験開始から三十分後。

 時間となり、答案を集め終えると、ロックハートは大袈裟に首を左右に振った。

 それでも笑顔を忘れないのはある意味プロだ。

「おっとっと――私の好きな色はライラック色だということを、ほとんど誰も覚えていないようですね。『雪男とゆっくり一年』に書いてありますよ。『狼男との大いなる山歩き』をじっくり読まなければならない方も何人かいるようだ。第十二章ではっきり書いているように、私の誕生日の理想的な贈り物は、魔法界と非魔法界のハーモニーです!」

 ロンは意識を異次元に飛ばそうと必死だった。

 ディーンとシェーマスは笑いを圧し殺すのに必死で、最前列で一人だけの男子ネビル・ロングボトムはこれがどう授業に関係あるのか分からずにいる。

 そしてやはり最前列の四人で自分だけ名前が呼ばれず、落ち込んだ。

「……ところが、ミス・ハーマイオニー・グレンジャーは、私のひそかな大望を知ってましたね。この世界から悪を追い払い、ロックハート・ブランドの整髪剤を売り出すことだとね――よくできましたそれに――」

 ロックハートは次の答案用紙を見た。

「それにミス・ラベンダー! 誕生日プレゼントがオグデンのファイヤー・ボトル・ウィスキーであればお断りしないことをよくご存じでした! 実に素晴らしい! 『鬼婆とのオツな休暇』をよく読んでいます!」

 満点でもないのに――と悔しがるハーマイオニーと、年季が違うのよと鼻を鳴らすラベンダー。

 ハリーは今すぐにでもスネイプにこの科目を担当して欲しくなった。

 いっそハグリッドの――飼うだけで命懸けな――ペット自慢の方が有意義な気がし始めた。

「そしてミス・ブルストロード! なんと私の杖がサクラとドラゴンの心臓の琴線、22.5センチであることを知っているのは全学年であなただけでした! 『週間魔女』で三度目にチャーミングスマイル賞を受賞したときのインタビュー記事を覚えているとは!!」

 スミレは今にも泣きそうだった。

 まさかあのロックハートと杖の木も素材も同じである。

 オリバンダーの言う『運命的な出会い』がこれなら運命の女神は即刻廃業すべきだ。

「三人ともすばらしい! それぞれに一〇点ずつあげましょう!」

 これほどありがたみのない一〇点はホグワーツ史上初だろう。

 ドラコも嫌みがまったく思いつかない。

 自分の知性がクラッブやゴイルと並んでしまったような危機感を覚えた。

 そんな生徒の懸念は露知らず、ロックハートは机の後ろにかがみ込んで、覆いのかかった大きな籠を持ち上げ、机の上に置いた。

 杖を抜いて神妙な面持ちになる。

 なまじ二枚目であるから、どんな表情も様になる。

「さあ――気をつけて! 魔法界の中で最も穢れた生物と戦う術を皆さんに授けるのが、私の役目です! この教室で君たちは、これまでにない恐ろしい目に遭うことになるでしょう。ただし、私がここにいるかぎり、何物も君たちに危害を加えることはありません。落ち着いているよう、それだけをお願いしておきましょう」

 スミレがパンジーにメモを投げた。

 

『それ吸血鬼の前で言います?』

 

 笑っていいのかいけないのか、とことん判断に困る。

 だがロックハートの授業よりはセンスがあった。

 

 籠は藤色の覆いで中が見えない。

 だが生き物が閉じ込められているのは確かだ。

 しきりに甲高い鳴き声が聞こえ、籠をガタガタと揺すっている。

 誰もが息を飲んでじっと籠を見つめる。

 

「どうか、叫ばないようお願いしたい――」

 芝居がかった口調と大仰な身振り手振り。

 なにより緊迫した面持ちに、誰もが引き込まれていた。

 マクゴナガルの厳格さ、スネイプの威圧感、そのどれとも違う鎮め方だった。

 世に名高い若き冒険家がここまで警告するのだ。

 どんなにおぞましい生物が飛び出すかと身構える中、ロックハートは覆いを剥ぎ取った。

 

「連中が興奮してしまいますので――!!」

 

「捕らえたばかりのピクシー小妖精です!」

 シェーマス・フィネガンはこらえきれずにプッと噴き出した。

 ロックハートはめざとくシェーマスを見つける。

「どうかしたかね?」

「コーンウォール地方のピクシー小妖精ですよ?」

 群青色の肌に顎と耳の尖った、お世辞にも愛らしさからは程遠い見た目だ。

 しかし少々不細工なだけでどこも恐ろしくない。

 これなら薬草学で鉢植えをしてやった幼いマンドレイクはよほど危ない。

 アッカンベーをされてドラコのこめかみに青筋が立ち、自分を横目に見ながらナイショ話されたブレーズも少し気分が悪い。

 そんなスリザリンの様子もあってシェーマスは噴き出す寸前である。

 教授が苦笑しながらたしなめるのも余計にツボだった。

「おやおやフィネガンくん! 彼らを侮っていますね? では結構、君たちがどう扱うか――お手並み、拝見!!」

 言い終わると爽やかに白い歯を輝かせ、予告もなしに籠を開け放った。

 寿司詰め状態のピクシーたちが雪崩を打って教室へ解き放たれる。

 失笑と興奮は悲鳴へ生まれ変わった。

 誰も彼も見境なく襲いかかる羽の生えた邪悪の化身、ネビルは不運にも数匹がかりで持ち上げられシャンデリアに吊されてしまった。

 教科書が宙を舞いネビルの鳴き声が頭上から聞こえ黒いインクが降り注ぐ。

 生徒も手で払ったり教科書で吹き飛ばして応戦するがキリが無い。

 特に学年で一番髪の長いスミレは執拗にストレートヘアを弄られていた。

 が、掴んだピクシーの指を一本一本折り始めていた。

 無表情、無感情、無反応でポキン――ポキン――と。泣き叫ばれるのもお構いなしだ。

 丁寧に丁寧に手脚の指を逆方向に曲げて骨を折り、頭をインク瓶にねじ込んで窒息させる。

 あまりの恐ろしさにピクシーたちがスミレを避けて動き始める。

「さあ、捕まえなさい。たかがピクシーでしょう――」

 ロックハートも踊り場から叫んだ。

 生徒の阿鼻叫喚に腕まくりをして杖を振り上げ「ベスキビクシベステルノミ!<ピクシー虫よされ>」と呪文を唱える。

 何の効果もない。

 しかもたった二匹のピクシーに杖を奪われ、ドラゴンの骨格標本を吊っていた鎖を切られてしまった。

 本格的な大惨事を前に、偉大なる冒険家は乱れた髪を手で整え授業を締めくくる。

「今日の課題です! その辺に残っているピクシーをつまんで、籠に戻しておきなさい!」

 そして後ろ手にすばやく戸を閉めてしまう。

 取り残された生徒は教室から逃げ出した者もいれば、ピクシー除けになるスミレの周りに集ってやり過ごそうとするか、勇敢に杖や教科書ですばしっこい連中に立ち向かっている。

 ロンの耳を囓るピクシーをぶん殴って吹き飛ばすと、ハーマイオニーは杖を構えた。

 空中に向かって「イモビラス! 動くな!」と一声。

 静止呪文は見事に暴れ回るピクシーたちから動きを奪い、青い厄介者は無重力状態で空中を漂うだけになった。

 ダフネの背中に入り込んだピクシーをつかみ出して床に叩きつけながら、パンジーもスミレを小突く。

「ちょっと! アンタもなんかやりなさいよ!」

「え? ああ、そうですか。そうですね。これ『闇の魔術に対する防衛術』でしたね」

 ハーマイオニーがさっきロックハートの失敗した呪文でピクシーたちを籠に押し込めていく。

 キーキーと不愉快な声で鳴く『闇の生物』が一匹残らず金属の籠に押し込められた。

 澱んだ目のスミレも、真っ黒の亡骸を格子のすき間から中へ捻じ入れる。

 インクが滴る全身骨折したピクシーの亡骸を片づけると杖を持った。

 サクラの杖を籠に向け「インセンディオ 燃えよ」と呪文を放つ。

 

「片付けは最後までしないと。でしょう?」

 

 言葉遣いこそいつもとなんら変わりない。

 抑揚に欠ける淡々とした風だが、眉間にはハッキリと皺が刻まれている。

 アオイ・スミレは普段からは信じられない早足で教室を出て行く。

 

 アイツも怒ることがあるんだな――

 

 なにがあってもスミレの髪を勝手に弄る真似だけはすまい。

 宙ぶらりんのまますべてを見届けたネビルさえ心に刻んだほどだった。

 

 誰だって命は惜しい。

 生きたまま籠の中で、ウィッカーマンさながらに焼き殺されるのは勘弁だ。




 被告! ピクシー!
 被告! バケモノ!
 判決は死刑! 
 死刑だ!
 死刑!
 死刑!!
 死刑!!!!

 死刑!!!!!!

 というオチ。
 スミレはそもそも魔法動物そのものが大嫌いなので、自分に手出しされてなくても焼いてますけどね。
 そしてロックハートと同じ杖でした。
 スミレの方がちょっと長いです。
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