ハリー・ポッターと病める血の少女   作:ぱらさいと

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 序盤の人間関係が分かるだけのお話。


ブリティッシュ・ディッシュ

 ドラコの家に泊まり始めて二週間。

 もうすぐ8月も終わりが見えてきた。

 イギリスの短い夏が終わり、私も来週には日本へ帰る。

 そんなある日、カローという家から誕生日パーティに招待された。

 末っ子のフローラとヘスティアという姉妹が8月31日で誕生日を迎えるから、ぜひお祝いに来て欲しいと。

 呼んでいただけるのはうれしいけど、大きな問題があった。

「私、フローラさんもヘスティアさんも会ったことないですよ」

「アイツらに会ったことがあるやつなんてそういない。暗い性格の双子でね、滅多に人前に出てこないのさ」

 ドラコもこの双子の姉妹を見分けられないと言った。

 辛うじて母上……ナルシッサおば様は、見分けがつくという。

 まともに会話したことがあるのはおそらくカローの身内だけとも。

 そんな人に会わなきゃいけないのかと思うと少し怖い。

「そう心配するなアオイ、どうせ双子は挨拶が済んだらすぐに引っ込む。毎年そうなんだ」

「それもありますけど、またパイやお肉ばかりなんでしょうね」

 イギリスのご飯は毎日ジャガイモとお肉と小麦生地のものばかり。

 それだけでも重いのに、油で揚げたりパイにしたり味の濃いソースをかけたり……おかげでここ最近胃もたれと口内炎が辛い。

 屋敷しもべのドビーさんが用意してくれるポリッジという麦のおかゆだけが癒しだった。

 温かくてほんのり甘くて、腹持ちも悪くない。

「そんな弱っちい胃袋でホグワーツに入る気なら考え直した方がいい」

「ホグワーツにも屋敷しもべさんはいるそうですから、なんとかなると思います」

「いちいち手間のかかるやつだな。それに屋敷しもべなんかに『さん』づけするなんて変わり者もいいところだ」

 E.T.とマスター・ヨーダの合いの子みたいな見た目に雑巾同然のボロボロな服を着た妖精さんを、ドラコはじめ魔法使いはみんな奴隷だと思っている。

 はじめは気になったものの、屋敷しもべの人たちもそういう扱いが名誉なことだと考えているので、私もなるべく深く考えないようにした。

 ドラコは新しく買ってもらった歴史の本を読みながらリンゴを齧っている。

 芯だけになったリンゴをドビーさんに渡すと、思い出したように本を閉じた。

「そう言えばもうすぐ日本に帰るんだって? 煙突を使うのか?」

「日本に煙突はありませんよ。囲炉裏だって今どき珍しいです」

「煙突も囲炉裏もない? どうやって部屋をあたためてるんだ?」

「普通はガスや電気、石油のストーブかエアコンですね」

「それはアレか、マグルの道具か」

 ドラコのほっそりした顔に嫌悪の色が浮かぶ。

 イギリスでは、純血であることが自慢の魔法使いは魔法使いでない人々をマグルと呼んで軽蔑している。

 だが日本とイギリスでは色々と事情が違う。

「そうですね。日本は魔女狩りが無かったですから。隠れなくてもある程度は安全でしたし」

 イギリスはじめヨーロッパの魔法使いが『マグル』から身を隠しているのは、そもそも魔女狩りや異端審問で長く弾圧された過去があるからだ。

 日本ではキリシタン狩りや廃仏毀釈はあっても、魔女狩りはない。

 その辺りの違いを踏まえると、ドラコも少しだけ納得してくれた。

 本当に少しだけではあったけれど……。

 イギリスでは距離を取って隠れる方法で、日本ではむしろ一体化して溶け込む方法で今日まで魔法の世界は生きてきた。

 飛行機で片道何時間もかかるんだから違って当然だ。

 それにしたって、リビングでも靴を履く習慣だけは一生馴染めそうにない。 

 

 

 双子の誕生日パーティーが始まってから数時間。

 ナルシッサおば様からいただいたドレスは、デザインも含めてあまりにも馴染みのない衣装だった。

 黒をベースにしたフリルたっぷりのロリータで、しかも赤いリボンまみれである。

 なんでもおば様のお姉さん――ベラトリックスという方だそうで、今はイギリス国外にいらっしゃるのだとか――が着ていたものらしい。

 ベラトリックスさんがまたこれを着ることはないからと、私に譲ってくださった。

 ……吸血鬼を連想する色合いがとても気になる。

 ハイヒールも足首が疲れるし、なによりドレスが重い。

 フリルとリボンが過剰に盛られているせいだ。

 立っているのも辛くなってしまい、今はホールの隅っこで椅子に座り休んでいる。

 フローラとヘスティアのご親戚、アミカスさんとアレクトさんにもご挨拶したし、パンジーやミリセントはドラコと一緒にいるから邪魔したくない。

 あの二人はドラコが好きなのだ。

 おば様譲りのスマートな顔立ちにおじ様そっくりのプラチナブロンドと上品なブルーの瞳、貴公子という言葉がよく似合っている。

 パンジーもミリセントも――少し性格のきつそうな雰囲気だけど――目鼻立ちのくっきりした美人だから付き合うならお似合いだ。

 一方で私は小柄で鼻も小さいし、なによりみんなより年上に見えない。

 それに家は貴族でもなんでもないから礼儀作法も粗末だ。

 なんとなく場違いというか、居心地よくないなあと思いながらグラスのリンゴジュースを飲む。

 ほんのり甘い香りがして、酸味が強い。

 日本のリンゴとはずいぶん違う味わいだ。

 たしかにイギリスのは青みがかっていて小ぶりだった。

 あれはあれで美味しいけど、私はやっぱり酸味が少なくて甘いリンゴの方が好きだ。

 ご飯にしてもローストビーフやステーキがほとんどで、野菜といえばスープに入っているグリーンピースと玉ねぎぐらい。

 新鮮な青野菜のサラダが欲しい。

 屋敷しもべさんも見当たらないので、今晩はリンゴジュースとプリン一口で終わりそうだ。

 イチゴジャムのパイをおかわりしているクラッブとゴイルみたいに丈夫な胃があればと思ってしまう。

 ……もうすぐこの生活と離れられる、けれどそれは、ドラコたちと何年も会えなくなるということ。

 嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちになる。

「お隣、よろしいですか?」

「どうぞ」

(わたくし)もよろしいですか?」

「どうぞ」

 左右から声をかけられて、ぼーっとしたまま答えた。

 相手が誰か見ていなかったけど、多分知らない人だろう。

「今日は(わたくし)たちの誕生日をお祝いに来てくださって、ありがとうございます」

「近くイギリスを経たれると聞いていましたから、お会いできないかと思いましたわ」

 ふと両隣を確かめると、カロー家の双子、フローラとヘスティアがいた。

 どちらがフローラでどちらがヘスティアか見分けがつかないけれど、灰色がかった青い瞳と薄い唇はどちらも微笑んでいる。

 二人とも妖精……屋敷しもべさんと違ってとても冷たい雰囲気だけれど、それも含めて美人だった。

 相手は二歳も年下の女の子なのに目線をあわせていられない。

 吸血鬼の眼光にはチャームの力があるというが、フローラとヘスティアは本当に瞳だけで相手を魅了する力を持っているようだ。

「い、いえ……そんな、見ず知らずの私まで呼んでいただいてありがとうございます……」

 言葉に詰まりながら頭を下げる。

「スミレさん、でしたか」

「日本からお越しだとか」

「そうなんです。はい」

 顔はとても美人なのに、ドレスはキュロットを履き忘れたピーターパンかリンクだ。

 魔法界の不思議なセンスが少し冷静にしてくれた。

「スミレさんの叔父様には以前お目にかかったことがありますの」

「魔法医薬会の国際フォーラムでご挨拶させていただきましたの」

 ショウブ叔父さんの研究は医療品、特に魔法のお薬が専門だ。

 学者には見えないがっしりした身体だがいくつか賞も貰っている。

 今回は万病に効く医療薬があったという噂を確かめに行って、そこで……。

「自慢の叔父さんです。いつも忙しいから、とっても早足ですけれどね」

 競歩の選手になれそうなほど速い。

 運動神経はいいのに箒に乗れないのだから世の中は不思議だ。

「ええ。お別れしてすぐに見えなくなってしまわれました」

「てっきり杖を使わず『姿現し』をしたのかと驚きました」

「そんなことが出来る人がいるんでしょうか……?」

「ええ。ホグワーツ魔法魔術学校の校長」

「大魔法使いアルバス・ダンブルドアは」

「それは……すごい方だったんですね」

 初めて名前を聞いた。

 ドラコはダンブルドア先生をあまりよく思っていないようだったし、アミカスさんやアレクトさんもそんな雰囲気だった。

 こういうところでもイギリスの純血の家系は色々とある様子だ。

 私は少し前まで純血もなにも関係ない生活をしてきたから、ちょっと不安になってしまう。

 ホグワーツでうっかり失礼なことを言ってしまわないよう注意しよう……。

 純血とマグルのこともそうだけど、私は知らないことが本当に多すぎる。

 家に帰ってからでもよく勉強しよう。

 キレイな双子の女の子に見つめられて、落ち着かないながらそんなことを考えて空腹を誤魔化していた。

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