炎のゴブレットによる選定の儀が執り行われた翌々日の月曜。
ホグワーツの慌ただしく騒々しい一週間が新たに幕を開ける。
飛び交う噂と囁きあう声はアオイ・スミレにまつわるものばかり。
スリザリンは二年前のように団結して彼女を風評と憶測の嵐から庇うものと思われたが、今回ばかりは少し事情が違った。上級生……とりわけカシウス・ワリントンを筆頭とする七年生と、彼らに近い六年生のグループはスミレに対するバッシング・キャンペーンへの抵抗に消極的な態度を取った。パンジーは早朝からそのことで怒り心頭だったが、ミリセントは「あまり言ってあげなさんな」と宥めるだけに留まった。
紅茶に砂糖を落としながらミリセントはなるだけ冷静に言った。
「ワリントンはホグワーツ代表選に落ちたんだから。ちょっとくらい文句を言っても許される立場じゃないの」
「だからってソレをスミレに言うのは筋違いでしょ? ポッターやウィーズリーならまだしも、スミレがそんなバカな真似するワケないじゃない!」
あまりに大声だったのでグリフィンドールのテーブルまで声が届いた。ジニー・ウィーズリーは双子の兄の顔を思い浮かべて納得を禁じ得ない一方、それをイノシシ女のパーキンソンに言われたことが何より腹立たしいし、アオイ・スミレは正真正銘イカれた女だと怒鳴り込んでやりたい衝動に駆られた。推薦枠で選手入りを果たしたハリーが肩身を狭そうにしている手前、どうにか踏みとどまれたけれど。
頭に血が上ってもネジは填まったままだと分かりミリセントは幼馴染みを見直した。
「消極的でも中立なら無視しとけばよし。いま私たちが一番に心配しないといけないのは何だと思う?」
「どうやってエロイーズ・ミジョンのブスをもっと悲惨にしてやるかね」
「おバカ。アレより不細工に出来る余地があるワケ? どうかしちゃったの?」
どっちの言い様もあまりに酷かったが、ダフネは無糖ヨーグルトへ薄切りリンゴを盛り付ける作業で手一杯だった。綺麗な花形に飾り付ける真っ最中である。終わればすぐに食べてしまうのだけれど。
「トロールの顔にしてやろうって言ってんのよバカねえ」
「そんな呪文があったとしてアンタ使えるの? じゃなくって、スミレへのバッシング。お祖父様もお母様も子供のケンカに首を突っ込むような方に見えないじゃない」
「そう、そうよ。あのバカみたいなピンバッジは校則違反じゃないの!」
「取り締まってどうなるワケでもないわ。すぐに別の方法で再開するんだから、ガツンと一発ドギツいのをかましてやるのがイイと思うわけ」
ハッフルパフの生徒たちがバッシング・キャンペーンの中核であった。みんな胸に同じデザインのピンバッジを掲げ、連帯してスミレを攻撃している。
『ホグワーツの真の代表、セドリックを応援しよう!』
ゴブレットに選ばれた代表選手であるセドリック・ディゴリーのハンサムな顔を、そんな文章がぐるりと囲んでいる。それが目まぐるしく回転して緑色へ変わるとスミレの無表情が浮かび上がった。ご丁寧に『卑怯だぞ蛇女』のメッセージが添えられている。自分たちの属する寮がグリフィンドールやスリザリンのような華々しさとも縁が無ければ、レイブンクローみたいに孤高の存在でもない、寄せ集めの地味な集団という認識が生み出した嫉妬だった。
あんなものをスミレが目にしたらどうなるか。
それこそ二年前の繰り返しになるのは分かりきっている。
だが、キャンペーンがレイブンクローとグリフィンドールに飛び火した以上、いくらパンジーが吼えたところでどうにもならない。
「マクミランと交際しているのも気掛かりよね。スミレ、意外と言うこと言うから――」
なるべく我慢しているだけで端々から暴言は漏れ出ている。
それもかなりキツい。どうも本来はキツい性格の持ち主らしいが……。
手を打った方がいいのは分かっていても何一つ思いつかない。ミリセントは悩ましげに様々な感情の籠もった溜息をつく。
「どうしたモノかしら。惚れた腫れたならいくらでも相談に乗ってあげられるのに」
「交際経験のない貴女に相談することって……」
耐えきれなくなったダフネが口を開いたとき。クラッブとゴイルが全身にまとわりついた贅肉を振わせて駆け寄ってきた。まだ授業が始まってさえいないのに滝のような汗をかいて、非常に暑苦しい。
「すぐ来てくれ!」
「ケンカになった!」
「ケンカあ? 朝からそんなの見たくもないわよ」
「「アオイがだよ!」」
二人が同時に叫んで、真っ先にパンジーが飛び上がった。行き先も確かめないで大広間を飛び出していく。ミリセントとダフネも慌ててあとに続く。あっという間にパンジーの背中へ追いつけたのは大広間を出てすぐ目の前の玄関ホールに人だかりが出来ていたからだ。肩車するワケにも行かず、遅れてきた二人は階段の踊り場から円陣の中心を見下ろした。
「貴女、よくアーネストと交際を続ける気でいられるわね」
「別れる理由がありませんから。
アシンメトリーな前髪で顔を半分覆ったハッフルパフの女子生徒、ベアトリス・ヘイウッドが昏い表情でスミレを睨み付けている。今年で七年生になったという以上のことは何一つ知らないものの、黒いダッフルコートの胸元に例のピンバッジを付けているだけで彼女に関する情報は十分すぎる。
「もうこれ以上、彼に近寄らないで。理由……言わなきゃ分からない?」
「まさか、まだ私のことを『スリザリンの継承者』とお思いなんですか?」
他人への関心の希薄さがここに来て事態を悪化させる。スミレとベアトリスを取り囲む生徒のほとんどはハッフルパフとレイブンクローで、侮蔑に充ちた冷笑が彼らの感情を逆撫でした。もう一押しされれば次々に杖を抜きかねない。そうでなくとも『決闘クラブ』でマリエッタ・エッジコムが毒蛇をけしかけられた記憶を呼び起こさせてしまっている。忘れられた、あるいは忘れることにした因縁を自ら蘇らせてしまったのだ。
「そのバッジ、お似合いですよ。脳のサイズそっくりで」
つう、と眼を細めればなんと母親似の顔であろう。嘲笑を受け取った周囲は俄に殺気立つ。決闘ならばいざ知らずこの数相手は多勢に無勢、もはや絶体絶命と思われたが、瞼の重い物憂げな目を見開いたベアトリクスは杖を抜くことなくスミレの右頬へ鋭い平手打ちを見舞った。
肉の叩かれる高く湿った音がホールに木霊する。
ああ、やった――ミリセントは杖に手を掛けたまま動けないでいる。
「卑怯なスリザリンが、私たちの仲間に近寄るなんて許さない」
じわりと広がる痛みが言葉を失わせる。
生まれて初めての感覚に思考も感情も麻痺する。
ベアトリクスはスミレの真横を通り抜け、校舎へと姿を消す。群衆たちも誰に命じられることなく包囲を解き、一人また一人と玄関ホールを去って行く。パンジーがスミレへ駆け寄ろうとしたとき、四人の頭上からクスクスと笑い声が折り重なって降り注いだ。視線を持ち上げると同じボーバトンの女子生徒数名を引き連れてフラー・デラクールが目を傲慢に歪ませて見下ろしていた。
「おーう、オグワーツの流儀はとてーも野蛮でーす。見ていて私たーち恥ずかしーくなりまーした」
ただ手摺りに指を掛けているだけの佇まいすら肖像画のようで、対峙する者を威圧して憚らないフラーへ言葉を返したのはスミレだった。滑舌の甘い舌足らずなボーバトン生を気遣ってかこの上なく流暢なフランス語を操ってみせる。
「『パリに帰って火祭りでもしていろ。貴様の吐息は腐った葡萄の臭いがするぞデラクール』」
「『東洋人は礼儀作法の美しさで世界に類を見ないと聞いていたけれど、これでは見世物小屋の猿ね』」
銀色の冠を戴く妖精の女王と、黒い鱗を妖しく輝かせる大蛇の絵図を思わせる。
フラーとスミレの間で激しく火花が散る。スリザリンの三人娘はこれも自然の成り行きだと受け入れた。
極めつけに気位の高い者同士が巡り逢ってしまったのだ。
それも三大ならぬ四大魔法学校対抗試合の正統な選手に選ばれた最優秀の少女と、望まずして不幸にも
相容れる道理がないのは言うに及ばず。
双方が双方を『最大の敵』と見做すのは、まったく当然の結果である。
†
ハリーとスミレが教室に着いたとき、他の代表選手たちはすでに揃っていた。
クラムは瞼を閉じて周囲の喧噪を意識の外に追い出し、まるでよく訓練された軍人のような雰囲気さえ感じさせる。フラーはセドリックとのお喋りを満喫して、日の光を反射して自慢の長いシルバーブロンドがいつもより眩く輝いている。
机と椅子はすべて教室の後ろへ片付けられ、広々とした空間の中、バグマン氏が教壇に並べられた審査委員の人数と同数の椅子のちょうど真ん中に腰掛けている。代表選手と委員を隔てるように並べられた机には、濃い紫色の立派なビロードが掛けられている。
部屋に入るなりフラッシュを焚かれ、ハリーは思わず手を翳した。バシンという音でようやく残る二人が来たと気付いたバグマン氏は飛び上がって弾むようにハリーたちの方へ近寄った。昨日吹き飛んだ歯なんてはじめからなかったように綺麗な歯並びが目に入った。
「やっと来たな! ハリーもスミレもおいで、さあさあ。何も心配することはない! ほんの『杖調べの儀式』なんだか。他の審査員も追っ付け来るはずだ」
「杖調べ?」
ハリーの胸に不安がよぎった。
この役人はどうも信用出来ない。
「諸君の杖が万全に機能するか、調べないといかんのだ。つまり『
「もう『
興奮に冷や水を浴びせられたバグマン氏を、フラーとスミレは鼻で笑った。ハリーのみならずセドリックとクラムも『似たもの同士』という言葉を思い浮かべたが、敢えて命の危険を冒してまで口にする必要は無いとアイコンタクトで確認しあった。
「専門家がいま上でダンブルドアと打ち合わせしてる。儀式のあとは何枚か写真を撮る段取りだ。そちらが記者のリータ・スキーターさんだ」
毒々しい黄緑色のレディス・スーツを着た魔女を示し、バグマン氏はさらに続けた。
「こちらのレディが試合について日刊予言者新聞に短い記事を書く」
「あンら、短いとは限らないざんすよルード」
わざとらしく
「儀式までまだ時間のあるとのことだ。リータ、先にインタビューを済ませてしまうかね?」
「アタクシは
「問題ないとも、お楽しみはなるべく最後の方がいいだろう!」
記者の好奇心に満ちあふれた視線がハリーの背後へ向けられる。スミレは冷ややかな口調のまま、しかも全く愛嬌のない抑揚に欠けた口調へ変わっていた。
「私の記事は一言『取材拒否』とだけ書いて下さい」
「おいおいおい、それじゃあつまらんだろう! スミレ、君は誰も予想しなかった
「豚の餌やり係なんてお断りです」
それきりスミレは適当な椅子に腰掛けて口を閉ざした。バグマン氏の必死の説得にも耳を貸さず、どころか一言も発さなくなってしまった。予想だにしない頑固さにスキーター記者も手を焼き、祖父の面子やスリザリンの友人を引き合いに出して首を縦に振らせようとした。けれどスミレの頑固さには歯が立たなかったようだ。
バグマン氏もスキーター記者も無視してスミレは腕時計を見る。
魔法薬学の授業が始まる直前に呼び出されたのでハリーにとってちょっとした幸運だったのだが、スミレは「たかがバグマンとスキーターに待たされるなんて……」と考えているのだろうか。いつもハリーの身の回りで起きる事件に深入りしているのに、彼女のことはあまりよく知らない。ダイアゴン横丁で初めて会ったときからどうも噛み合わないモノがあって、四年目にもなると毎回毎回この陰鬱な顔色を目にするのも腹が立ってくる。
ダンブルドアをはじめ審査委員たちと共に教室へ現れたのは杖職人のギャリック・オリバンダーだった。三年前に、ダイアゴン横丁にあるこの老職人の店でハリーは杖を買い求めた。オリバンダー翁はまずフラーにそばへ来るように促した。
「マドモアゼル・デラクール、まずは貴女から。さ、こちらへ来てくださらんか」
フラーは軽やかに翁の前へ進み、柔らかな手付きで杖を渡した。
「ふむ……なるほど」
オリバンダー翁の長い指に挟まれた杖が数度転がされると、先端からピンクとゴールドの火花が散った。さらに老眼鏡をかけて杖をじっくりと観察する。
「そうじゃな……二十四センチ、しなりにくい、紫檀、芯材は……おお、なんと」
「ヴィーラの髪の毛でーす」
さらに自身の祖母のモノだとつけ加えた。翁も大きく頷く。
「左様、左様。ワシ自身は芯材にヴィーラの髪を用いた事はないが……拝見した限りではかなり気紛れな気質になるようじゃ。しかし相性は人それぞれ、ましてマドモアゼルの御祖母様ともなれば……よろしい」
フラーの杖は傷一つなく真っ直ぐで、オリバンダー翁は最後に「オーキデウス」と呪文を唱えて軽く一振りした。丸みを帯びた先端からふわりと一輪の花が咲く。摘み取った花と杖とがフラーの手に戻された。杖職人の評価は「上々も上々」であった。
セドリックとクラムの杖もオリバンダー翁は入念に検分し、自分が作ったものは長さ、木材、芯材、性格に至るまで完璧に記憶していた。そうでなければ軽く目を通しただけで作風から制作者を言い当ててのける。グレゴロビッチという杖職人は如何にもロシア風の名前で、クラムの杖は彼の手で作られたそうだ。ハーマイオニーならグレゴロビッチ氏について何か知っているのではないかと思ったが、彼女はいまロンと喧嘩中であまり穏やかでない状況なのを思い出した。じっと座って待ち続けるのはハリーにとって刑の執行を待つ囚人のようだった。
「さて、次はポッターさん」
猫背でがに股のクラムと入れ違いにハリーはオリバンダー翁の正面へ出た。緊張のあまり杖を渡す動作が自分でも分かるくらいぎこちない。後ろからフラーの忍び笑いが聞こえた気がして顔が熱くなった。
「おお、そうじゃ……そう……よぉく覚えておりますぞ」
老眼鏡の向こうで淡い瞳が煌めいた。
ハリーも三年前のあの日をよく覚えている。つい先日のことのように鮮明な記憶。十一歳の夏、誕生日プレゼントとしてハグリッドと一緒に行ったダイアゴン横丁で買った。このオリバンダー翁の薄暗い店でありとあらゆる杖を試し、最後の最後に奥から引っ張り出されてきたこの一振りこそがいまハリーの手にしている杖なのだ。二十八センチ、柊、不死鳥の尾羽根が一枚入っている。オリバンダー翁はあのときと全く同じ目をしていた。
「まこと不思議じゃ……」
ヴォルデモートの杖にもハリーの杖と同じ不死鳥から採られた尾羽根が使われている。
その縁を指してオリバンダー翁は「不思議」と言う。ハリー自身は「杖が望んだことじゃない」と割り切っていた。自分とヴォルデモートの杖に『同じ芯材』という繋がりがあるのは仕方の無いことだ。ハリー・ポッターとペチュニア・ダーズリーが血縁であるのと同じように……オリバンダー翁は検分の最後にハリーの杖から芳しい赤ワインを迸らせ、審査委員たちに一口ずつ振る舞った。
「実に結構、今も完璧な状態を保っております」
その言葉にようやく肩の荷が下りる心地がした。
「さあ、最後にミス・アオイ。こちらへ」
名前を呼ばれたスミレは気負う様子もなく立ち上がり、オリバンダー翁の掌へ白い杖を置いた。フラーとクラムは見ず知らずのスミレに興味津々で片時も目を離そうとしない。
「懐かしい、実に懐かしい。長らく棚の奥で眠っておった杖じゃ」
慈しむような手付きでオリバンダー翁はスミレの杖を撫で、表面の状態や歪みの有無を調べる。桜の木にドラゴンの心臓の琴線、三十二センチ、良質でしなりがある。軽く振ってみれば審査委員たちのワイングラスがピカピカになった。
「……これはもしやすると、杖が貴女を待っておったのやもしれません。俗に『運命』と呼ばれるものの類いです」
桜の杖を返されたスミレはさらに真っ黒な杖を取り出す。柄に純銀の装飾が施され、その先には煌々と燃えるように赤い宝玉が埋め込まれている。オリバンダー翁は何も言わず受け取り、
「うむ……黒檀、三十センチ、踊るようにしなる、この芯は女性の毛髪じゃな……拵えからも貴人の為に作られたのは明白、さて……しかしこの作風は……」
目を閉じ、手の感覚を研ぎ澄ませながら杖全体を指先で撫でる。
「なるほど……力に惹かれる性分じゃな……」
最後に開け放たれた窓へ向かって「メテオロジンクス」と唱える。たちまち晴れ渡った秋の夕暮れに真っ黒な雲が立ちこめ、激しい雷雨が降り注いだ。その様に翁は深く頷く。
「この杖は例えどのような呪文であれ、貴女が望む限り最大の協力者となりましょう」
二振り目の杖を受け取ったスミレが自分の席へ戻る。儀式を最後まで見届けたダンブルドアが立ち上がり代表選手たちを労った。
「みなご苦労じゃった。それでは写真撮影に移りたいところじゃが、クラウチさんから大事なお話がある」
手で示されたバーティミウス・クラウチ氏がよろめきながら立ち上がる。隣に座っていたショウブ博士が咄嗟に立ち上がって痩せ細ったクラウチ氏の身体を支えた。一人でどれほど仕事を抱え込めばこんなに追い詰められるのか、ハリーの不安は募るばかりだ。
「紳士淑女諸君、杖調べの儀式が終わった事、まずはおめでとう。間もなく始まる第一の試練における課題では、諸君の『勇気』が求められる」
課題の詳細は伏せられた。クラウチ氏曰く、未知に遭遇したとき発揮される『勇気』は魔法使いにとって重要な資質であり、最初の課題はこれを試すものである。選手たちは課題へ取り組むに際しあらゆる助力を受けることは禁じられ、己の杖を唯一の武器とする。第一の課題を乗り越えたのち第二の課題について正式に告示される……最後にクラウチ氏はとてつもなく重要な通知を発表した。
「試合はいずれも過酷なものとなる。また長期間に及ぶことを鑑み、選手たちは一律に期末試験を免除される」
結局、今日までに四大魔法学校対抗試合の競技に関して具体的に知ることが出来たのは試験の免除についてだけだった。それでもハリーは小躍りしたいくらい喜ばしいものであった。
しかし、いざ写真撮影の段になるとまたウンザリさせられる。
まず、マダム・マクシームがどこに立っても影を作ってしまう。
カメラマンもなんとかマダムを枠内に収めようと後ろへ下がったが下がりきれず、立ち位置をいくら調整しても上手く行かない。ついにマダム・マクシームが椅子に座り、みんなはその隣に各自並ぶことになった。山羊鬚により威厳を持たせようと指を巻きつけるカルカロフ校長やバグマン氏を端へ追いやろうとするショウブ博士は大人しい方だ。
「ビクトール、そこじゃあ見切れてしまうよ」
「いや、
クィディッチのスター選手として注目を集めるクラムなら慣れているはずが、やたらと後列の隅っこへ隠れたがる。なのでセドリックが自分の向かって右隣にわざわざ引っ張り出さなければならず、フラーはセドリックの左隣を譲るまいと躍起になる。しかしスミレが嫌がらせでフラーの前に立とうとするので二人は散々に言い争いを始める。
「そこーへ並ばれーるとワターシの顔から下がほとんど映りませーん」
「顔だけ映れば十分でしょう。それぐらいしか武器なんてないんですから」
「ワターシ、アナタと違ーってルークス自信ありまーす」
「乳牛とどう違うのか私には見当がつきませんけれど……」
だいたい、部屋の灯りにするなら貴女より豆電球の方がずっと優秀ですよ――
どうにかこうにかみんなの位置が決まり、リータ・スキーターが更に各選手のソロ・ショットを撮ると言い張って聞かなかった。バグマン氏と校長たちは大いに喜んだのでそこから撮影会が幕を開け、クラウチ氏は魔法省での仕事を口実にさっさと帰ってしまうし、ショウブ博士は興味なさげに大欠伸を始めた。
ようやく解放されたあとフラーはスミレを捕まえて「もっとポージングや目線、肌と髪の手入れ、健康的な生活に気を配るべき」と説教を始め、スミレは気怠そうに「貴女と一緒にしないで欲しい」と蒼白い顔をしながら溜息をついた。
「君たちう゛ぁ、実は姉妹じゃないのか」
そんな様子にポツリとクラムが不用意な一言を溢した。
たちまちフラーとスミレは目を見開き、恐ろしく早口なフランス語でダームストラング校の代表選手に詰め寄る。
「『こんな嫌味で気難しい性格の女が私の妹だなんてとんでもない侮辱だわ』」
「『これほど傲慢なうえ思慮に欠けた玉葱女が姉なんて願い下げですよ』」
フランス語が分からないクラムは剣幕に少し怯んだ様子だが、厳めしい表情のまま黙ってやり過ごす事にしたらしい。ハリーとセドリックだってもちろんフラーとスミレの言葉を一つも理解出来なかったけれど、それなりに仲睦まじい様子が一変、罵倒の応酬を繰り広げる女性選手たちを見れば「口は災いの元だ」と自戒するくらいの考えは浮かぶ。
結局、代表選手たちは学校も寮もバラバラに教室を出て各々の寝床へ帰っていった。