ハリー・ポッターと病める血の少女   作:ぱらさいと

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ほっとけ ほっとけ ほっとけないほど 大切なんです

 四大魔法学校対抗試合の開催によりホグズミード村も賑わっていた。

 とはいえ、客はほとんどは『三本の箒』かホグワーツの来賓室を借りる。

 実務を担当する魔法省の官吏たちは不眠不休の重労働が慢性化していた。

 暇を持てあましているのは代表選手の親族であったり、理事会メンバーとのコネで貴賓席に椅子を確保出来た金満家ないし上流階級に限られる。そういう面々はダンブルドアやマクゴナガルに勧められるまでもなく『ホッグズ・ヘッド・イン』などという悪党、ゴロツキ、お尋ね者といったクズ共の吹き溜まりへ足を運んだりはしないのである。

 ただ、シリウス・ブラックとアオイ・ツバキだけはこういう店の方が性に合っていた。

 年代物のシングル・モルト・スコッチで散々に酔っ払いながら、バーカウンターの席に陣取って互いの肩をバシバシ叩きあう。

 

「そりゃ傑作だ!! 五股なんてバカな真似は私だってやったことがない!!」

 

「マジでヤバかったんだぜ!? バレたとき刃物出て来たんだもんなあ!!」

 

 女学生時代、気になった生徒を手当たり次第口説いていたら五人同時に付き合う羽目になった。ツバキの女性遍歴の中でも徳に印象深い出来事だった。三つ子相手の三股がバレて医務室送りにされたシリウスは目に涙を浮かべて大笑いした。埃っぽい店内に他の客はおらず、長身のバーテンダーが客に背を向けてフチの欠けたグラスを磨いている。

 しなびたビーフジャーキーをスコッチでふやかしながら雪の降る夜を過ごす。

 焼き鳥がないのは少し残念だったが、酒の肴はほかにいくらでもある。

 この背筋に冷たい隙間風だってアルコールで温まるのに丁度良い。

 グラスへ豪快に酒を注ぎながらシリウスはツバキの娘の事に触れた。

 荒削りの氷はほとんど溶けかかって小さな欠片が底に転がっている。

 

「彼女……スミレは上手くやれているか? 第二の試練もそう遠くないぞ」

 

「あのタマゴがな。どうにもならなくって、放ったらかしてるらしい」

 

 ハリーから受け取った手紙だけでシリウスは大凡、魔法省が仕掛けた謎を解いていた。

 舞台がホグワーツの敷地内に限られる以上はそれを前提に考えるべきなのだ。

 果たしてスミレに助力すべきか逡巡が続いていた。無実の証明が為された恩はあるが、しかしウクライナ・アイアンベリーを焼き殺した狂暴性を見るに、ヘタに深入りするのもリスキーに思えていた。ハリーへの過剰な干渉を控えているのはマッド・アイという最強の『闇祓い』が目を光らせているからである。彼の方針に委ねるのが最善だと、かつての経験からこれ以上なく理解している。

 ツバキはグラスに残ったスコッチを一気に喉へ流し込む。

 涙が滲むのは、アルコールで粘膜が焼けるせいだろうか。

 

「出来ることなら今すぐ連れて帰りたい……」

 

 長期休暇で帰ってきても、学校の事をほとんど話さない。

 イヤだと思ってもなかなか言い出せない性格をしている。新学期前になると口数が減るのも含め、よほど行きたくないのは一年生の春休みですぐに察しがついた。

 あのフラー・デラクールという女学生と付き合いだして、友人たちは豹変ぶりに驚いているようだった。母親であるツバキに言わせればあれが昔の、本来のスミレだ。よく笑うしよく冗談を言うし、意外と照れ屋でもある。

 記憶の中の娘がどんどん遠のいていく気がした。

 それもこれも自分が無力なせいではないかと、酒が手放せない。

 初めて缶ビールを飲んだときもこんな風に味がしなかった。

 どうして自分はいつも手遅れになってから気付くんだろう。

 酔おうにも酔えない頭でじっと古いロックグラスを見つめる。

 そのとき、猛烈な夜風が店の中に冷気を運び込んだ。

 全身がぶるりと震えるのに気づき、扉の方を見遣る。

 黒革のコートの両肩に雪を積もらせ、女が「ロスメルタのアバズレが!」と毒づく。

 顔の輪郭から指、膝、足首と骨太な体型をどうにか誤魔化そうと必死だ。

 バーテンダーが苛立った声で「とっと閉めやがれスキーター」と唸った。

 シリウスが「とっと失せろこの――」と思いつく限りの罵倒を吐くよりも先に。

 ツバキは空になったドライ・ジンのボトルをスキーターの頭へ振り下ろしていた。

 衝撃で俯せに床へ倒れ込んだ女の頭へエナメルのシューズで蹴りを見舞う。

 

「ブッ殺すぞクソババア」

 

 砕け散った安酒のガラス瓶が床に落ちる。

 手の中に残された残骸をカウンターへ返し、整髪料で逆立った髪を掴む。

 

「アンタ、日刊予言者新聞のリータ・スキーターさん?」

 

「ナッ、ア、オマエ、ナニするんだいッ」

 

「こっちが質問したんだろ? どうなんだ」

 

 しゃがみ込んで自分を覗き込む無感情な目が恐慌を呼ぶ。

 舌がもつれて悲鳴も出せない。咥えた紙巻き煙草に火を点けながら、ツバキはシリウスに詫びを入れる。

 

「急用が出来た。今日はツケといてくれ。また今度、奢るから」

 

「ああ、構わんよ。ではおやすみ……いい夜を」

 

「悪いな。家の事情で世話になって」

 

 謝罪の必要などシリウスは微塵も感じていなかった。もし我が子同然のハリーが醜悪で下劣なゴシップの標的にされていたら、きっと自分も同じ事をしただろう。それを思えばツバキの行動はまったく正しい。せめてもの応援に、注文したきり開封されていない火酒(スピリッツ)を一瓶、ツバキへ手渡した。

 

「マダム、今夜はよく冷える。これで暖を」

 

「アンタ……イイ男だな。オレじゃなきゃ惚れてたよ」

 

 ツバキもやはり女しか愛せない、そういう宿命の持ち主だった。

 ワインレッドのオーバーコートを羽織りながら返した笑みは冷え切っていた。

 

 

 何本目かになるマールボロに火を点けてもすぐに消えてしまう。

 いい加減に諦めがついた。咥えた煙草を吐き捨て、奇妙な木の切れ端を拾い上げる。

 吹雪の中。手足の折れたリータ・スキーターを雪の上に放り出し、オーバーコートをはためかせる。ヤニもアルコールも切れて、思考はこの上なくクリアだった。

 記憶を手繰ると色々な記憶が鮮明に蘇る。

 吹きつける雪の痛みが酔いを攫ってしまう。

 平常心を保とうにも酩酊感が不足している。

 

「知ってるかスキーターさん。こういう吹雪の日に落とし物をすると、春まで見つからないんだ。まあ雪国ならではの悩みだよな……」

 

「それがナンだってんだい! よくもアタシに、日刊予言者新聞のリータ・スキーターを知らないワケじゃないだろうオマエ!!」

 

「まあ聞けよ。ちゃんとインタビューさせてやってんだから。でな? ウチの近所で犬を買ってる家があったんだが、あるとき逃げ出したんだ。まあバカな犬だったよ。雷にビビって逃げたこともあった」

 

 ツバキは魔法の才能がない。貧弱なのではなく、ゼロ。イギリスであれば『スクイブ』として社会から爪弾きにされるところだったが、幸いにも日本では一般社会という受け皿があった。おかげで何不自由なく三十四歳を迎えられたのである。だから魔法使いの杖というと身の丈ほどある大きなモノを想像していたが……実際は指揮者のタクトくらいのサイズだった事に驚いた。

 

「その犬は運送会社のトラックに轢かれて死んでた。タヌキでもキツネでも、田舎じゃよくある話さ。飼い主には悲劇だけど。運が悪かった。しかも時期がまた悪くってな。雪に埋もれたまんま春になって出て来たんだよ。そりゃあ酷かった。雪解け水と太陽光とで季節外れのシチューさ」

 

 ひとしきり触って、飽きてしまった。取り上げた荷物の山へ放り投げる。両手で真っ二つにヘシ折るのも忘れずに。ポキンと小気味よい音が響く。ちょうど手首の骨をヘシ折ったときとソックリで懐かしい記憶が蘇ってきた。

 

「あの件でいい勉強になった。最初はちょっと危なかったが、それからは上手くやったよ」

 

「……どういう意味だい! ア、アタシにどうしよってんだいマグルの分際で!」

 

「ゴメン。なんか言い間違えてた? 短大出てもうだいぶ経つから、英語もフランス語もうろ覚えでさ……いやな? アンタを『五人目』にするかどうか考えてるんだ」

 

 これまでに殺して新雪に隠した人間の数。リータ・スキーターを新たな犠牲者に加えるか否か、思案している。ツバキの何気ない告白が折れた手脚を暴れさせる。

 

「あの棒キレがないんじゃアンタ、オレ以下だろ。どうすんだよこれから」

 

 タスケテと請い願ってもツバキは聞き入れない。シリウスから受け取ったヴオトカを一口流し込む。胃から全身へ熱が広がったあと、残ったすべてを没収品へ浴びせた。唯一、愛用の高級ジッポーだけは手元に残している。スカラベの意匠が彫られた蓋を開閉して弄びながらさらに尋ねる。

 

「まだスミレとデラクールのネタを探すか?」

 

 死に物狂いで首を左右に振る。ツバキは真っ赤な眼鏡を外しながら、呆れた。

 

「英語はギリ話せるんだって。ジェスチャーはいいから」

 

「サ、サガサナイ、サガサナイカラ」

 

「舞踏会にどうやって入った。魔法か」

 

「カ、カナブン、ヘンシンシテッ」

 

「何でもアリだなマジで。尊敬するわ」

 

 スゲえなあ、と気の抜けた声で情報収集のタネを吐かせ終え、奪った眼鏡を返す。

 だがその手で指輪だらけの指をまとめてヘシ折った。関節を粉砕される激痛も、吹雪の風音にかき消える。丁寧に外した指輪を見てツバキは驚きに目を丸くした。

 

「へえ。いいデザインじゃん、高かったろコレ」

 

 そんな感想を述べつつやはり指輪も投げ捨てた。

 無惨にねじ曲げられた自動速記羽根ペンのそばに転がる。

 

「この事を書くかどうかは任せる。スミレの事も、デラクールの事も、好きにしていい。オレは何も言わない。でもオマエの『ウソ』でオレの身に何かあれば、次はスミレが来るぞ」

 

 怒りに燃え。憎悪に燃え。復讐に燃え。超巨大なドラゴンのブレスさえねじ伏せる『炎』を撒き散らしに来るとだけ告げて、ツバキは「死ぬほどダサいジッポー」もろともスキーターの栄光の数々へ火を放った。去り際……一枚残らず衣服を剥ぎ取られた女記者の身体へ優しく自分のコートを掛けてやった。

 これで顔が好ければいくらでも手を出していたのだが。

 あの将棋の駒のような輪郭はちょっと趣味とは言い難かった。

 

「ああそうだ、書くならちゃんと本当の事を伝えておかないと。オレが殺して埋めたのはまだ一人だけだ! それに埋めたのはウチの山ン中で、雪に隠しちゃいない!」

 

 つい癖で相手をビビらせようと適当なコトを言ってしまった。

 どうもこれは血筋だなあと頭を掻きながら、遠くに浮かぶホグワーツ城のシルエットを眺めた。

 

 

 夢のようなクリスマスから新学期の現実に引き戻される。

 寒々しい曇り空の下、降り積もった雪を踏み締め、生徒たちは週末のホグズミード村へ繰り出す。温かいバタービールに砂糖たっぷりのミルクティー、あるいはゾンコの悪戯専門店やハニーデュークスで思い思いに休日を過ごすのだ。アザミは渋面を隠そうともせず『三本の箒』を訪ねた。パブの中は大混雑していた。バーカウンターへ向かうとマダム・ロスメルタへ声を掛ける。

 

「バグマンさんはどちらです」

 

「奥の部屋で待ってるよ。ハイ、あの人の注文分」

 

 ジョッキになみなみ注がれたバタービールがカウンターへ置かれた。

 自分用にホットコーヒーを注文し、アザミは周囲から奇異の目で見られた。

 

「ナニ見てんだ。笑いてえなら鏡でも覗いてろ」

 

 三年生の女子グループを睨み付ける。

 こういうとき父親譲りの顔は便利がいい。

 コーマック・マクラーゲンのように鼻をへし折られると思い、不躾な後輩たちは何も見ていなかったようにお喋りを再開した。

 広々とした奥のラウンジはちょっとした山荘の趣がある。

 薪が焚べられた煉瓦造りの暖炉。上等そうな洋酒の瓶とグラスのセット。ソファはどれも座り心地が良さそうで、事実、先に着いていたルード・バグマンはくつろいだ様子でどっかりスツールに腰掛けていた。黒と黄色のストライプ模様のローブを見るといつも祖母が応援している野球チームを思い出す。

 

「ようアザミくん! 来てくれると信じてたぞ!」

 

「遅れて申し訳ありません。ムーディ教授にレポートの件で呼び出されました」

 

「そう言えば今年はアラスターが防衛術の先生だったな。構わん構わん、マッド・アイのやる事だ!」

 

 マッド・アイがやるなら何が構わないのか、アザミには判断が付かなかった。

 少なくとも豊富な経験と知識に裏打ちされたムーディの授業は非常に高レベルだ。バグマンの与太話を聞くくらいなら、あの義眼の教授と膝を交えてお茶をする方がずっと有意義だろう。勧められるまでもなくバタービールを押しつけて離れた位置の席に座る。コーヒーにはミルクも砂糖も入っていない。

 総合魔法競技部部長は何の遠慮もなくジョッキを呷った。

 

「呼び出したのは他でもない。リータ・スキーターが対抗試合の記事を書けなくなったのは君も知ってるだろうが、魔法省としてはかなり困った状況だ」

 

「病気療養に専念、でしたか。記事は読みました」

 

「うむ。リータがダメとなると後任を探さなきゃならんが、これが難航しとるんだ」

 

「そうですか。それで、魔法省の高官であるバグマンさんが何故いち留学生に?」

 

「惚けちゃイカン。例の『ザ・クィブラー』に記事を寄せているのはキミだと聞いた」

 

 やはり情報を完璧に秘匿する事は出来ないか。アザミは人間の口の軽さと、規律徹底の難しさを思い知って内心で肩をすくめた。どれほど間抜けでもバグマンが口を割ることはあるまい。そういう強かさは備えていると踏まえ、誤魔化すのはやめた。

 

「ええ。正確には私がまとめ役をしている課外活動の執筆物ですが」

 

「実質的な最高権力者だろう? なかなかやり手のお嬢さんだと感心させられた」

 

「恐縮です。正直言って、権力より責任ばかりつきまとう面倒な仕事です」

 

 最高権力者と最高責任者は不可分だ。それにアザミは意識して自分の権力を抑制している……そうしなければグリフィンドールの反スリザリン感情に火が点いて、この課外活動はたちまち崩壊するだろう。それが分からないでは所詮、他人に使われるだけの男か……品定めするまでもなく無価値な駒だ。

 

「そのアザミくんに折り入って相談がある。君、リータ・スキーターの後任をやってみる気はないかね?」

 

「あのクズの代用品というのは虫唾の走る思いがします」

 

「そういう考え方もあるだろう。しかし、未成年の学生が日刊予言者新聞で人気記事を連載したというのは将来的に大きなアドバンテージではないかな?」

 

「……将来的に、大きなアドバンテージ」

 

 言わんとするところは理解出来る。アザミはいずれどこかの会社に就職し、父のように海外を飛び回るとは行かずとも、経済的に自立したいと考えていた。学生時代の実績として『人気記事の連載を担当』は確かに小さいとは言い難い。

 多大な労力と計り知れない心労を思えば、多少の役得は許されて良いのではないか?

 だが、日刊予言者新聞で正式連載となると無視できない問題もある。

 

「損失覚悟で協力して下さったラブグッド氏の好意を裏切る事になります」

 

「あんな『ザ・クィブラー』を書いとる狂人の事など気にするな! カスのようなものだ!」

 

「これは信頼の問題です。顧問であるバブリング教授の顔に泥を塗る事にもなる」

 

「より大きな栄誉が手に入るんだ、どうしてそんな些末な事に拘るんだね!?」

 

「栄誉が欲しければ素直に祖父の推薦を受けていますよ。そんなものの為にイギリスへ来たつもりはありません」

 

 身を乗り出して食い下がるバグマンを見ながら、アザミは冷ややかに嗤う。

 カップで歪んだ口元を隠すため飲みたくもないコーヒーを啜った。

 

「日刊予言者新聞に連載すれば原稿料が発生する。私の総取りは出来ません。しかし全員で分配するには少額でしょう」

 

「いやいや、そんなことはない。スキーター如きよりずっと売り上げを出せる。私も日刊予言者新聞には顔が利く、悪い条件にはさせんよ」

 

「どのみち学校公認の課外活動です。金銭が発生しては揉め事の元になる。『ザ・クィブラー』はあくまで原稿料を受け取らない条件で紹介していただいたワケですし」

 

 あくまでアザミは正論に徹する。バグマンが無理を押し通そうとするのが純粋にスキーターの穴を埋めたいだけなら交渉の余地はある。だがキックバックなり私欲が絡んでいるなら、汚職に手を貸すような真似はキッパリ拒絶しなければ。どうせ隠し事をしてもすぐにバレる。この秘密の活動さえバグマンに知られたのだから。

 

「日刊予言者新聞も原稿料を支払わないことと、『ザ・クィブラー』への優先的な掲載を認めていただけるなら顧問を交えて皆で話し合おうとは思います。あくまで合議制ですから」

 

「……君もなかなか強情だな。いや、交渉上手と言うべきかな? その強かさには参った。よし分かった、君の取り分も用意させよう。私が六割、アザミくんが四割ではどうだね? それほど悪い条件ではないと思うが」

 

「繰り返しになりますが、私は金銭にも名声にも興味はありません。昨年の十月三十一日にもそう申し上げたハズです。全員の目の前で。お忘れですか」

 

 目論見が露呈してしまえば安っぽいテレビドラマのようだ。

 学生を利用して汚職を働く政府高官なんて情けなくって涙も出ない。

 言葉を詰まらせるバグマンへ、アザミは一枚の羊皮紙を手渡した。

 

「それ、スキーターの取材手帳の写しです。この四大魔法学校対抗試合で随分“散財”したんですねバグマンさん」

 

「何故そんなモノを!? あのバカ女、昔買った恨みで刺されでもしたのかと思ったが、君が襲ったんだな!?」

 

「どうでしょう。私がオリジナルを持っているとは限りませんよ。ただ……祖父の目に留まった事だけはお伝えしておきます」

 

 もうこの男は用済みだ。いつでも心臓を止めてやれる。

 ソファから立ち上がったアザミは思い出したようにコーヒーを飲み干した。

 ドアノブへ手を伸ばし、振り返って無感情に呟く。

 

「祖父に感謝するんだな。ツバキさんを止められるのはあの爺さんだけだ」

 

 キレたツバキほど手に負えないものはない。スキーターだけならまだしも、バグマンは腐っても魔法省の大物だ。それが襲われたとあっては騒動になる…………叔母から取材手帳を見せられて、アザミには祖父の神通力に頼るしかなかった。

 まったくどうして、こう毎回毎回のように厄介な仕事が舞い込んでくるんだ。

 アザミは眉間にシワを寄せながら『三本の箒』をあとにする。黒いレザージャケットを風に踊らせながら、急ぎ足でホグワーツの城へ引き返していった。

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