優勝杯が三人を運んだ先はホグワーツから完全に離れていた。
何キロも、否、数百キロ隔てていても不自然でない見知らぬ風景。
城を取り囲む山々さえ見えない。三人は夜闇の中、荒れ果てた墓場にいた。
視界の右手には立派なイチイの大樹がある。遠くには教会の黒い影も見えた。
左手には小高い丘が聳え、その斜面には尖塔を擁する古風な館が一軒ばかり。
セドリックは脚を負傷したハリーを助けながら、優勝杯を見下ろした。
黄金の眩しいポートキーは地面に転がされたままだった。
「優勝杯がポートキーになっているって、君たち誰かから聞いていたか?」
「全然」
ハリーは左右に首を振りながら言った。
墓場は深閑として静まりかえり、薄気味が悪い。
「これも課題の続きでしょうか」
「どうだろう。ただ、杖は出しておくべきだ」
状況を見ても戦えるのはセドリックだけだった。ハリーは思うように歩けず、スミレはもう力尽きていた。それでも三人はどうにか杖を構え、周囲に目を向けた。ずっと誰かに見られている気がしてならず、墓石と墓石の間を歩きながらゆっくりと近寄ってくる人影がある。それに気付いたハリーが「誰か来る」と注意を促した。
暗いせいで姿形は判然としない。だが、腕の位置や足の運び方から、何か抱きかかえているのは分かった。大柄で、フード付きのマントで顔を覆い隠している。人影は三人のいる方へさらに近付いてくる。距離が近くなるにつれ抱きかかえているモノをようやく認識できた……ローブを丸めただけのように見えるが、抱え方のせいで赤ん坊のようにも見える。
マントの人物は三人から数メートルほど手前、丈高な墓のそばで止まった。
ほんの一瞬だけ四人の視線が大理石像の死神を挟みながら交わる。
そのとき、何の前触れもなしに、ハリーの傷痕に激痛が走った。
これまで一度も経験したことがないような苦痛にうずくまる。
両手で顔を覆った指の隙間から杖が滑り落ちる。膝を折って地面に倒れ込み、背中を丸め頭の割れそうな痛みに苦しめられる。
突然の出来事にセドリックとスミレは何が起きたのか理解が遅れた。
そして肺から空気が漏れるような掠れた、甲高く冷たい声が叫ぶ。
「あの小娘を殺せ!」
分厚い、陰湿な声が夜の闇を裂いた。
「アバダケダブラ!」
緑の閃光がハリーの閉じた瞼の裏で光った。
何か重たいものがすぐ近くの地面へ倒れる音がした。
あまりの痛みに吐き気すら感じたのが、そのときふと薄らいだ。
何を目の当たりにするのか恐ろしかった。けれど痺れるように痛む目を開いた。
スミレが俯せになっている。
背丈ほどある長い黒い髪と、か細い手脚を投げ出して。
あの真っ白な桜の杖は雑草の上に転がっている。
セドリックが駆け寄った。
上半身を支えて抱き起こすと、だらりと首が垂れた。両腕は力なく肩からぶら下がり、何度呼び掛けられても応じる様子はない。肌は病的な白さのまま。臥しがちな目は虚ろに見開かれ、廃屋の窓ガラスのように無機質に光を帯びる。わずかに開かれた口は一言も発さない。
死んでいる。セドリックはゆっくりとスミレの身体を横たわらせた。
一瞬が永遠にすら感じられた。信じられない。受け入れられない。
そのほか全ての感情は麻痺している。
大男に抱きかかえられた赤ん坊が笑い声を発した。
咳き込むように苦しげで、今にも息絶えそうなほど弱々しい。
喘息のような呼吸が落ち着くと男は赤ん坊を墓石に置いた。
「
続けざまにセドリックの手から杖を奪った。
大理石の墓の元へ男はハリーを引き摺っていく。
杖を翳すと死神像が動き、手にした巨大な鎌でハリーを拘束した。
杖灯りのおかげでようやくフードの下の顔を確かめられた。
痩せた顔つきには不自然な鷲鼻と、見開くようなギラつく両目。
処刑人の仮面でも特徴的だった不機嫌そうに歪んだ口元。
魔法省の危険動物処理委員会で処刑人を務めていた魔法使いだ。
ワルデン・マクネア、殺人鬼と忌み嫌われるあの男だ。
マクネアは獰猛な笑みを浮かべたまま答えない。手際よくハリーの口へ黒い布を押し込め、どこかへ去って行く。セドリックは身動きが取れずにいる。どうにか隙を伺っているようだが、ハリーとポートキーがあまりに離れすぎていた。マクネアを退けるにも杖がない。それと分かっている処刑人は悠々と杖を使って大鍋をハリーの前へ運んだ。
中には液体が満たされている。鍋はホグワーツにあるどれよりも大きく、成人した男性が座っても十分にゆとりがある。布の包みはしきりに蠢き、何かが外へ出ようと足掻いている。マクネアはさらに杖を振るって鍋底に火を点け、中の液体を瞬く間に煮え滾らせた。次第に液体はダイヤモンドを散りばめたように光り輝き、湯気の向こうではマクネアが素早く支度を整えられた事に満足げにしている。
「準備が整いました我が君」
マクネアの言葉に包みから「よし……急ぐのだ」と声が応じる。
恭しく丁重な手付きで包みが開かれる。現れた中身のおぞましさは想像を絶した。
穢らわしい粘液に塗れた赤子のミイラ……干からび、背骨の歪んだ肉体から生える骨と皮ばかりの四肢。不自然に大きな頭は毛の一本すらなく、およそあらゆる生物でこれほど貧弱な存在は他にあり得ないと思えた。鍋へ捧げられる瞬間、のっぺりとした蛇のような顔の中で赤い目がぎらりと光った気がした。
沈んでいく様を見ながらハリーは溺死しろと願った。
傷痕の焼けるような痛みはほとんど限界に達している。
そしてマクネアはさらに呪文を唱える。杖で指し示されるがまま、足下の亀裂から浮かび上がった一本の骨が、鍋の中へと投げ込まれる。猛烈な火花を散らしながら鍋の液面から煙が立ちこめ、毒々しい青色へと変じていく。
「下僕の肉!! 喜んで、差し出されん!!」
恍惚とした目でナイフを振り下ろす。そうして自らの右手を鍋の中へ捧げ、激痛に悶える絶叫と興奮の雄叫びを夜の静寂に響かせた。墓地中に木霊するマクネアの声が収まると大鍋の中身はいよいよ血のように赤く染まり、瞼を閉じたハリーの目に嫌でも焼きついてくる。全身を苛む痛みと突き上げるような喜びのあまり荒々しくなる吐息をハリーの顔に掛けながら、マクネアはさらにナイフを血で濡らす。死神の像に縛られたハリーの右腕の内側を切り裂き、刃から滴る血を数滴ばかり鍋へ加えた。
「敵の、その血……力尽くで、奪われん!!」
すべての儀式を終え、マクネアは鍋の傍らに跪く。首の骨が折れそうなほど深々と頭を垂らし、感極まって肩を打ち振るわせながら啜り泣き始めた。
間もなく炎が大鍋を包み込む。そのまますべて焼き払ってしまえと祈るのも虚しく、鉄で出来た大鍋が飴細工のように溶け落ちる。最初に沈められた赤ん坊は数倍にまで肥大化を遂げ、爛れた皮膚と膨れあがった筋肉とがゆっくりと形を整え始める。徐々に肉塊が痩せ細った大人の身体へ変じていくにつれ、その蛇のような四肢を夜闇から溶け出した黒いローブが包み込んでいく。
もうもうと立ちこめる白い蒸気が光を乱反射し、ますます周囲の闇を深める。
闇を纏った男だけが暗黒の中で輝くことを許されたようですらある。
間もなくすべての光が収る。そうして墓場に降り立った暗黒の男は、甲高い声で「杖を寄越せ」とマクネアに命じる。処刑人は懐から象牙色の杖を取り出し、異様に指の長い手へと捧げた。
男の顔はハリーもよく知っている――恍惚の面持ちで自らの顔を、腕を、身体を撫で、骸骨のように白い顔へ勝ち誇った笑みを浮かべた――細長い輪郭に蛇のような切れ込みだけの鼻と血色の瞳……この三年間、ハリーを悪夢で悩ませ続けたあの顔。
――――ヴォルデモート卿が現世へ帰還した。
†
優勝杯とともにホグワーツへ帰還した三人。
四大魔法学校対抗試合がついに幕を下ろした。
誰が勝者であろうと最早構わない。
栄光の瞬間に立ち会えたという興奮が皆を沸き立たせる。
言葉と学校の垣根を越えて肩を組み、喜びを分かち合うスタジアム。
その中で最初に悲鳴を挙げたのが誰であったのか。
真っ先に異変に気付いたのはツバキだった。
事切れた娘の元に駆け寄り、それきり動かなくなる。
徐々に熱狂が薄れていく。調子外れな鼓笛隊の演奏が止んだ。
審査員席からハリーの元へダンブルドアが走る。冷たくなったスミレの足下で、ただ彼女の亡骸を見詰めるしか出来ない。優勝杯などとっくに手放して、空になった両手をぶら下げたまま、周囲の人集りとざわめく声がとても遠くにあるように思えた。
耳元で自分の名前を繰り返し呼ばれ、ようやく囁くような声が出た。
「あの人が、戻ってきたんです……戻ったんです、ヴォルデモートが」
ダンブルドアが言葉を失う横でコーネリウス・ファッジが覗き込んだ。何が起きたのか理解したのだろう。愕然として蒼白の顔を隠せずにいる。
「何という事だ。生徒が死んでる」
その言葉が周囲から囁かれ始め、ようやく事態が広まる。
誰も彼もが同じ言葉を口にしてハリーに聞かせているようだ。
リフレインされるアオイ・スミレの死。ツバキは誰も近寄らせず、華奢な身体を抱きかかえている。どうにも出来なかった。ほんの一瞬の出来事で、それも脚を怪我している身体ではますます手の出しようがなかった……言い訳じみた考えばかりが頭をよぎる。謝ろうにも拒まれている気がして、ハリーはただ膝をつくばかりだった。
ダンブルドアはこの場に留まるよう言った気がする。
だが混乱したファッジが散々に喚く。シキミも頑なにダンブルドアを解放せず、次第にハリーは人集りの中に埋もれていった。顔の区別が付けられない人影ばかりに囲まれ、額の傷痕と脚の傷がしきりに痛んで熱を帯びる。ヒステリックな泣き声に紛れて誰かがハリーを肩を支えた。
「大丈夫だポッター……ワシが付いている……さ、こっちへ」
肩を貸してくれた誰かが人垣を押し退けるように進む。
怯えきって動揺した群衆の中を引き摺るように、コツコツという足音を響かせ、湖の畔を通り抜けて城への石段を登っていく。コツ……コツ……ムーディの義足が廊下へ木霊する。みるみる競技場が遠のいているのが分かった。花火の一つも上がらないまま、対抗試合の最後の夜が更けていく。
防衛術の教室へ着くとようやくムーディは口を開いた。
傷痕まみれの顔は月明かりのせいかやけに蒼白い。
崩れ落ちるようにソファへ腰掛ける。ハリーも適当な椅子へ座った。
スキットルの中身を口へ流し込もうとして、空だったようだ。慌てた様子で部屋中の戸棚を漁りながら「何があったポッター」と背中を向けて尋ねた。
「優勝杯はポートキーでした」
三人ともリトル・ハングルトン村の墓地へ飛ばされ、そこでヴォルデモートがいた事。
ワルデン・マクネアがご主人様に命じられるがまま『死の呪い』でスミレを殺害した事。
父親の遺骨、マクネアの右手、そしてハリーの血を使いヴォルデモートは復活を遂げた。
死喰い人たちを裏切り者と罵倒しながらもなんの罰も与えず、ただマクネアの忠誠心を賞賛し、ワームテールの
「闇の帝王は……そうか、マクネアがいたか……魔法省の処刑人だな……」
「ルシウス・マルフォイがいたんです。エイブリーやノットや……他にも死喰い人が」
「連中を帝王は赦されたと言ったな? ただお叱りの言葉だけで、磔の呪いさえなかったのだな?」
「ええ……それだけでした。死喰い人はホグワーツにも潜伏していると、そいつが炎のゴブレットにスミレの名前を入れたんです」
ムーディはハリーの正面に座って身を乗り出した。
捜し物は諦めたようだ。落ち着き払って静かに言った。
「その死喰い人が何者かワシはよく知っとる」
「……カルカロフだ」
咄嗟に思いついた名前だが自信があった。
しかしムーディは奇妙に笑い声を上げた。
「ヤツはとうに逃げ出した。腕についた闇の印が焼けるのを感じてな……ヤツは度し難い裏切り者だ。我が身可愛さに忠臣たちをことごとく売ったのだ、今更会いたくはあるまい。だが闇の帝王から逃げおおせる事は出来ん……・」
「カルカロフが逃げた? それじゃ、炎のゴブレットに細工をしたのは? 四番目の学校を巻き込んだのは誰なんですか」
「ヤツの仕業ではない。ワシがやったのだ」
聞き間違いだと思いたかった。とても信じられない。
凄腕の元闇祓いのハズだ。一人でアズカバンの牢獄を半分埋めるほどの実力者だと。闇の魔法使いとの戦いに生涯を費やしてきた、生粋の戦士だと聞いていたのに。そんなムーディが死喰い人? ヴォルデモートの手下? あり得ない……。
その手でハリーへ杖を突き付けながら、ムーディの姿をした死喰い人は繰り返し同じ事を問うた。この男の理性をこの世に繋ぎ止めるのはそれだけなのだと思えた。しきりに舌先で唇を湿らせながら。ひたすら待ち焦がれた答えを求め続ける。
――――あの御方は俺だけが忠実であり続けたと仰っていただろう
――――あらゆる危険を顧みず、我が君のお望みになられたモノを御前に捧げたのだと
――――あの御方にとって俺は最も親愛なる、最も敬虔な僕だと
あらゆる試練でハリーを助けてやったのだと、この死喰い人は豪語した。
ハグリッドを通じてドラゴンの情報を流し、ネビルに鰓昆布について詳しい書籍を貸し与え、セドリックへ卵の謎を解くヒントを囁き、迷宮ではクラムに錯乱の呪文を掛けた……あらゆる試練の裏でハリーが優勝杯へ到達できる手助けをしてやったのだと。今日、この日、この結果をもたらしたのは全て自分の功績なのだと。
勝ち誇るように叫ぶ声がハリーにはとてもくぐもって聞こえた。
深い水の底で流れるオルゴールのように言葉が不鮮明に聞こえる。
立ち上がったムーディは勝利を確信し、これから浴するであろう栄誉を想像して狂喜に全身を身震いさせる。敵鏡に映る三人の顔にはちっとも気付いていない。大人しく待っていても手遅れだろう。扉には閂が掛けられている……杖を抜いたって、絶体絶命には変わらないはずだ。
しかし、ハリーは叫んだ――叫ばずにいられなかった。
「こんなの狂ってる!」
「狂っている!? 俺が!?」
肉眼と義眼でムーディがハリーを睨み付ける。
「いまに分かるぞ!! 闇の帝王は戻られた!! 帰還されたのだ!!」
ヴォルデモートは間もなく全てを支配する。
世界の全ては闇の帝王の手中に収るのだ、と。
ムーディは唾を撒き散らして吼え狂う。
「貴様が帝王を征服するのではない!! この俺が、貴様を征服する――!!」
指先が杖に触れると同時に、爆発がムーディを襲った。
封印された扉は木っ端微塵に吹き飛ぶ。杖を構えたアルバス・ダンブルドアはマクゴナガル教授とスネイプ教授を引き連れ、椅子ごと壁に打ちつけられたムーディを叩き起こす。マクゴナガル教授に肩を抱かれたハリーは三人に遅れてのっそりとシキミが現れたのに気付く。首を伸ばして室内を覗き込み、驚いた顔を見せた。
「よおアルバス、ポッターくんにも見せる気かね」
「そうです。この子を医務室へ連れて行くべきです」
声を震わせるマクゴナガル教授と裏腹にシキミは試すような口調だった。
ダンブルドアの声は鋭く研ぎ澄まされ、異なる思惑から発せられた言葉を拒んだ。
「ハリーはここにおらねばならん。納得させる必要がある……納得して初めて受け入れられる。受け入れてこそ回復がある。この子は知らねばならぬのじゃ」
満身創痍のマッドアイを力尽くで椅子へ座らせ、ダンブルドアはその懐から陶器製のスキットルを掴み取った。スネイプ教授へ手渡しながらハリーへ振り返る。
「ハリー、君は一度たりともアラスター・ムーディに会ってはおらぬ。こやつは贋者じゃ。儂の知るムーディであれば今夜のような出来事が起こったとき、儂の目の届かぬところへ君を連れ去るはずがないのじゃ。連れ去ったと気付いた瞬間、贋者と確信した。そうして後を追ったのじゃ」
瓶の中身を嗅いでスネイプ教授は一言「ポリジュース薬ですな」と唸った。
「オマエさんトコから材料をくすねてたのはコイツだったな」
シキミは冗談ぽく言いながらスネイプ教授を押し退けた。
袖から取り出した濃緑色の小瓶をダンブルドアに手渡す。
「最高純度の『
小瓶を満たす魔法液が一滴残らずムーディの口へ流し込まれる。
間もなくその巨体に変化が訪れる。顔中の傷痕が消え去り、しみ一つ無い肌が現れる。削がれて形の歪んだ鼻は整った形を取り戻す。鬣のような白髪交じりの総髪はみるみる小綺麗な薄茶色の短髪に変わった。
義足が床へ転がる。失われたはずの脚が完全に再生しており、魔法仕掛けの義眼を押し出して本来の肉眼が生える。柔和な顔立ちをした、青年と呼んでも差し支えないほど若々しい男の顔がハリーの記憶を呼び覚ます。
「バーティ・クラウチ・ジュニア……父親にアズカバンへ送られた……」
校長室に置かれた『
真っ黒な隈や血走った目はとても当時のままとは言えないが……。
マクゴナガル教授は息を飲んで驚いた。スネイプ教授も目を見開いている。
ダンブルドアが手を翳すと巨大な荷物箱の蓋が開いた。七重になった鉄壁の箱の底から弱々しいムーディの「アルバス……」という声が聞こえてくる。魔法で形作られた空間の底で、隻眼のうえ片脚のない窶れたムーディが衰弱した様子でこちらを見上げている。
「ふむ。ポリジュース薬の為に生かされていたか。髪型は材料の為だな」
「そのようじゃ。服従の呪文で従わせておったのじゃろう……すぐにマダム・ポンフリーを呼ばねばのう」
「大臣も呼んでこようか? アズカバンから脱獄者がおったのだし」
「セブルス、頼まれてくれんか。マダム・ポンフリーとコーネリウスをここへ呼ぶのじゃ。アラスターを看てもらわねばならぬし、直々に尋問したいことじゃろう……ミネルバはシリウスを校長室へ。すぐに儂も向かうと伝えて欲しい……シキミ殿、しばし留守を任せても?」
三人はそれぞれ頷いて返す。シキミが懐から取り出した杖は全体に丸い三つの節を備えた、奇妙なデザインだった。マクゴナガル教授の強張った手に代わってダンブルドアの大きく温かな手が優しくハリーの弱りきった身体を支える。今にも崩れ落ちそうになる意識を保てたのは老人というには力強いダンブルドアの存在そのものだった。
去り際、バーティ・クラウチ・ジュニアは一際大きな声で叫んだ。
「あの御方はこの俺にどんな褒美を下されるだろう!! 俺は、俺は、英雄として迎えられる!!」
現実から乖離した狂気の夢に踊るような死喰い人へ、ダンブルドアは冷たい声を放つ。
「闇の世界に英雄はおらぬ。君が最期に見る景色は吸魂鬼の顔じゃ」