ハリー・ポッターと病める血の少女   作:ぱらさいと

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努力 未来 a beautiful star

 ダーズリーの家で一ヶ月も過ごすより惨めな夏休みはない。

 ハリー・ポッターが十五年の人生から築き上げた価値観は、グリモールド・プレイス十二番地で過ごした数週間によってその信仰を揺るがされていた。

 魔法界でいま何が起きているのか、誰も教えてくれないのだ。

 ダンブルドアだけでなく『不死鳥の騎士団』の全員が口を閉ざしている。

 シリウスでさえ騎士団の事について詮索するのを好ましく思っていない。

 それだけでも腹立たしいのに、グリフィンドールの新たな監督生に選ばれたのは自分でなくロンだった。喜んでいるロンやウィーズリー夫人を見ていると自分の考えが酷い心得違いだと気付かされるが、やはりショックを受けているのも事実だ。

 これほど新学期が待ち遠しい夏休みなんて初めての事だった。

 しかし九と四分の三番線でホグワーツ特急へ乗り込むと、その気持ちも吹き飛んだ。

 ヒソヒソと囁き合う声。遠巻きにジロジロと見る視線。ビクビクとして距離を取る態度。みんな「ヴォルデモートが復活した」というハリーの言葉を信じず、魔法省の言いなりになった日刊予言者新聞なんてカスの言い分を信じている。

 なんてバカな連中なんだと絶望的な気分にさせられる。

 ロンとハーマイオニーは監督生なので別の車両に行かねばならず、今年からハリーは一人で客室を探す必要があった。それでなくとも適当な席を見つけるのは毎年至難の業なのに、皆がハリーを避けるので、なかなか座れないままホグワーツ特急は発車してしまった。

 なんとか空席のあるコンパートメントに飛び込めたのは良かった。

 問題は、先客がスリザリンのダフネ・グリーングラスである事だ。

 彼女とは四大魔法学校対抗試合を通して少なからず縁があった。けれど、ダフネはあのドラコ・マルフォイともっと長い付き合いがある。父親のルシウス・マルフォイはヴォルデモートに忠誠を誓う死喰い人で、リトル・ハングルトン村の共同墓地でもその姿をハリーとセドリックは確かに目にしている……身の安全を考えるなら彼女とも一定の距離を置くべきだったかも知れない。

 

 

「心配しないで。パンジーとミリセントは来ない……多分、スリザリンの誰も」

 

 ハリーの不安を見透かすようにダフネは呟いた。ガタガタと客室に響く列車の音で、掻き消えそうなほどか細い声だった。

 

「どうして? いつも三人一緒なのに」

 

「その台詞を独り身の貴方に言われるなんてね」

 

「仕方ないじゃないか。ロンとハーマイオニーは監督生なんだから」

 

「ふうん。ハーマイオニーはさておき、ちょっと意外な人選ね」

 

 琥珀色の物憂げな瞳がじっとハリーを見つめる。

 すぐにまた車窓へ移り、家々が流れていく景色を眺めた。

 意外……その一言には皮肉な含みが感じられなかった。これが他のスリザリン生ならきっと自分は腹を立てていただろうと、ハリー自身も断言出来るほど確かだった。

 

「監督生、貴方じゃなかったんだ。問題児って意味では大差ないけど」

 

 それを言われると反論のしようがない。校則を破るとき大抵ロンも一緒だったのは、全くその通りである。

 そう考えるとハーマイオニーが監督生に選ばれたのは疑念を抱く余地すらない。バカバカしいピンク色の巨大なリボンをしたラベンダー・ブラウンにあのバッジは似合わない。『T』の意味も変わって来てしまう……いくらウスノロの代名詞扱いされるトロールだってあんな間抜けなリボンとお揃いは屈辱に感じるだろう。

 あまり考えたくはなかったが、スリザリンの新しい監督生は予測が付いた。

 

「スリザリンはやっぱりマルフォイとパーキンソンなんだね」

 

「他にいないでしょう? スネイプ教授のお気に入りだし」

 

 ダフネは気怠げに言いながら脚を組んだ。ライトベージュのロングスカートから覗く細い足首が目に眩しかった。

 

「……お互い、図らずとも居心地の悪い一年になりそうね」

 

「どうして。グリーングラスは聖なる二十八の一族じゃないか」

 

「例の……ヴォルデモートが帰って来たおかげでいい迷惑よ」

 

「悪いけど、僕はスリザリンの家庭事情なんて知らないんだ。誰も教えてくれない」

 

「そう。なら教えてあげようか?」

 

 (ハラワタ)の奥底で煮え滾る怒りを吐き出すや否や、冷や水を浴びせられた。

 これまでハリーの周囲にいる誰も彼もが秘密を抱えていた。ほんの少しでも「知りたい」と望んだ瞬間にあらゆる情報が覆い隠されてしまう。そんな仕打ちに何度も何度も腹を立てるばかりの夏休みを過ごしてきた。そこへ来てダフネは、ハリーが知らない事を打ち明けようとしている……。

 

「グリーングラス家はグリンデルバルドの『革命』にもヴォルデモートとの『戦争』にも深入りを避けてきた。『戦争は他家に任せておけ。マルスが他に与えしは、ウェヌスが是を授け給わん』じゃないけど……そういう方針のもと一門に責任が降りかからないよう振る舞ってきた」

 

 半世紀前はそれで上手く行った。グリンデルバルドにもダンブルドアにも振り向かず、素知らぬ顔で嵐をやり過ごせた。ヴォルデモートが純血主義の旗手として注目を集め始めたときも同じように関わりを避け、一族としてはあくまで賛同も否認もせずにいた。

 死喰い人を始めとした軍隊による暴力が吹き荒れた暗黒の時代、グリーングラス家からも数名の死喰い人が出て、一人はアズカバンに投獄されたという。それを以て純血主義への義理立てにしたつもりだったが……繰り返された日和見主義は両陣営から恨みを買った。

 しかしダフネに言わせれば「そんな義理はない」らしい。

 

「グリーングラスは女性が生まれやすい家系なの。それだけでも花嫁として敬遠されるのに、『血の呪い』のせいで虚弱体質の女性が多いから尚更……」

 

 二重に厄介な血筋を迎え入れようという名門は少ない。婚姻問題はグリーングラス家にとって永遠の悩みであり、純血の一族という自負とは別のところで「疎外されている」という意識から同胞意識が薄いのだと、ダフネは自身の家系をそう評した。

 

「直系の長女ともなると色々立場がある。不用意な発言は家族全員の迷惑になるから慎まないといけないけれど……周りはむしろ沈黙を許してくれないから、あまり関わりたくない」

 

 背景は異なっていても苦しい状況にあるのは同じに感じた。上流階級の人間関係がどんなものかハリーはこれっぽっちも知らない――ハリーの中でダーズリーは『悪趣味なうえ下品な成金』であって、貴族とは似て非なる存在だった――けれど間違いなくダフネはそうした独特の社会の中で辛い思いをしていると理解出来た。あの見るからに真っ白な顔が悲しげな表情をしているのだ。

 望まずして友達と距離を置く辛さはハリーも身を以て知っている。

 それきり口を閉ざしたかと思ったダフネは、あくまで視線を校外の住宅地へ向けたまま、苛立たしげに呟いた。

 

「それにヴォルデモートは、スミレを……私の大切な友達を殺したのよ。どうしてみんな、そんな男に忠誠を捧げられるのかしら」

 

「君は……ダフネは、事故だと思ってないんだね」

 

「どうして貴方の言葉を疑わなければいけないの?」

 

 横目で睨み付けられるのさえハリーにとって予想外だった。

 もちろん信じてくれる人々がいたのは事実だ。しかしグリモールド・プレイス十二番地を一歩離れれば、好奇心と猜疑心に溢れた視線ばかりが向いてきてうんざりさせられていた。世の中というのはこんなに大勢の愚かな人々で溢れていたのかと、絶望的な気持ちにさせられるほどだった。

 こうも真っ直ぐに信頼の言葉を投げ掛けられるなんて。

 それもグリフィンドールでもハッフルパフでもなく、スリザリンから。

 

「心外だわ。あんな連中と同レベルに思われていたなんて」

 

「ゴメン……どうかしてたんだ、疑心暗鬼になってた。けど、まさかそこまでストレートに言われるなんて思いもしなかった」

 

「どうぞお気になさらず。貴方のダンスパートナーは日刊予言者新聞を間に受ける程度の頭だったのでしょうね、可哀想に」

 

 これは冗談だと分かった。薄らと笑って肩を揺らしながら言ったからだ。

 ハリーも一緒に車窓からの景色を眺めながら肩をすくめて言った。

 

「そんな運のないヤツがいるなんて信じられないね。どんな顔をしているのか是非拝んでみたいよ……ああ、なんだいこのボサボサ頭に丸眼鏡の垢抜けないヤツは」

 

 声を出して笑うと一気に胸が軽くなった。

 こんな風に笑ったのは随分久々の気がする。

 車内販売のワゴンが来ると蛙チョコや大鍋ケーキを買い、少しずつ食べながら過ごした。

 バーティ・ボッツの百味ビーンズでダフネはレバー味のあとソーセージ味、ほうれん草味、黒胡椒味と奇抜なフレーバーばかり引いて「舌だけ夕食後になった」と引き攣った顔をした。それを笑ったハリーはゲロ味を喰らって慌ててバタービールを呑んだ。

 ハリーが買った蛙チョコのカードはメアリ・シェリーというマグル生まれの魔女だった。

 ホグワーツ卒業後に小説『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメシュース』を発表し大問題になったという。ほかは生年月日とレイブンクロー出身という情報だけだった。正直言ってあまり面白くないが、珍しくはあった。

 流石にマグルの小説なんてダフネは知らないだろう。ハリーはカードをテーブルに置き、二箱目を開けるかどうか悩んだ。そこへハーマイオニーとロンが疲れ果てた様子で現れ、ダフネの姿を見て大きく仰け反った。

 言葉を失って立ち尽くすロンをハーマイオニーがコンパートメントへ押し込める。

 まるで目の前でハリーが深刻な校則違反をしたような顔で、毅然と見下ろしている。

 

「監督生のお勤めご苦労様」

 

 まったく労う気のないダフネをハーマイオニーは無視した。

 

「ハリー……貴方、あれだけ夏休み中『知りたい知りたい』って大騒ぎして、休みが明けたと思ったらこれってどういうこと?」

 

「どうもこうも、見ての通りさ。日刊予言者新聞のおかげで僕は魔法界一の嫌われ者だからみんな相席したくないんだ。頭がイカレたとでも思ってるみたいだね」

 

「巫山戯ないで。ダフネ・グリーングラスは聖なる二十八の一族の出身で、間違いなく純血である事を誇っている……つまり例のあの人に近い……」

 

「その件について二回三回と話すのは面倒だからしないわ。貴女の赤毛がハンサムなボーイフレンドはよくご存じでしょうから、詳しくは彼に聞いてくれる?」

 

「――――――僕がハーマイオニーのボーイフレンド!?」

 

「…………聞いて役に立つ情報があるかどうかは保証しない」

 

 愕然としながらもロンは遠慮無くハリーの隣へ座った。目の前にある大鍋ケーキをモリモリ頬張って、それをカボチャジュースでまとめて流し込む。ようやく一息ついたと言わんばかりに目を閉じぐったりと座席に沈み込んだ。

 

「腹が減って死ぬかと思ったらコレだもんなあ。もう疲れ果てて喋る気力なんてないぜ」

 

「ハリーはちゃんと事情を聞いた上で一緒にいる、そう考えていいのね?」

 

「もちろん。どこかの誰かと違ってダフネは隠し事なんてしなかったよ」

 

「お願いだから手紙の件を蒸し返さないで。私たちダンブルドアに誓うように言われてて……何度も説明したでしょう? 出したくても、出せなかったの」

 

 そこまで言ってハーマイオニーは「口を滑らせた」と気付き、慌てた様子でダフネの方を向いた。しかしダフネは「聞いていませんよ」という風に自分の蛙チョコ・カードを眺め、上の空に振る舞っていた。そのまま視線は欠片も動かすことなくハーマイオニーの好奇心を刺激しに掛かる。

 

「そちらの事情に興味はない。でもスリザリンの内情には興味、あるんじゃない?」

 

「お生憎様、私はハリーほど不用心じゃないわ。別に貴女自身を疑うわけじゃないけど……スリザリンってだけでリスクが大きすぎる」

 

「そう。長話をする手間が省けて助かった。百味ビーンズのせいで少し胸焼けしてるところだったから、むしろありがたいくらい」

 

 ハズレね、そう言ってテーブルへ放ったカードの人物は『エイダ・ラブレス』という、やはりレイブンクロー出身のマグル生まれだった。階差機関(ディファレンス・エンジン)解析機関(アナリスティック・エンジン)という装置に用いられた科学理論を魔法に応用しようと試みた、かなり風変わりな女性だったらしい。

 ハーマイオニーはテーブルのお菓子に手を付けようとせず、神経質そうにダフネの様子を警戒している。膝の上で丸まっているクルックシャンクスとは対称的だ。額縁を天井から吊せばちょっとした絵画のような面白い光景に思えた。一方のロンは精根尽き果てて愚痴を言う気力さえ残っていないらしかった。まだ手を付けられていない蛙チョコに頭から齧り付いてボリボリとやっている。

 自分が引いたカードなんてそっちのけで二箱目をぺろりと胃袋へ収め、ようやく少し持ち直したようだった。真っ先にテーブルの上で横並びになった四枚のカードを見て「へぇ、面白いレアばっかりじゃないか」と少し驚いた風に言った。

 

「レア? どこがよ」

 

「バカだなあグリーングラス、よく見てみなって」

 

 ロンが指差す先ではメアリー・シェリーとエイダ・ラブレスが真剣な眼差しでお喋り……というより何か議論をしている。フレッドとジョージが『ズル休みスナック・ボックス』の商品について話し合っているときとよく似た雰囲気だった。こんなに身なりのいい貴婦人らしい貴婦人が鼻血ヌルヌルヌガーの解毒剤について意見を交わしているワケないが、ともかく優雅なお茶会でない事だけは確かだった。

 

「カードによっちゃ組み合わせ次第で交流するペアがあるんだ。メアリー・シェリーとエイダ・ラブレスもそう。まあ大体はよほど仲が良いパターンだね。妖女シスターズなんかはアンサンブルを始めるんだぜ」

 

「そんな事ばっかり知ってて何の役に立つんだか」

 

 君は知らなかっただろうと鼻高々なロンにダフネは冷たく応じた。

 本心というより負け惜しみのように聞こえたのは錯覚だろうか。

 三枚目は『アビゲイル・ウィリアムズ』という金髪碧眼のほっそりした女性で、イルヴァーモニーというアメリカの魔法学校からホグワーツに留学した事と、天文学の分野に幾つかの功績がある事が記載されていた。ハリーにとって天文学はかなり厄介な科目で、少なくとも彼女の発見の偉大さを理解するよりも今学期の課題をどうこなすかの方がずっと重要に思えた。

 四枚目は存命の人物で『クロハ・キザハシ』とある。鋭利すぎる切れ長の瞳に、真っ黒なボブカット。真っ白い肌と赤すぎるくらい真っ赤な唇。忘れようもない。四大魔法学校対抗試合の最終試練で失踪したルード・バグマンに代わり解説席にいた女性だ。リー・ジョーダンが口説こうとしていたのをよく覚えている……あんな若いのに五十歳の娘なんてあり得ないと冗談の下手さに呆れたのだ。

 

「一八八八年生まれ? オイオイオイオイオイオイ、何かの冗談だろ? ダンブルドアとほとんど変わらないじゃないか。それじゃマクゴナガルはどうなるんだ、ツタンカーメンの時代に生まれたことになるぜ」

 

 またもや驚いて座ったまま飛び上がりそうなロン。ハリーは裏面の解説へ目を通す。テキストは『一八八八年生まれ、存命中。大日本帝国出身。アメリカ東海岸、中央アジア、東南アジアにおける宗教的少数派と先住民族文化の研究で知られる。国際魔法使い機密保持法違反によりMACUSAから国外退去処分。現在はマホウトコロにて教職に就く』……とある。具体的にどうスゴいのか、生年月日から算出される実年齢と外見の不一致を除けば、何一つハリーは理解出来なかった。ハーマイオニーへ視線を送るもあちらはダフネに神経を張りっぱなしで蛙チョコなんて眼中になかった。

 

「ハリー、僕思うんだけどさ。リーのヤツなんてバカな真似したんだ……アイツ、下手したら自分の曾祖母さんくらいの相手を公開でナンパしてたなんてさ……」

 

「しばらく談話室の掲示板に貼っておいた方がいい。『美人を見かけてもナンパする前に相手が百歳を超えている可能性を考えましょう』って注意書きをして」

 

「それこそよしてくれよ! リー・ジョーダンが再起不能になって聖マンゴ送りになる!」

 

 キツすぎる冗談に冷や汗を流す。ハリーはむしろ最上級生として可愛い後輩たちの為、一肌脱ぐべきだと思った。もしリーがハリー・ポッターとアルバス・ダンブルドアの言葉より日刊予言者新聞を信じるというなら本当に実行してやってもいいとさえ思っている。その意図に気付いてカードを取り返そうとするロンだったが、ハリーもさせまいと別方向へ腕を伸ばしてロンから少しでも遠ざけようとした。

 

「さっきから何をバカな事を言ってるの貴方たち……」

 

 揶揄われていると勘違いしたダフネが不機嫌そうに呟く。

 自分の目の間に差し出されたクロハ・キザハシのカードを受け取り、裏面のテキストを読み、眉間のシワを揉みながらハーマイオニーへ押付けた。

 

「何てバカな夢を見てるんだろう私……」

 

「夢じゃないわよ。立派な現実です」

 

 クルックシャンクスを撫でようとして右手を封じられ、ハーマイオニーはますます腹立たしげに言い放った。とても蛙チョコのカードに興味なんて湧かない様子で「ちょっと珍しいからって大騒ぎしすぎよ二人とも! 一年生じゃないんだから!」と声を張り上げる。それはそうと誰のものか分からないので放り投げる事も出来ずにいる。

 コンパートメントの扉が開いたかと思えばぬっと現れた白い手がカードを摘まんだ。

 

「おや、私のブロマイドが。こんなものがあるんですねえ英国には……なるほど興味深い。少々拝見しても?」

 

「どうぞ御勝手に。そんなに欲しいなら差し上げますわ」

 

「要りませんよ。鏡があればいくらでも見られるますから」

 

「なら私が預かってもよろしいでしょうか?」

 

「でしたらサインなど如何です? 直筆ですよ直筆」

 

 ようやくハーマイオニーは声の主を確かめる気になった。

 こんな巫山戯た真似をする怖い物知らずはどこの誰――そんな気持ちを抱いた自分を、この場で今すぐに叱責したくなったのは、目の前でニコニコと微笑んでいるキザハシ教諭本人と目が合ったからだった。

 

「ああ……えっと、それでは……お願いしても……?」

 

「ええ、ええ、是非とも。ところでお名前は?」

 

「え……ええっと、私、ラ、いえハーマイオニー・グレンジャーです」

 

「はいはい。ハーマイオニー・グレンジャーさんへ、と」

 

 油性ペンで器用に『ハーマイオニー・グレンジャーさんへ クロハ・キザハシ』とサインを書き加えた。手元に帰って来たカードを目にしたハーマイオニーの笑顔はどう言い繕っても引き攣って不格好だった。鴉のような黒衣の魔女は細長いシルエットのままロンの隣に腰掛け「いやあいいですねえ、蒸気機関車で旅なんて!」と目を輝かせながら二箱目の百味ビーンズを開け始めた。

 真っ赤なビーンズを口へ放り込むとすぐに首をひねった。

 

「何ですコレ。イチゴかと思ったら赤唐辛子?」

 

 身体が密着するほどの距離に陣取られて、ロンは仄かに煙草とアルコールの匂いに気づき、ハリーへ助けを求めて必死に脇腹を肘で小突いた。関わりたくないハリーは痛みに耐えつつどうにか無視してダフネへカボチャパイを勧めるフリをした。

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