あの雪に咲く花はまだ誰も知らない。 作:カカッ
自分は人を殺めてしまった。
その言葉の意味は言葉にするよりも重い。目の前の女の子は言葉の重みを理解して言っているように見える。軽んじて言ってるわけじゃない。
だからか?
こんなにもイライラするのは。
「別にあんたのせいじゃないだろ」
口調が荒くなってしまったのは余裕が無いからなのかそれ程憤慨しているのか。
「貴方に何が分かるの?関係のない貴方に。それに不愉快だわ、消えてくれないかしら?」
「俺はあんたが言う殺した相手なんだが?」
「貴方何を言って...足が」
どうやら俺の足は他人から見ても無いようだ。幽霊のようなものに自分がなってしまった事に違和感を感じない。そのせいか実感がいまいちわかないところもあるがそんなことよりも。
「お前は車に乗ってただけだ。そして俺は赤信号にも関わらず飛び出した馬鹿。どっちが悪いかなんて子供でも分かるだろ?」
「形式上だけ見ればだけれど。事実はそんなに単純では無いわ。あそこの道は40キロ走行、そこを50キロで走行していたのは此方の過失だわ。それにその理由は...私よ」
そのままうつむきながらポツリポツリと話し始める女の子。目の前の女の子は入試の試験で1位だったらしく一言言わなければいけない状況で6時30分までには来ていてくれと学校側から言われていたらしい。思ったよりも道が混んでおり到着時間が遅れていた事もありスピードを出した結果が今回の事故に繋がったのだという。入試の成績が良いとそんなこともしなくてはいけないのか。正直今の話を聞いてもめんどくさそうという感想しか湧かないが目の前の女の子は違うようだ。
「つまり私用で交通ルールを破って事故になったから全て自分が悪いと?」
「ええ...貴方には、いえ違うわね。貴方達家族には取り返しのつかないことをしてしまった」
「馬鹿なのかお前?」
「え?」
「そもそもだが法定速度守って運転してるやつがどれくらいなのか知ってるのか?恐らくだが9割以上は守ってないぞ?お前自身が全く責任を感じるなとは言わねーよ。でも全ての責任感じるのはおかしいだろ?俺達は万能でもなければ神様でもない。間違いもすれば嘘もつく。それでも気にするなら一つお前に頼みがある」
俺が唯一後悔していること。
そして俺自身を許せないこと。
「小町を頼む」
それは妹を泣かせてしまったことだ。
「妹さんを...?けれど私は貴方の妹さんに二度と姿を見せないと」
「見せないとは言ってないだろ?お前は謝っただけだ」
こんなものは方便だ。だけど俺の姿が見えている奴にしか頼めない。それにいつまでこうしていられるのかも分からない。もしかしたら消えるのかもしれない。もしかしたら目の前の女の子にも見えなくなるかもしれない。
「分かったわ。でも直ぐに会いに行くのは心の整理がつかないから後日でも大丈夫かしら?」
女の子の言葉に胸をなでおろす。これで少しは安心できたかもしれない。恐らくだけど目の前の女の子はこの約束を守ってくれる。そう思う。
「それじゃあ、よろ」
「あーれー?雪乃ちゃん。こんな所でどうしたの?」
俺の言葉を遮って来たのは男なら誰でも目を奪われる様な容姿をした明るい人だった。