『……物書きか。私に一体何用だ?』
『純潔の狩人様、そちら側の計画は順調なようで結構ですな。吾輩、執筆の調子が上がっておりますぞ。ですが、あー…しかしですな。気まぐれに手を出したことの無いジャンルの筆を執ったのですが、ぇえはい。微力ながらもお手伝いしようとした次第……なのですが』
『なんだ、歯切れが悪いな貴様?いつもの歯に衣着せぬ物言いはどうした?』
『ではズバリ言わせていただきます。マスターには至上の物語を紡ぐ未来がある!ですがしかし、未だわが眼は冴え返らない!即ちマスターは未だ答えを見つけていない!』
『……』
『
『…つまり厄介ごとを押し付ける腹積もりだな?ならば一言伝えておくぞ』
『何でしょう?』
『
『!…ははははは!これは一本取られましたな!ではその通り、嵐の如き怪異の獣をお送りさせていただきましょう』
『否、やめて欲しいのだが?…だが!?』
『まぁそう言わず…煮るなり焼くなり好きにしていただいて結構!インスピレーションを湧き立たせる序文としては十分でしょう。あ、一応シャドウサーヴァントとなっておりますので頑張ってください?』
『待てと言っているだろうが。……と言うか事後承諾か!締切を守らんくせにこういう時だけ貴s【プツッ…】』
「さてさて、では物語を始めましょうか。第一幕!序章!シロウ・コトミネに真なる誕生を!これは英雄でも聖人でもない、ただ一人の人間の歩む物語だ!」
『カストディオ姉妹』といえば、このローブル聖王国の国政、戦闘を担う双翼である。両名とも聖王女カルカ・ベサーレスを敬愛し、(少しの問題はあるものの)この国のために尽くそうと考えられる従者としては立派な人物だ。
そんな姉妹のうち、姉であるレメディオス・カストディオは戦闘面において類い稀なる才能を持った聖騎士である。賢さは全く無いが人望はそこそこあり、よく言えば寛容なその人柄に苦労はすさまじくあれど苦情はあまりない。部下の胃に穴が開く日々を送ることになるが、反感によって離反する人間はいない。
その理由は明確だ。ただただ強いのである。人の身であれど難度20もの
だが。今聖王国の騎士たちは次々と倒れ伏していく。
「馬鹿な…一体アベリオン丘陵に何があったというのだ⁉」
「っ…!第三波、来ますっ!」
「ッッおのれ…!獣崩れの怪物共が…!」
「どっちかと言えばアレ海産物では無いですか!?」
恨み言を言ったところで何も変わらない。死傷者は動員した兵士たちの―見習いと聖騎士を含めた―約五分の三と、大損害であった。このままではさらに被害が拡大してしまう。
目の前には
初めは今回もまた小競り合いか、と言うような規模の侵攻だった。実際見張り台の警報に従い討って出てみれば、傷だらけの消耗した獣人を狩るだけでよかった。以前の戦いを思い返しても、手間取ることはあっても驚異的だとは思えなかった。
(……それにしても、なんだこのヤな感じは?ケラルトに聞くべきか…)
しかし、レメディオスの直感…聖騎士の勘は、獣人たちを屠ってもなお警鐘を鳴らし続けていた。ぼろぼろになっている獣人たちの死体を見下ろす。
ただの勘だけで戦場の異常性を感じ取ったレメディオスだけでなく、その配下の騎士や見習いたちの胸中にも、じわじわと違和感が押し寄せてきた。砦の上から狂眼を細めたネイア・バラハ、聖騎士長のそばに控えていたイサンドロ・サンチェスとグスターポ・モンタニェス、その他獣人を撃退しようとした一般兵は獣人たちが“すでに手負い”という状況に気が付き、鬼気迫る亜人の
ハッと気づいてももう遅い。
《我が弓と矢を以って、二大神に奉る………》
森の奥から膨れ上がる、恐ろしいまでの殺戮の意思。たった一瞬だけだったが、ソレは戦いを続けていた兵士、聖騎士らをも竦み上がらせる。森の居場所から敗走し、逃げ出した獣人達の恐怖はさらに凄まじい。『狩人の』目の前から逃走しようと醜く足掻く。
「……?なんだよ、アレ……?」
「ッッッ、総員退避しろぉっっ!!!」
彼女のその声が戦場に響き渡るとほぼ同時、……聖王国の兵士たちは、空を仰いでいた。
ソレは、矢の形をした災厄だった。幾万、幾億の碧い光が雨の様に無慈悲に
「早く下がれ!城壁の向こうに、早くッッ‼」
殿として剣を構えながらも、兵卒たちに指示を与える聖騎士長だったが……砦の耐久性を踏まえての発言で無かったのが誤算という名の被害を生む。
その弓矢の災厄が、城壁に到達するまで、残り300メートル……。即座に撤収し、彼女も転がるように砦の門の奥へと飛び込む。
だが、しかし…。
「……は?」
地表を削り取り、木々を穿ち、進路上の獣人の死体を抉り進みながら、矢の豪雨は砦へと到達する。
一瞬、耐えるように矢を受け止める要塞。だが、数瞬の間に瓦解する。
「――――――――っ⁉」
崩落する。物見やぐらにいた人間は危機を察知し何とか逃げた。その行動は英断だった。すぐ後に城壁は瓦礫から只の砂塵になったのだから。
幾年もの月日、
「…ば、かな……!」
だが、それは攻撃などでは無かった。むしろ、獣人たちの自己防衛の為の力であったのではなかろうか。
「騎士団長!」
「ッ、…今度は何だと言うのだ!?」
「森の中から化け物が突っ走ってきます!?」
瓦礫を崩しながら部下の救出を始めたレメディオスの傍らで、イサンドロは叫ぶ。獣人たちが、何故あの様な攻撃をしたのか、理由となるその原因が現れた……。
『ガアアアアァ…!…ガァァァァァァァァァァァァッッッ!』
(……、こいつは一体?)
身体は霧の様な黒い闇に覆われているが、半魚にも似た悍ましい顔面ははっきりとわかる。背中は海洋生物の様な触手で覆われ、片手には何かの本が抱えられている。それは間違いなく、野蛮で奇形、冒涜的なナリをした怪奇なケダモノだった。
『
口角泡を飛ばすその人型。喉から掠れる様に零れる声。深き者の叫びだ。
「
その途端に磯巾着の様な、蛸の様な蒼い魔物が溢れ出る。深海の泡の様に絶え間なく沸き立ち、数を増やしていく。分裂し、そして奇声を上げる星形の化け物。
「――――――――――――――――――ッッッッッッ!!!!!!!」
「ケダモノ風情が…」
毒づくレメディオス。目の前には正気を疑う外見の化け物共が跋扈する。コレに比べれば獣人共の身体は何と可愛げがある事か。
「……、行くぞ。適度に間引いたら即撤退だ‼」
切る。斬る。伐る。
聖剣を振るって気持ちの悪い使い魔たちを屠っていくレメディオス。
「っ!続け‼」
断つ。絶つ。裁つ。
それに倣い、聖騎士達も各々が得物を手に取り、振り上げ、一心不乱に戦い始めた。だが、聖王国最強の騎士ならばいざ知らず、……只の人間に怪魔の群れは無理があった。幾十数もの魔物が森の奥からさらに増える。
「何だ……、こいつ等…‼」
怪物を切裂き続け、はたと気が付く。うぞうぞと脈動する海魔は、途轍もない数になっていた。それは、森からの増援などでは説明がつかず、寧ろ眼前の死骸を見れば一目瞭然だった。
「死体から新しいモンスターが産まれるだと?化け物が物量作戦とは生意気な…‼」
その時、聖剣サファルリシアの動きが止まる。見てみれば…海魔の触腕が何重にも絡みついていた。如何にレメディオスの腕力でも引き剥がせない。
「っ、こいつッ」
その隙が、命取りとなる。死角から一本の絶命を呼ぶ冒涜が雷の様に聖騎士長に迫る……。
「レメディオス団長‼」
そこに弱く凛々しい自己犠牲の塊が、転がってきた。
…………ぐちゃり。
レメディオスの隣で、些か湿った音がする。
「……?…!」
「………が、は……」
溢れる赤い液体と、臓腑に収まっていた内容物。恐ろしいまでの形相の少女が、口から血の泡を飛ばして倒れ伏していた。
腹部にぽっかりと穴が開いたネイア・バラハ。海魔の触手がそこから飛び出している。……つまり
「っ……!」
度し難い屈辱だった。度し難い失態だった。戦場だけが自分の得手であり、犠牲を最小限に抑えなければならない誓があった。
「くっ…そぉぉぉ、アァァァァッッッ‼」
次々に嬲り殺されていく彼女の部下たち。そして、その部下の臓物が新たな海魔に変化していく。腹を食い破られ、脳髄や腕を残し人は死んでいく。一方で怪魔の数にも差が開いていく。
悲鳴、悲鳴、悲鳴。
(守れないというのか!カルカ様が望む“誰も泣かない世界”の為、私は戦わなければならないのに‼こんな悍ましい化け物にこの国を…‼この国を、カルカ様を、おォォォォォォォォォォッッッ!?)
丁度その時だった。何処からか、憐れみを込めた聖句が届く。
「
倒壊し見る影もない砦、その背後で海魔と戦う聖騎士長。そのすぐ傍に彼はいた。
「
………そこにいたのは白髪、褐色肌の少年。唇には微笑を浮かべ、彼はなお戦場に佇んでいる。
「おい、貴様!そこで一体何をして…っ!?」
途端、彼の纏う雰囲気が一変する。片手に持っていた鞘に収まった剣。それを前方に突きだし、誰かに告げる。
「さて、一応聞いておきましょう………投降する気はありませんか?」
『がぁぁッ!………“
黒衣の少年は跳び退る。その刹那の後、彼がいた場所では冒涜的な触腕が地面を抉り取っていた。
「おっと」
「そりゃ無理でしょうよ我がマスター?」
木影の奥から今度は貴族風の男が現れた。片手にはオレンジ色の本を持ち、左肩には茶色のマント。この場にそぐわない外見で、一つの演目を見る様な…そんな気軽さでこの場全てを睥睨している。
『
「おぉっと失礼!吾輩戦う気は毛頭ありません。吾輩は見守り、応援するだけ」
「えぇ…戦うのはこの私、シロウ・コトミネです」
何故こんなところにこんな風変わりな二人組がいるのか、一体どこから湧いて出たのか。疑問はグルグル頭の中を巡りだしたが、何より驚いたのはその少年の持つ力だった。
「では、使わせていただきますよ、キャスター」
「えぇ、どーぞどうぞ!ご存分にお使い為されい。
政には疎く、頭の弱いレメディオスだが、武器に対しての造詣はあるほうだ。ゆえにその異常性にもいち早く気付いた。…いいや、知識がなくともわかっただろう。聖騎士から兵卒、魔術師に至るまで…その黒服の少年の一挙手一動に目を離せない。
キン、と澄んだ鋭い音が鳴る。
「「「ッッッ!?」」」
鞘から解き放たれる剣。その武器は南方の砂漠にある都市のもの……即ち『刀』。だが、今まで見たことがない力の奔流を感じる。これほど離れていても、神聖な白い雷が周囲を明るく照らし、そして……。
「永劫醒めぬ物語が、これより始まる‼」
マントの伊達男の声高らかに、丘陵の奥に茂る森の中へと……黒服の少年は駆け出した。
悲鳴が上がる。飛沫が弾ける。そして剣戟が幾度も瞬く。
重心を落とし片手に刀を、もう一方の手に黒鍵を持って丘陵を駆ける黒服の男が一人。海魔は刀が閃く度、汚物の様な内臓を晒し死に絶える。それに出目金の様などす黒い人型は心の中で発狂していた。
(あれが人間だと!?有り得ない!我ら
一閃。聖なる光を宿した斬撃が四方八方から飛来する。闇に包まれた人型の眼前では、180度の視界内にいた同胞たちの魂が一瞬にして切り飛ばされる。蛇行し、だが駿馬すら凌駕する健脚にて彼にも死という福音が与えられる。
(おのれ!おのれオノレおのれオノレおのれオノレおのれオノレおのれオノレおのれオノレおのれオノレ‼)
末期の言葉は声に出されることはなかった。
「――
(あ……ぁ?)
頭に何かが突き刺さる。そして、
「……アレは、一体……」
「あれが人の所業ですと……?この世よりも遥かに上位の……“ナニカ”の力を代行する、バケモノでは…!?」
「さながら神の“代行者”…ですか?」
数百メートル離れた森の中。突如吹き飛ぶ巨木と岩石。そして天へと立ち上る幾つもの光。恐らく信仰系の魔法だろう、と理解した聖騎士達。身近な信仰系魔法詠唱者にはカルカやケラルトがいるが、眼前で起こされる魔法現象は彼女らの使用するものを濃縮し何倍にもしたかの様な輝きを放っていた。
「良かった、お前達にも見えているようだな……。頭だけで無くとうとう目までおかしくなったのかと思ったぞ私」
「それはいつも通りでは…」
「それもそうだな…」
呆気にとられていたグスターボやイサンドロに声をかける聖騎士長。自覚は無いだろうが、彼女もあまりの事態に自虐ネタを言い放っている上、その部下は爆弾発言を投下していた。
だが、そんな事を気にしてはいられない…というよりも、頭の片隅にも残らない。戦況に微かな動きがあったからだ。
「……なんだ?音が…途絶えた?」
「まさか、あの少年が死んだ……とかじゃないですよね?」
「本当にそう思うか……?」
「…………」
副団長の二人は無論そんな事欠片も思ってはいない。現在森の中にいる褐色白髪の少年、彼を見た瞬間に相当の実力者だとは気が付いていた。所作や足の運びから滲み出る隙の無さ…どれをとっても聖騎士長レベルだと肌で感じられる、それほどだった。
「…出てきました、ねっ!?」
「……ッ!無事だったか……」
彼の片手には“人皮でできた奇妙な本”が、もう一方の手にはどす黒い体液が付着した刀を持っていた。
「さて……ではこの現状をどうにかしましょうか。私は無駄な死は好みません。それに、気になるのではないですか?
「ふむ」
シロウ・コトミネの言葉にあごに手を当て思案顔のレメディオス。だが、真面目なのは外面だけで、頭の中の選択は「分からん。カルカ様かケラルトに任せるか」一択しか無かったのだった。一方で、頭の足りない団長に代わり、副団長たちが矢継ぎ早に質問する。
「……無駄な死、と言いましたね?まさかですが君は…蘇生魔法が使えるのか!?」
「……………………」
それに彼は、少しの優しい微笑で返した。
(………どうして、私は生きている……?)
ネイア・バラハは目を覚ます。手傷を負い、気がふれた獣から団長を守る為に飛び出して、それで…………、あぁ、腹を割かれカチ上げられたんだった……。確か、身体がどんどんあの魔物に変化していって…それで………。
だから、私が生きているわけが無い……。けれど、これは一体どういう事……?
「おい、本当に蘇生したのか……!?」
「良かった……成功しました」
目の前には、団長と……そして男の人の顔があった。死んでいたのは
「良かった」
その人は安心しきって私の手を取る。優しく握ってくれる褐色の手。とくん、とくんと小さく動く私の鼓動を触れて確かめてくるヒト……。
「生きている……生きている……」
数多くの死体が並ぶ丘、そこで彼は命の価値を噛みしめる様に慈しみ、憐れんでくれた。彼が……この人が聖人で無くてなんと言おう。
「ありがとう……生き返ってくれて、ありがとう」
何故だろうか……感謝された。感謝するべきは私の方なのに。
安堵の表情が霞んだ眼に映り込む。助けられたのは自分の方なのに、なぜかその人はしきりに「ありがとう」「ありがとう」とお礼の言葉を言い続ける。言い続けている。
救われたのは私の方なのに……彼はなおも自分に感謝の言葉を言い続けている。何を考えているのかは定かではない。だが。それでも。“彼の願い”が聞き届けられ、心から安心したことだけは分かった。
それは、彼女が……自分が“何か大切なモノを託された”のだと考え至るには十分だった。
(あぁそうか…、私は、願われ、送り出されるのか……)
憧れは、この時“願い”に変わる。正義を成すには、力がいる。私の生涯に、意味がいる。
無力な人間だから死んでしまった。意味を為さない偽善な
―■は■で■■■■る―
少女の心の中に正義の火が灯る。その火が、いつの日か……剣の丘で鉄を
次々と死者が蘇生され、肩を互いに貸しながら撤退していく騎士団員。先ほどの怪訝そうな顔はすでに無く、ニコニコと笑顔を浮かべているレメディオス・カストディオ。
「見習いとはいえ団員を助けてくれて感謝する。それに死者全てを蘇生してもらえるなどと……思ってもみなかった!」
「いえいえ。……ところで、貴女は?」
「あぁ、その肌を見たところ聖王国の住人ではないのだな?私はレメディオス・カストディオ。この国の聖騎士長だ」
「成程、
夕陽を背景に互いに手を繋ぐ聖なる男女。それはさながら、一枚の絵の様であった。……そして、その背後から近づく一人の女性。
「私からも謝礼を」
「ん?ケラルト…いつの間に」
レメディオスと顔の造作が似た女性。だが聖人の様に清い者だとは思えない。腹に一物ある様な…そんな人物だった。
「見たところ、レメディオス殿のご血縁でしょうか?」
「えぇ、私はケラルト。ケラルト・カストディオ。このローブル聖王国の神官団団長を努めております。……ところで、貴方は、見るにどこの国にも所属していない流浪の魔法詠唱者ですね?」
冷笑を湛え、距離を詰める。深い色を帯びた双眸が、シロウ・コトミネを舐める様に観察していた。
「はい、そうですが…」
「国民を救っていただいた恩人に心苦しいのですが、少々お時間よろしいですか?」
『……と、言うわけでして…』
その言葉に頭を抱えた暗殺女帝。もしも聖杯大戦のアサシンであるならば悦んで杯を傾けていたであろう。だが、女帝歴僅か数日の彼女にとっては荷が重い。笑い飛ばす事などできなかった。
(シロウゥゥ……!厄介な真似をしでかしてくれたな…!)
だが、思考を巡らせはたと思い至る。
(いや、原因があるとすれば同行していたシェイクスピアが物足りなさに煽ったからか?そちらの方が説明が付く。奴め…本当に殺しておいたほうが良いのかも知れんな、ふ、フフフフフ…)
『あと因みに倒した怪物なのですが、キャスターの創作幻想によって作られたものでした。彼は“いやー、まさかあんなもんが産まれるとは吾輩も捨てたもんじゃないですな”などと宣っており…』
(……………)
一度逆さ吊りくらいにはした方が良いな。うん、この後ヤツは呼び戻す。代わりにカルナを護衛に就かせるか…、と思案を続けた。
……従者として優秀な奴がいなくなるのは業腹だが、代わりはいくらでも存在する故問題は無かろう。
「……あの自作大好き英国作家は…全く。わざわざ『テンペスト』のキャリバンを用意したとはな」
『なんでも獣人たちを管理、統率しアーチャーの下へ向かわせる予定だったとか……』
嘘くさい、と思うアサシン。『―――
(……、それはひとまず置いておくか。今は情報を聞かなければ…)
「では、情報交換だ。蘇生魔法は使えたのだな?」
『えぇ、神官団には根掘り葉掘り聞かれましたが、蘇生魔法自体はあるようです』
「…、…根掘り葉掘りと言ったな?……
『確実性が欲しかったので、《トゥルー・リザレクション/真なる蘇生》を使いましたが……マズかったでしょうか?』
「~~~~っ……」
……確かにこの世界のレベルの人間を復活させるには、経験値消費の極めて少ない魔法でなければ蘇生できないだろう。
シロウが使ったのは第九位階魔法。この世界のレベルの信仰系魔法詠唱者は使えて第五位階魔法《レイズデッド/死者復活》程度。この差は大きく、“この世界における強者”を“この世界の信仰系魔法詠唱者”が復活させる際には激しい経験値消費に伴い心身共に弱体化する。だが、シロウが復活させた人間達はそこまでレベルは低下しておらず、成人した聖騎士達は身体が怠く感じるものの自分の脚で兵舎まで戻って行ったものもいた。これはシロウが取得した職業やアイテムによるEXP減少軽減作用なのだが、こちらの世界の人間も“経験値”と言うモノが存在するかの確認に役に立ったと彼はご満悦だった。
だが、ただ人を蘇生させただけとは言え、これほどの情報の開示はこの世界においてパワーバランスを崩しかねない。容易く人を屠る強大な戦力を有した魔法詠唱者よりも、死者を蘇らせることが可能な救世の魔法詠唱者の方が厄介ごとに巻き込まれやすいだろう。
(……待て。これは使えるやもしれん。そも、国をバックにする事と国を乗っ取る事にそう大差はない。むしろこちらの方がデメリットは少ないか。幸い異形種は寿命が長い……暫く辛抱すれば良いだけだ)
だが、それでも。セミラミスは自らの望みの為に考え続ける。新たな策謀を巡らせ始めた。
(唯一の懸念は……シロウが受け入れられるか否かという事だが。聖王国は身分の知れない相手であっても“他国に渡す”より“受け入れる選択をする”タイプの国だ。トップがアレだしな……)
『あの弓兵の子供には感謝してもし足りないです……生き返ってくれて本当にホッとしましたよ』
問題があるとするならば……
「(…そのせいで刷り込みが起きているようだがの……)一先ず聞くが、シロウよ。お前……善意でやったのか?」
『?…えぇ。何があろうと人は救われなければなりません。たとえそれに
その反応に再び頭を抱える。堂々とした晴れやかな回答。
(悪意もない分余計タチが悪いなコヤツ…)
言ってみれば、このシロウという人物の判断基準にほとんど“遊びはない”のだ。ゲーム中、パートナーを選ぶ際にもそれが顕著に表れ、外見や器量の良し悪しよりも強さや実用性のみでしか判断しなかった。
いや、意図してそう言った心の贅肉を削ぎ落したのかは分からないが……、その弓兵を生き返らせたのだって実験の意味合いのみだろう。セミラミスは目つきの悪い少女に少しの憐れみを抱いていた。
「……まぁ良い。その『弓使い』のことは任せる。そのまま騎士団に入れたままにするか、はたまたお前の軍門に下らせるか、それはお前たちで決めろ」
『ではそのように』
鳩からの通信が切れた。アサシンは顎に手を当て考える。
(リアルの世界ではスタートラインが最悪だった。世界が巨大企業に支配され、おそらくナノマシーンという首輪で監視下に置かれていた……だが)
すでに“
(この世界で我は自由だ。そして力も現実のものとなった。たかがゲームの力だ……が、利用できるものはすべて利用し『私』ではできなかった悲願を叶える……“叶えてやる”)
最初に見たあの景色……親も無く、頼れるものもおらず。それでも老いた善人に拾われ生きてこれたという幸運と、その後やって来た絶望と。それら全てが彼女の全て。
(苦しみを受けたのは『私』であって我ではない。辛酸を舐めたのは『私』であって我ではない)
『小鳩』と呼ばれた悪人が、決意を新たに
(もう誰にも支配されてなるものか……支配者なるは、絶対者なるは我ただ一人)
セミラミスは気が付かない。クックックッ、と喉元から擦れる様なその笑い声。愉悦に捻じ曲がったその端正な顔、肌は高揚したように熱を帯び、世界を見下したその金色の目。
一介の捨て子は知恵と力を以て、毒に塗れた女帝の道をなぞる様にして進んでいた…。
一方その頃。
―くるっぽ~―
「肉付きの良い鳥だな…食えるのか?兵糧として使えるなら…」
―ぽっ⁉―
何気ない聖騎士の一言が使い魔を襲う――――。
「ふむ、空腹を紛らわせたいのであれば…今はお茶請けのお菓子くらいしかありませんが」
「姉様がすみません…」
騒動の原因となった男は、王族管轄地の居城でティータイムとしゃれ込んでいた。よだれが垂れる騎士団長に狙われたアサシンの鳩。騎士王もびっくりの動物的思考回路であった。
「手作りのチョコクランチクッキーです。お近づきのしるしにどうぞ」
「どうもご丁寧に…、おぉこれはなかなか」
バレンタインの特別イベントでゲットしたアイテム、それを使用し自分で調理した菓子を彼は常時携帯していた。……もはやシロウではなく士郎である。
「………(もきゅもきゅもきゅもきゅ)」
「姉さん、みっともないのでやめてください…あ、お替りありますか?」
―サクサクサクサク…―
聖王国最大戦力の二人も女の子ではあるらしい。その食べっぷりからなかなか好評なようで安心する。こうして食べてくれただけでもありがたい。自分の胡散臭さを解消するためのコミュニケーションツールなのだが、数日前アタランテなどにも勧めたところ、『アサシンの毒でも入っているんじゃないか』と勘繰られた。従者より赤の他人の方が信頼関係を築きやすいとはこれ如何に。シロウは悲しい(ポロロン)。
「ふむ、良い物を貰ったらお返しをしなければならないのだったな」
「姉様…、そうですが口に出すのはどうかと…」
頭の弱い騎士団長はゴソゴソと懐から一冊の取り出した。
「これをやろう!聖騎士団に命じて刊行させる予定の“カルカ様ファンクラブ”会報誌、その草案だ!まぁ今のところ私しか持っていないがな!」
「…“かるかさまふぁんくらぶ”?」
「ちょ…姉様?」
思わず鸚鵡返ししてしまうシロウ。純白の女騎士を見て、どこぞのフランス元帥を幻視してしまった彼は異常だろうか?
「そうだ、カルカ・ベサーレス様の身長体重誕生日スリーサイズまでおさめた完全版わずか二十冊の一つ。ローブル聖王国の至宝と言われている聖王女カルカ様がどういう人生を送りどういう足跡を辿っているのか国民をどれほど愛しておられるのかこの国をどう導いていきたいのか好きな食べ物は何で嫌いな食べ物は何で一日のスケジュールはどんな感じで動いているのかを完全把握したまさに珠玉とも呼べる本だ交流を持った他国の王女にもインタビューをして私の年俸が半分ぐらいすっ飛んだらしいがまぁカルカ様の魅力や慈悲深さを布教するためには仕方のないことだよな顔も魔法の才能も血筋も完璧なお人はそうそういまいついでに言えば『やっぱり年はとりたくないものですね』としょんぼりしていたカルカ様を不思議に思い私が調べてみたところ独自に研究していたビヨーホー?とかニューエキ?とかふぁんでーしょん?とかその他諸々の試作品の効能とやらも載っているようだが私には魔法に知識はないからもったいないが全然理解できなかったぞそして最近マーマンとの交流のために服屋に仕立て上げさせた伝説の衣装“すくーるみずぎ”というものを着用したカル『《サモンエンジェル4th/第四位階天使召喚》』」
異常ではなかった。摩耗しきった記憶の奥のバレンタインイベントを思い出したシロウさん。そういえばセミラミスがFGOに実証されたのもそのあたりだったな…と彼は遠い目をしだしていた。
そしてレメディオスは話に夢中で気づかない。ドアの向こうからやってきた人物が彼女の背後に天使を召還していたことに。
―がしっ―
「あいだだだだ首が!首がもげる!カッ、カルカ様⁉」
「えぇもぎますよ。あ、シェロサンデスネレメディオスハスコシアタマガヨワイコナノデサキホドノモウゲンノタグイノコトハホンキニシナイデイタダケマスネ」
「え、あっはい」
部屋に突入していた白いドレスの女性。鬼気迫る顔で念を押してきた金髪の女に、いかにレベル100の青年も気圧されざるを得なかった……。それはそうだろう、途中からシロウやケラルトは聞き流していたが、彼女が秘密にしていたとんでもない情報がレメディオスにダダ漏れだったのだから…。
ちなみにこの後、聖王女カルカの寝室から聖騎士団長の悲鳴が聞こえてきたことで、カルカとレメディオスハードな感じにデキてる説が濃厚になったのは完全なる余談である。
原作キャラは赤の陣営メンバーに接するとFate/要素が強くなる模様……さて?
遅くなって申し訳ありません。……魔王信長が来なかったのとかは関係ありません、あまり……。